慣習や伝統は、人々がそれに習熟し実践することができるようになって初めて知識となりうる性格のものである。「慣習」という言葉は英語ではふつうconventionやpracticeであるが、前者は約束事が次第に慣例化して慣習となったというニュアンスをもつのに対し、後者は人々があることを実行し実践していくうちに慣例化していったという意味を含んでいる。だから知識としての慣習を指示するのは、コンヴェンションよりはむしろプラクティスのほうだと言っていいかもしれない。
『ケインズとハイエク』(間宮陽介著、ちくま学芸文庫)