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情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(行情)答申第222号 福岡矯正管区管内の機関に係る旅費…

2008年09月16日 | 国/公共の安全等に関する情報
諮問庁 : 法務大臣
諮問日 : 平成19年 2月28日(平成19年(行情)諮問第86号)
答申日 : 平成20年 9月16日(平成20年度(行情)答申第222号)
事件名 : 福岡矯正管区管内の機関に係る旅費請求書等の不開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 平成12年度から同17年度までの間における福岡矯正管区管内の機関に所属する職員の旅費(航空運賃)不正受給に係る旅費精算請求書及び搭乗券(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,別紙記載の不開示とすべき部分以外の部分を開示すべきである。

第2  審査請求人の主張の要旨
1  審査請求の趣旨
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成18年11月17日付け福管総発第416号により福岡矯正管区長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2  審査請求の理由
 国家公務員による公務上の旅行を利用した旅費の不正受領は,処分庁を問わず多くの省庁とその出先機関で行われていたことが公表されており,審査請求人は,可能な限り当該行政機関に対し開示請求を行い,旅費不正請求一式の公文書開示を多数受けている。公費による旅行は当然公務に当たり不開示情報にはならないばかりか,なにゆえ特定個人を識別できる情報となるのかが具体的かつ客観的に示されていない。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  法5条1号該当性
 本件対象文書は,職員の官職,職務の級,氏名等が記載されており,全体として当該職員の個人識別情報であり,法5条1号に該当する。

2  法5条1号ただし書イ該当性
 旅費不正受領事案の公表に際し,本件対象文書に記載された情報が公表された事実はなく,その他当該情報が公にされているとみなされる事由も存しない。矯正施設で勤務する職員の氏名を公にした場合,被収容者又はその関係者等から当該職員又はその家族に対し,不当な圧力や中傷,攻撃などが加えられるおそれがあるなど,当該職員等の権利利益を害することとなる。本件においては,当該職員の氏名を明らかにすることにより,当該職員が旅費不適正受領事案にかかわったという事実が明らかとなり,この点からも,当該職員の権利利益を害することとなる。当該職員の氏名は,国立印刷局編「職員録」に掲載されているが,具体的な非違行為と一体となった氏名についてまで公表慣行があるとは認められない。したがって,法5条1号ただし書イには該当しない。

3  法5条1号ただし書ハ該当性
 本件対象文書中,扶養親族移転料並びに備考欄の発令年月日,扶養親族関係の記載及び入居状況に関する情報以外の部分については,当該職員の職務遂行に係る情報であると認められるので,法5条1号ただし書ハが適用される。

4  法5条6号柱書き及び同条4号該当性
 矯正施設においては,各職員の覇気を高め,施設全体の高い士気を維持することが,適正な被収容者処遇及び施設の管理運営上,不可欠であるところ,当該職員の氏名を開示した場合,不当な攻撃等を加えられることを懸念し,矯正施設の職員が職務に消極的になるなどし,施設の士気の低下を招き,施設における適正な職務の遂行に支障が生ずるなど,法5条6号に該当する。
 さらに,その結果として,保安事故や職員のろう絡事案等の異常事態が発生するおそれを否定できず,公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがあることから,法5条4号に該当する。

5  法5条6号ニ該当性
 本件対象文書の一部でも開示した場合,当該職員が旅費不正受領にかかわった事実が明らかとなり,部下,同僚等から好奇の目にさらされるのみならず,本件旅費不正受給事案の社会的な関心の高さにかんがみると,例えばインターネットの掲示板等に掲載されて不特定多数の者からひぼう中傷等を受けるようなおそれも認められ,このような事態は,当該職員が行った非違行為の内容・程度と比較して明らかに過大な不利益を科すものであり,かつ,非公表としている同種非違行為を行った者とも著しく均衡を欠くこととなり,当該職員から納得や反省を得ることが困難となり,職責の目的を達することができなくなる。
 さらに,当該職員を含めた職員全体に,職責制度に対する不信感を抱かせる結果となるなど,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれが大きく,法5条6号ニに該当する。

6  したがって,本件対象文書は,法5条1号の観点からは一部開示の余地が認められるものの,同条4号及び6号の観点からは,全部不開示とした。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成19年2月28日  諮問の受理
②  同日           諮問庁から理由説明書を収受
③  同年4月26日     本件対象文書の見分及び審議
④  同20年5月22日   審議
⑤  同年9月11日     審議

