猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

共謀罪の創設を急ぐべきだ―組織犯罪処罰法改正案審議

2006-04-27 04:03:28 | 訴訟・裁判・司法
 国際的な犯罪組織による凶悪な犯罪や、国際テロを効果的に取り締まるために、組織犯罪処罰法を改正して共謀罪を新設することが検討されており、今国会において審議中である。
 共謀罪は、簡単に言うと、組織による犯罪が実行される前の段階で、すなわち謀議をこらしただけで処罰するというものである。これは、国際的な組織犯罪とたたかい、これを効果的に防止するための国連条約であるところの国際組織犯罪防止条約を受けてのものである。この条約は、既に平成15年9月に発行しており、我が国も同年5月にその締結について国会の承認を得ている。同条約が重大な犯罪の共謀を罪とするか、または犯罪集団への参加を罪とするよう義務付けているのである。我が国は、全くなじみのない形態の「参加罪」ではなく、内乱陰謀罪、外患誘致陰謀罪、私戦陰謀罪で多少は馴染みのある「陰謀罪」とほぼ同様の「共謀罪」を採用しようというわけである。越境的な犯罪や国際テロの跋扈が極めて憂慮される昨今にあって、国際社会の一員として、我が国が法律を改正して共謀罪を新設することは当然の責務に他ならない。
 ところが、共謀罪の新設には左派を中心に、危険なものであるとして抵抗が根強い。本当にそうなのか検討しておきたい。議論の前提として、まず、組織犯罪処罰法の関連条文を引用しておく。

<組織犯罪処罰法(改正案)>
【組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律】
(定義)
第二条  この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。

【犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(政府案)】
(組織的な犯罪の共謀)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。

【同上(与党修正案】
(組織的な犯罪の共謀)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係るものに限る。)として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も 、前項と同様とする。
3 前二項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず、かつ、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。
(引用以上)


 現行刑法では、原則として犯罪の実行をもって処罰するという考え方に立っている。ある犯罪の具体的な準備をしただけで実行に至らなくても処罰される「予備罪」は、殺人予備など8種類あって、これは例外である。さらに例外中の例外として、具体的な準備に至る前の謀議、すなわち相談して実行することに合意しただけで処罰される「陰謀罪」が先にも述べた3種類だけある。
 共謀罪の創設によって、実行や予備といった具体的な行為に至る前の謀議をしただけで処罰されるのは、内心の自由に反するのではないかという批判がある。これはおかしな話である。謀議をするということは、内心にとどまらず既にそれが外部に現れているということに他ならない。
 新設が予定されている共謀罪においては、懲役4年以上に相当する罪に当たる行為について団体として組織的に謀議をなした場合に罰せられることになる。確かに、現行の「実行を処罰する」という原則からの変更には違いないが、組織犯罪の危険性や重大性を考えれば、決して理不尽な話ではない。現行の刑法は、あくまでも個人の罪を想定しているものがほとんどである。そして、組織的にしか行ないようがない、内乱陰謀罪、外患誘致陰謀罪、私戦陰謀罪の三つについて陰謀罪が定められていることを考えれば、組織的になされる犯罪に関しては共謀という早期の段階で処罰することは、むしろ現行刑法の自然な拡張であると考えることさえできる。25日の讀賣新聞朝刊で、反対派の弁護士が、「組織的な営利誘拐罪の準備をしたら2年以下の懲役ですが、準備に至らずに同罪の共謀だけで5年以下の懲役と、バランスの取れない量刑も生じかねません」と述べているが、実態は「組織的な営利誘拐罪の準備をしたら2年以下の懲役」という運用が消滅するだけのことになるとみて間違いない。いくらなんでも難癖というものだろう。
 共謀罪に関する、冗談だか本気だか分からない批判として、これが創設されると飲み屋で酔った勢いで「上司を殴ろう」と言い合って憂さ晴らしをすると共謀罪に問われる、などという謬説がある。組織犯罪処罰法では、あくまで「団体」の行為が共謀罪の対象となるのであって、団体は第2条に明確に定義されているので、まかり間違ってもそんな馬鹿なことにはならない。第2条の定義によれば、団体とは、共同の目的を持った複数の人間が一時的にではなく継続的に集団を構成して、明確な指揮命令系統に従って目的を実行するものをいう。そういう団体に該当する組織でなければ共謀罪に問われることはないということである。先に挙げた有名な「飲み屋のジョーク(?)」で言えば、継続的な組織でもなければ指揮命令系統をそなえた組織でもないので、まかり間違っても「団体」に該当することはない。ここまで極端な例でなくても、対象となる「団体」が明確に定義されていることを、知らずにか故意にか知らないが、棚に上げて論議しているものが多いのは不正確極まりない。大体、懲役4年以上に相当する罪に当たる行為を組織として謀議するなど、そんな団体は社会の秩序にとって危険であることは、言うまでもないことである。こんなことは、なまじ重箱の隅をつついたような法律論を振りかざすよりも、常識で考えたほうが正しい判断ができるというものである。前述の反対派の弁護士は、「対象となる罪に組織的監禁罪や組織的威力業務妨害罪が含まれているので労働争議や住民のマンション建設反対運動にも適用されかねない」とも述べていた。組織的監禁罪や組織的威力業務妨害罪に該当するような行為を計画している労働争議や住民のマンション建設反対運動など、素直に考えて、悪質である。
 結局のところ、実行される可能性が高く、実行されれば重大な結果が発生する可能性の高い組織的犯罪を処罰することの重要性をいかに重視するかという点に帰着する。はじめにも述べたように、越境的な犯罪や国際テロの跋扈が極めて憂慮される事態であり、国際テロの撲滅は国際社会における喫緊の課題である。中国からの凶暴なマフィアの様々な活動や韓国からの凶悪なスリ団が、我が国の治安を脅かしているのはテレビや新聞でしばしば報道されている通りである。我が国は、オウム真理教による極悪非道な化学テロも経験した。我が国の治安をこれ以上悪化させるのは断じて防がねばならない。それでもなお、法律論として現行刑法の形態にこだわって、組織犯罪に対して手を拱いている方がよいと思うのか、よく考えていただきたいと思う。なお、共謀罪創設に反対するならば、それを義務付けている国際組織犯罪防止条約からの脱退を主張するのが筋である。そんなことをしたら、日本の国際社会の地位がどういうことになるか、言うまでもないことであろう。
 組織犯罪処罰法の改正による共謀罪を新設は急ぐべきだ。民主党から修正案を出す動きもあるようだ。有意義な議論をしてほしい。万が一審議拒否という政争の愚を持ち出してきたら、屈してはならないと思う。



