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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

大阪府情報公開審査会 大公審第159号 建築士事務所登録申請書類部分公開決定異議申立事案

2008年08月12日 | 確認検査員の氏名/建築士の氏名
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないこととした部分のうち、別表「公開すべき部分」に掲げる部分を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過
1 平成19年9月15日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「建築士事務所の登録申請書と添付書類(印影は除く)大阪市北区○○○○○○株式会社A一級建築士事務所」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年9月28日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「一級建築士事務所登録申請書」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分
ア 法人代表者の印影
イ 業務概要書のうち、注文者、建築物所在地都道府県名、建築物の名称及び用途、構造及び規模、業務内容、期間(大阪府、河内長野市注文分を除く)
ウ 所属建築士名簿のうち、氏名及び登録番号(管理建築士を除く)
エ 略歴書(登録申請者・管理建築士)のうち、印影、生年月日、学歴、当該事務所に勤務する前の職歴
オ 定款のうち発起人の住所、氏名、印影、引受株数
カ 管理建築士の一級建築士免許証

(2)公開しない理由
大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、登録申請者・管理建築士の印影、生年月日、学歴等が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影が記載されており、これは事業者の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。

3 同年11月30日、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対し、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨
本件決定の取消しを求める。

第四 異議申立人の主張要旨
(略)


第五 実施機関の主張要旨
(略)


第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 建築士事務所登録に係る実施機関の事務について
建築士法は、建築士事務所を営もうとするときは、その所在地を管轄する都道府県知事に登録申請書及び添付書類を提出し、登録を受けなければならない旨定めている。また、登録の有効期間は5年であり、有効期間満了後引き続き業を行おうとする者は、更新の登録を受けなければならないこととされている(建築士法第23条、第23条の2)。
一方、都道府県知事は、登録の申請があった場合においては、登録を拒否する場合を除いて、一級建築士事務所登録簿、二級建築士事務所登録簿又は木造建築士事務所登録簿(以下「登録簿」という。)に登録しなければならないこととされている(建築士法第23条の3)。登録簿には、事務所の名称、所在地及び電話番号のほか、登録申請者に関する事項、管理建築士に関する事項、行政処分歴等が掲載されており、都道府県知事が、一般の閲覧に供しなければならないこととされている(建築士法第23条の8(平成19年6月20日の改正建築士法施行後は、第23条の9))。
なお、平成19年6月20日から、建築物の安全の確保を図ることを目的とした改正建築士法が施行され、建築士事務所の開設者は、事業年度ごとに、当該建築士事務所の業務の実績(建築物所在地都道府県、建築物の用途、構造及び規模、業務内容及び期間を当該事業年度における直近のものから順次記入したもの。)、所属建築士名簿(所属する建築士の氏名、資格、登録番号等を記入したもの。)等を取りまとめた報告書(以下「設計等業務報告書」という。)を作成し、都道府県知事に提出しなければならないこととされた(改正後の建築士法(以下、「改正建築士法」という。)第23条の6)。設計等業務報告書については、都道府県知事が、一般の閲覧に供しなければならないこととされており(改正建築士法第23条の9)、平成19年6月20日以降に開始する事業年度については、上記の建築士事務所の業務の実績や所属建築士名簿等の情報は、広く一般に公表される情報となっている。

3 本件行政文書について
本件行政文書は、株式会社A(以下「本件法人」という。)がその設置する一級建築士事務所(以下「本件事務所」という。)について、建築士法第23条に規定する更新の登録を受けるために、同法第23条の2の規定に基づき、平成16年5月6日付けで実施機関に提出した一級建築士事務所登録申請書及び添付書類であり、その内容及び本件決定における非公開部分は、以下のとおりである。

(1)一級建築士事務所登録申請書
申請書の本文に当たる書面であり、申請年月日、登録申請者である本件法人の名称並びに代表者の氏名及び印影、本件事務所の名称、所在地及び種別、本件法人の事務所所在地並びに役員の氏名及び役名、管理建築士の氏名、資格種別及び登録番号等が記録されている。本件決定においては、本件法人の代表者の印影が非公開とされている。

