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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第396号 緑化計画書○○ 平成19年5月11日収受19環都配市第056号

2008年01月11日 | 確認検査員の氏名/建築士の氏名
諮問第481号

答申


1 審査会の結論
 「緑化計画書『○○』平成19年5月11日収受19環都配市第056号」の一部開示決定について、別表に掲げる部分については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 異議申立ての内容
(1)異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「中野区○○○ (地番)の共同住宅に係る自然保護条例に基づく文書一式」の開示請求に対し、東京都知事が平成19年5月25日付けで行った一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。

(2)異議申立ての理由
 異議申立人が、異議申立書及び意見書で主張している異議申立ての主な理由は、次のように要約される。

ア 条例前文では、条例における解釈及び運用の基本原則として、「新たな時代に向けて地方分権が進展する中で、公正で透明な都政の推進と都民による都政への参加の促進により、開かれた都政を実現し、日本国憲法が保障する地方自治を確立していくことが求められている。情報公開制度は、このような開かれた都政を推進していく上でなくてはならない仕組みとして発展してきたものである。東京都は、都民の「知る権利」が情報公開の制度化に大きな役割を果たしてきたことを十分に認識し、都民がその知ろうとする東京都の保有する情報を得られるよう、情報の公開を一層進めていかなければならない。このような考え方に立って、この条例を制定する。」と定めている。情報公開を原則として認め、行政の透明性を確保することにより適正な権力の執行を担保することが、条例の趣旨であると考えられる。

イ 東京都知事は本件文書に記載された「担当者の氏名」を、条例7条2号に該当するとして非開示とした。しかしながら、建築士の情報は、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当し条例7条2号に該当しない、若しくは、以下に示すように条例7条2号ただし書イに該当するから、開示されるべきである。

(ア)社会資本整備審議会建築分科会の中間報告(平成18年2月24日)において、「建築士及び建築士事務所、指定確認検査機関に関する情報開示制度の充実、強化」として「建築士事務所の開設者に対し、毎年一回一定の時期に所属するすべての建築士の氏名、業務実績等の書類の提出を義務付けるとともに、都道府県知事はこれを一般の閲覧に供するようにすべきである。」と提言されている。

(イ)平成19年6月20日施行の建築士法では「第24条の5 建築士事務所の開設者は、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる書類を、当該建築士事務所に備え置き、設計等を委託しようとする者の求めに応じ、閲覧させなければならない。1 当該建築士事務所の業務の実績を記載した書類、2 当該建築士事務所に属する建築士の氏名及び業務の実績を記載した書類、3 設計等の業務に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保するための保険契約の締結その他の措置を講じている場合にあっては、その内容を記載した書類、4 その他建築士事務所の業務及び財務に関する書類で国土交通省令で定めるもの」と規定している。

ウ 以下に示すように、建築士の氏名と登録番号について、その公益性の高さから、個人に関する情報で特定の個人を識別できるものであっても公にする制度が実施されている。なお、本件文書の一部開示決定の通知書に、図面類に記載された建築士の資格登録番号を非開示とした旨の記載がされておらず、不備がある。

(ア)彦根市情報公開審査会平成19年1月30日付「平成18年度答申第1号」は、建築主の氏名、確認検査員の氏名並びに工事監理者の氏名及び資格登録番号については、公開するべきであると答申している。

(イ)中野区中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例では、建築計画の事前公開を義務付けている。建築主は、「建築計画のお知らせ」の標識に、建築主、設計者、工事監理者、工事施工者、建築計画の概要等の情報を記載して、工事の予定地に設置しなければならない。
 この建築計画の事前公開の制度は、中野区に限ったものではなく、全国的に実施されているものである。背景には、参議院が昭和51年11月1日に「地方公共団体が条例又は指導要綱等で定める建築計画の事前公開、事前協議等については当該地方公共団体の自主性に十分配慮すること」との附帯決議をしたことがある。

(ウ)建築基準法89条では、同法6条1項の建築、大規模の修繕又は大規模の模様替の工事の施工者は、当該工事現場の見易い場所に、国土交通省令で定める様式によって、建築主、設計者、工事施工者及び工事の現場管理者の氏名又は名称並びに当該工事に係る同項の確認があった旨の表示をしなければならないと規定している。

