細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『自由が丘で』迷子になった韓流ラブストーリー。

2014年09月29日 | Weblog

9月26日(金)13-00 六本木<シネマートB-1試写室>

M-108『自由が丘で』" Hills of Freedom " (2014) Jeonwonsa Films. 韓国

監督・ホン・サンス 主演・加瀬 亮 <67分> 配給・ビターズ・エンド ★★★☆

タイトルで、あの東横線の”自由が丘”がテーマの新作を、名手ホン・サンスが来日して撮った新作と勝手に勘違いしたのは、キアロスタミの「ライク・サムワン・イン・ラブ」のせいか。

試写状だけの情報でハヤトチリしてしまった当方は、お恥ずかしながら、試写室に入って初めて、これは目黒区の「自由が丘」とは何も関係のないという事実を知って愕然。

実際の舞台は、韓国のソウルにある北村という一角にある袋小路のような街。車も入って来れないような路地裏のカフェ<自由が丘>が舞台となる。

主人公の加瀬亮は、以前その街で語学スクールで知り合って恋におちたガールフレンドに会う為に、長ーーーい手紙を書いて、彼女との再会を楽しみに訪れたのだ。

数枚のラブレターを読みながら、クオンという女性は階段で手紙を落として、そのページの順番が判らなくなり、しかも肝心の1枚を紛失してしまった。

それを知らぬ加瀬亮は、その袋小路にある小さなゲストハウスに泊まっては、カフェ<自由が丘>で彼女を待つが一向に現れない。気にかけたウェイトレスの女性とディナーを共にした。

ま、そこはよくある<韓流ラブロマンス>のような乗りなのだが、どうもストーリーが進展しない。しかも前後が曖昧な編集でイライラして見ていて、やっと気がついた。

つまり、この映画は、ホン・サンス流の映像レトリックで、先のラブレターの内容のように前後がバラバラになってしまっているのに気がついたが、もう、こちらの時系列もバラバラ。

おまけに加瀬亮は旅の疲れなのか、自室でよく眠っていて、彼女とのハッピーな夢を見るらしく、その映像もインサートされるので、ジグソーパズルのように現実と夢想が前後不覚となってしまった。

ま、こうした青春のスクランブル・ラブ・ストーリーに慣れているファンには、これも実感を伴った<ありがちなラブロマンス>のボタンのかけ違いかもしれない。

おまけに、そのゲストハウスでは、韓国語と英語と日本語などが辿々しく交錯するので、見ているこちらもアタマの中がバイリンガル騒動で混乱してしまった。

やっぱり異境でのラブストーリーって、なかなかうまくいかないのだ。

 

■サインのミスでバント失敗。それでもファースト投球が暴投セーフ。

●12月13日より、シネマート新宿ほかでロードショー 


●『西遊記~はじまりのはじまり』の中国版<猿の惑星~創世記>の妙。

2014年09月27日 | Weblog

9月24日(水)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-107『西遊記/はじまりのはじまり』" Journey to the West "(2013) Bingo Movie Development / Village Roadshow 中国

制作・監督・脚本・チャウ・シンチー 主演・スー・チー <110分> 配給・日活+東宝東和映画 ★★★

あの「少林サッカー」「カンフー・ハッスル」などのヒット・メイカー監督新作、ということで昨年に公開されるや、中国での映画興行歴代ナンバーワンの大ヒット映画。

果たしていかがなものかいな・・・という興味で見たが、たしかに中国の国民的伝統民話の、あちらでは周知のストーリーを、まさに今の映像技術で料理したバラエティ喜劇のようだ。

つまり非常にプリミティブな孫悟空生誕までの民話を、スピーディで大袈裟なゲーム感覚で描いたコミック・ファンタジーで、一貫した<おふざけ>ナンセンスは呆れるばかりに陽気なのだ。

