Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(65)

2018-05-08 10:36:57 | 日記

 ついポロリと口を衝いて出てしまった言葉でした。彼女は直ぐに内心ハッとして後悔したのですが、出てしまったものは仕方がない、という具合に直ぐに諦めてしまいました。

『一旦口から出た物は、今更元に戻せるわけじゃ無し。』

そう思うと、彼女は兄と一悶着、揉める事を決意するのでした。彼女は今まで兄に並んで立ち、遜っていた態度をがらりと変えると、両腕を肘で引くようにしてぐーっと伸びをして身を反らし、体を開き直ると兄の方向に向かい体の向きを変えました。そして、思い切って彼に食って掛かるのでした。

 「お兄ちゃん、なぁに、さっきは『…ちゃん』にいやに甘かったんじゃないの!」

何時ものお兄ちゃんと大違い、私のお兄ちゃんじゃ無いみたいだったわ…。目に涙が溢れて来ます。彼女は文句を言う二の句が継げず、ここで一旦言葉を切りました。そして、「変じゃないの。」「私の時とは違うじゃない。」ぽつり、ぽつり、と口を開く内に、

「ひくっ…」

彼女の喉はしゃくり上げて来ました。続いて込み上げて来る嗚咽を彼女は必死に堪えました。年下の従姉妹に泣き顔を見られたくはありません。くるりと彼女に背を向けると、再び兄と並んで立ちました。おかげで兄妹で体が表裏に並ぶという、見た目に妙な並び具合となりました。

 彼女は込み上げて来る嗚咽の為に起こる肩の震えに困っていました。泣いている事を後ろにいる従姉妹に気付かれたく無いと思うと、喉に上がる溜飲を必死に押し殺していました。兄への文句がまだ足りなかったのですが、口を開けば涙声になってしまいます。その為声には出せません。それでその代わり、とばかりに涙で潤み紅くなった目で、きっ!と横の兄の目を睨みました。


土筆(64)

2018-05-08 10:13:33 | 日記

 『…』

彼女は無言で兄の言葉を噛みしめました。そして直ぐに兄の言った通りのポーズを決めようと左右の足に気を配りながら片足を上げてみますが、やはり利き足を軸にしてしまうのでした。

「あれっ、」

彼女は致し方無く、横にいる兄に救援を求める様にちらりと視線を投げかけてみますが、そんな妹に兄は動ずる気配が無く、無視したまま全くの不動の体でいます。その兄の冷たい態度に彼女は気持ちがひやりとするのでした。

 『実の兄でさえこうだもの…。世間の人はもっと冷たいのだ!自分自身が確りして世の中を渡って行くしかないのだ。』

常日頃、この様に兄に鍛えられたおかげか、今の様に賢く世慣れし何でも出来る彼女がいるのでした。性格のきつさもこのような環境のせいなのでした。

 彼女は兄の態度にくじける事なくまた戦うポーズに取り組み始めました。せっせと足を上げる練習です。そうすると、数回の内にもう彼女は思う通りのポーズを取る事が出来たのでした。その瞬間、これを横目で見ていた兄はにっこり笑うと、出来たじゃないかと褒め言葉を掛けました。

「何でも俺の言うとおりにすれば出来るようになるんだ。覚えて置けよ。」

そう兄が得意げに言うと、妹もニヤリとして、いかにも彼に同調するように無言で笑顔を浮かべました。

 しかし、彼女の心はまだひんやりとしていました。彼女は思いました。自分自身で出来るようになったので兄のおかげではないわと、そう内心思うと、何時もなら黙ったままでいるのですが、今日は色々な事が彼女にも起こり過ぎていました。その為気持ちが疲弊していたのでしょう、彼女はつい余計な言葉を口から出してしまったのでした。

「別にお兄ちゃんのおかげで出来た訳じゃないわ。」


土筆(64)

2018-05-08 10:13:33 | 日記

 『…』

彼女は無言で兄の言葉を噛みしめました。そして直ぐに兄の言った通りのポーズを決めようと左右の足に気を配りながら片足を上げてみますが、やはり利き足を軸にしてしまうのでした。「あれっ、」。彼女は致し方無く、横にいる兄に救援を求める様にちらりと視線を投げかけてみますが、そんな妹に兄は動ずる気配が無く、無視したまま全くの不動の体でいます。その兄の冷たい態度に彼女は気持ちが冷ㇼとするのでした。『実の兄でさえこうだもの…。世間の人はもっと冷たいのだ!自分自身が確りして世の中を渡って行くしかないのだ。』常日頃、この様に兄に鍛えられたおかげか、今の様に賢く世慣れし何でも出来る彼女がいるのでした。性格のきつさもこのような環境のせいなのでした。

 彼女は兄の態度にくじける事なく戦うポーズに取り組み始めました。せっせと足を上げる練習です。そうすると、数回の内にもう彼女は思う通りのポーズを取る事が出来たのでした。その瞬間、これを横目で見ていた兄はにっこり笑うと、出来たじゃないかと褒め言葉を掛けました。

「何でも俺の言うとおりにすれば出来るようになるんだ。覚えて置けよ。」

そう兄が得意げに言うと、妹もニヤリとして、いかにも彼に同意するように無言で笑顔を浮かべました。しかし、彼女の心はまだひんやりとしていました。彼女は思いました。自分自身で出来るようになったので兄のおかげではないわと、そう内心思うと、何時もなら黙ったままでいるのですが、今日は色々な事が彼女にも起こり過ぎていました。その為気持ちが疲弊していたのでしょう、彼女はつい余計な言葉を口から出してしまったのでした。

「別にお兄ちゃんのおかげで出来た訳じゃないわ。」