付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★小規模事業ミステリ

2024-07-25 | ランキング・カテゴリー
 近所のそこそこ大きい本屋の店頭で定点観測していた経験からすると、2011年刊行の『ビブリア古書堂の事件手帖』がヒットして以来、なんとなくお店屋さんモノが増えました。都会の裏通りとか下町とかに喫茶店とか古道具屋とかのお店を舞台にした、都会の日常系ミステリ奇譚とか人情伽の連作短編シリーズのことです。
 でも、これって栞子さん発かと思っていたけど、オカルト方面に走りがちでなんか違うのが混ざり始め、妻と話していて「ああ、これ波津彬子の系譜だね」と合意ができたわけですが、よくよく見ると混ざってます。目立たないところにお店があって、ひっそり美人のお姉さんやカッコいいおにいさんのいて、そこにそこに持ち込まれる品や訪れる人がもたらす謎や怪異や人間模様を解決したりしなかったりするというフォーマットは踏襲しつつも、さっくり3系統くらいありそうです。

■不思議なお店・商人の幻想怪異譚
『雨柳堂夢咄』 波津彬子(1991)
 店の入り口に大きな柳の木がある骨董屋・雨柳堂には何やらいわくつきの品物が集まってくるのだが、それらに宿る想いを読み取り、秘められたさまざまな物語を解き明かすのは、店主の孫で年齢不詳の美青年・蓮だった……。
 「眠れぬ夜の奇妙な話」掲載のアンティーク・ロマンシリーズ。

『唐人屋敷』 波津彬子(2000)
 アメリカ東部でお祓いを生業にしている全身黒ずくめの東洋系青年が、エクソシストでは対応できない古い屋敷の怪異や東洋由来の骨董品を調査し、それらに憑いている異形たちと語り、事件を解決していく。
 「眠れぬ夜の奇妙な話」掲載のオリエンタル・オカルト・コミック。

よろず占い処 陰陽屋へようこそ』 天野頌子(2011)
 母親の気まぐれから陰陽師の店でバイトすることになった中学生の瞬太。イケメンだけれど口先ばかりのいい加減な陰陽師・祥明の占いにイライラかりかり。しかし、瞬太にも秘密があった。彼は赤ん坊の頃、稲荷神社に捨てられていたのを今の両親に拾われたのだが、彼は妖狐だったのだ……。
 ホストあがりのいんちき陰陽師とキツネ耳中学生のコンビが、遺言書の隠し場所を探したり行方不明の娘捜しに奔走する話なのだけれど、基本的にはへっぽこコンビのほのぼのミステリ……というか探偵物語。2007年に単行本、2011年に文庫版。

沢木道楽堂怪奇録』 寺本耕也(2011)
 沢木はなんでも屋だ。便利屋ではないから便利じゃないが、霊を見ることができるので、その手の仕事が舞い込んでくることもある。そんな沢木のもとに、幽霊に取り憑かれたんじゃないかと女子高生が連れてこられたのだが……。
 なんでも屋のしょぼくれた男と元気な女子高生を中心に繰り広げられる怪奇譚。軽く読めるけど、しっかりホラー。

鴨川貴族邸宅の茶飯事』 範乃秋晴(2012)
 鴨川沿いの貴族邸宅には“バトラー・オブ・ザ・フォー”だと囁かれる優雅な4人の執事に傅かれる貴族邸宅サロン、アイディールプリンスがある。だが、この執事喫茶には隠された目的があった……。
 古武術を身につけた……しかし、それ以外は何も知らない無骨な男が、執事をめざして獅子奮迅の研修を繰り広げる執事小説。もちろん、この場合の「執事」とは伝統的な意味での職業ではなく、乙女ロード的な意味合いで。

紳堂助教授の帝都怪異考』 エドワード・スミス(2013) 若くして帝国大の助教授の肩書を持つ紳堂が、博学多才にして超自然的なことにも通じているのは周知のこと。なので警察の手に余る怪事件が起これば、彼のもとに持ち込まれることになるのだ……。
 大正時代の帝都東京を舞台に、帝国大の助教授を務める美青年が、美少年を助手としてさまざまな怪事件を解決していくミステリー短編集。美青年が表紙の軽いミステリが流行り始めた時期の作品。

『ふるぎぬや紋様帳』 波津彬子(2014)
 インテリアコーディネーターの伊都子が偶然に足を踏み入れたのは、古い着物を扱う「ふるぎぬや」。そこは特別な想いの宿った着物だけを扱う、必要としている者にしかたどりつけない不思議なお店だった……。
 「月刊フラワーズ」掲載の和の世界観満載な幻想奇譚。


■飲食店を舞台にした人間模様
『味いちもんめ』 あべ善太&倉田よしみ(1984)
 東京新宿にある「藤村」は名の通った一流料亭。そこに務めることになった伊橋悟は、料理学校首席卒業だがお調子者。先輩に怒られ殴られたり、誉められたりしながら、下っ端の追い回しから少しずつ成長していく。
 料亭を舞台にそこで働く板前たちの葛藤や訪れるお客たちが本当に求める味などを描いた料理マンガ。病院の待合に並んでいて、そこでよく読みました。雑誌でもちょくちょく。

