答申第427 号
諮問第764 号
件名:措置命令処分取消請求事件に係る証拠の一部開示決定に関する件
答 申
1 審査会の結論
愛知県知事(以下「知事」という。)が一部開示決定した「措置命令処分取消請求事件に係る証拠説明書(平成18 年11 月20 日付け)に基づく乙25-1号証及び乙25-2 号証」(以下「本件行政文書」という。)のうち、契約に関する書類(以下「契約関係文書」という。)については、法人の印影を除く部分(以下「本件情報」という。)を開示すべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19 年2 月19 日付けで愛知県情報公開条例(平成12 年愛知県条例第19 号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、知事が同年4 月4 日付けで行った一部開示決定(以下「原決定」という。)において不開示とした部分のうち、本件情報の開示を求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
知事は、本件事業者に対し、その取り扱うフェロシルトにつき、産業廃棄物の不法投棄と認定し、その撤去の措置命令(以下「本件措置命令」という。)を発した。知事のした行政処分の根拠のうち逆有償の重要な事実を示す本件行政文書は、本件事業者の違法行為の証拠であり、そもそも「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するとは決して認められないものであり、法人の印影を除き公開すべきである。
また、本件措置命令は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137 号。以下「廃棄物処理法」という。)第19 条の5 第1 項第2号に基づき、フェロシルトの不法投棄により、生活環境の保全上支障が生
じ、又は生ずるおそれがあると認められるために発した命令であるから、その行政処分の根拠のうち逆有償の重要な事実を示す本件行政文書は、まさに条例第7 条第3 号のただし書「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く」に当たるため、公開すべき文書である。
しかしながら、知事は、本件一部開示決定において、本件行政文書の不開示部分の理由として、その条例の根拠を記載しているだけであって、産業廃棄物であるフェロシルトをリサイクル商品と偽装する取引において、
有償取引を偽装していたことを示す本件行政文書がいかに本件事業者の正当な利益を害するのかについて具体的な説明はなく、条例の趣旨に反するものと言わざるを得ない。
また、不開示理由説明書においても、条例第7 条第3 号イ該当性については、具体的に、本件事業者のどのような正当な利益を害するのかについての説明は見られない。また、同号ただし書に該当しないことについても、知事自らが住民の生命、健康を守るために発した撤去命令の根拠をなす本件行政文書が、なぜ同号ただし書に該当しないかの具体的な説明は見られない。
このような安易な認識の下で、4 府県にまたがって、放射性物質や環境基準を超える物質が含まれる産業廃棄物を大量に投棄し、住民に恐怖を与えた大規模かつ悪質なフェロシルトの不法投棄において、本件行政文書は、最大の不法投棄量があった地域でのフェロシルト不法投棄の根幹に関わる重要な文書であり、安易に全面非公開にすることは決して看過できるものではない。
しかも、本件事業者が県を被告として提起した本件措置命令の取消訴訟(以下「本件行政訴訟」という。)において、知事は本件措置命令には何らの違法性がないとする立証の中で、フェロシルト取引の逆有償の証拠として、本件行政文書を提出している。また、証拠説明書においても、立証趣旨から、中間業者以外の事業者の名称は把握できる記載になっており、金額も書かれている。これらのことは、異議申立人が情報公開により準備書面と証拠説明書を入手し、把握しているものである。
知事が裁判で行った主張、立証活動について県民が正しく把握することは重要なことであり、しかも開かれた法廷で主張している本件行政文書を非公開にすることは問題である。また、知事は、不開示理由説明書において、訴訟記録の閲覧、謄写等は情報公開制度とは要件・効果を異にするものであると述べているが、既に事実上公開されている情報についてあえて非公開とすることは条例の趣旨に反するものである。
異議申立人は、本件行政文書を不開示とした当時の判断が問題であると考えており、法人の印影を除き、本件行政文書を開示すべきである。
3 実施機関の主張要旨
