諮問庁 : 外務大臣
諮問日 : 平成15年 7月31日 (平成15年(行情)諮問第650号)
答申日 : 平成18年 7月28日 (平成18年度(行情)答申第198号)
事件名 : 平成10年5月のカナダ艦船の神戸港入港に係る検討及び協議に関する文書の一部開示決定に関する件(文書の特定)
答 申 書
第1 審査会の結論
「(1)1998年5月,神戸港への艦船入港を日本へ通告したカナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際,外務省内でこの件について検討した会議の記録あるいは議事録及び閲覧・配布された資料,メモ,会議の報告書,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。),(2)前記の相談が外務省にあった際,同省が国会議員,神戸市,他の省庁との間でそれぞれもった協議あるいは会議の記録,また議事録及びその付帯資料,配布・閲覧された資料・メモ,協議あるいは会議の報告書,また相互に送付・収受した文書及びそれぞれの付帯資料,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。)」(以下「本件請求文書」という。)の開示請求につき,「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」(以下「本件対象文書」という。)を特定し,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定(以下「本件決定」という。)は,取り消すべきであり,本件対象文書の存否を明らかにした上で,改めて開示決定等をすべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」又は「法」という。)3条の規定に基づく本件請求文書の開示請求に対し,外務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が平成13年6月1日付け情報公開第02987号及び平成13年6月22日付け同第03238号により行った別紙に掲げる文書の一部開示決定(以下「原決定」という。)について,なお外に本件請求文書に該当する文書が存在するとしてその開示を求めるというものである(なお,異議申立人は,異議申立て後に,処分庁が平成16年4月27日付け情報公開第01878号により行った本件決定についても,違法なものである旨主張している。)。
2 異議申立ての理由
(略)
第3 諮問庁の説明の要旨
(略)
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成15年7月31日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年9月2日 異議申立人から意見書を収受
④ 平成16年4月7日 審議
⑤ 同年5月25日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑥ 同年6月2日 審議
⑦ 同年9月6日 諮問庁の職員(外務省北米局北米第一課首席事務官ほか)からの口頭説明の聴取
⑧ 同月29日 審議
⑨ 同年10月4日 異議申立人から意見書を収受
⑩ 同年11月10日 審議
⑪ 同年12月22日 審議
⑫ 平成17年2月16日 審議
⑬ 平成18年2月14日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
⑭ 同年4月19日 審議
⑮ 同月26日 審議
⑯ 同年6月7日 審議
⑰ 同年7月26日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件請求文書は,(1)1998年5月,神戸港への艦船入港を日本へ通告したカナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際,外務省内でこの件について検討した会議の記録あるいは議事録及び閲覧・配布された資料,メモ,会議の報告書,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。),(2)前記の相談が外務省にあった際,同省が国会議員,神戸市,他の省庁との間でそれぞれもった協議あるいは会議の記録,また議事録及びその付帯資料,配布・閲覧された資料・メモ,協議あるいは会議の報告書,また相互に送付・収受した文書及びそれぞれの付帯資料,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。)である。
諮問庁は,原決定の後,本件決定を行った理由について,①原決定における文書特定は誤りであった,②本件対象文書(「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」)の存否を明らかにすることにより,我が国とカナダ政府の信頼関係を損なうおそれがあるため,法5条3号及び8条に基づき存否応答拒否すべきである旨主張するので,以下,検討する。
2 本件決定における存否応答拒否の主張について
(1) 本件対象文書の存否を答えることは,カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した事実の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにすることになると認められる。
