Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 112

2019-12-04 16:28:03 | 日記

 「お前は嘘つきじゃ無いねぇ。」

ぽろんと口から零すように母は言った。えっと、私は思った。意外な言葉だった。母が父と似ていると思ったばかりだったから、父とのこの相違が意外だったのだ。私は目を丸くした。

「お、お母さんは、私を嘘吐きだと思わないの?。」

思わずそう母に尋ねた。

 母は今暫く何かを考えているらしく無口だった。私は母と父のこの相違が嬉しくて、如何して彼女が私を嘘吐きと思わなかったのか、その点について知りたくてあれこれと彼女に話し掛けた。どんな点が母に私が嘘吐きでは無いと判断させたのか、それを知っておきたかった。

「何が、何を見て私が嘘をついてないと思ったの?。」

そんな事をせっせと尋ねてみるのだ。が、母はああ、ええとか言うだけで、キチンとした答えを返してこなかった。その内、考えあぐねたように、

「兎に角、お前は嘘吐きじゃ無いよ。」

嘘は吐かないけど…。と言った。

「お前話を誤魔化すだろう。」

そんな点があの人には誤解されているんだろうね。彼女は考えながらそんな事を言った。

「お前もお前だよ。嘘じゃないなら嘘じゃないと言えばいいんだよ。」

彼女が如何にも助言めいてそんな事を言ってくれるものだから、私は正直に父の事を母に言ってみようという気になった。

「嘘じゃないと言っていた。割合何時も、結構長い間。」

「じゃあ何故、あの人はお前の事をあんなに言うのだろう。」

母が言うので、あんな?あんなの内容について私は彼女に問い掛けた。

「あんなって、お母さんの言うあの人は、お父さんの事だよね、お父さんは私の事を何て言うの?。」

母はしまったという様な顔をしたが後の祭りだった。母は勿論私にその内容を正直に言う筈が無かった。言い淀んでいる母の姿に、彼女の今迄の言葉を思い出して私は父の言っているだろう言葉が大体想像出来た。

「言わなくていいよ。大体分かるから。」

困った様子の母に遂に私は言った。母はそんな私の元気の無い言葉にやや意を決したように小さな声でうそ…と言い掛けたが、その先は私に想像がついていたので、

「外で遊んでくるね。」

大きな声で母の言葉を打ち消すと、私は即座にだっとばかりに縁側から廊下に飛び出した。今回は母も引き止めたりしなかった。あっと何やら言葉にならない声を発しただけで、私の事をその儘見過ごしてくれた。


うの華 111

2019-12-04 16:02:14 | 日記

 母の言葉に合わせて、私がちょっと具合が悪いと言うと、母は慌てた様子で私のおでこに手を遣った。

「熱はないねぇ。」

彼女はやや安堵したようだ。どれと私の顔を覗き込んで間近でジロジロ私の顔色を眺める彼女は、如何やら熱などで頬が紅潮していないかどうか確かめているようだ。

 やれやれ、母の手から解放された私は、はあぁ…と溜息を吐いた。母はそんな私を眺めていたが、一寸微笑むと、

「お前具合は悪くないんだろう。」

と言った。仮病だと思ったらしい。確かにこの時身体的な病気には掛かってい無いらしいと私も感じていたので、多分ねと私は言った。気疲れしたのだ等、この時の私には言う裁量など無い。

 「あの人の言う事も当てになるのかねぇ。」

等、母が言うので私は黙って彼女の言葉を只聞き流していた。母はくりくりした感じの目になると、私の事をまじまじと見つめて自分の子の観察を始めたようだった。

 私はそんな自分の事を観察する母に初めて出会った様な気がした。それ迄の彼女は私の顔しか見てこなかった気がする。私の顔や仕草、全体の雰囲気など、しげしげと総合的に観察して考察する母の姿等、多分初めての事だろう。そうじゃないかなと私は過去を振り返った。

 『多分初めての事だ。』私は記憶を辿り確信した。母は何を思って…、といえば私の母だと言っていたっけ、と、私は母が自分の子を観察して考えているのだなぁ、多分、生まれて初めて。と思い、母の私を観察して考察する様子を眺めていた。母は私に対してどんな答えを出すのだろうか、また、何について考えているのだろう、そんな疑問を持って母の思案する顔を眺めていた。私は彼女を眺めながら、母だと言い切ったこの人の、口から出てくる多分私への評価の言葉に少なからぬ興味を持って待機していた。

 


うの華 110

2019-12-04 12:01:32 | 日記

 「ちょっと話が有って。」

母は言った。

「お前に言っておきたい事があってね。」

そう彼女は言うと、縁側の床の上にきちんと正座した。『何だろう、お小言かしら』。私は嫌な予感がして来た、思わず顔をしかめて俯いてしまう。母は言い淀んでいた。その母の言葉を待つ間が、私には不可解で不安だった。