実施機関は、原決定をした平成19 年4 月4 日の時点においては、次の理由により、本件行政文書を一部開示としたというものである。
(1) 本件行政文書について
異議申立人は、知事が平成17 年11 月21 日に本件事業者に対して行った本件措置命令に関し、本件事業者が県を被告として名古屋地方裁判所に平成18 年5 月21 日付けで提起した本件行政訴訟で、本件事業者及び県が提出した別表1の文書について、平成19 年2 月19 日付けで、知事に開示請
求した。
これに対し、知事は、第三者に意見照会を行う文書と行わない文書に区分し、意見照会を行わない文書のうち別表2の文書については全部開示決定を、また別表3の文書については一部開示決定を、それぞれ平成19 年3月5 日付けで行った。
また、第三者に意見照会をした文書のうち別表4の文書については全部開示決定を、別表5の文書については一部開示決定を、それぞれ平成19年4 月4 日付けで行った。
本件行政文書は、別表5の文書のうち、県が証拠として提出した乙25-1 号証(以下「文書1」という。)及び乙25-2 号証(以下「文書2」という。)である。
文書1 は、廃棄物処理法第18 条第1 項の規定に基づき、知事が平成17年10 月14 日付けで本件事業者に報告を求めたところ、同月20 日付けで本件事業者から提出された報告書のうち、鑑文及び本件事業者が委託契約を締結した中間業者に用途開発費名目で金銭を支払っていたことを証する契約関係文書である。
文書2 は、廃棄物処理法第18 条第1 項の規定に基づき、知事が平成17年11 月4 日付けで中間事業者と契約関係にある事業者(以下「別件事業者」という。)に報告を求めたところ、同月10 日付けで別件事業者から提出された報告書のうち、鑑文及び本件事業者が中間業者を経由して別件事業者に用途開発費を支払っていたことを証する契約関係文書である。
このうち不開示とした部分は、文書1 の鑑文に押印された法人の印影及び契約関係文書の全部である。
(2) 条例第7 条第3 号イ該当性について
不開示とした部分には、法人の商取引に関する情報が記載されており、これらの情報を開示すると事業者の事業活動に関する内部情報が明らかにされ、事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。したがって、当該部分は条例第7 条第3 号イに該当するものである。
また、これらの情報が事業活動によって生ずる危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するために開示することが必要であるとは認められないことから、同号ただし書に該当しない。
以上のことから、条例第7 条第3 号により不開示としたものである。
(3) その他について
異議申立人は、本件行政文書は、裁判所で公開されて誰でも閲覧できる情報であり、公にしても法人の正当な利益を害するおそれはないと主張する。しかし、民事訴訟法(平成8 年法律第109 号)第91 条第1 項で規定する訴訟記録の閲覧は、憲法第82 条で定める裁判の公開原則を尊重して認められたものであり、条例の認める情報公開制度とは趣旨・要件を異にするものである。
また、民事訴訟法第91 条第1 項では、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる」と規定されているとともに、同条第3 項では、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、訴訟記録の謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付を請求することができると規定されており、それ以外の者は訴訟記録の閲覧を請求できるにすぎず、訴訟記録の謄写等の交付を請求することは認められていないものであり、情報公開制度とは要件・効果を異にするものである。
したがって、異議申立人の主張は認められない。
4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例は、第1 条に規定されているとおり、行政文書の開示を請求する権利を保障し、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされ、公正で民主的な県政の推進に資することを目的として制定されたものであり、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならない。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、原則開示の理念に立って、条例を解釈し、以下判断するものである。
