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神奈川県情報公開審査会 答申第324号 特定施設立入検査報告書不存在の件

2006年06月19日 | 訴訟記録
答申第324号
平成18年6月19日

神奈川県知事 松 沢 成 文 殿

神奈川県情報公開審査会
会 長 堀 部 政 男

行政文書公開請求拒否処分に関する不服申立てについて(答申)

平成17年11月17日付けで諮問された特定施設立入検査報告書不存在の件(諮問第370号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
実施機関が、特定の一般廃棄物処理施設に対する立入検査報告書のうち、平成10年4月30日以前の報告書は存在しないとして、公開を拒んだことは、妥当である。

2 不服申立てに至る経過等
(1)不服申立人は、神奈川県情報公開条例第9条の規定に基づき、平成17年9月9日付けで、神奈川県知事(以下「知事」という。)に対して、平成13年3月2日以前及び平成15年9月30日以後に作成された、特定の一般廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)に対する立入検査報告書(以下「本件行政文書」という。)について、行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)をした。

(2)これに対し、知事は、平成17年9月16日付けで、本件行政文書のうち、平成13年3月2日以前の立入検査報告書(以下「本件不存在文書」という。)は存在しないとして、一部非公開とする決定(以下「本件処分」という。)をした。

(3)不服申立人は、平成17年10月4日付けで知事に対して、行政不服審査法第4条の規定に基づき、本件処分の取消しを求めるという趣旨の不服申立てをした。

(4)本件処分は、知事が平成17年11月15日付けで行った変更決定(以下「本件変更決定」という。)により、一部変更されたが、不服申立ては維持されている。

3 不服申立人の主張要旨
不服申立人の主張を総合すると、次のとおりである。

(1)本件施設については、裁判が提起されており、その関係資料である本件不存在文書を廃棄するはずがない。提訴と同時期に、本件施設に関する文書が、本来の保管担当部署である地域県政総合センターから県庁に移管されていると聞いている。
また、平成8年から住民が地区行政センター(当時)に、本件施設の問題点について、実情を訴えてきたのであるから、たとえ裁判が提起されていなくても、本件不存在文書を廃棄することはあり得ない。

(2)行政文書保存リストも本件不存在文書の廃棄記録もないにもかかわらず、なぜ、平成10年5月1日以後の文書(以下「5月1日以後文書」という。)の存在が明らかになったのか、また、なぜ、平成10年5月1日という日付になるのかについても疑問を感じる。
平成10年は本件施設において公害除去設備の設置工事が完了した年であり、それ以前は、神奈川県(以下「県」という。)の指導により公害除去施設が設置されていたが、稼動していなかった。したがって、それ以前の県の指導等については、県にとっても重要な問題であるにもかかわらず、5月1日以後文書のみ存在するという本件変更決定には、意図的なものを感じる。

(3)地域県政総合センターが本庁の所管課(以下「本課」という。)に問い合わせた結果、本件不存在文書のうち、5月1日以後文書の存在が確認できたという事態は、文書の保管・管理・廃棄に関する事務が適正に行われていれば起こり得ないものであり、行政の事務処理としてはずさんである。この経緯を詳細に調べ明らかにすることが必要不可欠であり、必要であれば、実施機関は、文書管理規定の見直しや徹底を行うなどの対策をとるべきである。

(4)本件請求と同様の公開請求を行い、文書不存在と通知された請求人に対しても文書存在の事実を通知すべきである。

(5)実施機関は本件変更決定を行っているが、不服申立てに対する決定が先になされるべきである。

(6)個人情報については公開を求めるつもりはない。

4 実施機関(地域県政総合センター)の説明要旨
実施機関の説明を総合すると、次のとおりである。

(1)本件行政文書について
一般廃棄物処理施設への立入検査については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第19条第1項において規定されている。
県が定めている神奈川県環境農政部における生活環境保全等に係る立入検査計画策定要綱では、一般廃棄物処理施設には年1回、定期立入検査を行うとともに、周辺住民からの苦情等があった場合には、随時立入検査を行うこととしている。
本件行政文書は、本件施設に対して行った立入検査の結果を記録した文書である。

(2)本件変更決定について
本件処分は、過去に同様の公開請求があり、その際に平成13年3月以前の文書は不存在との決定をしていたことから、改めて保存文書の確認をすることなく、同様の決定をした。しかし、不服申立てがなされたため、本課に報告したところ、訴訟関係書類として保存されているはずであるとの指摘があり、再度探した結果、5月1日以後文書の存在が確認できた。そこで、5月1日以後文書について、個人情報を除き公開することとし、本件変更決定を行った。

(3)本件不存在文書の存否について
ア 法第19条第1項に基づく立入検査の報告書(以下「法に基づく報告書」という。)は、神奈川県文書管理規則(以下「規則」という。)において保存期間が3年と設定されているが、立入検査の際に指摘や指導した問題点への対応に時間を要するなどの場合には、適宜保存期間を延長して保存することはあり得る。
法に基づく報告書の保存期間満了後、公文書館に引き渡す際には、保存文書等引渡書を作成しているが、個別の文書名は記載されておらず、個別の文書が実際に引き渡されたか否かを確認する方法はない。

イ 不服申立人は、以前から本件施設について県に実情を訴えており、関連文書である本件不存在文書が廃棄されるはずがないと主張しているが、具体的に、いつごろ、どのような訴えが県にあったのかは、行政文書が保存されていない年度については、確認できない。

