完全ネタバレです。
ストーリー、全部書いています。
「ベント」は、エルンスト・レーム率いる突撃隊が
粛清された、その夜から始まる。
ルキノ・ヴィスコンティが「地獄に堕ちた勇者ども」で
ねちこく描いた、あの長いナイフの夜。
あの映画を見た時、ナチス親衛隊と突撃隊、
そして正規のドイツ軍隊、
これらの勉強をいちおうした、つもり。
でも、突撃隊の多くが同性愛者だったみたいなのは、
ヴィスコンティの創作かと思っていた。
でもレームは同性愛者だったという。
そして、突撃隊の粛清とともに、同性愛者狩りが始まった。
主人公マックスはその日暮らし。
恋人(男)のダンサー、眼鏡をかけたルディと同棲している。
楽しく毎日を過ごせればそれでいい。
(ルディがとても可愛らしいキャラクターに描いてあるので、
よけいに酷さが際立つ)
ある日マックスは酔って知らないホモ男を家に連れ帰り、
そしてその翌日、
レームの殺害を知る。
知らない男は、突撃隊の幹部と通じていた。
マックスとルディの目の前で、親衛隊に見つかり殺された。
マックスとルディは逃げた。
逃げて、森の中のテントで暮らす。
不自由な逃亡生活。
でもやがて見つかって、逮捕された。
ダハウの強制収容所へ向かう護送列車の中。
何人かの囚人。
ピンクの三角を胸に付けた囚人服の男、ホルストがいた。
彼は言う、
ピンクの三角はホモの印、
ユダヤ人は黄色の星、
政治犯は赤の三角。
ピンクは最低だ。
列車の中でも拷問による殺害が続いていた。
ルディが目をつけられる。
眼鏡をしていたからだ。
たったそれだけの理由で。
士官による拷問。
何度も殴られる。半殺しにされる。
ホルストはマックスに言う。
助けようとするな。
生き延びたければ、見殺しにするしかない。
士官はマックスに、ルディを殴れと命じる。
マックスは、ためらったのち、
ルディを殴る。
狂ったように、何度も何度も、殴る。
ルディは死んだ。
ダハウの強制収容所の宿舎。
ホルストに粗末な食事が配られる。
マックスが来た。
黄色の星のマークを付けていた。
マックスの食事は、ホルストよりましだった。
ホルストは言う。
お前はホモだろう?
マックスは違うという。
自分はユダヤ人だと言う。
ピンクの三角は、欲しくなかったという。
最低の印だから。
だから取引をしたという。
生き延びたい。だから取引をすると言う。
13歳くらいの、まだ少女だった。
多分、死んでいた。
弾に当たって死んだばかりの、その死体をやった。
奴らと取引をした。
ホモでないなら、その証明をしろと。
奴らの目の前で、やった。
奴らは笑ってた、喜んで見ていた、
俺は黄色の星をくれと言った。
俺は人間の屑だとマックスは言った。
違うとホルストは言った。
収容所内の作業場。
大きな柵が張られている。
それには電気が通っている。
触れば即死。
山積みの岩と、大きな腐臭のする穴。
黄色の星をつけたマックスが一つの山に岩を運び、
そして運び終わると、またもう一つの山に岩を戻す。
仕事はそれだけ。
ホルストが連れられて来る。
マックスは仕事を説明する。
二時間ごとの休憩が三分間。
それ以外は岩を運び、それをもとに戻す仕事。
マックスは言う。
俺たちの気を狂わせるためだけの仕事だ。
なんの意味もない。
目的もない。
だからお前を呼んだ。
収容所の仕事では最高の仕事だ。
話し相手さえいれば。
発狂させるための仕事だ。
だけど、顔を見合わせてはいけない。
話してるのがばれると殺される。
衛兵が、時々捕囚に、気まぐれに帽子を柵に投げろと言う。
それを取ってこいと命令する。
取りに行かなければ、銃殺。
取りに行けば感電死。
衛兵に金をつかませて、お前を呼んだと
マックスは言う。
喜んでくれると思った。
最高の仕事だから。
ホルストは口をきくのも嫌だと言った。
3日後。
相手を見ることもなく、
岩を運ぶとき、一瞬すれ違うだけの二人。
暑い日だった。
口をきかなければ、気が狂う。
お前を呼んだりして悪かったとマックスは言う。
そんな権利はなかった。
ホルストは言う。
自分のことをひどい奴だなんて考えるな。
にっこりしろ。
顔を見て話したいとマックス。
ホルストは言う。
俺は見てる。朝からずっと。
お前を感じている。
きれいな体をしているな。
あんたも、いい体をしている。
何でわかるんだ?
