諮問庁 : 外務大臣
諮問日 : 平成18年 7月19日 (平成18年(行情)諮問第231号)
答申日 : 平成20年 2月22日 (平成19年度(行情)答申第441号)
事件名 : 昭和34年7月6日の岸首相,藤山外相とマッカーサー米大使との会談録等の一部開示決定に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
「7月6日総理外務大臣,在京米大使会談録」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分は,不開示とすることが妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 本件異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成16年8月3日付け情報公開第02724号により外務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。
2 本件異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。
(1) 異議申立書
ア 異議申立人は,平成16年6月2日,処分庁に対し,法に基づき,「1959年7月6日に岸首相と藤山外相,マッカーサー米駐日大使との間で行われた会談の内容・経過・合意事項を一問一答式に記した議事録・会談録。この種の議事録・会談録が存在しない場合は,文書名のいかんを問わず,会談の内容の全部又は一部を記した覚書,報告書等の文書(会談の様子を録音,撮影した図画・電磁的記録を含む。会談のために米国側に交付し,米国側から交付された文書・図画及び会談で閲覧され,合意された文書・図画を含む。)」の開示を請求した。
イ 処分庁は,法10条2項に基づいて開示決定等の期限を延長し,平成16年8月3日,上記開示請求に係る行政文書として本件対象文書を特定し,原処分を行った。
ウ 処分庁は,一部不開示の理由として,「日米間の協議内容に関する記述のうち,公にすることにより,現在でもなお国の安全を害するおそれ及び他国との信頼関係を損なうおそれがある部分を不開示とした。」と説明し,不開示とされた部分が法5条3号の不開示情報に該当するとしている。しかし,その根拠は希薄で,不開示理由の説明にも具体性がないため,説得力を欠いている。原処分は違法,不当である。
エ 法5条3号は,「…おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と,不開示情報を限定的に定めている。この「相当の理由」があるかどうかについて,総務省行政管理局編「詳解 情報公開法」等は,行政機関の長の「判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものかどうか」との尺度を示し,その適用に厳格さを求めている。それにもかかわらず,処分庁は,当該判断が「合理性を持つ判断として許容される限度内」のものであることを立証する具体的な説明を一切していない。
本件会談から40年以上も経っており,本件対象文書はもはや歴史的文書である。しかしながら,処分庁は,不開示とされた部分をなお不開示とすべきとする理由について,十分な説明をしていない。
また,処分庁は,原処分において,上記開示請求に係る文書が本件対象文書のみか又は他に存在するかについて触れていない。このことも違法,不当である。なぜなら,処分庁は,過去において,対象文書のページ飛ばしをしたり,異議申立てを受けて追加決定を行ったりしたことが多くあるからである。
オ 以上の理由により,処分庁に対し,原処分を速やかに取り消すよう求める。法は,主権者たる国民に対する政府の説明の責務を定め,また,開示請求から開示決定等までの期限を定めていること等から,情報公開・個人情報保護審査会への諮問,再決定等についても速やかな処理を求めていることは明白である。仮に原処分を取り消さず,情報公開・個人情報保護審査会に諮問する場合でも,上記「詳解 情報公開法」が法18条の解説で注意を喚起するように,「遅滞なく」諮問することが求められている。行政不服審査法及び行政手続法も,速やかな手続処理を義務付けている。
(2) 意見書
原処分については,諮問庁の理由説明書の写しが,情報公開・個人情報保護審査会から,平成18年7月25日付けで届いた。しかし,異議申立てから諮問までほぼ2年をも要している。また,理由説明書は,法施行以来の多数の同様事案と相変わらず,抽象的な題目を並べるだけに終始している。
法に照らし,本件対象文書は全部開示すべきであることを既に異議申立書で指摘しているので,ここでは,以下の点を諮問庁に対して求める。情報公開・個人情報保護審査会においても,その趣旨を理解し,諮問庁に対し,誠実かつ速やかに要求に応えるよう指示していただきたい。そのことによって,国民のために日本の情報公開制度が全うに機能するよう,強く期待する。
ア 諮問庁は,異議申立てから諮問までになぜほぼ2年もの年月を要したか,具体的な作業日程と諮問が遅れた直接の事情を,情報公開・個人情報保護審査会及び異議申立人に対し,詳細に報告すること。
外務省は,法の施行以来,情報公開制度において手続処理が最も遅い行政機関として知られており,その早急な改善が一日も早く求められている。そのことは,特定書籍で詳細に報告されている。
イ 諮問庁は,本件対象文書について,実効あるヴォーンインデックスを作成し,提出すること。
諮問庁(処分庁)は,行政文書開示決定等通知書及び理由説明書において,どのような事案にでも通用するような抽象的,一般的な不開示理由しか述べていない。仮に不開示妥当との答申が出された場合,情報公開・個人情報保護審査会が諮問庁から口頭説明を受け,本件対象文書を見分し,当該答申でいかに詳細に不開示情報該当性について述べたとしても,異議申立人や国民は,「仲間外れ」のようなもどかしさを覚えるだけである。そうした不条理を少しでも解消するため,こうしたケースでは,ヴォーンインデックスは不可欠である。