諮問庁は,本件存否情報は,これが明らかになると,我が国とカナダ政府の信頼関係を損なうおそれがあるとして,法5条3号の不開示情報に該当する旨主張している。
当審査会において諮問庁の説明を聴取したところによれば,カナダは,非核平和国家として核軍縮・核不拡散に関し最も積極的に貢献を行っている国の一つであり,このようなカナダの立場に照らすと,非核証明書を提出することはカナダ国内では何ら問題はないが,仮に当該相談があった場合に,その事実を明らかにすることは,同国の非核平和国家としてのイメージを傷つけ,同国内の世論の反発を生み,ひいては同国と神戸市の関係を悪化させるなど,今後の日本・カナダ間の友好関係を傷つけ,我が国とカナダ政府の信頼関係が損なわれるおそれがあるため,本件存否情報は,法5条3号に規定する不開示情報に該当するとしている。
当審査会において調査したところ,国会の会議録により,処分庁の職員が,平成10年にカナダ艦船の神戸港への入港問題が生じた際に,「カナダ政府から事情についての説明を求められ,その際に,カナダとの間で我々の承知している限りのことはお伝えした」旨の答弁を行っていることが確認された(平成11年3月3日第145回国会衆議院安全保障委員会)。この答弁は,カナダの艦船の神戸港への入港問題について,カナダ政府が日本の外務省に対して何らかの行動をとったことを明らかにしたものと解され,「何らかの行動」には,照会,相談等が含まれ,これに対して外務省が何らかの応答をしたと考えても必ずしも不自然・不合理なこととは考えられない。また,諮問庁を通じて調査したところ,カナダ政府が当該相談の有無について対外的に言及した事実は確認できなかったことから,本件存否情報を公にしても,カナダ政府の対外的な説明ぶりと実際の行動が矛盾する等,カナダ政府に不当に不利益を与えるような事情も特段認められない。更に言えば,外交関係の処理において,双方の国内事情から様々なやりとりをすることは,当然のことであり,本件においても,当該相談の事実の有無を明らかにしたとしても,そのことのみによって,直接,カナダ国内の世論,カナダと神戸市との関係又はカナダの非核平和国家としてのイメージ等に影響を及ぼすとは考えられない。
したがって,本件存否情報は,他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報とは言えず,法5条3号に該当するとは認められないので,本件決定は取り消すべきである。
(2) なお,存否応答拒否に関する諮問庁の主張が認められないことは上記のとおりであるが,そもそも処分庁は,原決定で別紙に掲げる文書を特定し,その一部を開示する決定を行った後,それを存置した状態で,本件決定(存否応答拒否)を行っている。
この点,諮問庁は上記第3の2(3)に記載したとおり,原決定と本件決定は矛盾しない旨主張しているが,両決定の開示決定等通知書を見る限り,請求文書の内容をどのように理解した上での決定であるのかは何ら明らかにされておらず,両決定とも同一の請求文書についてのものであると理解するほかはないので,別紙に掲げる文書を部分開示した原決定と,請求文書すべてに関し存否応答拒否とした本件決定は内容的に明らかに矛盾するものであり,原決定が取り消されていない以上,この点からしても,本件決定は違法と言わざるを得ない。
3 原決定における文書の特定について
上記2により本件決定が取り消されると,原決定のみが開示請求に対する処分となるが,原決定については,異議申立人がカナダ艦船の神戸港入港問題についての行政文書のうち,「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際に作成等された文書」に限定して開示請求しているのに,処分庁は,カナダ艦船の神戸港入港問題についての関連文書を開示したものであって,開示請求の趣旨を広く解して文書を特定したとも理解できることから,そのような理解を前提とすれば,これを取り消す又は変更するまでの要はないと考えられる(なお,異議申立てに対する諮問庁としての決定において,異議申立人に不利益となるような内容で原処分を変更するとすれば,行政不服審査法47条3項に規定する不利益変更の禁止に当たると考えられる。)。しかし,異議申立人は,原決定により特定された別紙記載の文書のほかに,本件請求文書に該当するものが存在するはずであると主張し,処分庁は,これに対して存否応答拒否の本件決定をしているところ,上記のとおり,存否応答拒否をすることは許されないものである。
したがって,別紙に掲げる文書を特定した原決定については,これまでの諮問庁の説明によっては,当該特定を直ちに妥当と認めることはできず,上記のように本件開示請求の趣旨を広く解するのではなく,当該諮問庁の説明が前提としているところの本件決定における本件請求文書の理解(「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」),すなわち本件対象文書について,原決定において特定された文書のほかに本件対象文書に該当する文書が存在するのか否か,その存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきである。
4 諮問の遅れ等について
本件諮問は,異議申立て後,2年を経過してされているので,この点について付言する。
