一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『大砲と帆船』を読む。その1

2006-06-12 08:12:17 | Book Review
「宗教は口実を与え、黄金は動機を与えた。十四および十五世紀に大西洋ヨーロッパが達成した技術の進歩が手段を提供した。」
というのが、著者の基本的な認識である。

つまり「大航海時代」とそれに続く、ヨーロッパによる世界制覇は、経済上の要請により行なわれ、それを可能にしたのが、大砲を搭載した外洋型帆船である、という。

この技術的進歩は、いずれも、人間の筋肉のエネルギーに変わるエネルギーを有効に活用することである。
「筋肉のエネルギーを用いて大洋を乗り切ること(一風斎註・「ガレー船」などのオールで漕ぐ船で)はまず不可能であったし、敵に遭遇したさい、戦いが最終的な白兵戦によって決せられるとすれば、どうしたって数には勝てなかった。」

著者は、その技術的進歩を「大砲」から記述していく。
青銅鋳造砲から鋳鉄砲へ、というのが大ざっぱな流れ。

「レイェーメンツステュッケ」という画期的な大砲が、1629年にスウェーデンで製作された。
これは、3ポンド砲(弾丸の重さが3ポンド)、123kgという軽量の大砲で、機動性とともに、装填の容易さを備えていた。
「マスケット銃兵が一発撃つ時間のあいだに三発撃つことができた。」
のである。

このような堅牢で、かつ軽量、操作が容易という大砲は、陸戦のみならず、海戦においても有効である。
「十五世紀における膨張の第一波の後、ヨーロッパの兵器生産能力は、質的な観点からも量的な観点からも劇的に増大した。これは非ヨーロッパ諸民族の側の対応を非常に困難にし、彼らに防衛上の問題を引き起こした。しかもヨーロッパの大砲製造における進歩には、これまた目ざましい軍艦建造における進歩、および新しい海戦術の発展がともなっていたのだからなおさらであった。」

C. M. チポラ著、大谷隆昶訳
『大砲と帆船―ヨーロッパの世界制覇と技術革新』
平凡社
定価:本体2,800円(税込)
ISBN4582532128