いせ九条の会

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事実に基づかない改憲派の読売新聞の社説/山崎孝

2008-12-20 | ご投稿
【空自イラク撤収 国のあり方が問われた任務】(12月18日付・読売社説)

 歴史的な自衛隊の任務が成功裏に完了した。

 クウェートとイラクとの間の輸送業務に従事していた航空自衛隊のC130輸送機3機が、帰国の途に就いた。

 空輸は5年間で821回に上り、多国籍軍兵や国連関係者ら約4万6500人と物資673トンを運んだ。イラク復興支援への協力を各国に求める国連安全保障理事会決議の期限が今年末に切れるのに合わせて、撤収を決めた。

 空自がこの間、隊員の安全確保に細心の注意を払い続け、1人の犠牲者も出さなかったことは、高く評価されていいだろう。

 空自と陸上自衛隊のイラク派遣は従来にない危険を伴うもので、日本の国のあり方が問われた。

 仮に復興活動が破綻(はたん)し、イラクがテロの巣窟(そうくつ)となれば、原油の高騰ばかりか、中東と世界の平和と安定が損なわれかねない。

 そんな局面でも、危険な任務はすべて他国に任せ、湾岸戦争と同様、自らは資金支援だけで済ませ続けるのか。それとも、一定の危険は覚悟し、人的支援の国際共同行動の一翼を担うのか。

 日本が後者を選択し、従来の国際活動から一歩踏み出したのは間違っていなかったと言えよう。

 空自は、災害救援などで海外で輸送活動を行ったことはあるが、海外に拠点を置く長期間の任務は初めてだった。他国軍との共同活動を通じて、効果的な部隊運用のノウハウを学べたはずだ。

 事前に得た脅威情報を実際の安全確保にどう反映させるか。どんな装備が本当に役立つのか。こうした様々な教訓を今後の国際活動に着実に生かすことが重要だ。

 自衛隊は今や、日本有事に備えて高価な装備を導入し、訓練だけしていればいい存在ではない。国内の災害派遣や国際平和協力活動などの「実任務」に部隊を積極的に活用せねばなるまい。

 自衛隊は撤収しても、政府開発援助(ODA)などによるイラク支援は継続する必要がある。

 イラクの治安は改善しているとはいえ、通常の経済活動ができる状態にはほど遠い。

 日本は2003年に50億ドルのODAを表明し、このうち15億ドルの無償支援は実施した。だが、35億ドルの有償支援は、電力、港湾整備など25億ドル分が実施段階に入っただけで、残りの10億ドル分はいまだに内容も決まっていない。

 残る有償支援の実施を急ぐとともに、民間企業のビジネスや投資を軌道に乗せなければ、イラク復興支援活動は完了しない。

【コメント】読売新聞の社説は事実を正確に表現していません。《多国籍軍兵や国連関係者ら》と述べていますが、空輸した多国籍軍兵の大多数が米兵だったことに触れていません。

読売新聞の社説は《仮に復興活動が破綻(はたん)し、イラクがテロの巣窟(そうくつ)となれば、原油の高騰ばかりか、中東と世界の平和と安定が損なわれかねない》と述べていますが、フセイン政権下では国際テロ組織アルカイダは存在せず、イラク戦争の混乱を機会にイラクに侵入しています。イラクでテロが頻発したのは米英のイラク侵略により武装抵抗組織が生まれてからです。なぜイラクに紛争と混乱が起こったのかの根本に触れず、米英のイラク侵略後の現象を述べるだけです。それに2008年の原油の高騰は金融資本の先物取引による操作が主たる原因です。イラクは自分の国の石油需要も充分に賄えなくなっています。

世界的な人権擁護組織アムネスティ・インターナショナルのHPには次のような記述があります。《イラクでの絶え間ない紛争で約150万人が国内避難民になり、さらに約200万人が難民となった。急増する人道的危機に対する懸念はイラクのみならずシリアやヨルダン国内においても広がっており、これらの近隣諸国はイラク難民の大量流入によって引き起こされる問題の対応に苦労している》。この大規模な難民はフセイン政権下で起こっていたのではなく、米英のイラク侵略が引き起こしたものです。難民の大半はまだイラクに戻ってはいません。イラクには宗派毎の居住区を分断する巨大な壁が作られています。

読売新聞の社説は《一定の危険は覚悟し、人的支援の国際共同行動の一翼を担うのか》と述べていますが、イラク戦争にかかわったのは、米国を中軸とした有志連合型でイラク攻撃を容認する国連決議はなく国際共同行動ではありませんでした。

2003年10月16日、イラクへ明確な主権移譲日程に関して、国連の役割強化などを要求してきたフランス・ロシア・ドイツも賛成して安全保障理事会決議1511号を採択しています。しかし、フランス・ロシア・ドイツはイラクに対して兵力や資金支援をしないと表明しました。

読売新聞の社説は正確な事実を踏まえて論説を書くべきです。

読売新聞社説は《1人の犠牲者も出さなかったことは、高く評価されていいだろう》と述べていますが、これは自衛隊をイラクに派遣する法的根拠のイラク特別措置法には、憲法規定の制約を受けて自衛隊の活動は「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」と定めていたからです。仮に読売新聞の主張のように、海外で武力行使が出来るようになっていれば、英国がイラクで140人を超える戦死者を出しているのを見れば容易にその結果は推察できます。