(2)添付書類
ア 業務概要書
本件事務所が過去に実施した設計業務の概要を、最近のものから順次、表形式で記録した書面である。
本件決定においては、注文者が大阪府、河内長野市であるものを除く各設計業務の「注文者」、「建築物所在地都道府県名」、「建築物の名称及び用途」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」が非公開とされている。

イ 所属建築士名簿
本件事務所に所属する建築士の名簿である。
本件決定においては、管理建築士を除く所属建築士の「氏名」及び「登録番号」が非公開とされている。

ウ 略歴書
管理建築士の略歴書である
本件決定においては、管理建築士の「印影」、「生年月日」、「学歴」及び本件事務所に勤務する前の「職歴」が非公開とされている。

エ 誓約書
登録申請者が法定の除斥事由に該当しない旨の誓約書である。
本件決定においては、法人代表者の印影が非公開とされている。

オ 定款
登録申請者である株式会社の定款である。
本件決定においては、発起人の住所、氏名、印影、引受株数が非公開とされている。

カ 一級建築士免許証
管理建築士である一級建築士の免許証である。
本籍地、氏名、生年月日、一級建築士の登録番号及び登録年月日の情報が記録されており、本件決定においては、全て非公開とされている。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人の口頭による意見陳述を聴取した結果によると、異議申立人が、本件異議申立てにおいて公開を求めているのは、本件非公開部分のうち、3(2)ア及びイの非公開部分の全部並びに3(2)ウの非公開部分のうち本件事務所に勤務する前の「職歴」の部分(以下「本件係争部分」という。)であると認められるので、これら部分に係る実施機関の決定の適否について、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。
また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報のうち、実施機関が、条例第8条第1項第1号に該当するとして非公開とした情報は、業務概要書の「注文者」、「建築物所在地都道府県名」、「建築物の名称及び用途」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」の各欄の情報(注文者が大阪府及び河内長野市である業務に係るものを除く。)である。これらの情報はいずれも本件法人の事業に関する情報であり、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、これらの情報が(1)イの要件に該当するかどうかについて検討する。

ア 業務概要書の「注文者」欄の情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記載されている建築物の名称について
本項の情報は、当該情報のみ又は他の公にされている情報と照らし合わせることにより、本件事務所の一定期間における取引先が網羅的に明らかとなる情報である。
一方、異議申立人は、建築基準法の規定に基づき一般の閲覧に供される建築計画概要書に、設計者である建築士の氏名等の情報が記載されていると指摘するが、審査会において本件行政文書を見分するとともに実施機関から事情を聴取して調査したところ、業務概要書には、設計のみを行って建築確認には至らなかったものも記載することとされていることが確認された。
これらのことからすると、本項の情報は、公にすることにより、本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められ、(1)イの要件に該当する。

イ 業務概要書の「建築物所在地都道府県名」、「構造及び規模」、「業務内容」及び「期間」の各欄の情報並びに「建築物の名称及び用途」欄に記載されている建築物の用途について
本項の情報について、審査会において見分したところ、いずれも、当該設計業務に関する概括的な情報であり、これらの情報のみでは個別の建築物の特定はできず、したがって、取引先を特定することもできないことが認められた。
また、本項の情報と同種の情報は、改正建築士法第23条の6の規定に基づいて都道府県知事に提出される設計等業務報告書の記載事項であり、当該報告書は、改正建築士法第23条の9の規定により一般の閲覧に供しなければならないこととされていることから、平成19年6月20日以降に開始する事業年度については、本項の情報と同種の情報は、広く公表される情報となっている。
さらに、実施機関は、本件行政文書については改正建築士法による閲覧の対象とはならない旨主張しているが、法に基づく閲覧の対象とならないことから直ちに、条例に基づいて公開することができないというものではない。
これらのことからすると、本項の情報は、公にすることにより、本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報とは認められず、(1)イの要件には該当しない。
以上のことから、実施機関が、本件決定において、条例第8条第1項第1号に該当するとして非公開とした情報のうち、業務概要書の「注文者」の欄の情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記録されている建築物の名称については条例第8条第1項第1号に該当し、公開しないことができるが、その余の情報については、同号には該当せず、公開すべきである。

