一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『機関銃の社会史』を読む。

2006-06-07 10:02:21 | Book Review
本書は、タイトルどおり、
「いかにして機関銃が出現し、なぜ受け入れられ、それを使うことによってもたらされた(社会的)帰結のいくつがどのようなものであったか」
を述べている。

その背景に、社会を離れて技術はあり得ないという事実と、「技術の歴史は社会史全体の中でも中心的な役割を果たしている」という認識とがある。
もちろん、軍事技術とて、その例外ではない。

まず、機関銃は、南北戦争(1861 - 65) 前夜のアメリカに登場する。
「ガトリング銃(砲)」*である。
*〈ガトリング砲〉は、6本の銃身を束ねた形をしており、手回しでこれを回転させ、連続して装填、発射、排莢という一連の動作を連続して行なわせる構造を持っている(1分間に200発の発射可能)。

その背景には、当時イギリスの次ぐ世界第二位の工業大国になっていたアメリカという国家がある。しかも、その国は、イギリスとは異なり、
「それまで熟練工がやっていた仕事を引き受ける機械の発達と、それらの機械を一つの工場に集めたという点で、他のいかなる国よりもはるかに先をいっていたのである。」

しかし、その画期的な発明も、陸軍当局の関心をさほどは引かず、制式採用されたのは、南北戦争後の1866年のこと。
ここでは、南北戦争がいかに「史上最初の近代戦」であろうとも、新技術を採用する側には、軍人特有の保守性があったことをも指摘できるだろう。
ただし、南北戦争は、新しい軍事技術を導入した戦争(それ故に、動員兵力の25パーセントに達する犠牲者を出した)であったことも確かなことである。
エリスは、次のように総括する。
「アメリカの南北戦争で初めて、近代的軍事品目の主要な顔ぶれがすべて出揃う。機関銃、施条火器類、後装式銃、マガジン式の連発銃、そして地雷、野戦電信機、蒸気駆動の装甲艦、さらには潜水艦の祖形のようなものまで現われた。また、初めて兵士の移動に鉄道が大規模に用いられ、大量生産技術によって食料、軍服、装備等が兵士たちに支給された。」

その軍人特有の保守性、技術に対する偏見は、ヨーロッパ大陸の国々では、より一層色濃く見られる。
貴族や郷士階級出身者が多数を占める、ヨーロッパ諸国の士官たちは、
「戦争は依然として、人間の士気によってなされるものだった。軍隊の名声も伝統も、産業化以前の時代、銃剣突撃や騎兵による突撃が勝敗を分けた時代に形成されたものだ。つまるところ、士官にとって人間こそが、戦場の主人公」
である、と考えていたのである。
このような事情は、第一次世界大戦が勃発してからも、変化がなかった。

以下、本書は、第一次世界大戦中、そして第二次世界大戦、そして現代の戦争に関して、技術(ここでは機関銃)がいかに受け入れられていったかを詳細に語っている。
「殺人をクランクを回すかボタンを押すという次元の問題に変えてしまうことを本気で願ったのがこの国(アメリカ合衆国)の人間だったというのも、まったく理に適ったことではないだろうか。」
との著者のことばは、機関銃だけではなく、都市への無差別爆撃や原爆開発をも連想させて、不気味である。

ジョン・エリス著、越智道雄訳
『機関銃の社会史』
平凡社
定価:本体3,360円(税込)
ISBN4582532071