一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』を読む。その2

2006-06-01 09:26:04 | Book Review
さて、オランダ商館長を情報源とする「ペリー来航予告情報」は、老中首座阿部正弘まで伝わった。

本書によれば、阿部は、
「今回のオランダがもたらした情報にはかなり信憑性があるとにらんでいた。」
「万が一、黒船が来航したならば、責任をとらされるのは自分であり、その万が一に備える必要があった。」

そこで、「薩摩島津氏、福岡黒田氏、宇和島伊達氏、越前松平氏、尾張徳川氏などの大名」に情報を意識的にリークし、見方陣営へ取り込むことになる。

また、彼ら「雄藩」大名には、「長崎に情報のパイプを持つ者もあり」、独自の情報を入手する術もあった。

そのような情報の流れ方が、本書のポイントの1つ。

1例を挙げれば、薩摩藩主島津斉彬は、長崎聞役(ききやく)なる情報収集役を在勤させ、著者の推測によれば、おそらくは長崎のオランダ通詞から、「ペリー来航予告情報」を得ていたという。
ただし、それが有効に活用されたかどうかは別の問題。

また、ペリー来航の際には、最前線になるであろう浦賀奉行所にも、「来航予告情報」が伝わっていた(嘉永5年暮に江戸湾防備担当の諸藩に正式に情報伝達あり。ただし、それ以前にも、「うわさ」として情報は流れていたもよう)。

浦賀奉行所の与力から「ペリー来航予告情報」を得ていた佐久間象山(当然のことながら、弟子筋に当る吉田松陰も同様)は、実際のペリー来航時、幕府が何らの対策を立てていなかったことに悲憤慷慨している。
「事がここに及ぶことは既にわかっていたことだ。先年から海軍建設や台場構築の意見書をもってやかましく言っていたのに、幕府の連中が聞かないからだ。もはや今は水際の陸上戦闘しか手段がない。」
というのが、象山の弁。

また、吉田松陰も、「我が国の海防大勢がまったく不備なことを」、
「此方の台場、筒数も甚寡(すくな)く、徒(いたずら)に切歯耳(のみ)。」
と嘆いているのも知られているとおり。

さて、その後の「騒擾」に関しては、本書よりはむしろ山口宗之『ペリー来航前後―幕末開国史』「第三章 ペリー来航時『騒擾』の再吟味」が詳しいので、そちらを参照されたい。

一般に入手し易い書では、上記2冊に、大江志乃夫『ペリー艦隊大航海記』(立風書房)、加藤祐三『黒船異変ーペリーの挑戦』(岩波書店)があれば、ほぼ全体像が掴めるであろう。

山口宗之
『ペリー来航前後―幕末開国史』
ぺりかん社
定価:本体2,400円(税別)
昭和63年11月1日 初版第1刷発行