(3)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(4)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報のうち、実施機関が条例第9条第1号に該当するとして非公開とした情報は、「所属建築士名簿」に記録されている管理建築士以外の所属建築士の氏名及び登録番号並びに管理建築士の「略歴書」に記録されている当該事務所に勤務する前の職歴である。
これらの情報は、特定の個人の職業又は所属団体に関する情報であり、(3)ア及びイの要件に該当することは明らかである。
次に、これらの情報が(3)ウの要件に該当するかどうかについて検討する。

ア 「所属建築士名簿」の管理建築士を除く所属建築士の氏名及び登録番号について
本項の情報は、本件事務所に所属する管理建築士以外の建築士の氏名及び登録番号である。これらの情報は、公にすることにより、特定の個人が本件事務所に勤務していることが明らかとなる情報ではあるが、建築士については、建築基準法の規定により、一般の閲覧に供される「建築計画概要書」に設計を行った建築士の氏名及び登録番号が記載されていることにも見られるように、その専門的な職能にかんがみ、特定の建築士事務所に所属する場合においても、通常、氏名等を公にして業務を行うものであると認められる。
また、本件行政文書については、改正前の建築士法に基づき提出されたものであるが、本項の情報は、2で述べたとおり、改正建築士法の施行に伴い一般の閲覧に供される「設計等の業務に関する報告書」の記載事項と同種の情報であり、本件事務所が現在も事業を継続していること及び今回の法改正の趣旨からすると、広く府民等の正当な関心の対象となるべき情報である。
以上のことからすると、本項の情報については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報とは認められず、(3)ウの要件に該当しない。

イ 管理建築士の「略歴書」に記載されている当該事務所に勤務する前の職歴について
本項の情報は、当該管理建築士が過去に在籍した勤務先、当該勤務先への入社・退社の年月及び当該勤務先での地位に係る情報であり、その内容について、審査会で見分したところによれば、従業員としての職歴に係る情報と個人事業主としての職歴に係る情報に区分することができる。
このうち、従業員としての職歴に係る情報については、個人の通常公にされることのない過去の勤務先が明らかとなる情報として、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、(3)ウの要件に該当するが、個人事業主としての職歴に係る情報については、通常公にされる情報であり、法人代表者の氏名と同様、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件に該当しない。
以上のことから、実施機関が本件決定において条例第9条第1号に該当するとして非公開とした情報のうち、管理建築士の「略歴書」の情報中、従業員としての職歴に係る情報については、条例第9条第1号に該当し公開してはならないが、その余の情報については、同号には該当せず、公開すべきである。

6 結 論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件決定のうち「業務概要書」の「建築物所在地都道府県名」、「構造及び規模」、「業務内容」、「期間」の各欄に記録されている情報及び「建築物の名称及び用途」欄に記録されている建築物の用途並びに「所属建築士名簿」の非公開部分全部及び管理建築士の「略歴書」に記録されている情報のうち、個人事業主としての職歴に係る情報の公開を求める部分については理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
(主に調査審議を行った委員の氏名)
岡村周一、小松茂久、鈴木秀美、岩本洋子

別表 公開すべき部分
文書名公開すべき部分
「業務概要書」「建築物所在地都道府県名」欄
「構造及び規模」欄
「業務内容」欄
「期間」欄
「建築物の名称及び用途」欄のうち建築物の用途に係る記載
「所属建築士名簿」非公開部分全部
管理建築士の「略歴書」「職歴」のうち個人事業主としての職歴に係る記載

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