日米防衛協力の指針(ガイドライン)は、日米安全保障条約に基づく日米の防衛協力関係(要するに日米同盟)の基本的な方向性を規定する重要な文書である。現在のガイドラインは1997年に策定されたものであり、日米同盟強化を謳うとともに、(1)平時(2)日本有事(3)日本周辺有事の三分野におかえる日米協力の在り方について定めている。これに基づいて、周辺事態法が制定されたのはよく知られている通りである。このたび、日米両政府は、このガイドラインを見直す方向で調整中である。5月初旬の外務・防衛担当閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)で指針見直しを確認した上で、6月の日米首脳会談で新たな「日米安保共同宣言」を発表することになると思われる。
今度の見直しの目的は、日本周辺有事での自衛隊と米軍の協力に重点を置いている現行ガイドラインを、対テロ戦争や大量破壊兵器拡散の阻止といった安全保障環境の変化に伴って、グローバルな国際平和協力活動やミサイル防衛(MD)に関する日米協力にまで拡充することである。具体的には、見直し後の新しいガイドラインには、(1)国際平和協力活動での日米協力の拡大(2)MDにおける日米の情報共有や共同作戦計画の拡充(3)日本有事・周辺有事における日本の空港・港湾の提供(4)離島防衛の作戦面での日米協力、などを盛り込むことが検討される。そのためには、自衛隊と米軍の連携を緊密化し防衛協力を強化することは、不可欠の柱である。先日ようやく解決のめどが立った在日米軍再編問題もこの文脈で理解する必要がある。アフガン戦争に対応してインド洋に海上自衛隊を派遣していることや、イラクに陸自と空自を派遣して復興支援に当たっていることは、「国際平和協力活動での日米協力の拡大」の先取りに他ならない。
さて、新しいガイドラインを実効あるものとするためには、二つ大きな課題がある。一つは、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定である。インド洋への艦船派遣もイラクへの自衛隊派遣も、ともに特措法にもとづいて行われた。何かことが起こるたびにいちいち特措法を制定していたのでは効率的でないし、平時からの日米協力という観点からも問題がある。
もうひとつは、集団的自衛権に関する政府の憲法解釈である。周知の通り、政府は「集団的自衛権は、国際法上は当然にこれを保有するが、憲法上はこれを行使できない」という見解を取っている。また、集団的自衛権の行使を武力によるものに限定して、武力行使と一体化しない後方支援は含まれないとしており、この定義自体間違っている(実は後方支援も含まれる)のだが、この点はこの際おいておくとして、政府が定義するところの集団的自衛権の行使も可能であるというように憲法解釈を改めるべきである。憲法上も当然に認められるとされている個別的自衛権と、集団的自衛権は、明確に区別されるものではない。すなわち集団的自衛権も自然権なのだから、憲法において明文で何も規定されていない以上、憲法で行使を禁じているなどと解釈するのはおかしい。この解釈のせいで、例えば周辺事態法では、放置しておけば日本有事に至る周辺有事における日米協力であっても、日本は後方支援にとどまり、自衛隊の活動区域が危険になれば区域を見直す、すなわち逃げるという不名誉な構造になっているのである。また、「武力行使と一体化しない後方支援」という言葉が独り歩きして、平和維持活動でも同時に活動している他国の部隊が攻撃されても援護することができない。これなどは、集団的自衛権でも何でもなく、そもそも「国権の発動」ではないのだから憲法9条の問題ですらない。
日米防衛指針を新しい安全保障環境に合わせて改定するのは当然のことであり、全くもって結構なことだが、集団的自衛権の問題を放置しておいては画竜点睛を欠くというものである。「集団的自衛権の行使容認なくしてまともな日米同盟なし」である。
(参考記事)
[日米防衛指針見直しへ、国際平和協力を拡充]
日米両政府は、1997年に策定した日米防衛協力の指針(ガイドライン)を見直す方針を固め、最終調整に入った。
現行の指針は日本周辺有事での自衛隊と米軍の協力に重点を置いているが、その後の国際情勢の変化を踏まえ、「テロとの戦い」など、地球規模の国際平和協力活動や、ミサイル防衛(MD)に関する日米協力を拡充するのが目的だ。
5月初旬の外務・防衛担当閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)で指針見直しを確認する方向で調整している。
