Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(78)

2018-05-22 09:39:00 | 日記

 彼は再び彼女に向き直り勿体ぶった様に言いました。

「もうあれは他の人の物だからね。君の物にはならないんだ。」

というような、彼女が思いも掛けなかった驚くような事を言い出しました。そして、自分の言葉に呆気に取られ、ポカンと口を大きく開け、つぶらな瞳で一心に自分を見詰めたままの彼女の顔を見て、してやったりと思うと、笑いが堪え切れなくなりぷっと横に笑いを吹き出しました。

 『ねんねは皆同じだな。』と、自分の妹に同じ場面で、同じ事を言った時の事を思い出しました。『妹の時も度肝を抜かれた様に呆気に取られていたけれど…』と、その時の顔を思い出すとクスクス笑いが止まりません。口に手をやって笑いを引っ込めようとすると、彼はうううと、目をぱちぱちさせて涙目になってしまいました。

 一方私は従兄の言葉に相当ショックを受けていました。『もう他の人の物。』従兄の言葉を心の中で繰り返してみます。が、直ぐには意味が呑み込めないでいました。『太陽が他の人の物、そんな事が?…』、頭の中がもやもやして物事が何も浮かんで来ません。私は何が何だかさっぱり訳が分かりませんでした。少し落ち着くと、太陽が人の物になるなんて言う事があるのだろうかと不思議に感じて来ました。確かに、少しまでは私の太陽などといって、自分の物だと思っていましたが、従兄に君の物じゃないとか、人の物だと言われると、そう言った従兄に対しての反感が湧いて来たのでした。そうすると、自分の事は棚に上げて、手の届かない所にある、人でも生き物でもない太陽が、如何やって人の手に入れられて、その人の物になるのかが納得できない事に思われて来ました。自分で考えたこの考えがよく分からなくても、彼に対する反抗心が勝った私は「太陽は人の物にはならない物だ」と結論するのでした。それで、従兄の言葉を確認しようと、眉根に皺を寄せて従兄に尋ねるのでした。


土筆(77)

2018-05-22 09:38:03 | 日記

 『そうだ、金色を私の一番好きな色にしておこう。』

私はこの瞬間そう確りと決めると、うんとばかりにお日様を見詰めて頷きました。そして目を細めると太陽を指さし、自分の決意を表明する為に「お日様大好き!」「金色大好き!」と大きく口に出してにっこり笑いました。

 と、丁度その時です、湧いて来た疑問を確かめようとして、今年ガキ大将になった従兄が叫んでいる彼女に近付いて来ていました。そして、彼女の言葉を聞き取り、そのふやけたような幼い笑顔を見て取ると、片方の眉毛を吊り上げ含み笑いをしました。その後彼は、急に彼女の言葉に引き込まれたようにすいっと彼女に近付くと、

「…ちゃん、君もしかしたら、太陽を自分の物だと思ってない?」

と如何にも神妙な顔をして尋ねるのでした。

 勿論彼女はこっくりと頷きました。その後も彼女は夢見がちな瞳をしてその目に夕日を映すように見詰めながら、「お日様がね、」そう言うと、「私に味方してくれる、とても綺麗なものだと気が付いたから。」と嬉しそうに、たどたどしく自分の気持ちの変遷を従兄に説明するのでした。

 彼が如何にも年上らしい素振りでふんふんと頷き従妹の説明を聞き終えると、彼女はここで感極まったというようにほぅっと溜息を吐きました。

 「それでね、私、世界で一番太陽が好きなの。」

彼女はあどけなく幸福そうな笑顔を頬に浮かべて従兄の笑顔を見詰めると、彼の理解を得る為に口にしました。すると、従兄はふんふんと頷き、笑顔のまま訳知り顔で、さも意地悪そうに彼女に言いました。

「でも、太陽は君の物じゃないよ。」

君の味方でも無いし。それに、太陽は、奇麗は奇麗だけど…、と、彼はそこで言葉を切って一旦彼女から顔を背けました。この先彼を待ち受けている可笑しさを予想すると、彼は堪らなく可笑しくなり、胸に湧いてくる笑いを堪えながら、心の準備をする為に少し時間を置いたのでした。