情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第438号 協議録(第1回)

2009年02月06日 | 確認検査員の氏名/建築士の氏名
別紙
諮問第527号

答 申


1 審査会の結論
「協議録(第1回)」の一部開示決定において非開示とした部分のうち、工事長の氏名及び工事概要の「設計監理」欄に記載された氏名については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 審査請求の内容
(1) 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成11 年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った「○○プロジェクト(○○外の開発事業)に関する文書一式(決裁文書を含む。事業者の印影は除く。)」の開示請求に対し、東京都水道局長が平成20 年6月6日付けで行った一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。

(2) 審査請求の理由
審査請求人が審査請求書及び意見書で主張している審査請求の主な理由は、次のように要約される。

ア 東京都水道局長は、本件文書に記載された工事長や設計監理者の情報を情報公開条例第7条第2号に該当するとして非開示とした。しかしながら、これらは建築士の情報であり、責任の所在を明らかにするためにも開示するべき情報であると考える。再考願いたい。

東京都情報公開審査会答申第396号及び第422号千葉県情報公開審査会答申第192号宮城県情報公開審査会答申第56号などにおいて、建築士の情報は開示するべきであるとの判断がされている。また、大阪府情報公開審査会答申第159号では、「建築士については、建築基準法の規定により、一般の閲覧に供される建築計画概要書に、設計を行った建築士の氏名及び登録番号が記載されていることにも見られるように、その専門的な職能にかんがみ、特定の建築士事務所に所属する場合においても、通常氏名等を公にして業務を行うものであると認められる。」との理由から、建築士の氏名及び登録番号の情報については、プライバシー情報とは認められないとする判断をしている。

ウ ○○氏及び○○氏が、それぞれ第○○○号、第○○○号の一級建築士であることは、平成20年5月21日付「20 生広情報第91号」をもって、審査会から東京都知事に送付された意見書の添付書類から明らかである(この書類は平成20年5月26日付「19 総総法審第597 号の6」をもって、東京都知事から東京都水道局長にも送付されている。)。また、○○氏の情報は、○○株式会社の建設業登録関係書類に記載され、建設業法第13条の規定により閲覧に供されているものと考えられる。

エ 本件文書が、本件一部開示決定で開示されたものがすべてであるかどうか、再度確認願いたい。審査請求人は、他の文書の存在を主張するものではないが、以前の開発許可の際に、水道施設の保安措置について協議されている可能性も考えられるからである。

3 審査請求に対する実施機関の説明要旨
実施機関が理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1) 非開示情報
開示請求に係る対象公文書に、都以外のものに関する情報が記載されていたため、当該第三者に開示に対する意見照会を行ったところ、開示を承諾し兼ねる旨の回答があったが、当該公文書の開示によって、当該法人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれるとは考えられないと判断し、次の非開示情報を除き開示とした。

ア 協議録(第1回)中の「施工者」欄の氏名、工事施工について(通知)中の「工事長」氏名及び「現場担当者」氏名、現場案内図中の「工事長」氏名及び「担当」氏名、工事概要中の「設計監理」の氏名、(仮称)○○プロジェクト工程表(案)中の「工事長」氏名並びに埋設物調査図中の「近隣住民」氏名については、個人に関する情報であり、特定の個人を識別することができる情報のため、条例第7条第2号に該当し、非開示とした。

イ 工事施工について(通知)中の工事長印影及び委任状中の事業部長印影については、偽造等により財産が脅かされるおそれがあるため、条例第7条第4号に該当し、非開示とした。

(2) 審査請求人の主張に対する非開示理由
平成20年11月28日付けで施行される建築士法等の一部を改正する法律(平成18年法律第114号)により、建築士の名簿は一般の閲覧に供しなければならないこととなっている。しかし、仮にこの事実をもって、建築士の氏名及び登録番号が法令等により公にすることが予定されている情報であり、条例第7条第2号ただし書イに該当し開示すべき情報であるとしても、本件非開示情報は、次のとおり、開示すべき情報には当たらないと判断し、非開示とした。

ア 対象公文書中の「工事長」の氏名及び「設計監理」の氏名は、建築士である旨又は登録番号の表示がなく、一見して建築士の氏名であると認識することができない。

イ 「工事長」及び「設計監理」は、法令に何ら定めのない独自の呼称であり、これらの職務又は地位に必ず建築士が従事することとされているわけではない。

ウ 「設計監理」の欄については、設計監理を行った法人とその法人内の部門の責任者又は連絡担当者を記載しているのか、設計監理を直接担当した者を記載しているのか、それともそれ以外の趣旨の記載がされているのかは、客観的に判じ難い。

4 審査会の判断
(1) 審議の経過
審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。
年 月 日審 議 過 程
平成20年 8月13日諮問
平成20年 9月10日実施機関から理由説明書収受
平成20年 9月25日審議(第92回第二部会)
平成20年10月21日審査請求人から意見書収受
平成20年10月22日審議(第93回第二部会)
平成20年11月20日審議(第94回第二部会)
平成20年12月24日審議(第95回第二部会)


