学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

紀貫之『土佐日記』

2011-07-19 20:17:55 | 読書感想
本棚を整理していたら、奥から『土佐日記』(岩波文庫)が出てきたので、久しぶりに読んで見ました。

『土佐日記』は平安時代に書かれた日本で初の仮名文の日記。紀貫之が4、5年にわたる土佐国(現在の高知県)での国司の職務を終え、土佐国から帰京するまでの出来事が書かれています。紀貫之一行の交通手段は舟。京までの道程を妨害するものは強風と高波、「さはる事」(物忌み)、海賊…。平安時代の長旅というのは、いかに大変であったかがわかります。

『土佐日記』、多少は脚色はなされているようですが、もちろんドラマティックな展開はありません。例えばロビンソン・クルーソーの如く、舟が難破し無人島でサバイバル生活を送るとか、海賊に襲われるものの紀貫之の古歌によって相手がたじろいだとか(笑)

私が好きな場面は、夜中の航行で海が荒れ、舟に乗っていた人々が恐れおののいた時、舵取りが舟歌を歌って、みんなの緊張を和らげるところ。人間の温かみが感じられて、とても良い心地がします。

『土佐日記』は、もちろん帰京して終わりとなります。読み手からすれば、最後は無事に着いてホッとして終わりになるわけです。けれども、紀貫之はそうではなかったよう。実は土佐の出立前に、まだ幼い娘を亡くしていたからです。本当であれば、幼い娘と一緒に帰京するはずだったのに…、『土佐日記』は亡き娘のことを思うひとりの父親の姿が描写されて終わりとなります。ここは読み手と書き手の感情がややすれ違う部分ではないでしょうか。

平安時代の古典は『源氏物語』、『枕草子』、『紫式部日記』など、数多くあります。そのなかでも『土佐日記』は内容も短めですし、比較的容易に読むことが出来る古典です。(『源氏物語』はあまりにも難しくて原文読みは挫折しました…)古典に触れたくなったときに、ちょっと気軽に読んでみるのも、いいかもしれませんね。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« なでしこジャパンの世界一 | トップ | 夏目漱石『草枕』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書感想」カテゴリの最新記事