(エ)建築基準法93条の2では、特定行政庁は「建築計画概要書」及び「建築基準法令による処分の概要書」の閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないと規定している。
 閲覧を請求できる者は限定されていない。誰でも特定行政庁に請求すれば、建築主、設計者、施工者、建築敷地の地名地番、建築計画の概要等の情報を得ることができる制度として運用されている。
 建築計画概要書は、建築基準法施行規則11条の4の規定により、別記第三号様式によるものとされ、建築計画に関わったすべての建築士の氏名と登録番号を記載することが義務付けられている。資格登録番号は、資格を証明するために、公にされているものと考えられる。

(オ)建設業法40条では、「建設業者は、その店舗及び建設工事の現場ごとに、公衆の見易い場所に、国土交通省令の定めるところにより、許可を受けた別表第一の下欄の区分による建設業の名称、一般建設業又は特定建設業の別その他国土交通省令で定める事項を記載した標識を掲げなければならない。」と規定している。この標識には、監理技術者(本件建築物では一級建築士)の資格登録番号も記載されている。
 国土交通省総合政策局建設業課平成16年3月1日付「監理技術者制度運用マニュアル」において、「建設業者は、この様式の標識を掲示することにより、監理技術者等の資格を明確にするとともに、資格者証の交付を受けている者が設置されていること等を明らかにする必要がある」との判断が示されている。

エ 本件建築物の緑化計画は、本件建築物の建築計画と一体となるものである。とくに、本件建築物のように屋上を緑化する場合には、建築物の構造設計を伴うため、緑化計画の設計は建築士法3条の規定により一級建築士の業務の一環と考えるべきである。本件建築物の緑化計画書は、建築士法21条の規定により、一級建築士が建築主を代理して東京都知事に提出したものと考えられる。なお、建築士法20条の規定により、一級建築士が作成する設計図書には一級建築士たる表示と記名をしなければならない。

オ 本件文書が、本件処分で東京都知事が一部開示したものがすべてであるかどうか、再度、審査会から、東京都知事にお確かめいただきたい。
 異議申立人は、他の文書の存在を主張するものではないが、開示された文書によると、建築主が計画変更前の緑化計画が存在するかのごとく届出していること、また、本件建築物は平成17年1月12日に工事着手されており、自然保護条例14条が工事着手前に緑化計画書の届出を義務付けている(自然保護条例 67条に罰則も規定されている)ことから、東京都知事が一部開示したものがすべてである(自然保護条例15条の規定による勧告をしたことを示す文書もない)ことは、自然保護条例違反が見逃されてきたことを意味するからである。

3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
 実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1)条例7条2号への該当性について
 本件対象公文書における、代理人氏名欄の氏名、代理人担当者欄の氏名、図面類(位置図、緑化計画図等)に記載された氏名及び建築士番号は、株式会社△△の社員個人に関する情報で特定の個人を識別することができる情報に該当するため、非開示とした。
 なお、本件対象公文書である緑化計画書は、東京における自然の保護と回復に関する条例14条の規定により、事業者が都内で1,000平方メートル以上(公共施設は250平方メートル以上)の敷地において建築物の新築等を行う場合に都への提出が義務付けられているものであるが、それを作成する者については特に資格が定められているものではない。したがって、一級建築士の資格保持者でなくとも作成することができる書類である。

(2)条例7条4号への該当性について
 事業者及び代理人の印影は、開示すると偽造等による犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがある情報に該当するため、非開示とした。

4 審査会の判断
(1)審議の経過
 審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。

年月日審議経過
平成19年 7月 3日諮問
平成19年 8月24日実施機関から理由説明書収受
平成19年 9月18日実施機関から説明聴取(第82回第二部会)
平成19年10月 9日異議申立人から意見書収受
平成19年10月22日審議(第83回第二部会)
平成19年11月21日審議(第84回第二部会)