ウ 情報公開・個人情報保護審査会は,最終的には本件対象文書を見分すること。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 理由説明書
(1) 本件対象文書について
本件対象文書は,昭和34年7月6日に行われた岸総理大臣及び藤山外務大臣とマッカーサー在京米国大使との会談の内容を,日本側において記録したものである。
(2) 不開示理由について
不開示とした部分は,日米間の協議の内容に関する記述であって,公にすることにより,現在でもなお国の安全を害するおそれ及び他国との信頼関係を損なうおそれがあると判断した部分である(法5条3号に該当)。
(3) 異議申立人の主張について
異議申立人は,不開示とした部分が法5条3号に該当するとする根拠が希薄であり,不開示理由の説明にも具体性がないと主張しているが,上記のとおり,不開示とした部分は同号に該当するものである。
(4) 結論
上記の論拠に基づき,諮問庁としては,原処分を維持することが適当である。
2 補充理由説明書
本件対象文書を改めて精査した結果,以下の部分については,原処分で不開示理由としている法5条3号に該当しないと判断したため,開示することとした(平成20年1月29日付け情報公開第00310号のとおり)。
(1) 7ページ6行目から8ページ1行目途中まで
(2) 9ページ6行目から10ページ2行目まで
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成18年7月19日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年8月22日 異議申立人から意見書を収受
④ 同年10月11日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成19年12月7日 諮問庁の職員(外務省大臣官房総務課情報公開室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥ 平成20年1月23日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
⑦ 同月30日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑧ 同年2月20日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書及び本件不開示部分について
本件対象文書は,昭和34年7月6日に行われた岸総理大臣及び藤山外務大臣とマッカーサー在京米国大使との会談の内容を,日本側において記録したものである。
原処分においては,当該会談におけるやり取りの一部が,法5条3号の不開示情報に該当するとして不開示とされている。処分庁(諮問庁)は,平成20年1月29日付け情報公開第00310号により,原処分で不開示とされた部分のうち一部を開示する旨の変更決定をしているが,その余の部分についてはなお不開示とすべきとしているので,当審査会において本件対象文書を見分した結果に基づき,当該その余の部分(以下「本件不開示部分」という。)の不開示情報該当性について,以下,検討する。
2 本件不開示部分の不開示情報該当性について
(1) 諮問庁の説明について
諮問庁は,理由説明書及び口頭説明において,本件不開示部分は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下「旧日米安保条約」という。)の改定交渉に係る日米間の協議の内容に関する記述であって,公にすることにより,当該改定交渉の結果成立した日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「現行日米安保条約」という。)の解釈についての誤解や憶測を招き,我が国の安全保障の根幹である日米安全保障体制の円滑な運用に重大な支障を及ぼすおそれがあり,ひいては国の安全が損なわれるおそれがあるので,法5条3号の不開示情報に該当する旨説明する。
(2) 法5条3号該当性について
法5条3号は,国の安全が害されるおそれのある情報等については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと,対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要すること等の特殊性が認められることから,行政機関の長の第一次的判断を尊重し,上記おそれを認定する前提になる事実の認定,不開示情報の要件への当てはめが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断されるべきとしたものと解される。
以下,このような観点から,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
当審査会において見分した結果によれば,本件対象文書には,旧日米安保条約の改定に向け,岸総理大臣,藤山外務大臣及びマッカーサー在京米国大使が行った具体的なやり取りが生々しく記載されており,その内容,発言振り等からすれば,本件会談当時,当該会談における発言者は,公開を前提とせずに,率直な意見交換を行っていたものと認められる。
もっとも,本件会談から既に40年以上が経過し,米国側で旧日米安保条約の改定に関する多数の文書が公開されている現状にかんがみれば,本件会談当時,公開を前提としていなかったからといって,そのことが直ちに我が国の情報公開制度における不開示の理由になるとは言えない。