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27 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
共謀罪 (keiko)
2006-04-28 02:40:49
法案の細かいところまでは確認していませんが、反対している団体名を見ただけで、通すべきだと思いました。

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笑っちゃいますよね。 (PJ)
2006-04-28 10:40:13
居酒屋で3人以上で・・・とか、PTAが・・・とか、お粗末過ぎて印象操作もできてませんw
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コメントありがとうございます (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-29 13:09:12
>keikoさん

「反対している団体名を見ただけで、通すべきだと思いました。

」って、なかなか核心をついた意見だと思いました。こういう素朴な感覚こそが、話は違うけど、裁判員制度にも求められていることなのでしょう。



>PJさん

通信傍受法の時も「盗聴される、監視される」と散々煽られましたが、濫用により一般人が困っているなんて話は寡聞にして聞きませんよね。ああいう人々にとっては条件反射をかきたてられる法案なのでしょう。
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共謀罪なんて、共産国家の発想ですか? (むじな)
2006-05-01 12:55:52
共謀罪、英語ではconspiracyというように、要するに共産主義国家などでよくありがちな「体制転覆陰謀罪」に相当するものです。これを「自由民主党」を名乗っている政党が推進するとしたら、倒錯以外の何者でもありませんな。



大体、自民党案は、法学的にみれば行政裁量を大幅に認めて、弾圧に利用される不確定概念、不明瞭な規定だらけです。

比較的保守的とされる法学者や評論家の中から反対の声が上がっているくらい。



それから国際条約といいますが、これを推進しているのは米国と日本だけで、欧州は反対しているんですよ。



たしかに左翼法学者や運動家がいっているような「飲み屋で上司の悪口をいっただけで逮捕」というのは、誇張もいいところですが、かといって憲法学徒でもある私から見たら、この法案は、とんでもない法案ですよ。



自民党は日本人民労働党とでも名前を変えたほうがいい。

今の自民党がやっていることは、中国や北朝鮮のエピゴーネン。彼らを憎むあまり彼らのやり方がそっくりのり移っている。
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現行法で十分なんだが (むじな)
2006-05-01 13:00:46
>はじめにも述べたように、越境的な犯罪や国際テロの跋扈が極めて憂慮される事態であり、国際テロの撲滅は国際社会における喫緊の課題である。中国からの凶暴なマフィアの様々な活動や韓国からの凶悪なスリ団が、我が国の治安を脅かしているのはテレビや新聞でしばしば報道されている通りである。

>



こんなものの予防や摘発は、現行法でも十分可能なこと。

警察そのものの能力およびモラル低下が摘発率や防犯能力の低下になっているのに、それを検討しないで、安易な「法律」に頼る手段は、まるで中国やシンガポール並み。



こんな法律を制定して、日本国家そのものがテロル化するなら、法律がなくて犯罪を防止できなくても犯罪との共存を選びます。



「治安」を声高に叫ぶのは、自らの無能の証明。



そもそも、あなた、法学をまともに勉強したこともないんだから、党やコイズミ指導部の言いなりに念仏を唱えているだけじゃいかんよ。

それとも自民党は公明党と連立を組んでいるうちに、発想や行動パターンが創価になっているんだろうか?恐ろしいことだ。

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オウムは初動捜査の失敗が原因なんだけど? (むじな)
2006-05-01 13:07:52
>我が国は、オウム真理教による極悪非道な化学テロも経験した。