(2) 本件行政文書について
文書1 及び文書2 の内容は、廃棄物処理法第18 条第1 項に基づき、知事が本件事業者等に対し、産業廃棄物の処理状況について報告を求め、提出された文書のうち、フェロシルトの用途開発などの契約に関するものであり、契約関係文書に本件事業者等から知事あての鑑文が添付されたものである。
そして、当該文書は、本件事業者がその取り扱うフェロシルトについて、中間事業者に用途開発費名目で金銭が支払われていたこと、さらに当該中間事業者を経由して別件事業者に用途開発費が支払われていたことを立証するものとして、本件行政訴訟において、県が裁判所に証拠として提出したものである。なお、その際、当該文書に押印された印影のうち、本件行政訴訟の訴外である中間事業者及び別件事業者に係る印影については、黒塗りしたうえで裁判所に提出されている。
実施機関は、文書1 については、鑑文は本件事業者に係る法人の印影を除き開示とし、契約関係文書は全部を不開示としている。また、文書2 については、鑑文はすべて開示とし、契約関係文書は全部を不開示としている。
異議申立人は、法人の印影を除き、本件行政文書を開示すべきと主張していることから、異議申立ての対象となった本件情報は、文書1 及び文書2 の契約関係文書のうち法人の印影を除く部分である。
(3) 不開示情報該当性について
ア 実施機関の説明によれば、本件事業者が取り扱うフェロシルトについては、従来、三重県から認定されたリサイクル製品の埋め戻し材として取り扱ってきたとのことである。しかしながら、本件事業者は認定され
た製造条件に反して、産業廃棄物の汚泥を混入してフェロシルトとして製造し、県内においても、当該フェロシルトを不適正に埋め戻し材として埋設したとのことであり、知事は当該フェロシルトを産業廃棄物と認定したとのことである。さらに、この不法投棄を放置することにより、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあるため、本件事業者に対し、その撤去を命じる本件措置命令の行政処分を行ったというものである。
イ 一般に、産業廃棄物処理業は、その運営の態様如何により周辺住民等の生活環境や自然環境に影響を及ぼすおそれがあることは否定できず、また、産業廃棄物処理業を取り巻く社会状況や廃棄物処理法の趣旨からも、産業廃棄物を取り扱う事業者は産業廃棄物の処理に際し、それ相応の責任を負わなければならならないのであり、産業廃棄物に関する情報はできる限り開示することが要請されていると認められるところであり、この観点から、実施機関においては、産業廃棄物に関する情報については、事業者間における取引に関する情報は開示することとされている。
しかしながら、本件措置命令に関しては、異議申立人が触れているように本件行政訴訟が提起され、また本件事業者が当該訴訟を取り下げたことにより本件行政訴訟は終結したとのことであるが、当審査会が実施
機関から聴取した説明によれば、本件開示請求の時点においては、廃棄物処理法違反で本件事業者が告発された刑事事件の裁判は継続しており、その裁判において、本件事業者はフェロシルトの産業廃棄物該当性について、なお争っていたとのことである。
これらのことから、実施機関は、原決定の時点では、刑事事件の裁判において、フェロシルトが未だ産業廃棄物として認定されていないことを理由に、フェロシルトは産業廃棄物として確定されていないものと捉え、その取引に関する情報が記載されている契約関係文書は、これを公にすることにより、フェロシルトの取引に関与する事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため、条例第7 条第3号イに該当し、不開示としたということである。
ウ しかしながら、その後、フェロシルトの産業廃棄物該当性について、なお争っていた刑事事件の裁判は終結し、司法においてもフェロシルトが産業廃棄物であることが認められたとのことである。
したがって、現時点においては、本件情報は、産業廃棄物であるフェロシルトの取引に関する情報であることから、これを開示しても、事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは認められないため、条例第7 条第3 号イに該当しない。
また、実施機関としても、刑事事件の裁判終結後は、フェロシルトは産業廃棄物に該当するものとして、前記イの産業廃棄物に対する情報公開の考え方から、フェロシルトの取引に関する情報は不開示情報に該当