第5  審査会の判断の理由について
1  本件の争点について
 本件対象文書は,平成12年度から同17年度までの間における福岡矯正管区管内の機関に所属する職員の旅費(航空運賃)不正受給に係る旅費精算請求書と,当該旅費の支払を証明する資料(国家公務員等の旅費支給規程7条3項)として提出された搭乗券であり,1人の職員が旅費の請求手続(国家公務員等の旅費に関する法律13条)において提出したものである。
 処分庁は,本件対象文書には当該職員の個人に関する情報が記録されており,法5条1号に該当することから,本件対象文書を全部不開示としている。
 諮問庁は,本件対象文書が法5条1号に該当し,同号ただし書ハが適用されるものの同ただし書イが適用されない上,法5条4号並びに同条6号柱書き及び同号ニに該当するので,原処分が妥当であると主張している。
 これに対して,審査請求人は,公費による旅行は当然公務に当たり不開示情報とならず,特定個人を識別できる情報となるのかが具体的かつ客観的に示されていないとして,原処分の取消しを求めている。
 そこで,本件の争点は,原処分について,法5条1号,同条4号,同条6号柱書き又は同号ニの不開示情報該当性が認められるかどうか,更に部分開示が認められるかどうかであるので,以下検討する。

2  不開示情報該当性
(1)  法5条1号本文該当性
 まず,旅費精算請求書には,請求者欄に旅費請求を行う職員の氏名が記載されており,当該文書は,当該職員の個人に関する情報であって,氏名等により特定の個人を識別することができる情報が記載されているものと認められるので,全体が法5条1号本文前段に該当する。
 次に,搭乗券には,搭乗者の氏名が記載されており,旅費請求者は,旅費の請求手続において,航空賃の請求根拠となる資料として旅費精算請求書にこれを添付する必要がある。このように,搭乗券は,旅費請求者の氏名が記載され,航空旅行の事実を明らかにするものであり,当該職員の個人に関する情報であって,氏名により特定の個人を識別することができる情報が記載されているものと認められるので,全体が法5条1号本文前段に該当する。

(2)  法5条1号ただし書イ該当性
 諮問庁は,本件対象文書については公表慣行性が認められないので,法5条1号ただし書イに該当しない旨主張している。
 諮問庁からの提示資料及び本件対象文書の見分を踏まえて当審査会において検討すると,本件対象文書に記載されている情報については,報道機関への発表などを行った事実は認められず,ほかに旅費の不正請求の処分対象者たる氏名について公表慣行の存在をうかがわせる事実がないことから,諮問庁の前記説明を認めることができる。
 次に,「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ)(以下「申合せ」という。)の適用について検討するに,本件対象文書に記録された情報は,当該職員に係る旅行事実及びその旅行に関する旅費の請求事実としての性質があり,その限りにおいて,当該職員の職務の遂行に係る情報に該当すると認められる。職員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該職員の氏名については,申合せにより,「特段の支障の生ずるおそれがある場合」を除き,公にするものとされている。
 しかしながら,標記文書における職員の氏名が公にされた場合,その者が旅費(航空運賃)不正受給により懲戒処分等の人事上の処分の調査対象となったことが明らかとなり,これによって,当該職員の権利利益を害することとなるので,当該職員の氏名については,申合せにおける「特段の支障の生ずるおそれがある場合」に該当すると認められる。
 以上より,本件対象文書に記載された氏名については,法5条1号ただし書イは適用されない。

(3)  法5条1号ただし書ハ該当性
 本件対象文書は,特定公務員が異動に伴う赴任旅費の請求に関する旅費精算請求書及びその添付資料たる搭乗券であるが,ここでいう赴任とは,転任を命ぜられた職員がその転任に伴う移動のため旧在勤官署から新在勤官署に旅行することを言い(国家公務員等の旅費に関する法律2条1項7号),公務のため一時その在勤官署を離れて旅行する出張(同項6号)と異なる性質のものであり,赴任先の職務に関する情報であるものの,当該職員に分任された赴任先における職務の遂行に係る情報とは言えない。
 したがって,本件対象文書については,法5条1号ただし書ハは適用されないと解される。

