烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

国体はなお身体の如く

2007-03-13 09:41:04 | ことばの標本箱
これを人身に譬えば、国体はなお身体の如く、皇統はなお眼の如し。眼の光を見ればその身体の死せざると徴すべしといえども、一身の健康を保たんとするには、眼のみに注意して全体の生力を顧みざるの理なし。全体の生力の衰弱する所あれば、その眼もまた自ずから光を失わざるを得ず。あるいは甚だしきに至ては、全体は既に死して生力の痕跡なきも、ただ眼の開くあるをみて、これを生体と誤認るの恐れなきにあらず。
                                  福沢諭吉『文明論之概略』