日本政府は、指針見直しを、自衛隊の海外派遣の恒久法制定などにつなげたい意向だ。また、6月の日米首脳会談で新たな「日米安保共同宣言」を発表する案も浮上している。
指針の見直しは、今年1月に額賀防衛長官がラムズフェルド国防長官と会談した際、「日米同盟が新たな次元に発展していることを示す必要がある」と述べ、提案した。当時、ラムズフェルド長官は明確な返答をしなかったが、今月23日に在沖縄米海兵隊のグアム移転費問題について額賀長官と会談した際、わざわざ指針の見直しに言及し、「私も賛成だ」と表明した。
昨年10月の在日米軍再編の中間報告でも、自衛隊と米軍の連携を緊密化し、防衛協力を強化するなど、新たな指針の方向性が盛り込まれた。
外務省内には「見直しの意義があいまいだ」などと消極的な意見もあるが、米政府が前向きな姿勢を打ち出したことで、今後、調整が加速しそうだ。防衛庁は、2007年にも新たな指針を策定したい考えだ。
現行の指針は、日本周辺有事の際の具体的な日米協力の方向性を示し、政府が周辺事態法や有事関連法を制定する契機となった。
その後、MDの日米共同技術研究が始まったほか、2001年の米同時テロ後は、日本は特別措置法を制定し、インド洋に海上自衛隊、イラクに陸上自衛隊をそれぞれ派遣した。
(読売新聞) - 4月27日10時55分更新
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今度の見直しの目的は、日本周辺有事での自衛隊と米軍の協力に重点を置いている現行ガイドラインを、対テロ戦争や大量破壊兵器拡散の阻止といった安全保障環境の変化に伴って、グローバルな国際平和協力活動やミサイル防衛(MD)に関する日米協力にまで拡充することである。具体的には、見直し後の新しいガイドラインには、(1)国際平和協力活動での日米協力の拡大(2)MDにおける日米の情報共有や共同作戦計画の拡充(3)日本有事・周辺有事における日本の空港・港湾の提供(4)離島防衛の作戦面での日米協力、などを盛り込むことが検討される。そのためには、自衛隊と米軍の連携を緊密化し防衛協力を強化することは、不可欠の柱である。先日ようやく解決のめどが立った在日米軍再編問題もこの文脈で理解する必要がある。アフガン戦争に対応してインド洋に海上自衛隊を派遣していることや、イラクに陸自と空自を派遣して復興支援に当たっていることは、「国際平和協力活動での日米協力の拡大」の先取りに他ならない。
さて、新しいガイドラインを実効あるものとするためには、二つ大きな課題がある。一つは、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定である。インド洋への艦船派遣もイラクへの自衛隊派遣も、ともに特措法にもとづいて行われた。何かことが起こるたびにいちいち特措法を制定していたのでは効率的でないし、平時からの日米協力という観点からも問題がある。
もうひとつは、集団的自衛権に関する政府の憲法解釈である。周知の通り、政府は「集団的自衛権は、国際法上は当然にこれを保有するが、憲法上はこれを行使できない」という見解を取っている。また、集団的自衛権の行使を武力によるものに限定して、武力行使と一体化しない後方支援は含まれないとしており、この定義自体間違っている(実は後方支援も含まれる)のだが、この点はこの際おいておくとして、政府が定義するところの集団的自衛権の行使も可能であるというように憲法解釈を改めるべきである。憲法上も当然に認められるとされている個別的自衛権と、集団的自衛権は、明確に区別されるものではない。すなわち集団的自衛権も自然権なのだから、憲法において明文で何も規定されていない以上、憲法で行使を禁じているなどと解釈するのはおかしい。この解釈のせいで、例えば周辺事態法では、放置しておけば日本有事に至る周辺有事における日米協力であっても、日本は後方支援にとどまり、自衛隊の活動区域が危険になれば区域を見直す、すなわち逃げるという不名誉な構造になっているのである。また、「武力行使と一体化しない後方支援」という言葉が独り歩きして、平和維持活動でも同時に活動している他国の部隊が攻撃されても援護することができない。これなどは、集団的自衛権でも何でもなく、そもそも「国権の発動」ではないのだから憲法9条の問題ですらない。
日米防衛指針を新しい安全保障環境に合わせて改定するのは当然のことであり、全くもって結構なことだが、集団的自衛権の問題を放置しておいては画竜点睛を欠くというものである。「集団的自衛権の行使容認なくしてまともな日米同盟なし」である。
(参考記事)
[日米防衛指針見直しへ、国際平和協力を拡充]