せず、開示することが妥当であるとの判断に至ったとのことである。
なお、異議申立人は、実施機関が本件情報を不開示とした当時の判断が問題であると主張している。確かに、原決定の時点においては、刑事事件の裁判が継続しており、フェロシルトの産業廃棄物該当性が不確定
であったことを理由に、より慎重な判断が求められたという実施機関の説明は理解できるが、フェロシルトを産業廃棄物と認定したうえで本件措置命令の行政処分を行ったことに鑑みると、本件行政訴訟の訴外であ
る中間事業者及び別件事業者に関する情報はともかくとして、原決定における実施機関の判断はやや慎重にすぎたものと認められる。
(4) まとめ
以上により、その余は判断するまでもなく、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表1 本件異議申立人が開示請求した文書
別表2 平成19 年3 月5 日付けで全部開示決定をした文書
別表3 平成19 年3 月5 日付けで一部開示決定をした文書
別表4 平成19 年4 月4 日付けで全部開示決定をした文書
別表5 平成19 年4 月4 日付けで一部開示決定をした文書
(審査会の処理経過)
諮問第764 号
件名:措置命令処分取消請求事件に係る証拠の一部開示決定に関する件
1 審査会の結論
愛知県知事(以下「知事」という。)が一部開示決定した「措置命令処分取消請求事件に係る証拠説明書(平成18 年11 月20 日付け)に基づく乙25-1号証及び乙25-2 号証」(以下「本件行政文書」という。)のうち、契約に関する書類(以下「契約関係文書」という。)については、法人の印影を除く部分(以下「本件情報」という。)を開示すべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19 年2 月19 日付けで愛知県情報公開条例(平成12 年愛知県条例第19 号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、知事が同年4 月4 日付けで行った一部開示決定(以下「原決定」という。)において不開示とした部分のうち、本件情報の開示を求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
知事は、本件事業者に対し、その取り扱うフェロシルトにつき、産業廃棄物の不法投棄と認定し、その撤去の措置命令(以下「本件措置命令」という。)を発した。知事のした行政処分の根拠のうち逆有償の重要な事実を示す本件行政文書は、本件事業者の違法行為の証拠であり、そもそも「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するとは決して認められないものであり、法人の印影を除き公開すべきである。
また、本件措置命令は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137 号。以下「廃棄物処理法」という。)第19 条の5 第1 項第2号に基づき、フェロシルトの不法投棄により、生活環境の保全上支障が生
じ、又は生ずるおそれがあると認められるために発した命令であるから、その行政処分の根拠のうち逆有償の重要な事実を示す本件行政文書は、まさに条例第7 条第3 号のただし書「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く」に当たるため、公開すべき文書である。
しかしながら、知事は、本件一部開示決定において、本件行政文書の不開示部分の理由として、その条例の根拠を記載しているだけであって、産業廃棄物であるフェロシルトをリサイクル商品と偽装する取引において、
有償取引を偽装していたことを示す本件行政文書がいかに本件事業者の正当な利益を害するのかについて具体的な説明はなく、条例の趣旨に反するものと言わざるを得ない。
また、不開示理由説明書においても、条例第7 条第3 号イ該当性については、具体的に、本件事業者のどのような正当な利益を害するのかについての説明は見られない。また、同号ただし書に該当しないことについても、知事自らが住民の生命、健康を守るために発した撤去命令の根拠をなす本件行政文書が、なぜ同号ただし書に該当しないかの具体的な説明は見られない。
このような安易な認識の下で、4 府県にまたがって、放射性物質や環境基準を超える物質が含まれる産業廃棄物を大量に投棄し、住民に恐怖を与えた大規模かつ悪質なフェロシルトの不法投棄において、本件行政文書は、最大の不法投棄量があった地域でのフェロシルト不法投棄の根幹に関わる重要な文書であり、安易に全面非公開にすることは決して看過できるものではない。
