「対話の記録:科学者の研究について 一ノ瀬俊明×澤崎賢一」 75分, 2022年制作
「身の回りの都市空間から何が読み取れるのか。」をテーマに、研究者のフィールドワークを素材として、研究者の目線を映像作品の形に表現することを得意としている、澤崎賢一監督とのコラボレーションです。
サイエンティストとアーティストのコラボレーションによる新しい成果とは。
研究者はフィールドで何をどう見ているのか。
自然から主体的に知見を読み取るのは簡単ではない。
科学技術広報研究会(JACST:Japan Association of Communication for Science and Technology )は、研究機関や大学などの広報担当者が、所属する組織の枠をこえて、広報活動における課題を共有し、それらを通してお互いに助け合い、共に成長していくことを目指したインデペンデントな互助組織です。2007年に設立され、現在約80機関から約200名の広報担当者が参加しています。ファンダメンタルズはJACST隣接領域と連携した広報業務部会による、最先端科学を中心とした分野の研究者と現代の美術を中心とした作家のためのプラットフォームです。このプログラムにおいては、サイエンティストとアーティストのコラボレーションにより、新しい成果が生まれることが期待されています。
研究者のフィールドワークにおいてノンエッセンシャルなものとして研究成果の周縁に位置づけられるものを生きた資源や発見として捉え直すための映像作品を制作している、澤崎賢一監督とのコラボレーションとして、都市環境のフィールドサイエンティストである一ノ瀬は、この映像作品に主演いたしました。一ノ瀬は従前アジアの都市をフィールドに、都市の気候変動適応に関する環境観測に取り組んできました。コロナ禍が未だ続いている現在、アジアでのフィールドワークを記録したかったのですがかなわず、かわりに私たちが気軽に訪れることが可能な東京駅周辺地域を対象に、それらの活動を振り返りながら、都市生活に役立つ学術的知見や、研究者のまなざしを視聴者と共有できるような作品が誕生しました。
「身の回りの都市空間から何が読み取れるのか。」
一ノ瀬は学部生時代、自然地理学を専攻しました。当時の学生便覧には、「自然から主体的に知見を読み取るのは簡単ではない。相当の覚悟を持つべし。」という記述がありました。山を歩く時、地表を覆う植生や露頭のほか、河原の様子を観察し、その地域の景観のなりたちや、自然環境の変遷を考えてみましょう。正しい理解には十分な知識が欠かせません。漫然と眺めているだけで見えてくるものは限られています。今回の作品では建物や地面など、都市空間を構成する物体の表面温度を観察できるサーモカメラを用い、東京駅周辺の都市環境について、その特徴や、人間に与える影響を考察してみました。このような計測機器を使う場合、観察対象たる「自然」は機器によって数値化(客観化)されるので、学生便覧において要求されていた「主体性」はそこまで必要ではないのかもしれません。しかし作品の中では、気象学、建築学、生態学、土木工学などの広範な知見を総動員して、対象地域の環境を読み解く試みを行っています。NHK「ブラタモリ」でのタモリさんのリアクションは視聴者をうならせますが、番組におけるフィールドワークの積み重ねがあってこそできるわざなのです。
なおこの作品は、次のように公開されています。
ファンダメンタルズ フェスmini ーアーティストと科学者 交流の過程の展示
2022年3月19日–3月25日(JR上野駅13番線ホーム)
出演(YouTube Living Montage 2022年3月16日:https://www.youtube.com/watch?v=whPpBKpMbD0)
企画/制作:一般社団法人リビング・モンタージュ https://livingmontage.com/