ずっと見ていた。
ホルスト、
誰だってやりたいよな。
収容所にいる奴みんな。
やりたくて気が狂うほどだ。
思い出さないか?
思い出す。
その気になれば出来る。
マックス、
顔を見ることも出来ないのに。触れ合うことも。
ホルストは言う。
感じられる。
お互いを見なくても。触らなくても。
今だって俺はあんたを感じてる。
俺を感じるか?
俺を感じろ。
あんたにさわってる。
とても暑い。
・・・・・・・・・・・・・・
ここから、劇のクライマックスになる…
俺を感じるか?
感じる。
見える。
感じる。
俺のものだ。
お前が欲しい。
感じるか、お前の中に、俺を?
入って来てくれ。
感じろ……
俺の中だ、お前は。
入った…
強く。
感じるか、突いてるのを……?
・・・・・・・
休憩のあいだの、わずかな時間の中で、
ふれあうことなく愛を交わした二人。
俺たちはやった。
生きている。人間だ。
殺すことはできない。
秋。
ホルスト、俺は気が狂う。
岩はなくならない。
俺のせいだ、悪かった、
呼ぶべきじゃなかった。間違ってた。すまん。
とマックス。
ホルスト、
俺は喜んでるよ。
お前が好きだから。
お前の夢を見ている。
お前に会えると思うだけで、元気が出る。
すれ違う時に、この目のはしでお前を見られる。
生きる理由がある。
-----俺を愛さないでくれ。
合図を決めた。
お前の方を向いて、左の眉を掻いたら、
愛しているという意味だ。
誰にもわからない。
これなら衛兵がいたって平気だ。気づかれない。
-----愛さないでくれ。
俺は愛を返せない。
そんなことは求めてない。
ホモは、愛に向いてないんだ。
あのダンサー、俺を愛してた。
俺はあいつを殺した。
俺はお前も殺す。だから憎め。
その方がましだ。
俺の自由だ。お前とは関係ない。
ホルストは咳をしはじめた。
冬になった。
ホルストの咳はやまない。
マックスは、ホルストがやってくれたように、
彼を暖めようとする。
お前は安全だ、俺が暖める、
お前を抱いている、
二人が一緒にいるかぎり、
二度と寒い思いはしない……
ホルストの咳はやまない。
マックスは薬を渡す。
どうやって手に入れたのかとホルストは聞く。
金で買った。
でも嘘だった。
親衛隊の大尉と寝た。
ホモだったかもしれない。
でもピンクの三角をつけてたら
俺と寝なかった。
黄色だったから寝た。
・・・・・・
作業場に、親衛隊の大尉と伍長がやって来る。
咳をしているホルストに目をつける。
ホルストの咳はやまない。
大尉は、ホルストに帽子を取れと命じる。
その帽子を柵に投げろと。
ホルストは命じられるままに帽子を投げる。
大尉はマックスによく見ておけと言う。
大尉はホルストに帽子を取りに行けと命じる。
ホルストは、マックスの視線を感じ、
マックスを見て、左の眉を掻く。
そしてゆっくり柵へ向かう。
伍長がライフルでホルストを狙っている。
ホルストは柵のすぐそばまで歩いたところで、
いきなり振り向き、大尉に駆け寄り絶叫する。
伍長がホルストを撃つ。
ホルストは息絶える。
…
大尉は、マックスに、死体を片付けろと命じ、去る。
マックスは、ホルストの死体を抱え上げ、
引きずり、穴に向かう。
倒れかかるホルストを胸に抱き、
気をつけの姿勢でじっと立つ。
心配するな。離さない。
お前を抱いているよ。
分かるか?
俺は、
お前を愛しているんだ。
しっかり抱きしめている。
愛している。
どこが悪い?どこが悪い?