本件諮問の経緯及び諮問庁の対応についてみると,諮問庁からは,平成15年7月に,本件を含む多数の諮問がされ,それらの諮問の中には,本件と同様,不服申立てを受けてから上記の時期の諮問まで,長期間を経ているものが多いが,本件諮問の内容についてみると,不服申立てから諮問まで,これほどの長期間を要するものとは到底考え難く,開示決定等に対する不服申立てへの対応として,本件諮問は著しく遅きに失したものと言わざるを得ない。長期間の調査,検討を必要とする案件もあることは理解できるが,今後においては,迅速かつ的確な対応が強く望まれるところである。
さらに,諮問の遅れに加え,原決定から2年10月も経てから,何らの事情の変化がないにもかかわらず,本件決定を行っており,このような対応は,原決定時に開示請求に係る行政文書の特定について十分な検討を行っていないことを示すものであるとともに,不服の対象を突然変更するものであり,不服申立ての手続上,不服申立人に極めて不利なものと言わざるを得ず,当審査会としてその不適切さを強く指摘するものである。
なお,今後予定される本件対象文書の存否を明らかにした上での開示決定等の手続も速やかに行うことを強く望むものである。
5 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,他にも種々主張しているが,当審査会の結論は上記のとおりであるから,その他の主張に対する判断をするまでもない。
6 本件決定及び原決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条3号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した本件決定については,当該情報は同号に該当せず,また,本件請求文書につき,別紙に掲げる文書を特定した原決定については,当該特定は直ちに妥当とは認められないので,本件決定を取り消し,本件対象文書の存否を明らかにした上で,改めて開示決定等をすべきであると判断した。
(第1部会)
委員 矢崎秀一,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子
(別紙)
1 カナダの核不拡散へのコミットメント
2 核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議
3 「外国軍艦の本邦寄港許可に関する国と地方公共団体の権限関係」に関する政府見解
4 神戸市港湾施設条例(関連条文)
5 非核神戸方式
6 便宜供与について(回答)
7 カナダ軍艦の本邦寄港について
8 カナダ軍艦の本邦寄港について(回答)
9 口上書(カナダ国軍艦の本邦訪問について)
10 カナダ国軍艦の本邦寄港について(便宜供与)
11 カナダ軍艦の本邦寄港について(便宜供与)
12 カナダ軍艦の阪神地区訪問に関する報道振り
諮問日 : 平成15年 7月31日 (平成15年(行情)諮問第650号)
答申日 : 平成18年 7月28日 (平成18年度(行情)答申第198号)
事件名 : 平成10年5月のカナダ艦船の神戸港入港に係る検討及び協議に関する文書の一部開示決定に関する件(文書の特定)
第1 審査会の結論
「(1)1998年5月,神戸港への艦船入港を日本へ通告したカナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際,外務省内でこの件について検討した会議の記録あるいは議事録及び閲覧・配布された資料,メモ,会議の報告書,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。),(2)前記の相談が外務省にあった際,同省が国会議員,神戸市,他の省庁との間でそれぞれもった協議あるいは会議の記録,また議事録及びその付帯資料,配布・閲覧された資料・メモ,協議あるいは会議の報告書,また相互に送付・収受した文書及びそれぞれの付帯資料,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。)」(以下「本件請求文書」という。)の開示請求につき,「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」(以下「本件対象文書」という。)を特定し,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定(以下「本件決定」という。)は,取り消すべきであり,本件対象文書の存否を明らかにした上で,改めて開示決定等をすべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」又は「法」という。)3条の規定に基づく本件請求文書の開示請求に対し,外務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が平成13年6月1日付け情報公開第02987号及び平成13年6月22日付け同第03238号により行った別紙に掲げる文書の一部開示決定(以下「原決定」という。)について,なお外に本件請求文書に該当する文書が存在するとしてその開示を求めるというものである(なお,異議申立人は,異議申立て後に,処分庁が平成16年4月27日付け情報公開第01878号により行った本件決定についても,違法なものである旨主張している。)。
2 異議申立ての理由
第3 諮問庁の説明の要旨
