猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

忘れられかけている構造改革特区―内閣府世論調査で6割近くが「知らない」

2006-01-14 05:40:56 | 構造改革・地方分権
 1月12日に公表された内閣府の世論調査で、構造改革の目玉の一つである構造改革特区の存在について、6割近くこの国民が、その名称も内容も知らないという結果が明らかになった。とりわけ「地方自治体だけでなく個人や企業も特区を提案できる仕組みについて知らなかった」との回答が90.4%に上ったのは目を引いた。
 構造改革特区の目指すところは、地方公共団体や民間事業者等の自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特区を設け、そこで当該地域が自発性を持って構造改革を進めることを通じて、地域経済活性化を図るとともに、特定地域の成功事例を全国にも波及させることにより日本全体の経済を活性化させることである。また、提案された案件を、特区として認定する権限は首相にあり、首相主導で規制改革を推進し、一気に実現する突破口にしようという意図もあり、また、特区の設立にあたっては、補助金や減税など従来型の財政支援を認めないので財政改革にも貢献するはずである。さらには地方分権にも資することが期待されている。
 構造改革特区は平成14年12月に創設された。地方公共団体のみならず、民間事業者やNPO法人や個人など誰でも規制改革の提案ができることが大きな特徴である。そして、平成17年3月現在で、特区で実施する規制改革194項目、全国で実施する規制改革312の項目が実施されている。具体例をいくつか挙げると次のようなものがある。

・教育関係特区:太田外国語教育特区【群馬県太田市】
市と民間が協力して小中高一貫教育の学校を設立し、国語等を除いた大半の授業を外国人教諭が英語で行う(平成17年4月開校)

・教育関係特区:キャリア教育推進特区【東京都千代田区】
教育関係特区:ビジネス人材育成特区【大阪市】
株式会社に、大学や専門職大学院の設置を認め、高い専門性を持った人材の輩出などを図る(平成16年4月~順次開校)

・農業・都市農村交流特区:日本のふるさと再生特区【岩手県遠野市】
農家民宿等に簡易な消防用設備を認めるとともに、濁酒(いわゆる「どぶろく」)の製造免許の要件緩和等により、地域に根ざした新たな起業を促進し、地域の活性化を図る

・国際物流関係特区:北九州市国際物流特区【福岡県北九州市】
税関の執務時間外における通関体制を整備したり、臨時開庁手数料を軽減することで、365日24時間開港を可能に

・産業活性化関係特区:技術集積活用型産業再生特区【三重県、四日市市、四日市市港湾管理組合】
保安関係の規制の特例を導入することで、既存の石油化学コンビナート施設を有効活用した設備投資を可能に

 さて、構造改革特区は上述の通り、野心的な構造改革の取り組みである。それにもかかわらず、国民による認知が低くとどまっているのは一体いかなる理由であろうか。一つ考えられるのは、先の総選挙において郵政民営化を改革の本丸と位置づけた結果、存在感がかなり薄まってしまったことがあるのかもしれない。さらに、構造改革の最近の関心事は、政府系金融機関の統廃合であり、そこでも目覚しい成果を挙げる事が出来た。これも構造改革の目玉としての構造改革特区の存在感を忘れさせる要因となった可能性はある。また、周知徹底の不足も当然挙げられる。先に触れた内閣府による世論調査の結果を見ればそれは一目瞭然である。
 しかし、構造改革特区がもつ問題点も指摘しないわけにはいかない。それが、構造改革特区のさらなる浸透を阻害している要因とも考えられるからである。まず、地方公共団体や民間事業者等の自発的な立案というのは、各々の主体的な創意工夫を引き出せる反面、細かすぎて重複を招き審査の効率を低くしてしまう可能性がないとはいえない。もっと本質的な問題は、「三位一体改革」に代表される地方分権に関する取り組みとあまり密接にリンクしていない点であろう。現在の構造改革特区のあり方は、地方の強力な権限や大きな財源に立脚した、地方独自のものであるという性格はやや希薄である。もちろん、地方からの自発的な取り組みが全国に波及するというのは意義深いことであるが、今後のありかたとしては、地方にもっと大きな権限や裁量を与えることにより、地方のユニークさや多様性を重視する方向性に転換していくのがよいのではないだろうか。


(C)自由民主党中央政治大学院(2006)

(参考報道)
[特区制度、6割が「知らない」=周知徹底が課題-内閣府調査]
 地域限定で規制を緩和・撤廃する「構造改革特区」について、国民の6割近くが名前も内容も知らないことが12日、内閣府の世論調査で分かった。地方自治体だけでなく個人や企業も特区を提案できる仕組みについても「知らなかった」との回答が90.4%に上った。農家ににごり酒の醸造を認める岩手県遠野市の「どぶろく特区」などこれまでに204件の提案が実現しているが、今後は周知の徹底が課題となりそうだ。
 調査は特区法が成立して3年が経過したのを機に、昨年11月24日~12月4日まで全国の成人男女3000人を対象に実施。有効回収率は58.2%だった。 
(時事通信) - 1月12日19時1分更新

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