しかも、本件事業者が県を被告として提起した本件措置命令の取消訴訟(以下「本件行政訴訟」という。)において、知事は本件措置命令には何らの違法性がないとする立証の中で、フェロシルト取引の逆有償の証拠として、本件行政文書を提出している。また、証拠説明書においても、立証趣旨から、中間業者以外の事業者の名称は把握できる記載になっており、金額も書かれている。これらのことは、異議申立人が情報公開により準備書面と証拠説明書を入手し、把握しているものである。
知事が裁判で行った主張、立証活動について県民が正しく把握することは重要なことであり、しかも開かれた法廷で主張している本件行政文書を非公開にすることは問題である。また、知事は、不開示理由説明書において、訴訟記録の閲覧、謄写等は情報公開制度とは要件・効果を異にするものであると述べているが、既に事実上公開されている情報についてあえて非公開とすることは条例の趣旨に反するものである。
異議申立人は、本件行政文書を不開示とした当時の判断が問題であると考えており、法人の印影を除き、本件行政文書を開示すべきである。
3 実施機関の主張要旨
実施機関は、原決定をした平成19 年4 月4 日の時点においては、次の理由により、本件行政文書を一部開示としたというものである。
(1) 本件行政文書について
異議申立人は、知事が平成17 年11 月21 日に本件事業者に対して行った本件措置命令に関し、本件事業者が県を被告として名古屋地方裁判所に平成18 年5 月21 日付けで提起した本件行政訴訟で、本件事業者及び県が提出した別表1の文書について、平成19 年2 月19 日付けで、知事に開示請
求した。
これに対し、知事は、第三者に意見照会を行う文書と行わない文書に区分し、意見照会を行わない文書のうち別表2の文書については全部開示決定を、また別表3の文書については一部開示決定を、それぞれ平成19 年3月5 日付けで行った。
また、第三者に意見照会をした文書のうち別表4の文書については全部開示決定を、別表5の文書については一部開示決定を、それぞれ平成19年4 月4 日付けで行った。
本件行政文書は、別表5の文書のうち、県が証拠として提出した乙25-1 号証(以下「文書1」という。)及び乙25-2 号証(以下「文書2」という。)である。
文書1 は、廃棄物処理法第18 条第1 項の規定に基づき、知事が平成17年10 月14 日付けで本件事業者に報告を求めたところ、同月20 日付けで本件事業者から提出された報告書のうち、鑑文及び本件事業者が委託契約を締結した中間業者に用途開発費名目で金銭を支払っていたことを証する契約関係文書である。
文書2 は、廃棄物処理法第18 条第1 項の規定に基づき、知事が平成17年11 月4 日付けで中間事業者と契約関係にある事業者(以下「別件事業者」という。)に報告を求めたところ、同月10 日付けで別件事業者から提出された報告書のうち、鑑文及び本件事業者が中間業者を経由して別件事業者に用途開発費を支払っていたことを証する契約関係文書である。
このうち不開示とした部分は、文書1 の鑑文に押印された法人の印影及び契約関係文書の全部である。
(2) 条例第7 条第3 号イ該当性について
不開示とした部分には、法人の商取引に関する情報が記載されており、これらの情報を開示すると事業者の事業活動に関する内部情報が明らかにされ、事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。したがって、当該部分は条例第7 条第3 号イに該当するものである。
また、これらの情報が事業活動によって生ずる危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するために開示することが必要であるとは認められないことから、同号ただし書に該当しない。
以上のことから、条例第7 条第3 号により不開示としたものである。
(3) その他について
異議申立人は、本件行政文書は、裁判所で公開されて誰でも閲覧できる情報であり、公にしても法人の正当な利益を害するおそれはないと主張する。しかし、民事訴訟法(平成8 年法律第109 号)第91 条第1 項で規定する訴訟記録の閲覧は、憲法第82 条で定める裁判の公開原則を尊重して認められたものであり、条例の認める情報公開制度とは趣旨・要件を異にするものである。
