いかりや爆氏の毒独日記

最近の世相、政治経済について「あれっ?と思うこと」を庶民の目線から述べていきたい。

TPPを考える:菅政権のめざすことと、その危ない背景

2011-02-28 18:51:36 | 日記


 前回は宇沢東大名誉教授の「TPPを考える国民会議」代表を引き受けるに当たっての教授の挨拶を掲載しましたが、彼の「反TPP」に賭ける熱い思いをもう少し具体的に紹介します(JAcomの特別寄稿文より抜粋)。
及び、もう一つ経済評論家内橋克人氏の意見を紹介(東京新聞2011.2.10夕刊コラム「放射線」より抜粋)します。

宇沢名誉教授:

TPP参加が意味するもの

 日本が現在直面している最も深刻な問題は、菅直人首相自ら「平成の開国」と叫んで、積極的に進めているTPP参加に関わるものである
 TPPは、2006年5月、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の間で締結された自由貿易協定を広く環太平洋地域全体に適用しようとする。2015年までに工業製品、農産物、金融サービスなどすべての商品について、関税、その他の貿易障壁を実質的に撤廃するだけでなく、医療、公共事業、労働力の自由化まで含めて、究極的な貿易自由化を実現することを主な目標に掲げて、政府間の交渉を進める。これまでオーストラリア、ペルー、米国、ベトナム、つづいてコロンビア、カナダが参加の意向を表明してきた。米国政府は東アジアにおける経済的ヘゲモニーを確保、維持するために、米国の忠実な僕として仕えている日本政府に対してTPPへの参加を強要している。
 貿易自由化の理念は、参加各国が同じ土俵に上って、同じルールにしたがって市場競争を行なうものである。このことが何を意味するのか、米国とベトナムを例にとって、農業に焦点を当てて考えてみよう

ベトナム戦争がもたらしたもの

 ベトナム戦争の全期間を通じて、米国は、歴史上最大規模の自然と社会の破壊、そして人間の殺戮を行なった。米軍がベトナムに投下した爆薬量は、第二次世界大戦中を通じて全世界で使用された量の、じつに3倍を超えている。その上、ダイオキシンを大量に撒布して、森林を破壊し、すべての生物の生存を脅かす枯葉剤作戦を全面的に展開した戦争が終わってから30年以上経った現在なお、奇形をともなった幼児が毎年数多く生まれている。広島、長崎への原爆投下にも匹敵すべき、人類に対する最悪、最凶の犯罪である。また20%近い森林はダイオキシンに汚染されて、竹以外の植物の生育は難しい。農の営みに不可欠な役割を果たす森林の破壊は深刻な傷跡を残している。

 他方米国は、英国植民地時代から何世紀にも亘って、先住民族の自然、歴史、社会、文化、そしていのちを破壊しつづけた。米国の農業は、先住民族から強奪した土地を利用して、氷河時代に蓄積された地下水を限界まで使って行なわれている。そして米国の都市構造、輸送手段、産業構造は極端な二酸化炭素排出型であって、人類の歴史始まって以来最大の危機である地球温暖化の最大の原因をつくり出してきた。

「開国」とは何だったか?

 このような極端な対照を示す米国とベトナムが、農産物の取引について、同じルールで競争することを良しとする考え方ほど、社会正義の感覚に反するものはない。米国とベトナムほど極端ではないが、同じような状況が世界の多くの国々について存在する。このことが、現行の平均関税の格差になって現われている。各国は、それぞれの自然的、歴史的、社会的、文化的諸条件を充分考慮して、社会的安定性と持続的経済発展を求めて、自らの政策的判断に基づいて関税体系を決めているからである。

・・・菅直人が「平成の開国」と叫ぶとき、「安政の開国」を念頭に置いてのことであろう。1858年井伊直弼によって締結された日米修好通商条約は、治外法権、関税自主権の放棄、片務的最恵国待遇からなる極限的な不平等条約である。
 「安政の開国」の結果、日本の経済、社会は、とくに農村を中心として、致命的なダメージを受けることになった。農村の窮乏、物価騰貴、それにともなう社会不安が、桜田門外の変、明治維新を経て、不平等条約改正への大きな流れを形成していった。しかしその道は厳しく、関税自主権の完全回復は1911年になってようやく実現した。・・・

菅直人が虚ろな顔をして「平成の開国」と叫ぶとき、日本の首相としてこの歴史をどう考えているのだろうか。

自由貿易は人間を破壊する

 自由貿易の命題は、新古典派経済理論の最も基本的な命題である・・・・
 その結果、世界の多くの国々で、長い歴史を通じて大事に守られてきた社会的共通資本が広範に亘って破壊されて、図り知れない自然、社会、経済、文化、そして人間の破壊をもたらしてきた。

以下省略。

内橋克人氏:

 「改革」マニュアル、
 1990年代半ば、日本のマスコミは「ニュージーランドに見習え」と筆をそろえた。この国ですすむ改革が大きな成果をあげている、国有鉄道も郵便も民営化され、鉱区規制緩和は進み、経済・財政は好転したと。「乗り遅れるな」の大合唱が湧き起り、日本から多数の使節団がくりだした。

 だが「夢のモデル」は無残なものに終った。「労働」は解体され、鉄道も郵便も再国有化に至る・・・真実は衝撃的なものだった。規制緩和にいっせいに着手したのは社会民主主義を標榜する労働党政権だったのであり、世論の力で政権交代を迫られ、登場した次の国民党は、もっと激しく前政権の路線を踏襲した、など。

 政治が駆使したマニュアルの第一が「危機感を創出し、国民には他に道はないと信じ込ませる」。第二に「国民が前の週の変化に目を奪われている間に、次の週の変化を用意する」。第三が「議論をリードできる民間人をそろえる」など。
 日本の今に「瓜二つ」とは!

