「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)2月19日(日曜日)
通巻第7645号 <前日発行>
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ヌーランド国務副長官「戦争目的はクリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジ」
ブリンケンは「クリミア占領など積極的に奨励してはいない」。
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バイデン政権の内部に亀裂が生じている。かたやウクライナ支援強化の左派、そろそろ幕引きを探る国務省主流派との目に見えない対立である。
ビクトリア・ヌーランド国務副長官は2月16日に記者会見し、戦争の目的は「クリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジだ」と豪語した。
ウクライナ戦争はヌーランドが指導しているかのような発言に、ロシアばかりか、米国内で批判の声が高まった。共和党保守派、とりわけトランプ陣営はウクライナ支援の縮小を唱えている。
ウクライナ戦争をめぐって鮮明な対立状況が浮かび上がった。
ヌーランドは「マイダンの助産婦」と言われ、ヤヌコビッチ前大統領追放劇を舞台裏で動いて「民主」を煽った超本人。ロシアがもっともきらう「女傑」、ネオコンの代表格である。夫君はネオコンきっての理論家ロバート・ケーガンだ。
ヌーランドは「クリミア半島が少なくとも『非武装化』されない限り、ウクライナは安全だとは感じられない。理想的な終結はモスクワでの革命(プーチン失脚)である」と言った。
ヌーランド副長官は「ウクライナ人にとって持続可能な地図を手に入れる必要がある。米国の立場は、ウクライナは「国境内のすべての領土を負う義務がある」というものであり、「これはクリミアも意味する」とヌーランドは付け加えた。
しかしブリンケン国務長官は「米国がウクライナにクリミアを占領するよう「積極的に奨励」してはいない。
「紛争の終結をどのように見るか?」と尋ねられると、ヌーランドは、「ウラジーミル・プーチンが権力を握っている限り、本当に終わったとは決して信じてはならない」と答えた。
戦闘がウクライナの条件で終わったとしても、抑止力としてウクライナの軍隊を増強するための「長期計画がなければならない」とも付言した。
彼女はまた、西側が提供する「より良い未来」のために、ロシア人が政府を転覆することを好むと表明した.
▲ウクライナより台湾支援が重要。米国の敵は中国だ
ヌーランドとまったく反対方向にあるのが議会である。
ジョシュ・ホーリー米上院議員は2月16日にヘリテージ財団で講演し、「軍事資源には限界がある。米国は中国を抑止するためにウクライナよりも台湾を優先すべきだ」と述べた。そのうえで、「米国の軍事力は適切な場所に配備されていない」
ジュュア・デイヴィッド・ホーリーは、ミズーリ州司法長官を経て、上院議員(ミズーリ州選出)に当選、共和党。2018年の選挙で現職だった民主党所属議員クレア・マカスキルを破った。いはばトランプチルドレンのひとり。まだ43歳と若い。
ホーリーは、「いくら我々がウクライナを支援しても、中国が台湾に侵攻しようとするのを思いとどまらせることはできない。米国のウクライナ支援は中国の計画に影響を与えるという超党派のコンセンサスがワシントンにあるが、米国はアジアにおける中国の拡張主義を阻止するよう努めるべきだ」とし、「ウクライナに資金を投じても、中国の軍事力増強は止められないだろう」とした。
「中国の軍拡は進み、私たちは彼らを止める準備ができていない。もし中国が今、台湾に侵攻すれば、中国が勝つだろう」と付け加えた。
習近平政権は「戦争準備」に余念がなく昨師走には「中華人民共和国予備役人員法」が公布されている。退役軍人や民兵などの「予備役人員」によって編成される中央軍事委員会直属の解放軍予備役部隊は1千万人を超えている。戦争発動に備えて「予備軍部隊」を総動員するための法整備だ。
こうした動きを見ながら「中国の台湾侵攻を阻止するために、米国はウクライナに送った武器の多くを国に供給する必要がある。米国の防衛産業は能力に縛られている。国家をめぐる戦争は、台湾の半導体に大きく依存している」と彼は述べた。
「ウクライナ戦争が長引けば長引くほど中国が有利になり、権威主義的な国家のトップがロシアから中国にかわるだろう」と予測するのは台湾の国策研究院、郭育仁執行長だ。
「脅威に直面しドイツも日本も防衛予算を増やした。これまでは中国、ロシア、北朝鮮、イランなど全体主義国家が軍拡をしてきたが「今後は皮肉にも民主主義国家がそれに追随する」
「中国は台湾にソフトに対応する一方で、地下金脈を通じて2024年総統選で民進党を敗北させるのが当面の目標である」と郭育仁は日本経済新聞のインタビューに答えた(2023年2月15日付け)。
二月上旬に台湾本島と離島の馬祖島を結ぶ海底ケーブル2本が切断された。台湾当局は、中国船が損傷させたとみている。台湾本島と馬祖列島を結ぶ海底ケーブルは最近5年間に20件を超える切断「事故」が起きている。
台湾侵攻がおこれば日本が巻き込まれることは明らかで、尖閣諸島を攻めるのは確実である。
中国が尖閣諸島を勝手に「釣魚島」として地図に書いていることは以前からだが、「中国領」と地図明記を義務化した。23年2月14日に中国の自然資源省が義務を原則とした。侵略の野望を公然化したようなものである。
すでに「漁船」の領海侵犯は既成事実化し、昨今は海警の船舶が領海侵犯を繰り返し、海底の測量などを実行してきた。日本の抗議には貸す耳を持たず開き直りを続けているが、日本は海上保安庁の船が警告を繰り返すのみ、政治家はまとも批判してこなかったから、中国は完全に日本をなめきっている。
