いせ九条の会

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アジアの相互依存関係を破壊してまで戦争を行う理由は?/山崎孝

2006-08-29 | ご投稿
先日、天児慧・早稲田大学教授の『現在のアジア情勢は「協力や相互依存が深化して、やがてうねりとなっていくであろうアジアの連帯・統合への胎動である」という言葉を紹介しました。8月27日の朝日新聞は天児慧・早稲田大学教授の述べたアジア地域の「協力や相互依存の深化」の状況を日本企業を取材して報道しています。この記事を紹介します。

【ものづくりアジア分業】インドネシア産の車体パネル、フィリピン産の変速機、マレーシア産のステアリング部品……。アジアの7カ国で作られた自動車部品が運び込まれてくる。シンガポール港の一角にあるトヨタ自動車の部品物流基地だ。

 フォークリフトが、部品を行き先の組み立て工場ごとに仕分けし、40分後にはそれぞれ積み上げた。ここから再びアジアを中心とする11カ国の工場に向けて出て行く。

 トヨタは2004年、アジアでの分業を活用した「新国際多目的車(IMV)」を発売。アジアで動く部品量は大幅に増えた。「部品の9割以上を域内で賄うからこそ割安な車を出せる」と、タイ現地法人の佐々木良一社長は言う。

 アジアでの部品調達・供給網が太く、密になったのは、域内で各国間の自由貿易協定(FTA)が増え、国境の壁だった関税が下がったからだ。

 キャノンの家庭用インクジェットプリンターの場合、中高級機種は技術力の高いタイ工場、低価格機種は人件費の安いベトナム工場で生産。各工場には中国が金型や特殊部品、日本が半導体などの基幹部品を供給する。

 日本を含めたアジア各国がその持ち味を生かしながら仕事を分担する態勢が出来上がっている。

 松下電器産業のアジアでの生産規模は国内を上回る。域内で購入する原

材料・部品総額は年間1兆2千億円に上る。山本亘苗・資材調達本部長は「日本とアジアは運命共同体だ」と言う。

 東アジア域内の貿易比率は5割を超え、欧州連合(EU)の6割に迫る。とりわけ日中の相互依存は際たつ。日本の対中貿易額(含む香港)は2004年に米国を抜きトップになり、昨年の貿易総額は約25兆円だった。中国商務省グローバル企業研究センターの王志楽主任は、「日本と中国は一体のサプライチェーン(供給連鎖)となっている。日本企業の技術とブランド力、中国に進出した工場でのコストダウン効果が相まって国際競争力が増している」と指摘する。

 日本は戦後、米国と安全保障でも経済面でも運命共同体として歩んできた。だが、21世紀に入り、経済面でアジアの重みは増し「東アジア共同体」という言葉も首脳たちの間で語られる。

 経済の相互依存は日中などの政治的な緊張を和らげるのだろうか。

 経済同友会の北城代表幹事は「日本は、中国が国際社会の責任ある一員になることを支援すべきだ。経済連携を深めることは一つの安全保障になる」と話す。(以上)

1985年の日本の貿易は北米向けが32.9%ありましたが、中国向けは6.2%に過ぎませんでした。この時点での日本外交を米国一辺倒だとの批判に対して国益が大切といわれれば幾分かの言い分がありました。しかし、現在は新聞報道のように大きく変わっています。中国脅威論を唱える政治家は国益を軽視していると言われても有効な反論は出来ないと思います。

中国脅威論は、中国が日本に戦争を仕掛けると主張することです。「日本と中国は一体のサプライチェーン(供給連鎖)となっている。日本企業の技術とブランド力、中国に進出した工場でのコストダウン効果が相まって国際競争力が増している」という状況、アジア域内での「協力や相互依存の深化」の状況を破壊してしまうことです。日米が周辺事態に想定している中国と台湾の関係は、台湾の企業が中国大陸に進出して台湾の人たちが100万人以上大陸で働いています。中国大陸からは台湾への観光旅行者が2005年は約385万人に達し、台湾当局は2008年までに500万人増やす計画です。これは台湾が警戒心を解いて部分開放から全面解放に切り替えたからでした。中国大陸の人たちのお金の使いぷりはとても良くて台湾観光業の人たちは歓迎しているということです。このような共存関係を紛争を起こして破壊してどのような利益をえることが出来るでしょうか。

かつて日本が中国に戦争を仕掛けたこと、700年以上中国が日本に侵攻していない歴史を無視して、中国は戦争を仕掛ける国であると主張する人たちは、新聞に報道されている状況を上回る中国側の利益を戦争はもたらすとことを論理的に説明しなければならないと思います。単に中国が軍事費を拡大している理由だけでは中国脅威論を唱える根拠になりません。

日本が軍事超大国そして何度も侵略戦争を行う米国と軍事組織の一体化を図り、空中給油機部隊の編成、高速輸送船の導入など専守防衛ではなく、海外での武力行使を想定した軍拡を図る。そしていままで歯止めをしていた外国での武力行使が出来る憲法に変える政治的動きが、かつて日本に侵略されたアジアの国に脅威を与えていないとは言えません。

中国脅威論は、軍隊を持つという軍事志向の改憲へ世論の下地を作るための一つの政治宣伝です。この中国脅威論はいかに日本とアジアの現実を直視していないかが分ります。