まさに不思議な民話の世界のような川辺の村に、半魚半獣の巨大な妖怪が出てくる冒頭のシーンは、ポン・ジュノの「グエムル」のようで、その異様な映像には引き込まれる。

妖怪ハンターを自称する青年ウェン・ジャンは、その恐ろしい妖怪と格闘するが、とても適わない。しかし、美人ハンターが突然登場して、不思議な妖術で巨大怪獣を始末してしまう。

この冒頭の30分のアクションは、さすがに最新CGのエフェクト・ヴィジュアルの効果で圧倒される。これは、さすがナンバーワン・ヒット作品と期待したが、映画はそのあと何故か失速。

未熟な妖怪退治の技量を磨くために、ウェンは師匠のアドバイスを聞いて、妖怪ハンターとしての修行の旅に出るのだが、そのあとの凶暴なイノシシの妖怪などは「ホビット」のコピーのようでパッとしない。

そこで奥地の洞窟に500年も閉じ込められている孫悟空の助けを求めて、他の妖怪ハンター達と協力して冒険の旅に出る。まさに「桃太郎」や「オズの魔法使い」と似たような設定。

道中には、凶暴なトラの妖怪が登場したりと、派手なCGアクションはゲーム感覚でハンターを襲ってくる。やっと山の洞窟にいたのは変なジジイで、これもまたかなりな変人。

ええーーーー、これって、孫悟空なの。という疑問は、おそらく中国の「西遊記」研究家たちには周知の原点なのだろう。それを知らない我が輩としては「何だコリャー」の連続なのだ。

とうとう老人は、あの猿に戻って、「俺様が孫悟空だ!!!」というラストで、いよいよここからが「猿の惑星・創世記」となる。

つまりこの映画は「西遊記」の序章であって、本題はこれから・・・ということらしい。ま、この波瀾万丈の中国民話の展開に興味のアル方は、どうぞお楽しみに。

 

■痛烈なライナーだったが、突然失速して、レフトにキャッチされる。

●11月21日より、TOHOシネマ有楽座などでロードショー 


●『るろうに剣心・伝説の最期編』人斬り抜刀斎の切れ味冴える。

2014年09月25日 | Weblog

9月17日(水)12-25 六本木ヒルズ<TOHOシネマ・SCREEN2>RS

M-106『るろうに剣心・伝説の最期編』"Feel the Future" (2014) Warner Brothers International

監督・大友啓史 主演・佐藤 健 <135分> 配給・ワーナー・ブラザース映画 ★★★☆☆☆

和月伸宏原作の<コミック明治剣客浪漫譚>を、大掛かりな3部作劇場映画として完成した、これがその完結編。8月に公開した2作目の「京都大火編」に続いての連続公開だ。

だから2作目の試写は見たが、この3作目は公開も迫っていて、ほとんど試写はなく、それでは・・・と、劇場に出かけた次第だが、この作品は大画面で見るのがいい。

何しろハリウッドの大手ワーナー・ブラザースのブランド名での世界公開を視野にして、2、3作だけで30億円の制作費をかけて制作して、すでに日本だけで100億円の興収を突破。

とにかく、ダイナミックな剣劇アクションがふんだんで、クラシックな睨み合いの剣劇とは違い、こちらはカンフー・アクションや、体操の床運動の競技種目を見ているように爽快だ。

明治維新の時代に逆流した藤原竜也の演じるテロ集団リーダーは、あの大やけどのために全身包帯を巻いた姿で、イスラム系ゲリラのようで異様。剣が火を噴くアクションが凄まじい。

2作目で、重傷を負った剣心は、かつて剣法の師匠だった福山雅治に助けられて、山奥で養生して<人斬り抜刀斎>の剣の再修行を重ねて、まさに「キル・ビル」のように奇跡の復活をする。

この映画は、勧善懲悪なストーリーよりも、再三に繰り広げられるチャンバラのスピードと、華麗なアクション演出の新鮮さが見どころで、作品のほとんどは斬新チャンバラで構成されている印象は、まさにゲーム感覚。