日米両政府は、1997年に策定した日米防衛協力の指針(ガイドライン)を見直す方針を固め、最終調整に入った。
現行の指針は日本周辺有事での自衛隊と米軍の協力に重点を置いているが、その後の国際情勢の変化を踏まえ、「テロとの戦い」など、地球規模の国際平和協力活動や、ミサイル防衛(MD)に関する日米協力を拡充するのが目的だ。
5月初旬の外務・防衛担当閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)で指針見直しを確認する方向で調整している。
日本政府は、指針見直しを、自衛隊の海外派遣の恒久法制定などにつなげたい意向だ。また、6月の日米首脳会談で新たな「日米安保共同宣言」を発表する案も浮上している。
指針の見直しは、今年1月に額賀防衛長官がラムズフェルド国防長官と会談した際、「日米同盟が新たな次元に発展していることを示す必要がある」と述べ、提案した。当時、ラムズフェルド長官は明確な返答をしなかったが、今月23日に在沖縄米海兵隊のグアム移転費問題について額賀長官と会談した際、わざわざ指針の見直しに言及し、「私も賛成だ」と表明した。
昨年10月の在日米軍再編の中間報告でも、自衛隊と米軍の連携を緊密化し、防衛協力を強化するなど、新たな指針の方向性が盛り込まれた。
外務省内には「見直しの意義があいまいだ」などと消極的な意見もあるが、米政府が前向きな姿勢を打ち出したことで、今後、調整が加速しそうだ。防衛庁は、2007年にも新たな指針を策定したい考えだ。
現行の指針は、日本周辺有事の際の具体的な日米協力の方向性を示し、政府が周辺事態法や有事関連法を制定する契機となった。
その後、MDの日米共同技術研究が始まったほか、2001年の米同時テロ後は、日本は特別措置法を制定し、インド洋に海上自衛隊、イラクに陸上自衛隊をそれぞれ派遣した。
(読売新聞) - 4月27日10時55分更新
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要するに「極東の日米同盟」から「世界の中の日米同盟」にしようという流れですね。
周辺有事における日本の空港・港湾の提供に関しては、確か、変な制約がありましたね。周辺有事というのは、そのまま放置しておくと日本有事になるような事態なんだから、それを援護する米軍の空港・港湾使用が自由にできないというのは大いに困ることです。これは改めなければならない。
今般の米軍再編費用負担では、批判的な人がえらく多いようです。感情論としては分からぬでもないのですが、「米軍の日本国内でのリロケーションは日本が費用負担」という原則を拡張すると、海外移転に関する費用も分担するのが自然です。集団的自衛権の行使すらできないような国では、文句を言う資格はないと私は思いますよ。その上で、あらかじめバーデンシェアリングについてきちんと詰めておかなきゃだめでしょう。
費用負担と役割分担、必要な法体制の整備等の問題はありますが、日本が拠出何て話になるとそれに反発する余り「メリケンと手を切って完全自主防衛を」等という極端な見方になってしまうのもどうかと個人的には思います。諸々勘案して現実的な最適解を模索するという姿勢が求められるところです。
日米同盟は堅持しつつ、日本が単独である程度防衛できる体制にするべきでしょうね。アメリカが本気で日本を守ってくれないのではないかという疑問は右派からもよく出ますが、私は少し違う見方で、米国が孤立主義に陥らない限りは守ってはくれると考えています。ただし、あくまでも覇権維持のために。そこで日本を本気で守らないと世界中の同盟国が米国不信におちいりますから…。つまり、安全は守られるだろうけれども、属国ということです。もちろん、それがよいわけがない。
>現在の憲法を放棄して明治憲法を改正すること
これはなかなかよい考えで、形態は今の憲法を改正する形でよいとして、たたき台は明治憲法というのは大いに傾聴すべき意見です。大まかに言って、天皇の統治大権を儀礼的なものに改めることと、内閣の規定をきちんと書き込むことさえやれば十分通用します。
でも、日本ももう自分で歩かなきゃですね。
米軍がいなくても大丈夫なように日本の防衛を考えなきゃいけないんですよね。
米軍撤退と自衛軍による自主防衛が可能な水準になるまでの間に日本の防衛ラインが後退してしまうのは不安です。
だけど今のままでは集団的自衛権は一方的にアメリカの負担で、本気で日本を守ってくれるとは思えません。
そりゃそうですよね。
一番いいのは、渡辺昇一さんが言うように現在の憲法を放棄して明治憲法を改正することでしょうか。
皇室典範の問題とあわせて、一気に解決しそうな気がします。