細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『偽りの人生』空漠としたスワンプで方向を見失った男の路。

2013年06月14日 | Weblog

●6月13日(木)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−060『偽りの人生』Todos Tenemos un Plan (2012) 20th century fox international / tornasol film.
監督/アナ・ペターバーグ 主演/ヴィゴ・モーテンセン <119分> 配給/ブロードメディア・スタジオ ★★★☆
アルゼンチンのブエノスアイレス。中年医師のヴィゴは空漠とした結婚生活に霹靂としていた。
そこに突然、音信不通だった一卵性双生児の兄が訪ねて来て、実は末期がんなので殺してくれ、という。
ヴィゴは、亡くなった兄になりすまして、これからの人生を再生しようと、郷里のティグレに赴く。そして兄の人生を生きることにした。
同じような話しで思い出すのは、「ダニー・ケイの天国と地獄」だが、こちらはマジなフィルム・ノワールのテイストだ。
だから、いかに風貌は似ていても、同じ人間に成り済ますというのは、無理な設定だが、ま、そこが映画のレトリックの妙。信じるとしよう。
騙されたつもりで、兄の生活を再演していくが、次第に、その生活の裏側の暗黒だった部分が見えて来る。
ティグレというのは、荒涼としたデルタ地帯で、その無限に見えるスワンプの風景が、いかにも心の澱みを見せて空漠として美しい。
ま、ノワール的な仮想の設定を、新人の女性監督アナは、丁寧な心理描写で繊細に描いて行く。
それはそれで「別離」のアスガー・ファルハディ監督のタッチを思わせて、映像的な人物描写は味があってよろしい。
しかし、所詮はホラ話なので、その基本的な無理な設定が後半になって空虚に見えて来てしまうのだ。
それはドラマティックなテンションが、非常に押さえられているからで、これはアナ監督の個性なのだろう。
イミテイトしようとした「二重人生」も、かくして無情にも似たような袋小路に入って行くという構図も、累計的だ。
いっそ、本格的なノワール美学に徹した方が、もっと戯画として面白くなったろうに。マジメすぎたようだ。

■変化球狙いで当たりはいいが、レフトの正面への平凡なライナー。
●7月12日より、TOHOシネマズ、シャンテなどでロードショウ


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