だからクラシックな武士道の極意を期待していると、かなりハズレる。しかし、映画というのは、<モーション・ピクチャー>なので、舞台劇とは違う。そこを大友監督は今の感性を強調して押しまくる。

盛岡の高校の後輩の大友監督とは、2年前に盛岡の市民映画祭のパーティで会ったのが初めてだったが、その時はちょうど撮影の合間で、この作品は「ただの時代劇ですよ」と笑っていた。

NHKの出身なので、わたしは、どうせテレビの大河ドラマのような作品を作っているのかと思い、この「るろうに剣心」の話を特にしなかったのを恥じている。だからこそ驚いてもいる。

味のある旬なスターを多用しながらも、それぞれに派手な見せ場を作り、娯楽映画としての圧倒的なスピード感で駆け抜ける、この3部作は、たしかに<現代の時代劇>なのだ。

ただアクション・サービスが過剰気味で、高齢な当方には、正直、多すぎた。美味も大盛りでは食傷する。・・・でも若いファンには、これでも足りないかも・・・。

世間にはメガヒットの娯楽映画を嘲笑する、古風な煩さ方も多いが、商業映画というのは、ヒットしたからこそ、その真価を認めるべきだろう。アート性はそれに付随して生まれる。

さて、まだまだ若い、盛岡一高後輩、大友啓史監督の次なる企画は、恐らくはハリウッドも放ってはいないだろう。大いに楽しみだ。

 

■フルカウントからの豪快な一発はバックスクリーンのフェンス直撃。

●全国の映画館でヒット中 


●『太陽の坐る場所』ああ、卒業写真のあのひとは・・・?

2014年09月23日 | Weblog

9月17日(水)10-30 六本木<シネマートB-1試写室>

M-105『太陽の坐る場所』(2014)<山梨放送開局60周年記念作品>フィルム・バンディッツ、プロダクション・ムスタッシュ

監督・矢崎仁司 主演・水川あさみ <102分> 配給・ファントム・フィルム ★★☆

山梨県出身で直木賞作家の辻村深月の学園ミステリーを、山梨県の監督が地元のフィルム・コミッションの全面協力で作ったという、山梨県産の新作。

地元の高校で、たまたま同じ「きょうこ」という名前だった二人の少女が辿った、それぞれの青春秘話と後日談。人気者だった響子の陰で、同級生の今日子は対照的な青春の影を背負った。

その少女ふたりの青春の明暗を、その時代に学校で見られた皆既日食の瞬間と薄暗い白昼をシンボリックに見せたミステリーで、スチィーブン・キングの「黙秘」の日食を連想する。

つまり太陽の明るい光が、その瞬間だけ月によって遮られるという、非常にインパクトのあるドラマで、その象徴的な瞬間のことがタイトルの意味になっているのだろう。

ストーリーは、ユーミンの「卒業写真」のようにセンチメンタルなタッチだが、学校で起こった二人の確執が、10年後のクラス会を境界線にして、明らかになっていくという二段構成。

クラスの女王だった響子は山梨の地元局のアナウンサーだが、一方の今日子は上京してスーパー・アイドルになっていた。このよくある逆転の人生。そして過去の不思議な事件が明らかになっていく。

ま、ミステリーとしてはアリガチな設定だが、どうも映画の構成は、現在と過去を終始行ったり来たりして、さっぱり落ち着きがないのがイライラする。それなら前後をきっぱり二分すればいいのに。

アンソニー・ホプキンスが主演したミステリーの「白いカラス」も似た様に現実と過去のドラマが行ったり来たりしてイライラしたが、ドラマの起因が過去にあるのなら、もっと少ないインパクトで充分。

しかも主演の二人が、ちょっと見た感じで、似たような印象なのに、過去と現実の4人の女優が交錯するのも、役割分担を混乱させているようだ。恐らく高校生の制服のせいもあるのかも・・・。