 「私はお前の親なんだから…。」

母は考えながら話していた。この後何といってよいか考えあぐねている様子が私に分かったので、これはお小言では無いらしいと私は少々安堵した。それでも油断はできない。私は顔付を引き締めて、彼女の傍らできちんと直立した儘、如何にも緊張した風情で彼女からの次の言葉を待った。

「何でも言ってくれていいんだよ。」

そうだという様に彼女は頷いた。

「私はお前の、智ちゃんのお母さんなんだから。」

漸くの事で、母は自分の言いたい事を私に言い終えたようだった。顔付が明るくなり何時もの笑みが彼女の頬や口元に戻った。

 終わったなと私は思った。万事終了!兎に角お小言でなくて良かった。ホッとすると、私はこれで漸く安堵の溜息をふうっと吐く事が出来た。が、母はそんな私の溜息に顔を曇らせた。お前今何を思ったんだいと訊いて来る。叱られなくて良かった。そう思ったと言うと、違うんじゃないかいと彼女は言った。そして、お前今私の事を馬鹿にしたんじゃないかい。と言うのだ。

 「まさか。」

私がそう言って母の顔をよくよく見ると、むっつりとした感じで、これがまた何時もの機嫌の悪い母の顔に戻っていた。何時も何が母の機嫌を損ねたのだろう?、私には母の感情の動きがさっぱり分からなかった。普段でさえそうなのだから、今日の様に予想も出来ない殊勝な心掛けでいた所に、また何時もの母が戻って来たのだから、何が起こっているのか私には全然皆無、理解不能という物だった。

 母は続けて、自分が気持ちよくお前の事を自分の子として受け入れているのだから、お前も私の子供らしく自分の気持ちを正直に話してみたらどうだいと言う。

「私はお前の母親なんだから。」

ここで、母は如何にもというように大楊に私に向けて微笑んで見せた。確かに、母だという彼女の主張は大いによく分かった私だ。しかし、言った事は真実だ、他に言い様がないという物だ。私は困って眉根に皺を寄せて母の顔を見詰めた。何を如何い言えば母の気が済んで、私はこの縁側から退散できるのだろうか。私は疲れて来て肩を落とした。

 「お前具合が悪いのかい?。」

母はそんな元気の無くなった私を見て言った。確かに、具合も悪くなるという物だ。そして、母が私の言葉を信じないであれこれと言って来る所は父に似ているなぁと思った。この時、私はそれで父と母は結婚したのか、似たもの夫婦と世間で聞いた事があるが、成程、父と母はそれで夫婦になったのだ。と妙な納得をした。夫婦になったから似て来るのだ等という事は想像も出来なかった。


うの華 109

2019-12-04 11:29:27 | 日記

 「私だって母親なんだからね。」

そう言った母は、それまで私と接して来た時に感じていた身構えたような対抗的な感じとは違っていた。彼女は湯浴みでもして全身が水に浸ったような緩やかな雰囲気でいた。瞳は慈愛感を漂わせて私に向けて注がれていた。本当に全く、今迄の私が接した事が無い母の姿だった。

 私にすると、こう母に大人しく下手に出られるてみると、甘えるというより照れが先に立ってしまった。何やらこそばゆい感じがした。

「嫌だなぁ、お母さんらしくもない。」

私は母の慈しむように自分に向けて来る視線を外し、笑いながら言った。

「柄じゃないよ。何時ものお母さんみたいにあれこれ文句を言えばいいのに。」

こんな所で怪我して、本とにもう、子供なんて世話が掛かってしょうがない。とか。と、そんな事を威勢よく私が言うと、母はハッとした感じだったが、怒らずに返ってシュンとした。彼女は言葉も無く顔を伏せると、如何やら涙ぐんだようだった。

 そんな沈み込んだ母に、折角今元気を回復していたのに、前回私が縁側に来た時見た沈んだ母の状態に戻してしまったようだ。と、私はこれは不味い状況になったと感じた。彼女が何時も元気が無い時には、私はそれなりに励ましてきたつもりだった。それが今回は、元気な時に気落ちさせる事になってしまったのだと思うと私は困った。

 「外で遊んできます。」

苦笑いを浮かべて私は言った。我が家で家族の大人に対して、私が何かを如何にも出来ない時に言う決め台詞だ。

 私が早速行動を起こそうとすると、

「一寸待ちなさい。」

と母は私を引き止めた。これも初めての事だ。何時もは私の言うままに無言でその場を見逃すか、行っておいでと言葉を掛けて送り出してくれるのだが、今日の母はやはり何時もの母では無い。私もそんな彼女を置いて、さっとばかりにこの場を駆け去るという事が出来なかった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-12-04 10:46:55 | 日記
 
洋梨(pear)の思い出
 この八百屋さん、下宿の近くは新興住宅地で住宅がまばらに偏り点在していて、回りにはまだリンゴ畑が多くあり、私の下宿もリンゴ畑の中に有ると言っても過言ではない場所で、私の電車通学の駅......
 

 雨で寒くなってきました。今週末まで暫く雨予報です。