また、民事訴訟法第91 条第1 項では、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる」と規定されているとともに、同条第3 項では、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、訴訟記録の謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付を請求することができると規定されており、それ以外の者は訴訟記録の閲覧を請求できるにすぎず、訴訟記録の謄写等の交付を請求することは認められていないものであり、情報公開制度とは要件・効果を異にするものである。
したがって、異議申立人の主張は認められない。
4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例は、第1 条に規定されているとおり、行政文書の開示を請求する権利を保障し、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされ、公正で民主的な県政の推進に資することを目的として制定されたものであり、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならない。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、原則開示の理念に立って、条例を解釈し、以下判断するものである。
(2) 本件行政文書について
文書1 及び文書2 の内容は、廃棄物処理法第18 条第1 項に基づき、知事が本件事業者等に対し、産業廃棄物の処理状況について報告を求め、提出された文書のうち、フェロシルトの用途開発などの契約に関するものであり、契約関係文書に本件事業者等から知事あての鑑文が添付されたものである。
そして、当該文書は、本件事業者がその取り扱うフェロシルトについて、中間事業者に用途開発費名目で金銭が支払われていたこと、さらに当該中間事業者を経由して別件事業者に用途開発費が支払われていたことを立証するものとして、本件行政訴訟において、県が裁判所に証拠として提出したものである。なお、その際、当該文書に押印された印影のうち、本件行政訴訟の訴外である中間事業者及び別件事業者に係る印影については、黒塗りしたうえで裁判所に提出されている。
実施機関は、文書1 については、鑑文は本件事業者に係る法人の印影を除き開示とし、契約関係文書は全部を不開示としている。また、文書2 については、鑑文はすべて開示とし、契約関係文書は全部を不開示としている。
異議申立人は、法人の印影を除き、本件行政文書を開示すべきと主張していることから、異議申立ての対象となった本件情報は、文書1 及び文書2 の契約関係文書のうち法人の印影を除く部分である。
(3) 不開示情報該当性について
ア 実施機関の説明によれば、本件事業者が取り扱うフェロシルトについては、従来、三重県から認定されたリサイクル製品の埋め戻し材として取り扱ってきたとのことである。しかしながら、本件事業者は認定され
た製造条件に反して、産業廃棄物の汚泥を混入してフェロシルトとして製造し、県内においても、当該フェロシルトを不適正に埋め戻し材として埋設したとのことであり、知事は当該フェロシルトを産業廃棄物と認定したとのことである。さらに、この不法投棄を放置することにより、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあるため、本件事業者に対し、その撤去を命じる本件措置命令の行政処分を行ったというものである。
イ 一般に、産業廃棄物処理業は、その運営の態様如何により周辺住民等の生活環境や自然環境に影響を及ぼすおそれがあることは否定できず、また、産業廃棄物処理業を取り巻く社会状況や廃棄物処理法の趣旨からも、産業廃棄物を取り扱う事業者は産業廃棄物の処理に際し、それ相応の責任を負わなければならならないのであり、産業廃棄物に関する情報はできる限り開示することが要請されていると認められるところであり、この観点から、実施機関においては、産業廃棄物に関する情報については、事業者間における取引に関する情報は開示することとされている。
しかしながら、本件措置命令に関しては、異議申立人が触れているように本件行政訴訟が提起され、また本件事業者が当該訴訟を取り下げたことにより本件行政訴訟は終結したとのことであるが、当審査会が実施
機関から聴取した説明によれば、本件開示請求の時点においては、廃棄物処理法違反で本件事業者が告発された刑事事件の裁判は継続しており、その裁判において、本件事業者はフェロシルトの産業廃棄物該当性について、なお争っていたとのことである。