恐らく監督は、有名な原作者の小説の構成に忠実に描いたのかもしれないが、映画は小説とは別物。もっと視覚的なウェイトを現実なら現実だけに絞って、過去はシンボリックなフラッシュの方が良かった筈だ。

このような地元優先のイベントには、恐らくいろいろなご意見が多いだろう。でも映画のクリエイティブは、専門スタッフが主導権を持って仕上げて欲しかったので、後半はイライラしてしまった。

随所に監督の心象イメージと思われるショットがあったが、その前後の思わせぶりな<待ち時間>の多いのも、映画のリズムを後半で退屈させられたのが、正直な感想だった。

 

■気負い過ぎのフライが高く上がって、ファースト・ファールフライ。

●10月4日より、有楽町スバル座などでロードショー 


●『イコライザー』は昼と夜の顔が豹変するデンゼル苦戦だ。

2014年09月21日 | Weblog

9月16日(火)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-104『イコライザー』" The Equalizer" (2014) sony pictures / columbia pictures / village roadshow

監督・アントワーン・ヒュークア 主演・デンゼル・ワシントン <132分> 配給・ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント ★★☆☆☆ 

このところ、デヴィッド・エアー、アントン・コービンという当代のお気に入り監督の新作が続いて、ウハウハしていたが、このヒュークア監督も大のお気に入り。

特にデンゼルと組んだ「トレーニング・デイ」や「クロッシング」は、素晴らしいノワール感覚の傑作で、彼らの新作となると他の作品は後回し。とにかく早く見たい。

しかもデンゼル・ワシントンは、いまのハリウッド・サスペンス映画の中では最も充実したキャリアを20年も持続している超一級のベテランだから、格が違う。

タイトルの「イコライザー」というのは、<平穏>とか、<バランス>のような意味があるらしい。あのジョン・フォードの名作「静かなる男」と似たようなニュアンスなのだろう。

デンゼルは、もとCIAの特別捜査官として活躍したベテランだったが、その激務の連続と事件のトラブルで現役を抹消。捜査中の事故死ということで、当局をリタイアした男。

ちゃんと葬式もして自分の墓もあるが、いまは名前も戸籍も変えて、昼間はホームセンターの従業員として勤務。夜はスナックでひとり読書しているという、一見、フツーのおっさんなのである。

しかしある夜、「老人と海」を読みながら、カウンターにいたジャンキーの少女、クロエ・グレース・モレッツと雑談していたら、彼女がチンピラに絡まれたことからトラブルに巻き込まれた。背景には巨大悪徳組織。

話としてはデンゼルが演じた「マイ・ボヂィーガード」と似たようなもので、事件の展開は「スーパーマン」系統だが、とくにマントに着替えて空を飛んだりはしない、ただの静かな元敏腕捜査官。

映画はハリウッド・エンターテイメントの常套な展開で、いちど鍛えられたエージェントの感覚とスキルや身体能力は、些細な悪事も知らぬふりは出来なくなり、ついに悪漢どもに対決していく。

ところが、ヒュークアにしてはドラマ展開がお粗末で、悪漢のロシアン・マフィアの首領を演じるマートン・ソーカスがパッとしない。メンズ・マガジンのモデルのようないい男だがワン・パターン。

しかも、肝心のクロエはまったく姿を見せないまま、アクション・ドラマは都会の夜の暗がりで途方もなく展開を繰り返すものだから、あれよあれよの大延長戦となって、ああ、退屈。

世界のSONYが、業績不振だというが、このような映画を作っていては、とても軌道修正は難しいな・・・なんて、余計な心配までしてしまう。

 

■またもファールを連発したが、結局はファースト・フライ。

●10月25日より、新宿ピカデリーほかでロードショー

9月16日(火)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-104『イコライザー』" The Equalizer" (2014) sony pictures / columbia pictures / village roadshow

監督・アントワーン・ヒュークア 主演・デンゼル・ワシントン <132分> 配給・ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント ★★★ 