マックスは、ホルストの死体を穴に放り込む。
作業を始める。
穴に戻り、中に入る。
ホルストの上着を掴んで出て来る。
マックスは、
そのピンクの三角のついた、ホルストの上着を着る。
そして、柵へ向かって歩いて行くのだった。
__________________________________________
自分がホモであることを認めることが出来ず、
生きるためなら鬼畜な行為もする、
本当の愛を知らない、
そんな自分を自嘲しクズだというマックスに、
大きな愛で彼を包み込むホルスト。
ホルストの存在が、マックスを変える。
人間という誇りを取り戻し、
ホモである自分を認め、受け入れ、
そして、その愛に生きる決意をする。
それは愛に殉じる、ということでもあったのだが。
ただ、幕切れで、確かにマックスは死に赴くが、
それは死ぬためではない。
生きるためだ。
愛を貫くため、愛に生きるために、
自分の愛を生き抜くために、そうするのだ。
彼は、愛を生き抜いて、人生をまっとうしたのだと
私は思う。
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粛清された、その夜から始まる。
ルキノ・ヴィスコンティが「地獄に堕ちた勇者ども」で
ねちこく描いた、あの長いナイフの夜。
あの映画を見た時、ナチス親衛隊と突撃隊、
そして正規のドイツ軍隊、
これらの勉強をいちおうした、つもり。
でも、突撃隊の多くが同性愛者だったみたいなのは、
ヴィスコンティの創作かと思っていた。
でもレームは同性愛者だったという。
そして、突撃隊の粛清とともに、同性愛者狩りが始まった。
主人公マックスはその日暮らし。
恋人(男)のダンサー、眼鏡をかけたルディと同棲している。
楽しく毎日を過ごせればそれでいい。
(ルディがとても可愛らしいキャラクターに描いてあるので、
よけいに酷さが際立つ)
ある日マックスは酔って知らないホモ男を家に連れ帰り、
そしてその翌日、
レームの殺害を知る。
知らない男は、突撃隊の幹部と通じていた。
マックスとルディの目の前で、親衛隊に見つかり殺された。
マックスとルディは逃げた。
逃げて、森の中のテントで暮らす。
不自由な逃亡生活。
でもやがて見つかって、逮捕された。
ダハウの強制収容所へ向かう護送列車の中。
何人かの囚人。
ピンクの三角を胸に付けた囚人服の男、ホルストがいた。
彼は言う、
ピンクの三角はホモの印、
ユダヤ人は黄色の星、
政治犯は赤の三角。
ピンクは最低だ。
列車の中でも拷問による殺害が続いていた。
ルディが目をつけられる。
眼鏡をしていたからだ。
たったそれだけの理由で。
士官による拷問。
何度も殴られる。半殺しにされる。
ホルストはマックスに言う。
助けようとするな。
生き延びたければ、見殺しにするしかない。
士官はマックスに、ルディを殴れと命じる。
マックスは、ためらったのち、
ルディを殴る。
狂ったように、何度も何度も、殴る。
ルディは死んだ。
ダハウの強制収容所の宿舎。
ホルストに粗末な食事が配られる。
マックスが来た。
黄色の星のマークを付けていた。
マックスの食事は、ホルストよりましだった。
ホルストは言う。
お前はホモだろう?
マックスは違うという。
自分はユダヤ人だと言う。
ピンクの三角は、欲しくなかったという。
最低の印だから。
だから取引をしたという。
生き延びたい。だから取引をすると言う。
13歳くらいの、まだ少女だった。
多分、死んでいた。
弾に当たって死んだばかりの、その死体をやった。
奴らと取引をした。
ホモでないなら、その証明をしろと。
奴らの目の前で、やった。
奴らは笑ってた、喜んで見ていた、
俺は黄色の星をくれと言った。
俺は人間の屑だとマックスは言った。
違うとホルストは言った。
収容所内の作業場。
大きな柵が張られている。
それには電気が通っている。
触れば即死。
山積みの岩と、大きな腐臭のする穴。
黄色の星をつけたマックスが一つの山に岩を運び、
そして運び終わると、またもう一つの山に岩を戻す。
仕事はそれだけ。
ホルストが連れられて来る。
マックスは仕事を説明する。
二時間ごとの休憩が三分間。
それ以外は岩を運び、それをもとに戻す仕事。
マックスは言う。
俺たちの気を狂わせるためだけの仕事だ。
なんの意味もない。
目的もない。
だからお前を呼んだ。
収容所の仕事では最高の仕事だ。
話し相手さえいれば。
発狂させるための仕事だ。
だけど、顔を見合わせてはいけない。
話してるのがばれると殺される。
衛兵が、時々捕囚に、気まぐれに帽子を柵に投げろと言う。
それを取ってこいと命令する。
取りに行かなければ、銃殺。
取りに行けば感電死。
衛兵に金をつかませて、お前を呼んだと
マックスは言う。
喜んでくれると思った。
最高の仕事だから。
ホルストは口をきくのも嫌だと言った。
3日後。
相手を見ることもなく、
岩を運ぶとき、一瞬すれ違うだけの二人。
暑い日だった。
口をきかなければ、気が狂う。
お前を呼んだりして悪かったとマックスは言う。
そんな権利はなかった。
ホルストは言う。
自分のことをひどい奴だなんて考えるな。
にっこりしろ。
顔を見て話したいとマックス。
ホルストは言う。
俺は見てる。朝からずっと。
お前を感じている。
きれいな体をしているな。
あんたも、いい体をしている。
何でわかるんだ?
