Jun日記(さと さとみの世界)

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サンタクロースの正体

2021-07-19 12:55:30 | 日記
 ついに私はサンタの正体を知った。笑われるかも知れないが、実は私はそれまでサンタの正体を知らなかったのだ。
 
 この日私は昼食を終えて、2階の自分の部屋でコタツに入りくつろいでいた。明るくなった室内を見て、寝ころびながら窓から差し込む日差しの量が多くなった事を感じた。それで、もう雪の降る冬が完全に去った事を実感した。今からは、温かい気温が続いて行く季節になると思うと、私の気持ちは軽くなり浮き浮きとして身も心も弾んだ。
  
 こんな風に、春という季節は、私の心の中に固まっていた冬の氷を溶かし、そのぬるんだ水が心の底からおだやかにわき上がって来るような喜びを私にもたらしていた。私は室内にあふれる外からの光や、壁に反射する太陽の光線を見つめ直すと、目を細めて思わずほほ笑んでしまった。

 そんな風に無防備にくつろいでいる私の耳に、トントンと、何時ものようにサンタの階段を上る足音が聞こえて来た。この時間になると、家のサンタは私の部屋で一休みして、私を相手に世間話をするのが日課のようだった。

 困った事に、このサンタの話は、私にとって楽しく無い物が多い。何時も私は途中でため息をつく事になるのだ。今日は何を話すのだろうと思うと、せっかく明るくなった気持ちが少し沈んでしまった。

 サンタの話は、人の話をそのまま信じて話すのだ。どこそこのだれそれがこう言った。そうだったのだ。など、幼い私が聞いてさえ、変だと思う話でも、全くそうだとサンタは信じている様子だ。私はそんなサンタに呆れてしまい、サンタは馬鹿じゃないかと思うのだ。

 ートン。階段を上り切った足音が止み、ついにサンタが私の部屋に登場した。そして、コタツの私の入っている場所とは反対の場所に陣取ると、入りこみ座りこんだ。いよいよいつものサンタの世間話が始まるのだ。私は顔を曇らせた。

 しかし、この日のサンタはこう切り出した。

「サンタさん、サンタクロースの事だけど、サンタさんってどんな人?。」

「白いひげで、赤い帽子と赤い服を着ている。子供にプレゼントをくれる人。」

この答えはサンタの意に合わなかった。大体、この1週間でこの質問は3度目だ。その度にサンタは小さな溜息を吐いていた。

 でも、今日は続きがあった。

「サンタさんて、お父さんやお母さんだって聞いた事なあい?」

「そんな事言ってた人もいるけど。」

ああ、私は何だか無性に話を聞きたく無くなって耳に手をやった。

 サンタさんと言えば年に1度、世の中の子供達がプレゼントを楽しみにしている人だ。なぜなら、ご存じのように、彼はプレゼントをくれるのだ。しかも大抵は欲しかった物だ。サンタは実によく知っている。プレゼントはもらうだけ、只だしお返しはしなくてよいのだ。そんなプレゼントをもらう日は、私にとって自分の誕生日の次に待ち遠しい日だ。多分、皆だってそうだと思う。

 そんなサンタが北の国に住み、ソリとトナカイでやって来る。えんとつから入って来るのだと知っていても、実はどんな人かなんて誰も知らない。ただ「サンタクロース」という人だという事だけ、皆は当たり前のように知っているだけなのだ。私もそうだった。

 その正体不明の大好きなサンタの正体を、今日、家のサンタは明かそうというのだ。その事に気づいた私が、耳をふさぎたくなったのは、当然かもしれない。私の心ぞうは早鐘のようにドキドキと鳴り始めた。私はコタツの布団のへりで顔をおおった。

