「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和弐年(2020)3月10日(火曜日)
通巻6395号 <前日発行>
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習近平の目玉だったCPEC(中国パキスタン経済回廊)のいま
一帯一路。砂漠に壮大な廃墟を建設、資金は汚職で消えていた
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パキスタンはIMFと救済案件を交渉し、60億ドルの救済が認められた。1980年以来、パキスタンのIMFとの交渉は13回目。未払いは常習。このままでは中国主導の一帯一路プロジェクトの重要案件は途中で打ちきりになりそうだ(『ザ・タイムズ・オブ・インディア』、3月8日付け)。
IMFが60億ドル救済という意味は債権者が80%の債権放棄を意味する。当初、パキスタンは中国に追加融資を要請したが、「出来ることは何でも協力する」とのリップサービルを聞かされただけで、実際の繋ぎ融資はサウジとUAEが、土壇場で救済に乗り出した。つまり蜜月と言われたパキスタンと中国の関係は冷却している。
中国が世界的規模で、その政治的経済的な影響力の増大を意図し、全世界に持ちかけてBRI(一帯一路)プロジェクトの目玉、最大の投資が、このパキスタンに行われていた。計画では620億ドル。現実に中国が投下した金額は190億ドル。賄賂が横行し、ふたりの前首相が刑務所に入り、壮大な「中国の夢」は砂漠の砂嵐とともに去った。
パキスタン西南部のグアダールを拠点に石油とガスのパイプライン、高速道路と鉄道、光ファイバー網を構築し、中国のカシュガルへ繋げる。これが鳴り物入りの壮大なプロジェクト「CPEC」(中国パキスタン経済回廊)の全貌だった。習近平の目玉だった。
工事中から労働者の賃金不払い、セメントなど建設材料の横流し、建機の盗難、鉄道工事も途中からレースが盗まれ鉄くずに売られ、政府高官は賄賂が幾らなのかという意識しかなかった。
現場を取材した香港の特派員が「建築現場は高いフェンスで囲まれているが、内部には茶色の沙が積み上がり、輝いているのは雲母の破片だけ、砂埃、砂嵐。労働者が不在、輸出加工区、工場建設予定地も砂の中に埋もれそう」と実態をレポートした。
港湾にはパキスタン海軍のフリゲート鑑が一隻だけ。カラチとの定期貨物船が行き来するはずなのに、商業船は見あたらないという。
港湾沿いに建設中の空港は、三年前に完成予定だった。いま、三分の一ほどの工事しか進んでおらず、パキスタン政府の公式見解に拠れば『全体の三分の一が完成した』とする。それなら、残りは?
ましてやグアダール港の位置はイランに近く、住民はバロジスタン。独立精神が旺盛で武装ゲリラが中国人を拉致・誘拐したり、労働者を殺害したり、ついには中国が建設した豪華ホテルを襲撃し、五人を殺害した。
こうした動きを驚異的に見ているのが近隣のスリランカ、モルディブ、そして中国資本の浸透が甚だしいネパールとバングラデシュである。
令和弐年(2020)3月10日(火曜日)
通巻6395号 <前日発行>
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習近平の目玉だったCPEC(中国パキスタン経済回廊)のいま
一帯一路。砂漠に壮大な廃墟を建設、資金は汚職で消えていた
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パキスタンはIMFと救済案件を交渉し、60億ドルの救済が認められた。1980年以来、パキスタンのIMFとの交渉は13回目。未払いは常習。このままでは中国主導の一帯一路プロジェクトの重要案件は途中で打ちきりになりそうだ(『ザ・タイムズ・オブ・インディア』、3月8日付け)。
IMFが60億ドル救済という意味は債権者が80%の債権放棄を意味する。当初、パキスタンは中国に追加融資を要請したが、「出来ることは何でも協力する」とのリップサービルを聞かされただけで、実際の繋ぎ融資はサウジとUAEが、土壇場で救済に乗り出した。つまり蜜月と言われたパキスタンと中国の関係は冷却している。
中国が世界的規模で、その政治的経済的な影響力の増大を意図し、全世界に持ちかけてBRI(一帯一路)プロジェクトの目玉、最大の投資が、このパキスタンに行われていた。計画では620億ドル。現実に中国が投下した金額は190億ドル。賄賂が横行し、ふたりの前首相が刑務所に入り、壮大な「中国の夢」は砂漠の砂嵐とともに去った。
パキスタン西南部のグアダールを拠点に石油とガスのパイプライン、高速道路と鉄道、光ファイバー網を構築し、中国のカシュガルへ繋げる。これが鳴り物入りの壮大なプロジェクト「CPEC」(中国パキスタン経済回廊)の全貌だった。習近平の目玉だった。
工事中から労働者の賃金不払い、セメントなど建設材料の横流し、建機の盗難、鉄道工事も途中からレースが盗まれ鉄くずに売られ、政府高官は賄賂が幾らなのかという意識しかなかった。
現場を取材した香港の特派員が「建築現場は高いフェンスで囲まれているが、内部には茶色の沙が積み上がり、輝いているのは雲母の破片だけ、砂埃、砂嵐。労働者が不在、輸出加工区、工場建設予定地も砂の中に埋もれそう」と実態をレポートした。
港湾にはパキスタン海軍のフリゲート鑑が一隻だけ。カラチとの定期貨物船が行き来するはずなのに、商業船は見あたらないという。
港湾沿いに建設中の空港は、三年前に完成予定だった。いま、三分の一ほどの工事しか進んでおらず、パキスタン政府の公式見解に拠れば『全体の三分の一が完成した』とする。それなら、残りは?
ましてやグアダール港の位置はイランに近く、住民はバロジスタン。独立精神が旺盛で武装ゲリラが中国人を拉致・誘拐したり、労働者を殺害したり、ついには中国が建設した豪華ホテルを襲撃し、五人を殺害した。
こうした動きを驚異的に見ているのが近隣のスリランカ、モルディブ、そして中国資本の浸透が甚だしいネパールとバングラデシュである。