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成15年7月31日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年9月2日 異議申立人から意見書を収受
④ 平成16年4月7日 審議
⑤ 同年5月25日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑥ 同年6月2日 審議
⑦ 同年9月6日 諮問庁の職員(外務省北米局北米第一課首席事務官ほか)からの口頭説明の聴取
⑧ 同月29日 審議
⑨ 同年10月4日 異議申立人から意見書を収受
⑩ 同年11月10日 審議
⑪ 同年12月22日 審議
⑫ 平成17年2月16日 審議
⑬ 平成18年2月14日 委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
⑭ 同年4月19日 審議
⑮ 同月26日 審議
⑯ 同年6月7日 審議
⑰ 同年7月26日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件請求文書は,(1)1998年5月,神戸港への艦船入港を日本へ通告したカナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際,外務省内でこの件について検討した会議の記録あるいは議事録及び閲覧・配布された資料,メモ,会議の報告書,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。),(2)前記の相談が外務省にあった際,同省が国会議員,神戸市,他の省庁との間でそれぞれもった協議あるいは会議の記録,また議事録及びその付帯資料,配布・閲覧された資料・メモ,協議あるいは会議の報告書,また相互に送付・収受した文書及びそれぞれの付帯資料,ほか関係記録一切(いずれも図画,電磁的記録を含む。)である。
諮問庁は,原決定の後,本件決定を行った理由について,①原決定における文書特定は誤りであった,②本件対象文書(「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」)の存否を明らかにすることにより,我が国とカナダ政府の信頼関係を損なうおそれがあるため,法5条3号及び8条に基づき存否応答拒否すべきである旨主張するので,以下,検討する。
2 本件決定における存否応答拒否の主張について
(1) 本件対象文書の存否を答えることは,カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した事実の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにすることになると認められる。
諮問庁は,本件存否情報は,これが明らかになると,我が国とカナダ政府の信頼関係を損なうおそれがあるとして,法5条3号の不開示情報に該当する旨主張している。
当審査会において諮問庁の説明を聴取したところによれば,カナダは,非核平和国家として核軍縮・核不拡散に関し最も積極的に貢献を行っている国の一つであり,このようなカナダの立場に照らすと,非核証明書を提出することはカナダ国内では何ら問題はないが,仮に当該相談があった場合に,その事実を明らかにすることは,同国の非核平和国家としてのイメージを傷つけ,同国内の世論の反発を生み,ひいては同国と神戸市の関係を悪化させるなど,今後の日本・カナダ間の友好関係を傷つけ,我が国とカナダ政府の信頼関係が損なわれるおそれがあるため,本件存否情報は,法5条3号に規定する不開示情報に該当するとしている。
当審査会において調査したところ,国会の会議録により,処分庁の職員が,平成10年にカナダ艦船の神戸港への入港問題が生じた際に,「カナダ政府から事情についての説明を求められ,その際に,カナダとの間で我々の承知している限りのことはお伝えした」旨の答弁を行っていることが確認された(平成11年3月3日第145回国会衆議院安全保障委員会)。この答弁は,カナダの艦船の神戸港への入港問題について,カナダ政府が日本の外務省に対して何らかの行動をとったことを明らかにしたものと解され,「何らかの行動」には,照会,相談等が含まれ,これに対して外務省が何らかの応答をしたと考えても必ずしも不自然・不合理なこととは考えられない。また,諮問庁を通じて調査したところ,カナダ政府が当該相談の有無について対外的に言及した事実は確認できなかったことから,本件存否情報を公にしても,カナダ政府の対外的な説明ぶりと実際の行動が矛盾する等,カナダ政府に不当に不利益を与えるような事情も特段認められない。更に言えば,外交関係の処理において,双方の国内事情から様々なやりとりをすることは,当然のことであり,本件においても,当該相談の事実の有無を明らかにしたとしても,そのことのみによって,直接,カナダ国内の世論,カナダと神戸市との関係又はカナダの非核平和国家としてのイメージ等に影響を及ぼすとは考えられない。
したがって,本件存否情報は,他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報とは言えず,法5条3号に該当するとは認められないので,本件決定は取り消すべきである。
(2) なお,存否応答拒否に関する諮問庁の主張が認められないことは上記のとおりであるが,そもそも処分庁は,原決定で別紙に掲げる文書を特定し,その一部を開示する決定を行った後,それを存置した状態で,本件決定(存否応答拒否)を行っている。