いかりや:
 TPPの基本構想は、あらゆる商品(工業製品から農産物まで)の関税障壁を取っ払って自由な交易と、金融商品サービス(保険、郵貯、簡保含む)、医療や介護サービスなどモノから健康・命やその国の文化や自然に関わるものまであらゆる規制をなくして「自由」という名の市場万能主義化とグローバリゼーションに他なりません。

「参加各国が同じ土俵に上って、同じルールに従って自由な市場競争を行なうものである」とは聞こえはいいが、弱肉強食の世界です。そもそも「同じ土俵、同じルール」と言いながら、通貨の変動相場制の場合をみていただきたい。

 日本は1985年の「プラザ合意」以後、円高にに次ぐ円高で日本経済が閉塞状況に陥り、日本人の所得は激減しました(格差拡大:特に公務員の賃金水準はそのまま維持され、民間企業に働く労働者の賃金水準が大幅低下)。日本だけが大きなハンデを背負わされています。これが自由で健全な為替相場の市場であるわけがない。筆者は現状の為替相場(超円高)こそ、日本にとって最大の関税障壁であると認識しています。これを放置したままTPPを受け入れれば大変なことになる。

 世界の市場そのものが無限大であるわけがありません。自由競争すれば、誰かが勝てば(儲かれば)誰かが負ける(損する)世界です。そうでなくとも、ITの発達で ものの生産力は飛躍的に大きくなり、現在の市場は常に供給が需要を上回り、デフレ状態の脱却が難しくなっています。

 そろそろ、自由貿易協定とか自由貿易圏という発想も考え直す時期にきていると思う。それぞれの国は、それぞれに地理的条件が異なる、永い歴史と伝統文化が異なるのであり、多様性を重んずる方向へ転ずるべきであると考える。世界が均一化されていくことへの危うさに気付く時機にきていると思うのだがどうだろうか。
 

トッペイ:
宇沢教授の憂国

宇沢教授は、新自由主義の砦シカゴ大学で教授をしていたそうですね。だから連中の手の内を知り尽くしているでしょう。教授はチリのアジェンデ政権の転覆を知って新自由主義に嫌悪感を持ったといいます。宇沢教授の親友、後藤弁護士はあの松川事件の被告の弁護人であったことから、宇沢教授は、松川事件は、GHQが仕組んだ謀略であると断言しています。まさに命を賭けた悪徳ペンタゴンに対する宣戦布告です。

内橋さんは、日本では数少ない庶民の側に立った経済評論家で「悪魔のサイクル」のなかで新自由主義についてわかりやすく解説され感銘を受けました。

いかりや:
宇沢教授はシカゴ大学教授を4年間務めた。「だから連中の手の内を知り尽くしているでしょう」そうかもしれません。
シカゴ大学は新自由主義の巣窟みたいなところ。彼は”市場原理主義は、この新自由主義を極限にまで推し進めるもの儲けるためには、法を犯さない限り、何をやってもいい。そのために邪魔な法律や制度を「改革」して、儲ける機会を拡げる” と厳しく批判しています。

パックス・アメリカーナの根幹には、新自由主義の政治経済的思想が存在する。ベトナム戦争、イラク侵略に際して取られた考え方である。”

”民主党政権は、大多数の国民の期待を無惨に裏切って、パックス・アメリカーナの走狗となって、卑屈なまでに米国の利益のために奉仕している。”と現民主党政権を軽蔑しています。

余談ですが、宇沢教授と内橋さんの共著「始まっている未来・新しい経済学は可能か」という本が09年10月に出版されているのを、今回はじめて知りました。アマゾンに注文しました。

 



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1 コメント

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宇沢教授の憂国 (トッペイ)
2011-02-28 22:55:51
宇沢教授は、新自由主義の砦シカゴ大学で教授をしていたそうですね。だから連中の手の内を知り尽くしているでしょう。教授はチリのアジェンデ政権の転覆を知って新自由主義に嫌悪感を持ったといいます。宇沢教授の親友、後藤弁護士はあの松川事件の被告の弁護人であったことから、宇沢教授は、松川事件は、GHQが仕組んだ謀略であると断言しています。まさに命を賭けた悪徳ペンタゴンに対する宣戦布告です。
内橋さんは、日本では数少ない庶民の側に立った経済評論家で「悪魔のサイクル」のなかで新自由主義についてわかりやすく解説され感銘を受けました。
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