(4)  法6条2項の部分開示の可否
 まず,旅費精算請求書における請求者欄の「所属部局課」,「官職」,「職務の級」及び「氏名」並びに搭乗券における搭乗者氏名は,それぞれ当該個人について法6条2項の個人識別部分であると考えられるので,部分開示の対象とはならない。
 次に,本件対象文書中,個人識別部分以外の部分に関する部分開示の可否を検討するに,本件の場合には,特定矯正施設の限定された幹部の赴任旅費に関する事案であるところ,旅費精算請求書については旅行経路欄の「年月日」,「出発地」及び「到着地」,請求年月日並びに備考欄を,搭乗券については行先,便名,搭乗日,出発時刻及び搭乗口集合時刻を公にするとした場合,同僚,知人その他の関係者等の一定範囲の者にとっては,処分対象者たる当該幹部を特定でき,開示されるべき部分等と相まって,旅費の不正請求という人事上の処分の調査対象となった具体的事由に関する事実関係の詳細や,当該処分行為の内容等当該個人にとって他者に知られたくない機微な情報が関係者に知られることにより,個人の権利利益が害されるおそれがあるので,これを部分開示することはできないと解する。
 しかし,それ以外の部分を開示した場合,同僚,知人その他の関係者等の一定の範囲の者にとっても,処分対象者を特定できたり,旅費の不正請求という人事上の処分の調査対象となった具体的事由に関する事実関係の詳細や,当該処分行為の内容等当該個人にとって他者に知られたくない機微な情報が関係者に知られることはなく,個人の権利利益が害されるおそれが認められないので,本件対象文書中,別紙の不開示とすべき部分以外の部分については,これを部分開示すべきである。   

(5)  法5条6号柱書き及び同条4号該当性
 諮問庁は,矯正施設においては,各職員の覇気を高め,施設全体の高い士気を維持することが,適正な被収容者処遇及び施設の管理運営上,不可欠であるところ,当該職員の氏名を開示した場合,不当な攻撃等を加えられることを懸念して職員が職務に消極的になるなど,施設の士気の低下を招き,施設における適正な職務の遂行に支障が生ずるので,法5条6号柱書きに該当する上,保安事故や職員のろう絡事案等の異常事態が発生するおそれを否定できず,公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがあることから,法5条4号に該当する旨主張している。
 しかしながら,本件対象文書の見分などを踏まえて当審査会において検討すると,当該職員を含めた法務省に所属する機関の職員に対する懲戒処分等は平成18年7月当時行われ,これに関する報道機関への発表がそのころ行われたところ,前記(1)ないし(4)で検討したとおり,当該職員の個人識別部分,旅行経路欄の「年月日」,「出発地」,「到着地」など別紙記載の部分が不開示とされた場合,当該職員が特定されるがい然性は相当程度低減されている上,本件のような職員による旅費不適正受領事案が公になることによって,矯正施設職員の士気低下が招来したり,保安事故やろう絡事案等異常事態の発生するおそれが生ずるとは認められず,したがって,諮問庁が主張する法5条6号柱書きや同条4号に該当すると認めることはできない。

(6)  法5条6号ニ該当性
 諮問庁は,本件対象文書の不開示部分の情報を開示することによって,当該職員が同僚等から好奇の目にさらされるなど,非違行為と比べて著しく均衡を欠くほか,当該職員の納得や反省が困難となって職責の目的達成が困難となり,さらに,職員全体に職責制度に対する不信感を抱かせる結果が生じ,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれが大きく,法5条6号ニに該当する旨主張している。
 しかしながら,本件対象文書の見分などを踏まえて当審査会において検討すると,前記(5)のとおり,別紙記載の部分が不開示とされた場合,別紙記載の部分以外の部分が開示されたとしても,当該職員が特定されるがい然性は相当程度低減されている上,現時点において,当該職員が同僚等から好奇の目にさらされたり,職員全体に職責制度に対する不信感を抱かせるおそれがあるとは認められず,したがって,諮問庁が主張する法5条6号ニに該当すると認めることはできない。

3  本件不開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が,不開示とされた部分は同条1号,4号及び6号に該当することから不開示とすべきとしていることについては,別紙記載の部分以外の部分は,同条1号,4号及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきであるが,別紙記載の部分については,同条1号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。

(第4部会)
 委員 鬼頭季郎,委員 園 マリ,委員 藤原静雄


別  紙 (不開示とすべき部分)
1  旅費精算請求書
①  請求者欄(「所属部局課」,「官職」,「職務の級」,「氏名」)
②  旅行経路欄(「年月日」,「出発地」,「到着地」)
③  請求年月日
④  備考欄

2  搭乗券
①  搭乗者氏名
②  行先
③  便名
④  搭乗日
⑤  出発時刻
⑥  搭乗口集合時刻


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