(2) 審査会の判断
審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
本件審査請求に係る対象公文書は、(仮称)○○プロジェクトに係る「協議録(第1回)」である。
水道局では、道路法(昭和27年法律第180 号)32 条2項5号及び道路法施行令(昭和27年政令第479号)13条6号の規定に基づき、道路において電気、ガス等ライフライン管理の工事(以下「道路占用工事」という。)が施工される場合、当該工事によって地下に埋設された水道施設への影響の有無を事前協議し、工事立会い等保安上必要な措置を講じている。また、法令上の規定はないが、道路法44条に規定する沿道区域において行われる建築工事についても、道路占用工事に準じた事前協議及び工事立会い等を行うことで、工事による地下の水道施設の事故防止を図っている。事前協議等は、局内で定めた「立会いの手引」に基づき、工事施工者と施工方法、工事立会いの有無及び保安措置等、水道施設の安全確保に関する事項について工事着工前に協議を行い、着工後も必要に応じて協議や現場打合せ等を行うこととしている。協議の結果については、工事施工者及び水道局相互の確認事項として、協議録を作成し、双方で一部ずつ保管することになっている。
本件対象公文書は、沿道区域での建築工事である(仮称)○○プロジェクトについて、工事施工者と水道局が事前協議を行った内容を記録した協議録(第1回)と、その添付書類である、工事施工について(通知)、水道管管理図、委任状、現場案内図、工事概要、(仮称)○○プロジェクト工程表(案)、埋設物調査図、建物平面図、建物断面図、自費工事計画図、山留計画図及び山留計算書から構成されている。
実施機関は、本件対象公文書のうち、協議録(第1 回)の「施工者」欄の氏名、工事施工について(通知)及び現場案内図の「工事長」及び「現場担当者」の氏名、工事概要の「設計監理」欄の氏名、(仮称)○○プロジェクト工程表(案)の「工事長」の氏名並びに埋設物調査図の「建築予定地近隣住民」の氏名について、条例7条2号に該当するとして非開示とした。また、工事施工について(通知)に押印された工事長の印影及び委任状に押印された事業部長の印影について、条例7条4号に該当するとして非開示とした。
これに対し、審査請求人は、事業者の印影を除いた一部開示決定を取り消すことを主張しているが、審査会は、一部開示決定の妥当性について判断する。

イ 条例7条2号該当性について
条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等・・・である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。

(ア) 「施工者」欄の氏名及び「現場担当者」の氏名
本件対象公文書の協議録(第1回)中「施工者」欄に記載された氏名並びに工事施工について(通知)及び現場案内図に記載された「現場担当者」の氏名については、いずれも個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであることから、条例7条2号本文に該当するものであると認められる。
当該対象公文書を審査会が見分したところ、「施工者」欄の氏名は、当該協議に訪れた建設会社の担当者が、協議の際に今後の連絡先として氏名を記載したものであり、また、「現場担当者」の氏名は、当該建築現場の連絡担当者のものであると認められる。このことから、これらの情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものとはいえず、条例7条2号ただし書イには該当しないものと認められる。また、その内容及び性質上、同号ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。

(イ) 「建築現場近隣住民」の氏名
本件対象公文書の埋設物調査図に記載された「建築現場近隣住民」の氏名については、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであることから、条例7条2号本文に該当するものであると認められる。
当該対象公文書を審査会が見分したところ、当該図面は建設会社が独自に作成したものであり、「建築現場近隣住民」の氏名については、市販されている地図情報のように、それ自体公表を予定したものであるとは認めがたい情報であることから、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものとはいえず、条例7条2号ただし書イには該当しないものと認められる。また、その内容及び性質上、同号ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。

(ウ) 「工事長」の氏名
本件対象公文書の工事施工について(通知)、現場案内図及び(仮称)○○プロジェクト工程表(案)に記載された「工事長」の氏名については、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであることから、条例7条2号本文に該当するものであると認められる。
審査請求人は、「工事長」は法令の規定により建築士であり、責任の所在を明らかにするためにも氏名を開示すべきである旨主張する。
これに対し、実施機関は、「工事長」は、法令に何ら定めのない当該建設会社の独自の呼称であり、必ず建築士が従事することとされているわけではない旨主張する。
建築現場等で一般的に公になる役職名については、建築基準法(昭和25年法律第201号)89条1項では、同法6条により建築確認を受けた建築物の工事現場に、建築確認済の表示をすることを規定しており、この表示の一部として、工事現場の責任者である現場管理者の氏名を記載することになっている。また、建設業法(昭和24年法律第100号)40条では、建設業者は、許可を受けた建設業の名称等、国土交通省令で定める事項を記載した標識を、店舗及び建設工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に掲げることを規定しており、この表示の一部として、当該建設業者の代表者の他に、主任技術者又は監理技術者の氏名及び資格名とその登録番号を記載することになっている。
上記のように、工事現場で公になる役職名について見ると、「工事長」が建築士である旨の根拠及び「工事長」についての法令等の規定は特に見当たらず、「工事長」とは、当該建設会社独自の呼称であるという実施機関の主張は首肯できるものであり、「工事長」である者が必ず建築士であるとはいえないものと認められる。
しかしながら、審査請求人から提出された意見書に添付された写真によると、本件に係る建築現場にある建築基準法に基づく確認済の看板には工事現場管理者として、また、建設業法に基づく建設業の許可票には監理技術者として、それぞれの肩書きは「工事長」とは異なるものの、当該「工事長」の氏名と同一の氏名が記載されていることが確認された。
以上のことを踏まえると、本件の「工事長」は建築現場の責任者を指す呼称であり、当該氏名が建築現場の看板に記載されていることから、慣行として既に公にされている情報であると認められ、条例7条2号ただし書イに該当し、開示すべきである。

