烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

数学で考える

2007-11-15 19:08:49 | 本:自然科学

 『数学で考える』(小島寛之著、青土社刊)を読む。
 著者がいくつかの雑誌に掲載された文章をまとめて収録した本で、本の帯にあるように年金やヘッジファンド、村上春樹の小説などが題材になっている。
 「偽装現実の知覚テクノロジー」というエッセイでは、実数の連続性という数学で利用される数の性質が導出される中間値の定理の基礎づけがいかに重要かが語られ、経済学で使われる(らしい)ワルラスの一般均衡定理の論証に利用される不動点定理もその中間値の定理が必要であることを述べ、実数の連続性という性質をきちんと基礎づけることがいかに重要かを説明している。考えてみると数の連続性のイメージというのは証明されているという感覚よりも漠然とそう信じているという感覚に近い。厳密につきつめると普段の信憑に自信がもてなくなるということはよくあり、数学においてはだからこそ基礎づけがだいじというわけだ。

 「知っていることを知っている」のトポロジーでは、為替相場における投機戦略について相手の思考を読むということをどう数学的に定式化するかということがあつかわれている。お互いに共有している知識を集合を利用すると「知っていることを知っている」という高階の知識をより簡潔に表すことができるという点が非常に面白かった。

 村上春樹の小説が数学的だという著者のエッセイは「暗闇の幾何学」として書かれているが、作品の著述の一部を取り出して数学的なにおいがすると述べているにとどまり印象批評の域をでていないという感じである。数学的だから世界的に読まれているのだという「論証」はちょっと唐突な感じがしますね。