 静かにサンタの話は続いた。

「君ももう来年は10歳になる。サンタさんが誰か知ってもいい年だ。これ以上サンタクロースの正体を隠しておくのは君のためにならないと思う。」

サンタの声は落ち着くために間を置いていたが、それでも震えていた。時々、サンタが、コタツのこちらで寝ころぶ私の様子を、心配そうにうかがっている事が私には分かった。サンタの声があまり辛そうなので、話をさけていた私は返って耳を清ませてサンタの話を聞いた。ー。
 



 サンタの話が終わった。その話は私がほぼ予想していた通りだったけれど、私には疑問が残った。これまで、サンタ自身、サンタが誰か全く気付いていないと私は思っていたのだ。しかし、本当に上手くサンタは私をだましたものだ。その演技力に腹さえ立った。

 『このー、正直者だとおもっていたのに。』

この時、私の世の中を見る目は変わった。

『嘘つきめ!、馬鹿じゃなかったんだ。』

私は寝ころびながら、最前からのサンタの声が気になっていた。最初辛そうだったサンタの声が、今は涙声になっている。

 私はそっと半身を起こすとサンタと顔を合わせた。

『やっぱり!』

サンタの目は赤く潤んでいた。

『人をだました罰だよ。』

私はそう思った。でも…。嘘をつき通す難しさ、私はサンタのその事を思った。

 私はこの機会に、疑問に思った事をサンタにぶつけてみる事にした。

 なぜ、サンタは嘘をついていたのか。

 なぜ、今まで正体を隠していたのか。

 なぜ、プレゼントをくれるのか。

家のサンタは私の質問の一つ一つにきちんと答えを返してくれるのだ。私には目からうろこの事ばかりが起きる日だ。

 その時、サンタの話た話から、私は世の中が粋な物だと知った。これは言えない。家のサンタと私だけの秘密だ。君も、君の家のサンタさんからこの秘密を聞くかもしれない。家のサンタは真面目に話してくれた。そして私に口止めした。外の子供の誰にも言わないようにと。

 さて、私は少しだけ物知りになった。今、振り返ってみると、私にはサンタクロースの事を心待ちにしている君達の楽しみな心が分かる。だから私はサンタクロースの正体を君達には言わない。意地悪しているんじゃないよ。私は純真な君達が可愛いから黙っているんだ。私の視線は君たちより高いところにあるのだろう、急に背が伸びた気持ちがする。

 サンタが去り、少し落ち着いてから、私はたたみに寝ころぶと思いっきり背筋をぐーっと伸ばしてみた。目の先にある天井を見つめた。サンタが来る前と同じように明るい色をしている。

 私は起き上がり、よろめく足を踏みしめて窓辺に来た。閉じていた窓を開くと、春風の吹く外を眺めてほほ笑んだ。窓外には私の住む町が見える。ほこりが舞ってぼんやりとかすんでいるようだ。

『ほこりっぽいのは春だからだなぁ。』

私は思った。

 ほほに感じる風はもう寒くはない。眼下に見慣れた屋根屋根が見えると私は新鮮なな気持ちになった。春に芽吹いた植物の気持ちが分かる分かるような気持ちだ。

 私は社会という物について考え、初めて分かった気がした。大人の社会、子供の社会だ。私という人間を受け入れてくれている、私の家庭や家があるこの場所や世界。この明るくほこりっぽい場所が私の社会なのだ。

 気がつくと、町はまだ、私が最初に感じたように光にあふれていた。心地よい風もそのままだ。私が目を細めて見渡した世界には風が光って輝いている。平和で明るくおだやかな世界だ。ほのぼのとした光景に私は再びにっこりと笑った。

 君達に今の私の心は分からないかもしれない。でも、私に君達の童心は分かる。今日からは、どんどんと、私は自分の足で踏みしめて歩いて行くんだ。将来、私だって誰かのサンタクロースになれるかもしれないのだから。

                     終わり

 入力したら、今日中に終わりました。400字詰原稿で7枚一寸だったので。乱筆ながら、という感じです。もちろん応募だけで終わった作品です。(笑い)
 

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