(エ) 「設計監理」欄の氏名
本件対象公文書の工事概要にある「設計監理」欄に記載された氏名は、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであることから、条例7条2号本文に該当するものであると認められる。
審査請求人は、「設計監理」者は法令の規定により建築士であり、責任の所在を明らかにするためにも氏名を開示すべきである旨主張する。
これに対し、実施機関は、当該工事概要は法令等で定められた書式ではなく、工事施工者が作成した任意のものであること、また、「設計監理」とは、法令に何ら定めのない独自の呼称であること、さらに当該工事概要の「設計監理」欄には、「設計監理」を実施する法人及びその部門の責任者又は連絡担当者が記載されているのか、あるいは「設計監理」を直接担当する者が記載されているのかを客観的に判じ難い旨主張する。
審査会が当該公文書を見分したところ、確かに、「設計監理」の欄に記載された氏名には、建築士である旨及び建築士登録番号の表示もなく、当該人物が建築士であるかどうかを一見して判断し難いという実施機関の主張は、首肯しうるところである。
しかしながら、「設計監理」とは、法令等に定義のある用語ではないものの、建築物等の設計及び工事監理を行うことであると一般的に推測できるものであり、また、当該公文書の性質及び内容からすると、「設計監理」欄に記載された氏名は、通常は上記の事務を担当する者の氏名であると考えられる。したがって、「設計監理」欄に記載された氏名が設計及び工事監理の担当者のものであるとすれば、建築士法(昭和25年法律第202号)3条では、一級建築士でなければ行うことができない設計又は工事監理について規定しており、これによれば、本件の建築物は、本件対象公文書の中の工事概要に記載された建築物の規模から同条に該当することとなり、本件建築物の設計及び工事監理を行うのは一級建築士でなければならないことが容易に判明するものである。さらに、審査請求人の意見書に添付された写真によると、建築現場にある建築基準法の規定に基づき設置された確認済の看板には、「設計者」として、当該「設計監理」欄の氏名と同一の氏名が記載されていることが確認された。
以上のことから、「設計監理」欄の氏名は、本件建築物の設計を担当する一級建築士の氏名と同一であり、法令等の規定により又は慣行として公にされている情報であると認められるため、条例7条2号ただし書イに該当し、開示すべきである。
なお、付言すると、これまで建築士法及び建築基準法等を所管していない実施機関においては、本件のような場合に、建築士の情報であるかどうかの確認を行うことは困難であったことが認められるが、建築士制度に対する国民の信頼を回復するという観点から建築士法が改正され、平成20 年11 月から建築士名簿が一般の閲覧に供されることになっている。

ウ 条例7条4号該当性について
条例7条4号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を非開示情報として規定している。
「工事長」及び「事業部長」の印影について検討すると、本件対象公文書の工事施工について(通知)に押印された工事長の印影及び委任状に押印された事業部長の印影は、当該印影を開示することとなると、偽造等の犯罪により財産が脅かされるおそれがあると実施機関が認めるにつき相当の理由があることから、条例7条4号に該当するものであると認められる。

エ 本件対象公文書の特定について
審査請求人は意見書において、本件の開発事業については、以前取り消された開発許可の申請の際に水道施設の保安措置について協議されている可能性も考えられるので、本件の一部開示決定により特定された文書が本件対象公文書のすべてであるかどうかを確認すべきである旨主張する。
このことについて、審査会が実施機関に再度の調査を依頼したところ、本件で特定した対象公文書以外に○○プロジェクトに関する文書は保有しておらず、存在しないことが確認された。また、本件事前協議は、沿道区域での建築工事による地下の水道施設への影響の有無について任意に行うものであり、協議の時期については工事着工前であること以外には特に定められていない。したがって、工事の施工が可能になった時点以降に工事施工者が協議に訪れることにかんがみれば、以前の開発許可の時点では事前協議がなされていなかったとしても不自然ではなく、実施機関の本件対象公文書の特定は、妥当なものであると認められる。

よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
瀬田 悌三郎、中村 晶子、乳井 昌史、山田 洋

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