そこで,本件不開示部分の記載を見ると,その内容は,現行日米安保条約の基本的な枠組みに係る機微な事項に関するものであると認められ,そのことから,我が国の安全保障にも密接に関連する記載と認められる。また,本件不開示部分の記載は,旧日米安保条約の改定に向けた検討段階のものであることから,その趣旨や意味内容につき誤解や憶測を招くおそれがある記載を含んでいることは否定できず,これを公にした場合,当該記載に関する誤解や憶測が,我が国の安全保障の根幹を成す日米安全保障体制の運用についての誤解や憶測を招くおそれがあることもまた否定できない。
上記のとおり,日米安全保障体制は,我が国の安全保障において極めて重要な意義を有するものであることは言うまでもないが,その実際の運用においては様々な困難な課題が伴うものであり,米国の軍隊にもかかわる機微な事項にわたる同体制の運用についての誤解等が生じた場合,それが同体制の円滑な運用を妨げ,我が国の安全保障に支障を及ぼすおそれがあることも否定できないものと認められる。
したがって,本件不開示部分は,公にすることにより,国の安全が害されるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報と認められるので,法5条3号の不開示情報に該当し,不開示とすることが妥当である。
3 異議申立人の主張について
異議申立人は,異議申立てからほぼ2年後に本件諮問が行われたことは遅きに失し,問題である旨指摘しているので,この点について検討する。
本件諮問までに長期間を要した理由について諮問庁の口頭説明を聴取したところ,異議申立てから本件諮問までの期間において,並行して多数の開示請求が別途行われており,その開示・不開示の判断のため膨大な時間を要したこと,及び情報公開関係業務のみならず,その外にも対応すべき多大な業務が存在し,多忙を極めたためであるとのことであった。
しかしながら,本件異議申立てへの対応と並行して処理すべき多大な業務があったとしても,異議申立てから諮問までにこれほどの長期間を要したことを必ずしも正当化できるとは言えず,本件諮問は著しく遅きに失したものと言わざるを得ない。諮問庁においては,今後,開示決定等に対する不服申立てに対し,迅速かつ的確な対応が行えるよう,事務処理体制の見直し等が望まれるところである。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号に該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同号に該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分は,同号に該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。
(第1部会)
委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子
諮問日 : 平成18年 7月19日 (平成18年(行情)諮問第231号)
答申日 : 平成20年 2月22日 (平成19年度(行情)答申第441号)
事件名 : 昭和34年7月6日の岸首相,藤山外相とマッカーサー米大使との会談録等の一部開示決定に関する件
第1 審査会の結論
「7月6日総理外務大臣,在京米大使会談録」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分は,不開示とすることが妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 本件異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成16年8月3日付け情報公開第02724号により外務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。
2 本件異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。
(1) 異議申立書
ア 異議申立人は,平成16年6月2日,処分庁に対し,法に基づき,「1959年7月6日に岸首相と藤山外相,マッカーサー米駐日大使との間で行われた会談の内容・経過・合意事項を一問一答式に記した議事録・会談録。この種の議事録・会談録が存在しない場合は,文書名のいかんを問わず,会談の内容の全部又は一部を記した覚書,報告書等の文書(会談の様子を録音,撮影した図画・電磁的記録を含む。会談のために米国側に交付し,米国側から交付された文書・図画及び会談で閲覧され,合意された文書・図画を含む。)」の開示を請求した。
イ 処分庁は,法10条2項に基づいて開示決定等の期限を延長し,平成16年8月3日,上記開示請求に係る行政文書として本件対象文書を特定し,原処分を行った。
ウ 処分庁は,一部不開示の理由として,「日米間の協議内容に関する記述のうち,公にすることにより,現在でもなお国の安全を害するおそれ及び他国との信頼関係を損なうおそれがある部分を不開示とした。」と説明し,不開示とされた部分が法5条3号の不開示情報に該当するとしている。しかし,その根拠は希薄で,不開示理由の説明にも具体性がないため,説得力を欠いている。原処分は違法,不当である。
エ 法5条3号は,「…おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と,不開示情報を限定的に定めている。この「相当の理由」があるかどうかについて,総務省行政管理局編「詳解 情報公開法」等は,行政機関の長の「判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものかどうか」との尺度を示し,その適用に厳格さを求めている。それにもかかわらず,処分庁は,当該判断が「合理性を持つ判断として許容される限度内」のものであることを立証する具体的な説明を一切していない。