『西洋骨董洋菓子店』 よしながふみ(2000)
 甘いものが苦手なのにケーキ屋を始めようとした男のもとに集まってくるのは、同性愛者で彼を巡るトラブルが絶えない天才的パティシェ、甘いものは好きだが作ったことはないという挫折したボクサー少年。深夜営業の奇妙な喫茶店はこうして始まった……。
 若い男性ばかりで内装や食器がアンティークショップ張りというケーキ専門店「アンティーク」を舞台にした人間ドラマを描いたコミック。作者による同人版はBL耐性が無いと読めません。

『深夜食堂』 安倍夜郎(2006)
 ゴールデン街にある「めしや」の営業時間は深夜0時から朝7時ごろまでで、メニューは豚汁定食とアルコール類しかない。あとは注文があれば、できるものなら作るよというスタイルの店。そこに訪れる客は学生からヤクザ、ストリッパー……。読むとタコさんウインナーとか豚汁が食べたくなります。実写ドラマ版も良かったです。
 「ビッグコミックオリジナル」で連載されている、深夜食堂を舞台にした人間模様。

路地裏ビルヂング』 三羽省吾(2010)
 辻堂ビルヂングは路地裏に建っている、築49年の雑居ビル。エレベーターは狭くてすぐ壊れるし、区画整理の波も少しずつ押し寄せてきている。そんなオンポロビルには、うさんくさい健康食品を訪問販売する会社やら学習塾やらがテナントに入っていて……。
 雑居ビルの各階に入っているテナントそれぞれを舞台にした連作短編集。それぞれの話に登場する1階の飲食店が、登場するたびに業種が違っていて、しかも不味い店というのがポイント。

真夜中のパン屋さん』 大沼紀子(2011)
 三軒茶屋の深夜営業のパン屋さんを舞台に、パン作りがへたくそなオーナーに、口の悪いイケメンなパン職人、転がり込んだ女子高生の3人を中心に繰り広げられる人間模様。
 ホームレスになったオカマさんやら親に捨てられた子供など、いろいろな意味で困った人たちが登場し、彼らの過去と現在が交錯しながら、その困った人たちをパン屋さんが救い、そしてパン屋の人たちも救われる話。一章ごとに語り手が代わり、それぞれの視点で一連の事件が語られていきます。けっして完璧無比なハッピーエンドではないけれど、とりあえず納得できる、みんなが前に進める終わり方でした。書店員さんの間で評判良いという話も聞きました。

異世界居酒屋「のぶ」』 蝉川夏哉(2012)
 京都にある寂れた商店街の一角でオープンしたはずの居酒屋「のぶ」だったが、なぜか店の表口が異世界のアイテーリアにある古都の路地裏に繋がっていた。それはともかく店主の矢澤信之は何処の誰であろうと客は客だと誠心誠意料理を作り続けるのだ……。
 いろんな悩みや苦労を抱えた人が居酒屋で食事をし、酒を呑み、語り合っているうちに問題解決の糸口をつかむという、食堂・居酒屋話の基本フォーマットなのだけれど、その相手する客が仕事帰りのサラリーマンやOL、年金暮らしの老人ではなく、異世界の貴族や兵士たちというのが違いで物語のバリエーションを広げています。


■小さなお店に持ち込まれる謎を解く日常系ミステリ
ビブリア古書堂の事件手帖』 (2011)
 鎌倉の街を舞台に、内気で文学少女な古書店主と体質的に本が読めない青年が、本をめぐる謎を解いていく。
 文学少女が本の内容を踏まえて謎解きをしていく話が好きな人にはお薦め。

珈琲店タレーランの事件簿』 岡崎琢磨(2012)
 京都の裏通りの珈琲店を仕切っているバリスタは、可憐な女性だ。 しかもこの女性バリスタは、わずかな手がかりから、相手のことを見事に推理して暴き出してしまう。
 京都で小さなコーヒー店を取り仕切る女性バリスタと、オーナーなのにあごで使われる老人と、コーヒーマニアの青年を中心に繰り広げられる連作短編ミステリ集。

香彩七色』 浅葉なつ(2013)
 結月は匂いに敏感な女子大生。通りすがりのレストランや民家で調理されている匂いに誘われて、いつもふらふらしていて、太りにくい体質と言いつつも最近は体重の微増が悩みの種だ。そんな彼女が珈琲の匂いに誘われているうちに出会ったのは、古今東西の香りに精通する香道宗家の跡取りの神門千尋だった……。
 嗅覚は犬並みだけれど(食べ物以外は)何の匂いまでか知識不足で断言できない女子大生と、人嫌いで家出中の香道宗家跡取りが、ほのかな香りに隠された謎を解いていく3つの物語。日常系ミステリで、基本ほのぼの、少ししんみり。

質屋「六文屋」の訳アリな訪問客』 吉川美樹(2013)
 ビルの谷間の狭い路地を抜けた先にある質屋「六文屋」は、喫茶店が併設されていて、どちらが主だかわかりかねる不思議な店なのだが……。
 ポストカードやら黄色い浴衣やら、持ち込んだ当人にもわからない謎を、店主である片倉十士の目利きと、喫茶店を受け持つ少女ミカのテキトーな推理で明らかにしていく軽めの日常系ミステリ。


 今から思い起こせば2010年あたりって一つのターニングポイントになっていて、このあたりから「カッコいいおにいさん、ステキなおねえさんが店主/店員のお店もの」が増えたなあとまとめているうちに、これ以外にも当時のブログを読みかえしていると「最近は魔女ものが多い」とか「平凡な青年と神様たちとの物語が増えた」「妖怪の出てくる時代小説が流行り」とかあるので、このあたりも時間があったら拾い出していきたい。
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