これらのことから、実施機関は、原決定の時点では、刑事事件の裁判において、フェロシルトが未だ産業廃棄物として認定されていないことを理由に、フェロシルトは産業廃棄物として確定されていないものと捉え、その取引に関する情報が記載されている契約関係文書は、これを公にすることにより、フェロシルトの取引に関与する事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため、条例第7 条第3号イに該当し、不開示としたということである。
ウ しかしながら、その後、フェロシルトの産業廃棄物該当性について、なお争っていた刑事事件の裁判は終結し、司法においてもフェロシルトが産業廃棄物であることが認められたとのことである。
したがって、現時点においては、本件情報は、産業廃棄物であるフェロシルトの取引に関する情報であることから、これを開示しても、事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは認められないため、条例第7 条第3 号イに該当しない。
また、実施機関としても、刑事事件の裁判終結後は、フェロシルトは産業廃棄物に該当するものとして、前記イの産業廃棄物に対する情報公開の考え方から、フェロシルトの取引に関する情報は不開示情報に該当
せず、開示することが妥当であるとの判断に至ったとのことである。
なお、異議申立人は、実施機関が本件情報を不開示とした当時の判断が問題であると主張している。確かに、原決定の時点においては、刑事事件の裁判が継続しており、フェロシルトの産業廃棄物該当性が不確定
であったことを理由に、より慎重な判断が求められたという実施機関の説明は理解できるが、フェロシルトを産業廃棄物と認定したうえで本件措置命令の行政処分を行ったことに鑑みると、本件行政訴訟の訴外であ
る中間事業者及び別件事業者に関する情報はともかくとして、原決定における実施機関の判断はやや慎重にすぎたものと認められる。
(4) まとめ
以上により、その余は判断するまでもなく、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表1 本件異議申立人が開示請求した文書
(本件事業者が提出した文書) 甲3 号証、甲4 号証、甲6 号証、甲7 号証、甲8 号証、甲9-1 号証、甲9-2号証、甲9-3 号証、甲10-1 号証、甲10-2 号証、甲11 号証、甲19-1 号証、甲19-2 号証、甲19-3 号証、甲19-4 号証、甲27 号証、甲28 号証、平成19 年1 月12 日付けの訴えの取下げ書、平成19 年2 月16 日付けの訴えの取下げ書 (本県が提出した文書) 乙7 号証、乙10 号証、乙11 号証、乙12 号証、乙13 号証、乙14 号証、乙19 号証、乙23 号証、乙25-1 号証、乙25-2 号証、乙27 号証、乙30 号証、乙34 号証、乙35 号証、乙36 号証、乙37 号証、平成19 年1 月25 日付けの民事訴訟法第261 条第5 項の異議申立書 |
別表2 平成19 年3 月5 日付けで全部開示決定をした文書
(本県が提出した文書) 乙7 号証、乙11 号証、乙23 号証、乙27 号証、乙36 号証 |
別表3 平成19 年3 月5 日付けで一部開示決定をした文書
(本県が提出した文書) 乙14 号証 |
別表4 平成19 年4 月4 日付けで全部開示決定をした文書
(本件事業者が提出した文書) 甲3 号証、甲8 号証、甲10-2 号証、甲11 号証、甲19-1 号証、甲19-2 号証、甲19-3 号証、甲19-4 号証、甲27 号証 (本県が提出した文書) 乙12 号証、乙30 号証、乙34 号証 |
別表5 平成19 年4 月4 日付けで一部開示決定をした文書
(本件事業者が提出した文書) 甲4 号証、甲6 号証、甲7 号証、甲9-1 号証、甲9-2 号証、甲9-3 号証、甲10-1 号証、甲28 号証、平成19 年1 月12 日付けの訴えの取下げ書、平成19 年2 月16 日付けの訴えの取下げ書 (本県が提出した文書) 乙10 号証、乙13 号証、乙19 号証、乙25-1 号証、乙25-2 号証、乙35号証、乙37 号証、平成19 年1 月25 日付けの民事訴訟法第261 条第5 項の異議申立書 |
(審査会の処理経過)
年月日 | 内 容 |
1 9 . 6 . 5 | 諮問 |
1 9 . 7 . 1 7 | 実施機関から不開示理由説明書を受理 |
1 9 . 8 . 9 | 異議申立人に実施機関からの不開示理由説明書を送付 |
2 0 . 2 . 6 (第217 回審査会) | 実施機関職員から不開示理由等を聴取 異議申立人から意見を聴取 |
2 0 . 3 . 1 1 (第221 回審査会) | 審議 |
2 0 . 3 . 2 5 (第223 回審査会) | 審議 |