学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

イタロ・カルヴィーノ『木のぼり男爵』

2010-07-05 21:21:26 | 読書感想
すっかりご無沙汰をしてしまいました。ここ数日は心持が良くなくて、仕事はしていたものの、帰宅してからは心身ともに休めていました。毎日じめじめする日が続きますね。心持が良くないのは、時期の問題があったのかもしれません。今日は少しずつ読み進めていた本が読み終わりましたので、読書感想です。

私が近頃良く読んでいるイタロ・カルヴィーノの『木のぼり男爵』です。みなさんは子どもの時に両親や学校の先生に反発して、背を向けるような態度を取りませんでしたか?私は両親とケンカすると、今後一切口を利かない!と誓いを立てたものでした。ところが、その日の夕食になって家族みんなが揃うと、そんな誓いはどこへやら。家族みんなで楽しい会話をしながら夕食を食べたものです(笑)『木のぼり男爵』は、家族間の不調和から、かたつむり料理を食べるのを拒否し、木の上で生涯を送った男のお話です。

木の上で生涯を過す、この奇妙な物語の主人公はコジモ。コジモの弟が語り手となって、物語は進みます。どこまでも広がる木々のなかをコジモは自由に動き回り、自分で狩りをしたり、家族から食事を分けてもらいながら生活を続けます。木の上から、という世間とは一線を画した場所で生活をすることで、様々な経験を積み重ね見聞も広がっていきますが、物語が進むにつれて、個性的な登場人物たちは舞台を降りるように少なくなっていきます。喜劇でもあり、悲劇でもある。特に終盤になると、これまで理性的であったコジモがだんだん野性的に変わってくるところが悲しいところです。それも「一線を画した」ゆえの運命だったのかもしれませんが…。

久しぶりに良い小説を読めました。幸せな気持ちでいっぱい。『木のぼり男爵』は米川良夫氏の翻訳によって、まるで童話のように楽しむことができます。これまで読んだイタロ・カルヴィーノの小説のなかでも、特にオススメの1冊です。


●『木のぼり男爵』イタロ・カルヴィーノ著 米川良夫著 1995年 白水社


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