本件会談から40年以上も経っており,本件対象文書はもはや歴史的文書である。しかしながら,処分庁は,不開示とされた部分をなお不開示とすべきとする理由について,十分な説明をしていない。
また,処分庁は,原処分において,上記開示請求に係る文書が本件対象文書のみか又は他に存在するかについて触れていない。このことも違法,不当である。なぜなら,処分庁は,過去において,対象文書のページ飛ばしをしたり,異議申立てを受けて追加決定を行ったりしたことが多くあるからである。
オ 以上の理由により,処分庁に対し,原処分を速やかに取り消すよう求める。法は,主権者たる国民に対する政府の説明の責務を定め,また,開示請求から開示決定等までの期限を定めていること等から,情報公開・個人情報保護審査会への諮問,再決定等についても速やかな処理を求めていることは明白である。仮に原処分を取り消さず,情報公開・個人情報保護審査会に諮問する場合でも,上記「詳解 情報公開法」が法18条の解説で注意を喚起するように,「遅滞なく」諮問することが求められている。行政不服審査法及び行政手続法も,速やかな手続処理を義務付けている。
(2) 意見書
原処分については,諮問庁の理由説明書の写しが,情報公開・個人情報保護審査会から,平成18年7月25日付けで届いた。しかし,異議申立てから諮問までほぼ2年をも要している。また,理由説明書は,法施行以来の多数の同様事案と相変わらず,抽象的な題目を並べるだけに終始している。
法に照らし,本件対象文書は全部開示すべきであることを既に異議申立書で指摘しているので,ここでは,以下の点を諮問庁に対して求める。情報公開・個人情報保護審査会においても,その趣旨を理解し,諮問庁に対し,誠実かつ速やかに要求に応えるよう指示していただきたい。そのことによって,国民のために日本の情報公開制度が全うに機能するよう,強く期待する。
ア 諮問庁は,異議申立てから諮問までになぜほぼ2年もの年月を要したか,具体的な作業日程と諮問が遅れた直接の事情を,情報公開・個人情報保護審査会及び異議申立人に対し,詳細に報告すること。
外務省は,法の施行以来,情報公開制度において手続処理が最も遅い行政機関として知られており,その早急な改善が一日も早く求められている。そのことは,特定書籍で詳細に報告されている。
イ 諮問庁は,本件対象文書について,実効あるヴォーンインデックスを作成し,提出すること。
諮問庁(処分庁)は,行政文書開示決定等通知書及び理由説明書において,どのような事案にでも通用するような抽象的,一般的な不開示理由しか述べていない。仮に不開示妥当との答申が出された場合,情報公開・個人情報保護審査会が諮問庁から口頭説明を受け,本件対象文書を見分し,当該答申でいかに詳細に不開示情報該当性について述べたとしても,異議申立人や国民は,「仲間外れ」のようなもどかしさを覚えるだけである。そうした不条理を少しでも解消するため,こうしたケースでは,ヴォーンインデックスは不可欠である。
ウ 情報公開・個人情報保護審査会は,最終的には本件対象文書を見分すること。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 理由説明書
(1) 本件対象文書について
本件対象文書は,昭和34年7月6日に行われた岸総理大臣及び藤山外務大臣とマッカーサー在京米国大使との会談の内容を,日本側において記録したものである。
(2) 不開示理由について
不開示とした部分は,日米間の協議の内容に関する記述であって,公にすることにより,現在でもなお国の安全を害するおそれ及び他国との信頼関係を損なうおそれがあると判断した部分である(法5条3号に該当)。
(3) 異議申立人の主張について
異議申立人は,不開示とした部分が法5条3号に該当するとする根拠が希薄であり,不開示理由の説明にも具体性がないと主張しているが,上記のとおり,不開示とした部分は同号に該当するものである。
(4) 結論
上記の論拠に基づき,諮問庁としては,原処分を維持することが適当である。
2 補充理由説明書
本件対象文書を改めて精査した結果,以下の部分については,原処分で不開示理由としている法5条3号に該当しないと判断したため,開示することとした(平成20年1月29日付け情報公開第00310号のとおり)。
(1) 7ページ6行目から8ページ1行目途中まで
(2) 9ページ6行目から10ページ2行目まで
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成18年7月19日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年8月22日 異議申立人から意見書を収受
④ 同年10月11日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成19年12月7日 諮問庁の職員(外務省大臣官房総務課情報公開室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥ 平成20年1月23日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
⑦ 同月30日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑧ 同年2月20日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書及び本件不開示部分について
本件対象文書は,昭和34年7月6日に行われた岸総理大臣及び藤山外務大臣とマッカーサー在京米国大使との会談の内容を,日本側において記録したものである。