ずっと見ていた。
ホルスト、
誰だってやりたいよな。
収容所にいる奴みんな。
やりたくて気が狂うほどだ。
思い出さないか?
思い出す。
その気になれば出来る。
マックス、
顔を見ることも出来ないのに。触れ合うことも。
ホルストは言う。
感じられる。
お互いを見なくても。触らなくても。
今だって俺はあんたを感じてる。
俺を感じるか?
俺を感じろ。
あんたにさわってる。
とても暑い。
・・・・・・・・・・・・・・
ここから、劇のクライマックスになる…
俺を感じるか?
感じる。
見える。
感じる。
俺のものだ。
お前が欲しい。
感じるか、お前の中に、俺を?
入って来てくれ。
感じろ……
俺の中だ、お前は。
入った…
強く。
感じるか、突いてるのを……?
・・・・・・・
休憩のあいだの、わずかな時間の中で、
ふれあうことなく愛を交わした二人。
俺たちはやった。
生きている。人間だ。
殺すことはできない。
秋。
ホルスト、俺は気が狂う。
岩はなくならない。
俺のせいだ、悪かった、
呼ぶべきじゃなかった。間違ってた。すまん。
とマックス。
ホルスト、
俺は喜んでるよ。
お前が好きだから。
お前の夢を見ている。
お前に会えると思うだけで、元気が出る。
すれ違う時に、この目のはしでお前を見られる。
生きる理由がある。
-----俺を愛さないでくれ。
合図を決めた。
お前の方を向いて、左の眉を掻いたら、
愛しているという意味だ。
誰にもわからない。
これなら衛兵がいたって平気だ。気づかれない。
-----愛さないでくれ。
俺は愛を返せない。
そんなことは求めてない。
ホモは、愛に向いてないんだ。
あのダンサー、俺を愛してた。
俺はあいつを殺した。
俺はお前も殺す。だから憎め。
その方がましだ。
俺の自由だ。お前とは関係ない。
ホルストは咳をしはじめた。
冬になった。
ホルストの咳はやまない。
マックスは、ホルストがやってくれたように、
彼を暖めようとする。
お前は安全だ、俺が暖める、
お前を抱いている、
二人が一緒にいるかぎり、
二度と寒い思いはしない……
ホルストの咳はやまない。
マックスは薬を渡す。
どうやって手に入れたのかとホルストは聞く。
金で買った。
でも嘘だった。
親衛隊の大尉と寝た。
ホモだったかもしれない。
でもピンクの三角をつけてたら
俺と寝なかった。
黄色だったから寝た。
・・・・・・
作業場に、親衛隊の大尉と伍長がやって来る。
咳をしているホルストに目をつける。
ホルストの咳はやまない。
大尉は、ホルストに帽子を取れと命じる。
その帽子を柵に投げろと。
ホルストは命じられるままに帽子を投げる。
大尉はマックスによく見ておけと言う。
大尉はホルストに帽子を取りに行けと命じる。
ホルストは、マックスの視線を感じ、
マックスを見て、左の眉を掻く。
そしてゆっくり柵へ向かう。
伍長がライフルでホルストを狙っている。
ホルストは柵のすぐそばまで歩いたところで、
いきなり振り向き、大尉に駆け寄り絶叫する。
伍長がホルストを撃つ。
ホルストは息絶える。
…
大尉は、マックスに、死体を片付けろと命じ、去る。
マックスは、ホルストの死体を抱え上げ、
引きずり、穴に向かう。
倒れかかるホルストを胸に抱き、
気をつけの姿勢でじっと立つ。
心配するな。離さない。
お前を抱いているよ。
分かるか?
俺は、
お前を愛しているんだ。
しっかり抱きしめている。
愛している。
どこが悪い?どこが悪い?
マックスは、ホルストの死体を穴に放り込む。
作業を始める。
穴に戻り、中に入る。
ホルストの上着を掴んで出て来る。
マックスは、
そのピンクの三角のついた、ホルストの上着を着る。
そして、柵へ向かって歩いて行くのだった。
__________________________________________
自分がホモであることを認めることが出来ず、
生きるためなら鬼畜な行為もする、
本当の愛を知らない、
そんな自分を自嘲しクズだというマックスに、
大きな愛で彼を包み込むホルスト。
ホルストの存在が、マックスを変える。
人間という誇りを取り戻し、
ホモである自分を認め、受け入れ、
そして、その愛に生きる決意をする。
それは愛に殉じる、ということでもあったのだが。
ただ、幕切れで、確かにマックスは死に赴くが、
それは死ぬためではない。
生きるためだ。
愛を貫くため、愛に生きるために、
自分の愛を生き抜くために、そうするのだ。
彼は、愛を生き抜いて、人生をまっとうしたのだと
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