こんにちは。馬頭です。今年も早いことで残り1ヶ月となりましたね。12月は師走というだけありまして、私は年末まで忙しい日々を過ごすことになりそうですが、皆様はいかがでしょうか?年末など忙しい時こそ事故や病気を起こしがちですので、お互い気をつけて残り1ヶ月乗り切りましょう!!
ということで、12月・・・1年間の最後の月ということで今年やり残したことはないかと振り返り、以前に投稿した記事に私が研究を行っている「出土鉄製品の脱塩処理の効率化」について書いた事がありましたが(バックナンバーの9月で「週末に向けて」というタイトルです)、その「脱塩処理」についてもう少し詳しく聞きたいという要望があり、ブログでも、もう一度紹介しようと考えていたのを忘れていたので、今回は「出土鉄製品の脱塩処理」についてご紹介したいと思います。
まず、出土鉄製品(以下、鉄器)の保存修復の工程を大まかに分けると、
①処理前調査・記録 ・・・遺物の現状記録・Ⅹ線などでの事前調査など
②クリーニング ・・・錆や泥・表面の油分などの除去
③脱塩処理 ・・・腐食促進因子である塩化物イオンなどの除去
④樹脂含浸・樹脂塗布 ・・・樹脂による遺物の強化・防錆処理
⑤復元・整形 ・・・接着による遺物の復元など
⑥処理後調査・記録 ・・・処理内容の記録・処理後の保管管理
になります。鉄器の保存修復は遺物に発生した錆をどう扱うかに従事されますが、主に表面に付着した泥や錆を除去するクリーニングは「現在発生している錆」に対しての処理というなら、脱塩処理は「これから発生すると予測される錆」に対する処理と言えます。つまり、「病気」を患っている鉄器に、クリーニングは「治療」の処理であるのに対して、脱塩は「予防」の処理と言えます。
では、脱塩処理はどのようにして鉄器に対する「予防」を施すのかを説明します。
以前の記事でも紹介しましたが、鉄器に内部には目には見えないものが多種多様存在しており、その中でも、「塩化物イオン」や「硫酸イオン」などの陰イオンは新たな錆を誘発する原因(腐食促進因子)として考えられています。
クリーニングなどで物理的に錆を除去したとしても、内部にこれらの陰イオンが存在していると後に内部から錆が発生してしまうことにつながります。
※塩化物イオンなどの陰イオンが原因で発生したと考えられる錆
※塩化物イオンを多量に含んだ状態で放置した鉄の試料の様子
実験開始時
約1週間経過
そこで、塩化物イオンなどの陰イオンを除去するために考案されたのが「脱塩処理」です。現在では、試行錯誤が行われ数種類の方法が確立されています。
その中で、日本の現場ではセスキカーボネイト脱塩処理法というのが、広く採用されています。弊社での処理でもこの方法を採用していますが、以前に参加した中四国九州保存修復研究会で、九州内外の事例をお聞きする中でもセスキカーボネイト法が多く採用されていました。
その理由としては、使用する薬品が安全性が高いことや処理内容の簡易性などから処理中の管理が容易であることがあげられます。しかし、遺物によっては処理期間が長時間におよんでしまうことなどが問題点としてあげられています。
また、脱塩処理全体の問題として処理終了の見極めが難しいというものがあります。現在、水溶液を使用する脱塩処理法では、イオンクロマトグラフィーによる脱塩処理液内の塩化物イオン・硫酸イオン濃度の測定が判定基準として行われています。
弊社の処理でもイオンクロマトグラフィーを用いての陰イオンの濃度測定を行い脱塩処理の終了判定を行っており、測定濃度からの塩化物・硫酸イオンの溶出量と溶出傾向から終了判定を行っています。
脱塩処理は現在の問題点も含めて研究が必要な処理と考えられますが、鉄器をより良い状態で保存するためには必要不可欠な処理です。私の研究内容は「脱塩処理の効率化」ではありますが、今後も問題解決にむけて研究を進めていきたいと思います。
長々と専門的な内容になりまして申し訳ありません。最後までご覧になってくださいました皆様ありがとうございました。
脱塩処理やイオン濃度測定など疑問や質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。
