いせ九条の会

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日本の新聞各社の論調は名古屋高裁判決を論点に取り入れた/山崎孝

2008-09-17 | ご投稿
政府の自衛隊イラク撤収の方針を受けて論じた日本の新聞各社の論調を紹介します。何れもが名古屋高裁が航空自衛隊の空輸活動は他国の武力行使と一体となったものとして違憲判決を下したことを論点に取り入れています。そのことに関連する部分を抜粋して紹介します。

名古屋高裁の判決は、改憲問題を国民が考える上での有力な判断材料になると思います。

★北海道新聞 2008年9月15日付【イラク撤収 活動の検証が不可欠だ】
(前略) 開戦の「大義」だった大量破壊兵器の存在はついに立証されなかった。戦争の正当性は否定された。これが国際社会の共通認識だ。
 にもかかわらず、小泉純一郎政権以降の日本政府は自衛隊派遣による対米協力を継続してきた。
 今年四月には、名古屋高裁が空自の活動に対して明確な違憲判断を下した。
 武装した多国籍軍兵士を運ぶことは、他国による武力行使と一体化したものだ。この司法判断にも、政府は正面からこたえていない。
 問題なのは、自衛隊のイラクでの活動実態が国民の前に明らかになっていないことである。
 空自について政府は多国籍軍や国連の輸送支援を行っていると説明しているが、具体的に何を運び、どんな作戦に従事していたのか。詳細は不明のままだ。
 さらに陸自の活動も現地の人々のニーズにこたえたものだったか。
 米国は今後、イラク駐留軍を削減し、テロとの戦いの重点をアフガニスタンに移そうとしている。
 日本政府に対し、来年一月に期限切れとなるインド洋での給油活動の継続だけでなく、要員派遣や資金援助を求める声も出ている。
 憲法の下で、日本がどのような協力を行い、国際的な責任を担うべきなのか。米国の要求に付き従い、無理を重ねた自衛隊の派遣によらずとも、民生や地域の復興活動など幅広い選択肢があるはずだ。
 国際貢献の在り方を考え、今後に生かすため、イラクにおける自衛隊の活動の検証が欠かせない。(以上)
★信濃毎日 2008年9月14日付【イラクの空自 何をしたのか検証を】
イラクで空輸活動にかかわる航空自衛隊部隊を年内に撤収させる方針を政府が発表した。2004年3月に始まった活動は、約5年で幕を閉じる。
 すでに撤収した陸上自衛隊を含め、イラクへの自衛隊派遣は、日本の外交・安全保障政策にとって曲がり角となった。自衛隊が初めて、事実上の戦地に足を踏み入れたからだ。
 空自派遣には初めから疑問符が付いていた。その1つが憲法との兼ね合いである。
 空自は現在、隣国クウェートを拠点に輸送機3機でイラクのバグダッド空港などに、国連と多国籍軍の人員や物資を運んでいる。
 米軍を中心とする多国籍軍が武装勢力の掃討作戦を進め、空自機がその兵士を運ぶ。これでは当然、軍事的な色彩は濃くなる。憲法で認められない集団的自衛権の問題にかかわってくる。
 名古屋高裁も4月に「空自の空輸活動は他国の武力行使と一体化し、憲法九条などに違反する」と警鐘を鳴らした。それを政府はまったく無視した。(中略)
 空自派遣は、イラク復興支援特別措置法に基づく。07年6月の法改正で、活動期限は来年7月末に延びた。期限前の空自撤収は▽国連決議が年末で期限切れとなる▽イラク国内の治安状況回復-が理由とされている。
 果たして、それだけだろうか。政府の発表直前に、ブッシュ米大統領がイラク駐留米軍を来年2月までに計約8000人削減する方針を表明した。あうんの呼吸ともいえる日米の動きを、切り離して考えることはできない。
 米国の関心はアフガニスタンに移っている。日本がイラクからの空自撤収と引き換えに、インド洋での給油活動を延長する。そんな筋書きも考えられているようだ。アフガンでの軍事作戦が、地域の安定をむしろ損なっている可能性がある。給油の継続を簡単に認めるわけにはいかない。
 空自派遣について、政府の説明はこれまで十分ではなかった。空輸物資に武器弾薬は含まれていないか、武装の有無はどうか。隠されたままの情報が多すぎる。
 空自がイラクでやってきた中身の検証が欠かせない。政府には情報を開示する義務がある。(以上)
★中国新聞 2008年9月13日付【空自イラク撤収 支援の検証が不可欠だ】