この点,諮問庁は上記第3の2(3)に記載したとおり,原決定と本件決定は矛盾しない旨主張しているが,両決定の開示決定等通知書を見る限り,請求文書の内容をどのように理解した上での決定であるのかは何ら明らかにされておらず,両決定とも同一の請求文書についてのものであると理解するほかはないので,別紙に掲げる文書を部分開示した原決定と,請求文書すべてに関し存否応答拒否とした本件決定は内容的に明らかに矛盾するものであり,原決定が取り消されていない以上,この点からしても,本件決定は違法と言わざるを得ない。
3 原決定における文書の特定について
上記2により本件決定が取り消されると,原決定のみが開示請求に対する処分となるが,原決定については,異議申立人がカナダ艦船の神戸港入港問題についての行政文書のうち,「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際に作成等された文書」に限定して開示請求しているのに,処分庁は,カナダ艦船の神戸港入港問題についての関連文書を開示したものであって,開示請求の趣旨を広く解して文書を特定したとも理解できることから,そのような理解を前提とすれば,これを取り消す又は変更するまでの要はないと考えられる(なお,異議申立てに対する諮問庁としての決定において,異議申立人に不利益となるような内容で原処分を変更するとすれば,行政不服審査法47条3項に規定する不利益変更の禁止に当たると考えられる。)。しかし,異議申立人は,原決定により特定された別紙記載の文書のほかに,本件請求文書に該当するものが存在するはずであると主張し,処分庁は,これに対して存否応答拒否の本件決定をしているところ,上記のとおり,存否応答拒否をすることは許されないものである。
したがって,別紙に掲げる文書を特定した原決定については,これまでの諮問庁の説明によっては,当該特定を直ちに妥当と認めることはできず,上記のように本件開示請求の趣旨を広く解するのではなく,当該諮問庁の説明が前提としているところの本件決定における本件請求文書の理解(「カナダ政府・機関が,神戸市に非核証明書の提出を求められ,外務省北米一課に相談した際作成された文書(図画,電磁的記録を含む。)」),すなわち本件対象文書について,原決定において特定された文書のほかに本件対象文書に該当する文書が存在するのか否か,その存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきである。
4 諮問の遅れ等について
本件諮問は,異議申立て後,2年を経過してされているので,この点について付言する。
本件諮問の経緯及び諮問庁の対応についてみると,諮問庁からは,平成15年7月に,本件を含む多数の諮問がされ,それらの諮問の中には,本件と同様,不服申立てを受けてから上記の時期の諮問まで,長期間を経ているものが多いが,本件諮問の内容についてみると,不服申立てから諮問まで,これほどの長期間を要するものとは到底考え難く,開示決定等に対する不服申立てへの対応として,本件諮問は著しく遅きに失したものと言わざるを得ない。長期間の調査,検討を必要とする案件もあることは理解できるが,今後においては,迅速かつ的確な対応が強く望まれるところである。
さらに,諮問の遅れに加え,原決定から2年10月も経てから,何らの事情の変化がないにもかかわらず,本件決定を行っており,このような対応は,原決定時に開示請求に係る行政文書の特定について十分な検討を行っていないことを示すものであるとともに,不服の対象を突然変更するものであり,不服申立ての手続上,不服申立人に極めて不利なものと言わざるを得ず,当審査会としてその不適切さを強く指摘するものである。
なお,今後予定される本件対象文書の存否を明らかにした上での開示決定等の手続も速やかに行うことを強く望むものである。
5 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,他にも種々主張しているが,当審査会の結論は上記のとおりであるから,その他の主張に対する判断をするまでもない。
6 本件決定及び原決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条3号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した本件決定については,当該情報は同号に該当せず,また,本件請求文書につき,別紙に掲げる文書を特定した原決定については,当該特定は直ちに妥当とは認められないので,本件決定を取り消し,本件対象文書の存否を明らかにした上で,改めて開示決定等をすべきであると判断した。
(第1部会)
委員 矢崎秀一,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子
(別紙)
1 カナダの核不拡散へのコミットメント
2 核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議
3 「外国軍艦の本邦寄港許可に関する国と地方公共団体の権限関係」に関する政府見解
4 神戸市港湾施設条例(関連条文)
5 非核神戸方式
6 便宜供与について(回答)
7 カナダ軍艦の本邦寄港について
8 カナダ軍艦の本邦寄港について(回答)
9 口上書(カナダ国軍艦の本邦訪問について)
10 カナダ国軍艦の本邦寄港について(便宜供与)
11 カナダ軍艦の本邦寄港について(便宜供与)
12 カナダ軍艦の阪神地区訪問に関する報道振り