ということで、12月・・・1年間の最後の月ということで今年やり残したことはないかと振り返り、以前に投稿した記事に私が研究を行っている「出土鉄製品の脱塩処理の効率化」について書いた事がありましたが(バックナンバーの9月で「週末に向けて」というタイトルです)、その「脱塩処理」についてもう少し詳しく聞きたいという要望があり、ブログでも、もう一度紹介しようと考えていたのを忘れていたので、今回は「出土鉄製品の脱塩処理」についてご紹介したいと思います。
まず、出土鉄製品(以下、鉄器)の保存修復の工程を大まかに分けると、
①処理前調査・記録 ・・・遺物の現状記録・Ⅹ線などでの事前調査など
②クリーニング ・・・錆や泥・表面の油分などの除去
③脱塩処理 ・・・腐食促進因子である塩化物イオンなどの除去
④樹脂含浸・樹脂塗布 ・・・樹脂による遺物の強化・防錆処理
⑤復元・整形 ・・・接着による遺物の復元など
⑥処理後調査・記録 ・・・処理内容の記録・処理後の保管管理
になります。鉄器の保存修復は遺物に発生した錆をどう扱うかに従事されますが、主に表面に付着した泥や錆を除去するクリーニングは「現在発生している錆」に対しての処理というなら、脱塩処理は「これから発生すると予測される錆」に対する処理と言えます。つまり、「病気」を患っている鉄器に、クリーニングは「治療」の処理であるのに対して、脱塩は「予防」の処理と言えます。
では、脱塩処理はどのようにして鉄器に対する「予防」を施すのかを説明します。
以前の記事でも紹介しましたが、鉄器に内部には目には見えないものが多種多様存在しており、その中でも、「塩化物イオン」や「硫酸イオン」などの陰イオンは新たな錆を誘発する原因(腐食促進因子)として考えられています。
クリーニングなどで物理的に錆を除去したとしても、内部にこれらの陰イオンが存在していると後に内部から錆が発生してしまうことにつながります。
※塩化物イオンなどの陰イオンが原因で発生したと考えられる錆
※塩化物イオンを多量に含んだ状態で放置した鉄の試料の様子
実験開始時
約1週間経過
そこで、塩化物イオンなどの陰イオンを除去するために考案されたのが「脱塩処理」です。現在では、試行錯誤が行われ数種類の方法が確立されています。
その中で、日本の現場ではセスキカーボネイト脱塩処理法というのが、広く採用されています。弊社での処理でもこの方法を採用していますが、以前に参加した中四国九州保存修復研究会で、九州内外の事例をお聞きする中でもセスキカーボネイト法が多く採用されていました。
その理由としては、使用する薬品が安全性が高いことや処理内容の簡易性などから処理中の管理が容易であることがあげられます。しかし、遺物によっては処理期間が長時間におよんでしまうことなどが問題点としてあげられています。
また、脱塩処理全体の問題として処理終了の見極めが難しいというものがあります。現在、水溶液を使用する脱塩処理法では、イオンクロマトグラフィーによる脱塩処理液内の塩化物イオン・硫酸イオン濃度の測定が判定基準として行われています。
弊社の処理でもイオンクロマトグラフィーを用いての陰イオンの濃度測定を行い脱塩処理の終了判定を行っており、測定濃度からの塩化物・硫酸イオンの溶出量と溶出傾向から終了判定を行っています。
脱塩処理は現在の問題点も含めて研究が必要な処理と考えられますが、鉄器をより良い状態で保存するためには必要不可欠な処理です。私の研究内容は「脱塩処理の効率化」ではありますが、今後も問題解決にむけて研究を進めていきたいと思います。
長々と専門的な内容になりまして申し訳ありません。最後までご覧になってくださいました皆様ありがとうございました。
脱塩処理やイオン濃度測定など疑問や質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。
保存処理をしたいのですがどうすればいいですか?埋文センターなどでは何かのついででしか処理を頼むのが難しく個人で依頼したり簡単に応急処置をしたく思います。錆びとり+シリカゲルで電源を落とした冷蔵庫にて保存しています。