原処分においては,当該会談におけるやり取りの一部が,法5条3号の不開示情報に該当するとして不開示とされている。処分庁(諮問庁)は,平成20年1月29日付け情報公開第00310号により,原処分で不開示とされた部分のうち一部を開示する旨の変更決定をしているが,その余の部分についてはなお不開示とすべきとしているので,当審査会において本件対象文書を見分した結果に基づき,当該その余の部分(以下「本件不開示部分」という。)の不開示情報該当性について,以下,検討する。
2 本件不開示部分の不開示情報該当性について
(1) 諮問庁の説明について
諮問庁は,理由説明書及び口頭説明において,本件不開示部分は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下「旧日米安保条約」という。)の改定交渉に係る日米間の協議の内容に関する記述であって,公にすることにより,当該改定交渉の結果成立した日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「現行日米安保条約」という。)の解釈についての誤解や憶測を招き,我が国の安全保障の根幹である日米安全保障体制の円滑な運用に重大な支障を及ぼすおそれがあり,ひいては国の安全が損なわれるおそれがあるので,法5条3号の不開示情報に該当する旨説明する。
(2) 法5条3号該当性について
法5条3号は,国の安全が害されるおそれのある情報等については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと,対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要すること等の特殊性が認められることから,行政機関の長の第一次的判断を尊重し,上記おそれを認定する前提になる事実の認定,不開示情報の要件への当てはめが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断されるべきとしたものと解される。
以下,このような観点から,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
当審査会において見分した結果によれば,本件対象文書には,旧日米安保条約の改定に向け,岸総理大臣,藤山外務大臣及びマッカーサー在京米国大使が行った具体的なやり取りが生々しく記載されており,その内容,発言振り等からすれば,本件会談当時,当該会談における発言者は,公開を前提とせずに,率直な意見交換を行っていたものと認められる。
もっとも,本件会談から既に40年以上が経過し,米国側で旧日米安保条約の改定に関する多数の文書が公開されている現状にかんがみれば,本件会談当時,公開を前提としていなかったからといって,そのことが直ちに我が国の情報公開制度における不開示の理由になるとは言えない。
そこで,本件不開示部分の記載を見ると,その内容は,現行日米安保条約の基本的な枠組みに係る機微な事項に関するものであると認められ,そのことから,我が国の安全保障にも密接に関連する記載と認められる。また,本件不開示部分の記載は,旧日米安保条約の改定に向けた検討段階のものであることから,その趣旨や意味内容につき誤解や憶測を招くおそれがある記載を含んでいることは否定できず,これを公にした場合,当該記載に関する誤解や憶測が,我が国の安全保障の根幹を成す日米安全保障体制の運用についての誤解や憶測を招くおそれがあることもまた否定できない。
上記のとおり,日米安全保障体制は,我が国の安全保障において極めて重要な意義を有するものであることは言うまでもないが,その実際の運用においては様々な困難な課題が伴うものであり,米国の軍隊にもかかわる機微な事項にわたる同体制の運用についての誤解等が生じた場合,それが同体制の円滑な運用を妨げ,我が国の安全保障に支障を及ぼすおそれがあることも否定できないものと認められる。
したがって,本件不開示部分は,公にすることにより,国の安全が害されるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報と認められるので,法5条3号の不開示情報に該当し,不開示とすることが妥当である。
3 異議申立人の主張について
異議申立人は,異議申立てからほぼ2年後に本件諮問が行われたことは遅きに失し,問題である旨指摘しているので,この点について検討する。
本件諮問までに長期間を要した理由について諮問庁の口頭説明を聴取したところ,異議申立てから本件諮問までの期間において,並行して多数の開示請求が別途行われており,その開示・不開示の判断のため膨大な時間を要したこと,及び情報公開関係業務のみならず,その外にも対応すべき多大な業務が存在し,多忙を極めたためであるとのことであった。
しかしながら,本件異議申立てへの対応と並行して処理すべき多大な業務があったとしても,異議申立てから諮問までにこれほどの長期間を要したことを必ずしも正当化できるとは言えず,本件諮問は著しく遅きに失したものと言わざるを得ない。諮問庁においては,今後,開示決定等に対する不服申立てに対し,迅速かつ的確な対応が行えるよう,事務処理体制の見直し等が望まれるところである。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号に該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同号に該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分は,同号に該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。
(第1部会)
委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子