イラクで空輸活動を続ける航空自衛隊の部隊が年内に撤収する。派遣をめぐって国論が二分され、司法の「違憲判断」も出ていた。引き揚げるのは当然だろう。そもそもイラクへの自衛隊派遣は平和国家にふさわしい貢献策だったのか、本当に復興に役立ったのか。徹底的な検証が必要だ。
 撤収の理由について、政府はイラク国内の治安が回復傾向にあり、多国籍軍の駐留根拠である国連決議の期限が年末で切れることを挙げる。ブッシュ米大統領も駐留米軍八千人の削減方針を示し、各国軍の撤退も相次いでいる。今回の政府判断はそうした流れに沿ったといえる。(中略)
 空輸の回数や量などの情報は公表されてきたものの、中身や目的についてはほとんど明らかにされていない。軍事作戦に加担しているのではないか、といった疑問や批判が出ていたのはこのためだ。
 今年四月に、イラク派遣をめぐる裁判で名古屋高裁が違憲判断を示した。バグダッドは特措法が認めていない「戦闘地域」にあたるとしたうえで、武装兵士の空輸は自ら武力行使したことと同じ行為であるとして、憲法九条に違反するとした。
 政府は従来、武力行使を伴う多国籍軍には参加できないとの立場を堅持してきた。しかし当時の小泉政権は国会で十分な議論のないまま自衛隊派遣を強行した。憲法に照らし合わせて無理はなかったか。陸自のサマワ派遣について「自衛隊が活動する地域が非戦闘地域だ」と小泉純一郎首相が強弁せざるを得なかったことに、問題の本質が表れていたように思える。
 フセイン政権は崩壊したが、米英が主張していた大量破壊兵器は見つからなかった。米中枢同時テロを実行した国際テロ組織のアルカイダと関係ないことも確認された。一貫して米国のイラク政策に追従してきたことに間違いはなかったのか、政府は国民が納得できるような説明をするべきだ。
 米国は今後、アフガニスタンを中心としたテロ対策に軸足を移すことになりそうだ。それに伴い日本政府は、インド洋での海上自衛隊による給油継続を目指している。ただ、来年一月に期限が切れる新テロ対策特別措置法の延長に対し、参院で多数を占める野党が強く反対。自民党と連立を組む公明党は衆院での再議決に慎重姿勢を示すなど先行きは不透明だ。
 十一月にも予想される衆院選では、給油継続が争点になるのは間違いない。政府は「国際社会の一員として継続を」と主張するが、それしか国際貢献の手だてはないのか。国民的な議論を深めることが政治に求められている。そのためにはまず、イラクでの自衛隊の活動を速やかに検証し、功罪を明らかにすることが不可欠だ。(以上)
★琉球新報 2008年9月13日付【空自イラク撤収 復興支援の論議深めよう】
 政府は、イラクで空輸に当たっている航空自衛隊を年内にも撤収する方針を発表した。陸上自衛隊の2006年のイラク撤収以降も続いていた空自活動が終われば、04年に始まったイラクでの自衛隊活動は完全に終了する。
 イラク復興支援特別措置法に基づく空輸活動は、空自が参加する多国籍軍の駐留根拠となっている国連決議が年末に期限切れとなる。このため、政府は年明け以降も活動に必要な、イラク政府との新たな地位協定の締結を模索した。
 が、参院の与野党逆転による国会審議が紛糾することを懸念したものとみられる。
 空自のイラク活動はC130輸送機3機がバグダッド空港など3空港で国連と多国籍軍の兵士や物資を空輸。任務飛行は700回を超え、600トン超の物資を輸送した。
 イラクでの空自活動をめぐっては、4月に名古屋高裁が憲法9条に違反すると判断した。高裁は、バグダッドが戦闘地域に当たるとして、空輸活動も外国軍の武力行使と一体化だと指摘した。
 高裁判断に対し、政府は傍論部分の指摘だとして拘束力はない、とその後も活動を継続してきた。
 ここにきて撤収方針を発表した背景には、空自活動を終えることで、テロとの戦いへの貢献策は「インド洋での海上自衛隊による給油活動しかない」とする狙いがあるとされる。自民党総裁選や次期衆院選で給油問題を争点化し、継続への国民理解を促そうというシナリオが透けて見える。
 憲法9条に違反すると高裁が判断した空自のイラク撤収は歓迎したい。国論を2分した復興支援に対し、あらためて憲法論議を含め検証すべきだろう。よもや空自撤退を給油活動につなげるカードにしてはならない。
 次期衆院選で、与党が過半数を占めても衆院再議決に必要な3分の2以上の勢力維持は厳しいとする見方がある。与党だけで衆院選後の対テロ新法改正案の成立は厳しい。空自撤退の検証を含め、徹底的な国会論議を求めたい。