烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

シャンパン 泡の科学

2007-09-24 21:25:27 | 本:自然科学
 『シャンパン 泡の科学』(ジェラール・リジェ=ベレール著、立花峰夫訳、白水社)を読む。著者は、ランス大学の醸造学研究所で学位を取得した同大学の助教授である。シャンパンの神秘的な泡について専門的立場から、その性質を平易に説明してくれる。シャンパンの泡は、注がれたグラスの内部の傷や凹凸から生まれるという説明(これはソムリエの人から聞いたのだが)を信じていたが、実はそうしたところで泡は生成していないということを本書で初めて知った。ガラスやクリスタルの傷や凹凸における湾曲面の臨界半径は気泡生成に必要な最低の長さよりもはるか短いというのだ。泡は、グラスの内面に付着している不純物から生成するのだという。だからいかなる不純物も付着していない完璧にきれいなフルートグラスにシャンパンを注いでも泡は全くたたないのだ。これは実際に実験され証明されているという。
 フルートグラスから立つ泡は、小さい方がエレガントで美しく、熟成されたシャンパンほどそうだといわれるが、これも物理学的に説明できる。
 泡は浮力によって上昇するにつれて過剰な二酸化炭素分子がどんどん泡に引き寄せられ、成長していく。上昇して泡が大きくなると浮力も大きななる。では宇宙空間ではシャンパンの泡はどうなるか。また太陽系では最も小さくてエレガントな泡ができるのはどの惑星なのか。ビールとシャンパンの泡の挙動が違うのはどうしてか。こうした興味深い疑問にもやさしく答えてくれる。
 目の前の一杯のシャンパンからこんなにエキサイティングな科学が語れるというのは実に楽しい。シャンパンを飲みながらであればもっと楽しいだろう。