これも、もとはといえば、警察・公安の上層部がアホで後手後手に回ったことが原因。拉致も同じ。

松本サリンのときに、警察や公調の一線の職員は、オウムの仕業だとわかっていた。それを警察庁や法務省の上層部が、アホで、握りつぶしたのが、事態を悪化させただけ。

同じことは宇出津事件で北朝鮮の仕業だと突き止めた一線の報告を握りつぶした拉致事件についてもいえること。



何事も、初動捜査が肝心。



初動態勢がなっていないのは、現在の自民党長期政権による体制疲労とモラル失陥が原因。

それを法制度の不備のせいにされても、困るんだけどね。



>我が国の治安をこれ以上悪化させるのは断じて防がねばならない。

>



だったら、自民党が下野するべきだろう。



あなたが挙げている一連の問題は、現行法だけで十分。

わざわざこんなおかしな罪名を導入しなくたって摘発や防犯は可能。



それができないなら、自民党体制が無能だということの証明だ。
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団体の定義は不明確なんだけど? (むじな)
2006-05-01 13:13:43
>この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、

>



これは、いくらでも拡大解釈できる。



事実、シンガポールなどにも類似の法律と規定と定義があるが、井戸端会議の類でも、その面々が一定であることを理由に「共同の目的を有する多数人の継続的結合体」だと主張することは可能だし、現にシンガポールや中国はそうやっている。



>その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)

>



「指揮命令」、「あらかじめ定められた任務の分担」、「構成員が一体として行動」。これは法律的にいえばきわめて欠陥のある曖昧な表現ですな。



こんなものが「定義が明確」なんていっているようじゃ、あなたは法律を議論する資格などない。



シンガポールや中国にはそっくり同じ定義と概念による法律があって、それはもっぱら反体制派を取り締まるために利用されている。

いや、こんな罪名を作り出すこと自体が、すでにそれしか目的はないの。



本当に国際犯罪を取り締まるつもりなら、現行法の適用だけで十分。それが不可能だというなら、それは自民党政権が無能だということを示している。



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米国が世界のすべてなの? (むじな)
2006-05-01 13:15:20
>なお、共謀罪創設に反対するならば、それを義務付けている国際組織犯罪防止条約からの脱退を主張するのが筋である。



この条約、実は米国しかまともに参加していないんだけど(わら)。欧州は反対しているし。



>そんなことをしたら、日本の国際社会の地位がどういうことになるか、言うまでもないことであろう。



まあ、米国の属国でしかない日本らしい発言だけど!

返信する
Unknown (猫研究員。=高峰康修)
2006-05-01 19:38:23
・政治体制自体が全く異なる中国やシンガポールに似た形態の法律があるからといって、同様の運用がされるというのは当たらない。

・「初動態勢がなっていないのは、現在の自民党長期政権による体制疲労とモラル失陥が原因」などというのは、国家の組織である警察を党の組織であるかのようにすり替えている議論であり、ミスリーディング。

・国際組織犯罪防止条約への参加は「国際犯罪に関するG8勧告」でも励行されていることです。

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体制の違いをいうなら、米国と日本はまったく違うね (むじな)
2006-05-03 02:48:30
>・政治体制自体が全く異なる中国やシンガポールに似た形態の法律があるからといって、



シンガポールは議院内閣制で、法治主義で、反共主義もあるから、日本と体制は同じ。

「まったく異なる」というあなたは体制論の基本がわかっていないだけ。

それから中国も、法体系という観点で見れば大陸法を継受したところだから日本と似ているんだよ。



それに、体制が違うというなら、日本と米国ほど違うところもない。米国は純粋大統領制だし、英米法体系だし。社会も米国は思い切り多人種社会なのに日本は単一社会だしね。



米国で愛国者法があるからといって、日本で導入していいというのは、体制や社会の違いを無視した暴論。



>同様の運用がされるというのは当たらない。



共謀罪なんていう恐ろしい概念は、シンガポールや中国並みだといっているわけだけどね。



それに、共謀罪が存在する米国では、市民団体弾圧に共謀罪が濫用されている。

そもそも共謀罪なる概念は、体制に都合の悪いものを弾圧する意図がなければ、作る必要がないしね。



日本が自由社会を標榜するなら、シンガポールの真似事をしないこと。



>・「初動態勢がなっていないのは、現在の自民党長期政権による体制疲労とモラル失陥が原因」などというのは、国家の組織である警察を党の組織であるかのようにすり替えている議論であり、ミスリーディング。

>



国家の組織であっても、その運用は政権党の責任。

もし国家の組織だから政権党の運用は関係ないとするなら、官僚をうまく動かせなかった細川政権を自民党が批判する資格はない。



>・国際組織犯罪防止条約への参加は「国際犯罪に関するG8勧告」でも励行されていることです。

>



G8勧告の内容と、与党案の共謀罪とでは、天と地の開きがある。君は、ちゃんと勧告を読んだのか?

それに「シンガポールとは体制が違う」なんていっている御仁が、G8諸国ごとの体制の違いを無視しているのはご都合主義。
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