ウ 本件施設に関する法に基づく報告書(以下「本件報告書」という。)は、保存期間を延長する必要がなかったことから、保存期間である3年経過後に、公文書館に引渡しをしてきた。しかし、平成14年5月に、本件施設に関して、その設置者が提訴されたことから、本件報告書を30年保存文書である訴訟関係資料として取り扱うこととした。なお、平成10年度の本件報告書(以下「10年度文書」という。)は、保存期間満了により公文書館に引き渡す予定であったが、平成14年5月時点では、事務手続上、まだ引渡しが行われておらず、現存したため、10年度文書も併せて30年保存文書として、保存した。
通常、文書は年度単位で管理しており、10年度文書はすべて保存されていると考えているが、最も古い本件報告書が平成10年5月1日付けであったことから、変更決定書には平成10年5月1日以後の本件報告書について公開すると記載した。

エ 5月1日以後文書を不存在と決定した本件処分は、適正でなかった。

オ 本件行政文書の一部は、裁判の書証とするため、裁判を担当する本課に原本を渡しているが、請求当時は地域県政総合センターに原本が保管されていた。

5 審査会の判断理由
(1)審査会における審査方法
当審査会は、本諮問案件を審査するに当たり、神奈川県情報公開審査会審議要領第8条の規定に基づき委員を指名し、指名委員は実施機関の職員から口頭による説明を聴取した。その結果も踏まえて次のとおり判断する。

(2)審査会が判断する範囲について
実施機関は、不服申立てを受けて、本件変更決定を行っていることが認められる。不服申立人は、本件変更決定前に不服申立てに対する決定を行うべきであると主張しているが、当審査会は、行政文書の公開請求に対する諾否決定の当否について実施機関から意見を求められているのであり、この不服申立人の主張については、意見を述べる立場にないので、本件変更決定後もなお不存在とされた文書(以下「4月30日以前文書」という。)について、以下、検討する。

(3)4月30日以前文書の存否について
ア 当審査会において、規則を確認したところ、規則第9条第2項は、行政文書について、別表の保存期間の区分の欄に掲げる区分に応じ、それぞれ同表の行政文書の類型の欄に掲げる類型に基づき、保存期間を設定しなければならないと規定しており、別表で、「監査及び検査に関するもの」は「3年保存とするもの」の行政文書の類型の欄に、「訴訟及び土地収用裁決に関するもの」は「30年保存とするもの」の行政文書の類型の欄に記載されている。
本件行政文書は、立入検査の報告書であることから、保存期間は3年であるが、本件施設に関して県が訴訟当事者となった時点で、訴訟に関する文書として保存期間が30年となる。
県が訴訟を提起されたのは平成15年1月であるが、実施機関は、平成14年5月に本件施設の設置者が提訴された時点で、保存されていた本件報告書をすべて30年保存文書である訴訟関係文書として取り扱ったことが認められる。

イ したがって、平成14年5月時点で、保存期間は満了しているが公文書館に引き渡していなかった10年度文書を含め、保存されていた本件報告書をすべて30年保存文書として取り扱ったため、5月1日以後文書は存在するとの実施機関の説明は、納得できる。
また、不服申立人は、平成10年5月1日という日付に疑問を感じるとの主張をしているが、実施機関は、通常、文書は年度単位で管理していることから、10年度文書はすべて保存されていると考えているものの、最も古い日付が平成10年5月1日だったことから、変更決定書には平成10年5月1日以後の本件報告書について公開すると記載したと説明しており、この実施機関の説明に不合理な点はない。

ウ 不服申立人は、以前から県に本件施設について実情を訴えており、関連文書である本件不存在文書が廃棄されるはずがないと主張しているが、実施機関は、4月30日以前文書は保存期間を延長する必要がなかったことから保存期間である3年保存後に、公文書館に引渡しをしていると説明しており、この説明に反する特段の事情は認められないことから、4月30日以前文書については、通常どおり3年の保存期間満了後、引き渡していたため存在しないとの実施機関の説明は、不合理とはいえない。

(4)その他
当審査会は、行政文書の公開請求に対する諾否決定の当否について実施機関から意見を求められているのであり、前記3(4)の不服申立人の主張については、意見を述べる立場にない。

6 付言
本諮問案件においては、過去に同様の公開請求があったことから、実施機関は、改めて保存文書の確認をすることなく、平成13年3月以前の文書を不存在とする決定をしたが、不服申立てがなされたため、再度探した結果、5月1日以後文書の存在を実施機関が確認し、本件変更決定を行ったことが認められる。
このような決定は、不服申立人の実施機関に対する信頼を損なうものであり、実施機関において、今後同様のことがないよう、慎重かつ適切な対応を行うよう努める必要がある。

7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別 紙
審査会の処理経過
年月日処理内容
平成17年11月21日○諮問書を受理
11月24日○実施機関に非公開等理由説明書の提出を要求
12月6日○実施機関から非公開等理由説明書を受理
12月9日○不服申立人に非公開等理由説明書を送付
平成18年 5月9日
(第56回部会)
○審議
5月24日○指名委員により実施機関の職員から非公開等理由説明を聴取
6月 6日
(第57回部会)
○審議


神奈川県情報公開審査会委員名簿
氏 名現 職備 考
金 子 正 史同 志 社 大 学 教 授会長職務代理者
沢 藤 達 夫弁護士(横浜弁護士会)
鈴 木 敏 子横浜国立大学教授部 会 員
竹 森 裕 子弁護士(横浜弁護士会)
玉 巻 弘 光東海大学教授部 会 員
千 葉 準 一首都大学東京教授
堀 部 政 男中央大学教授会 長
(部会長を兼ねる)

(平成18年6月19日現在)(五十音順)


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