令和五年(2023)2月19日(日曜日)
通巻第7645号 <前日発行>
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ヌーランド国務副長官「戦争目的はクリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジ」
ブリンケンは「クリミア占領など積極的に奨励してはいない」。
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バイデン政権の内部に亀裂が生じている。かたやウクライナ支援強化の左派、そろそろ幕引きを探る国務省主流派との目に見えない対立である。
ビクトリア・ヌーランド国務副長官は2月16日に記者会見し、戦争の目的は「クリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジだ」と豪語した。
ウクライナ戦争はヌーランドが指導しているかのような発言に、ロシアばかりか、米国内で批判の声が高まった。共和党保守派、とりわけトランプ陣営はウクライナ支援の縮小を唱えている。
ウクライナ戦争をめぐって鮮明な対立状況が浮かび上がった。
ヌーランドは「マイダンの助産婦」と言われ、ヤヌコビッチ前大統領追放劇を舞台裏で動いて「民主」を煽った超本人。ロシアがもっともきらう「女傑」、ネオコンの代表格である。夫君はネオコンきっての理論家ロバート・ケーガンだ。
ヌーランドは「クリミア半島が少なくとも『非武装化』されない限り、ウクライナは安全だとは感じられない。理想的な終結はモスクワでの革命(プーチン失脚)である」と言った。
ヌーランド副長官は「ウクライナ人にとって持続可能な地図を手に入れる必要がある。米国の立場は、ウクライナは「国境内のすべての領土を負う義務がある」というものであり、「これはクリミアも意味する」とヌーランドは付け加えた。
しかしブリンケン国務長官は「米国がウクライナにクリミアを占領するよう「積極的に奨励」してはいない。
「紛争の終結をどのように見るか?」と尋ねられると、ヌーランドは、「ウラジーミル・プーチンが権力を握っている限り、本当に終わったとは決して信じてはならない」と答えた。
戦闘がウクライナの条件で終わったとしても、抑止力としてウクライナの軍隊を増強するための「長期計画がなければならない」とも付言した。
彼女はまた、西側が提供する「より良い未来」のために、ロシア人が政府を転覆することを好むと表明した.
▲ウクライナより台湾支援が重要。米国の敵は中国だ
ヌーランドとまったく反対方向にあるのが議会である。
ジョシュ・ホーリー米上院議員は2月16日にヘリテージ財団で講演し、「軍事資源には限界がある。米国は中国を抑止するためにウクライナよりも台湾を優先すべきだ」と述べた。そのうえで、「米国の軍事力は適切な場所に配備されていない」
ジュュア・デイヴィッド・ホーリーは、ミズーリ州司法長官を経て、上院議員(ミズーリ州選出)に当選、共和党。2018年の選挙で現職だった民主党所属議員クレア・マカスキルを破った。いはばトランプチルドレンのひとり。まだ43歳と若い。
ホーリーは、「いくら我々がウクライナを支援しても、中国が台湾に侵攻しようとするのを思いとどまらせることはできない。米国のウクライナ支援は中国の計画に影響を与えるという超党派のコンセンサスがワシントンにあるが、米国はアジアにおける中国の拡張主義を阻止するよう努めるべきだ」とし、「ウクライナに資金を投じても、中国の軍事力増強は止められないだろう」とした。
「中国の軍拡は進み、私たちは彼らを止める準備ができていない。もし中国が今、台湾に侵攻すれば、中国が勝つだろう」と付け加えた。
習近平政権は「戦争準備」に余念がなく昨師走には「中華人民共和国予備役人員法」が公布されている。退役軍人や民兵などの「予備役人員」によって編成される中央軍事委員会直属の解放軍予備役部隊は1千万人を超えている。戦争発動に備えて「予備軍部隊」を総動員するための法整備だ。
こうした動きを見ながら「中国の台湾侵攻を阻止するために、米国はウクライナに送った武器の多くを国に供給する必要がある。米国の防衛産業は能力に縛られている。国家をめぐる戦争は、台湾の半導体に大きく依存している」と彼は述べた。
「ウクライナ戦争が長引けば長引くほど中国が有利になり、権威主義的な国家のトップがロシアから中国にかわるだろう」と予測するのは台湾の国策研究院、郭育仁執行長だ。
「脅威に直面しドイツも日本も防衛予算を増やした。これまでは中国、ロシア、北朝鮮、イランなど全体主義国家が軍拡をしてきたが「今後は皮肉にも民主主義国家がそれに追随する」
「中国は台湾にソフトに対応する一方で、地下金脈を通じて2024年総統選で民進党を敗北させるのが当面の目標である」と郭育仁は日本経済新聞のインタビューに答えた(2023年2月15日付け)。
二月上旬に台湾本島と離島の馬祖島を結ぶ海底ケーブル2本が切断された。台湾当局は、中国船が損傷させたとみている。台湾本島と馬祖列島を結ぶ海底ケーブルは最近5年間に20件を超える切断「事故」が起きている。
台湾侵攻がおこれば日本が巻き込まれることは明らかで、尖閣諸島を攻めるのは確実である。
中国が尖閣諸島を勝手に「釣魚島」として地図に書いていることは以前からだが、「中国領」と地図明記を義務化した。23年2月14日に中国の自然資源省が義務を原則とした。侵略の野望を公然化したようなものである。
すでに「漁船」の領海侵犯は既成事実化し、昨今は海警の船舶が領海侵犯を繰り返し、海底の測量などを実行してきた。日本の抗議には貸す耳を持たず開き直りを続けているが、日本は海上保安庁の船が警告を繰り返すのみ、政治家はまとも批判してこなかったから、中国は完全に日本をなめきっている。