Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(68)

2018-05-11 10:20:33 | 日記

 彼女は涙声で兄に切々と心情を訴えました。無論後ろにいる年下の従姉妹には聞こえない様に小声で話しました。兄は大凡の自体を悟ると、ややあっけにとられましたが、改めて過去を振り返ってみるとなるほどと頷ける節がありました。妹が話の主に好意を抱いていた事は、共にその家に遊びに行った時の彼女の顔つきや様子、話し方に妙な違和感を感じた事を思い起こせば、なるほどね!と察する事が出来ました。しかし、まさかそこまで、妹が泣き出すほどにまで思い詰めていたとは…、今迄想像だにしていなかった出来事でした。

 彼は『ませガキ』と思いました。ぷっと吹き出してしまいました。彼は「ははは…」と声に出して笑い出してしまいそうでした。妹の手前必死で笑い声を堪えると、片腹が痛くて痛くて、彼は非常に困りましたが、妹の方はまだ泣き止まず、幼いなりにそれなりに深刻な様子です。『仕様が無いな。』と彼は妹の事を愛おしく思います。「よしよし。」と、ポンポンと肩等叩いてやります。

 妹の方はこの兄の態度に、分ってもらえたと思うとほっと気が緩み、声に出して泣いたおかげもあってか、気分はすっきりと晴れて来るのでした。自分の顔を覗き込む兄の慈愛に満ちた瞳を見上げて、にっこりと笑いました。子供というのは不思議なものです。「泣いた烏がもう笑った。」彼女は兄にそう茶化されて、兄の顔を見上げて肘で彼の脇腹を突くと「もう、お兄ちゃんたら、」と、何時もの様に輝くような笑顔で微笑みました。

 それを見て兄は思います。『奇麗だよな。』。兄の欲目では無い、客観的に見てもそうだと真実彼はそう思いました。これなら、彼女が本気で迫れば誰も断る相手はい無いだろうと彼は確信しました。

「好きなら好きだと言えばいいじゃないか。」

兄は妹にアドバイスするのでした。


土筆(67)

2018-05-11 09:54:07 | 日記

 「お前、そんな泣き方、体によく無いぞ。」

兄が妹に穏やかに声をかけました。

「お前こそ変だ、何で何時もみたいに泣き喚かないんだ?」

そうも言ってみます。妹の方はまだ声が出せない状態なので、目を伏せて口に手を当ててみます。彼女はまだ何も話したくはありませんでした。

「お前の方こそ、あの子に遠慮してるんじゃないか?」

今日は何かあったのか?、兄は普段と違う妹の様子が気になり親身に声を掛けてやりました。妹の方も段々兄の優しさに絆されてしんみりとして来ました。「向かい角の〇さんがね、」と、ぽつりと漏らしました。

「向かい角の〇さんが?」

兄は妹の言葉を繰り返し、突然の思いも寄らない話の展開にその先が読めずに問い質すのでした。「で、何かあったのか?」と、彼女に質問してみます。

「その息子さんがね…」

そこまで言うと、彼女は堪えていた涙がどっとばかりに溢れ出して来て、止めようが無く、抑えていた声もうううと口から溢れ嗚咽すると、遂にはうえーん、えんえんと声に出して泣き始めました。

 「皆して、あの子ばっかり、」「皆だけじゃ無く、兄さんだって」「兄さんだって、私よりあの子の方がいいんだわ。」

わんわん泣き喚く妹のこの様子に、兄は何時もの妹だと思うとほっとしました。妹の前に回るとその顔を覗き込み、よしよしと、「兄さんに何でも話してごらん、悪いようにはしないから。」と、慰めるように彼女に声を掛けるのでした。


土筆(66)

2018-05-11 09:22:27 | 日記

 実のところ、彼女の睨む目には非常に凄味があり、睨まれた相手にとてもよく効果を発揮するのでした。彼女に睨みを利かされると、兄でさえも一瞬背筋が凍りつき、ぶるっと震えが来ました。

 しかし、流石に兄です。妹に睨みを利かされたとあっては、今後の事を考えても対外的に面目丸潰れです。背筋が凍る恐怖心をぐっと堪えると、さも何でもないというように口を一文字に結んで妹の顔から眼を逸らし、こちらが打って出る頃合いを見図るのでした。

 さて、そんな兄妹のやり取りを近くにいて目前で見ていたのが私です。日頃見慣れている親しい筈の兄妹同士の喧嘩に、目をぱちくりして唖然としていました。兄の従兄妹の方は、年代が自分より少し遠いせいもあって余り遊んだ経験がありませんでしたが、自分の親戚だという事は把握していました。年上の従姉妹に付いては、よく遊ぶ仲の良いお姉さんのような存在でした。2人共自分の親戚であり、その上、2人は兄妹です。自分の間柄より2人の間柄の方が近しい事も分かっていました。仲よくするべき筈の兄妹同士が如何して喧嘩をするのか?、ましてや兄妹は他人とは違うものだから、仲睦まじいのが当たり前、寧ろ仲良くしなければならないものなのに、何故その2人が喧嘩するのだろう?。目の前の出来事が私には意外な事であり、信じられない事なのに、それが実際に起こり繰り広げられているのです。この事が事実であるという事が信じられず、現実が理解出来ないのでした。

 「これは夢ね!」

私は思い付きました。お昼寝をして夢を見ているのだ!。現実をそう判断したのでした。『今日はいとこが2人も自分の夢に出て来てくれたのだ。夢の中でいとこ達と遊ぶ事が出来るなんて…。』一人っ子の私は何だかほのぼのとしたものを感じると、嬉しくて感動してしまいました。私は常日頃、年上の従姉妹の事を兄弟がいて羨ましいと思っていたのです。生まれてから初めて夢の中で出会ういとこ達、夢に出て来てくれた嬉しいいとこ達、私は2人が争う姿をにこにこして観戦していました。