(2)審査会の判断
 審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
 本件異議申立てに係る対象公文書は、平成19年5月11日付19環都配市第56号「緑化計画書」(以下「本件対象公文書」という。)である。
 東京における自然の保護と回復に関する条例(平成12年東京都条例第216号。以下「自然保護条例」という。)14条1項本文は、「1,000平方メートル以上の敷地(国及び地方公共団体が有する敷地にあっては、250平方メートル以上とする。)において建築物(建築基準法(昭和25年法律第201号)2条1号に規定する建築物をいう。以下同じ。)の新築、改築、増築その他の規則に定める行為を行おうとする者は、あらかじめ、規則に定める基準に基づき、緑化計画書(地上部及び建築物上の緑化についての計画書)を作成し、知事に届け出なければならない。」と規定する。
 本件対象公文書は、同項の規定に基づき、○○(以下「本件建築物」という。)の新築に際して知事に提出された緑化計画書であり、自然保護条例施行規則第2号様式、理由書、及び平面図、求積図、立面図等の添付図面から構成されている。
 なお、異議申立人は、本件一部開示決定において実施機関が特定した文書が全てであるか、疑義を申し立てている。このことについて、審査会が実施機関に確認したところ、本件建築物の事業者は、平成16年7月27日に本件建築物についての緑化計画書を届け出たが、平成17年7月13日に本件建築物の建築確認が取り消されたため、平成18年9月19日付けで当該緑化計画書の取下げを行い、その後、本件建築物の建築計画を変更し、平成19年5月11日付けで緑化計画書を届け出ていることが判明した。以上からすれば、現在の本件建築物に係る自然保護条例に基づく緑化計画書は、本件対象公文書であると認められる。

イ 審査会の審査事項について
 実施機関は、本件対象公文書のうち、「代理人の氏名」、「代理人担当者の氏名」並びに「図面類に記載された氏名及び建築士番号」を条例7条2号に該当するとして、また、「事業者及び代理人の印影」を条例7条4号に該当するとして非開示とした。ところで異議申立書に記載された内容によれば、異議申立人が開示を求めているのは、実施機関が条例7条2号に該当するとして非開示とした部分についてであることが認められる。したがって、審査会は、実施機関が条例7条2号に該当するとした部分の非開示の妥当性について判断する。

ウ 条例7条2号該当性について
 条例7条2号本文は、「個人に関する情報で特定の個人を識別することのできるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。
 本件対象公文書のうち、「代理人の氏名」、「代理人担当者の氏名」及び「図面類に記載された氏名」は、特定の個人を識別することのできる情報であり、条例7条2号本文に該当する。また、建築士番号は、各建築士に付与された番号であるから、特定の個人を識別することができる情報であり、条例7条2号本文に該当する。
 本件対象公文書を審査会が見分したところ、代理人の氏名と添付図面に記載された氏名は同一人の氏名であり、かつ、添付図面に記載された氏名は一級建築士番号と併記されており、当該氏名は一見して明らかに一級建築士の氏名と認められるものであった。緑化計画書の提出者である代理人が、一級建築士であり、また、同時に本件対象公文書に添付されている平面図、求積図、立面図等の作成者であることからすれば、当該氏名は本件建築物の設計者であると考えられる。そこで、当該氏名について実施機関に確認したところ、当該氏名は本件建築物の設計者の氏名であることが判明した。
 建築基準法93条の2は「特定行政庁は、確認その他の建築基準法令の規定による処分並びに12条1項及び3項の規定による報告に関する書類のうち、当該処分若しくは報告に係る建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして国土交通省令で定めるものについては、国土交通省令で定めるところにより、閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させなければならない。」と規定しており、建築基準法施行規則11条の4によれば、建築基準法93条の2に言う「国土交通省令で定めるもの」には、建築計画概要書(建築基準法施行規則別記第三号様式)が含まれている。そして、建築計画概要書には、建築主の氏名、建築物の付近図、設計者の氏名及び建築士番号等を記載することとされている。
 以上の事情を鑑みれば、設計者の氏名及び建築士番号は、法令等の規定により公にされている情報と認められる。したがって、「代理人の氏名」並びに「図面類に記載された氏名及び建築士番号」は、条例7条2号ただし書イに該当するため、開示されるべきである。
 また、「代理人担当者の氏名」について実施機関に確認したところ、当該氏名は本件対象公文書に係る事務担当者であるとのことであった。したがって、その内容及び性質に照らせば条例7条2号ただし書のいずれにも該当しないため、「代理人担当者の氏名」を非開示とした実施機関の決定は、妥当である。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
 瀬田 悌三郎、中村 晶子、中村 輝子、山田 洋

別表
開示すべき部分
本件対象公文書名開示すべき部分
平成19年5月11日付19環都配市第56号「緑化計画書」・緑化計画書(第2号様式)のうち、代理人氏名
・添付図面のうち、「建築概要・附近見取図・公図写し・真北測量図」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化計画平面図(地上部植栽)」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化計画平面図(屋上部・壁面植栽)」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化求積図1」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化求積図2」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化求積図2(拡大図)」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「壁面緑化部立面図・断面図」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「緑化断面図・樹木リスト」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「立面図(1)」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名
・添付図面のうち、「立面図(2)」の下方枠内に記載された建築士番号及び氏名

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