このところ、デヴィッド・エアー、アントン・コービンという当代のお気に入り監督の新作が続いて、ウハウハしていたが、このヒュークア監督も大のお気に入り。

特にデンゼルと組んだ「トレーニング・デイ」や「クロッシング」は、素晴らしいノワール感覚の傑作で、彼らの新作となると他の作品は後回し。とにかく早く見たい。

しかもデンゼル・ワシントンは、いまのハリウッド・サスペンス映画の中では最も充実したキャリアを20年も持続している超一級のベテランだから、格が違う。

タイトルの「イコライザー」というのは、<平穏>とか、<バランス>のような意味があるらしい。あのジョン・フォードの名作「静かなる男」と似たようなニュアンスなのだろう。

デンゼルは、もとCIAの特別捜査官として活躍したベテランだったが、その激務の連続と事件のトラブルで現役を抹消。捜査中の事故死ということで、当局をリタイアした男。

ちゃんと葬式もして自分の墓もあるが、いまは名前も戸籍も変えて、昼間はホームセンターの従業員として勤務。夜はスナックでひとり読書しているという、一見、フツーのおっさんなのである。

しかしある夜、「老人と海」を読みながら、カウンターにいたジャンキーの少女、クロエ・グレース・モレッツと雑談していたら、彼女がチンピラに絡まれたことからトラブルに巻き込まれた。

話としてはデンゼルが演じた「マイ・ボヂィーガード」と似たようなもので、事件の展開は「スーパーマン」系統だが、とくにマントに着替えて空を飛んだりはしない、ただの元敏腕捜査官。

映画はハリウッド・エンターテイメントの常套な展開で、いちど鍛えられたエージェントの感覚とスキルや身体能力は、些細な悪事も知らぬふりは出来なくなり、ついに悪漢どもに対決していく。

ところが、ヒュークアにしてはドラマ展開がお粗末で、悪漢のロシアン・マフィアの首領を演じるマートン・ソーカスがパッとしない。メンズ・マガジンのモデルのようないい男だがワン・パターン。

しかも、肝心のクロエはまったく姿を見せないまま、アクション・ドラマは都会の夜の暗がりで途方もなく展開を繰り返すものだから、あれよあれよの大延長戦となって、ああ、退屈。

世界のSONYが、業績不振だというが、このような映画を作っていては、とても軌道修正は難しいな・・・なんて、余計な心配までしてしまう。

 

■またもファールを連発したが、結局はファースト・フライ。

●10月25日より、新宿ピカデリーほかでロードショー


●『誰よりも狙われた男』で今だに燻る9-11のスパイ後遺症。

2014年09月19日 | Weblog

9月12日(金)13-00 六本木<シネマートB-3試写室>

M-103『誰よりも狙われた男』" A Most Wanted Man " (2014) Film 4 / Demarest Films / Amusement Park 英・独

監督・アントン・コービン 主演・フィリップ・シーモア・ホフマン <122分> 配給・プレシディオ。TCエンターテイメント ★★★★

「寒い国から帰ったスパイ」「ロシア・ハウス」や「裏切りのサーカス」など、スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレのオリジナル原作小説を自身がプロデュース。

監督に抜擢したのが、ロックスターを撮り、非常にクールなカメラマンで、ジョージ・クルーニーに気にいられて「ラスト・ターゲット」を演出したアントン・コービン。

そして主演が、過日、この作品も見ずに自殺したオスカー俳優フィリップ・シーモア・ホフマン、とくれば、これほど今、チャーミングな新作は今ないだろう。

という次第で前に試写室に行ったときは満席でシャットアウトを喰らった当方としては、これがラスト・チャンスと駆けつけた。最近、これほど鳥肌のたつ新作試写はない。

あの9-11から10年。当時からアルカイダのテロリスト達は、ドイツのハンブルグを拠点にして実行プランを練りハイジャックの訓練を受けていたという。

いまだにアラブやロシアのスパイ達が暗躍しているというハンブルグは、まさに東西の「ミッション・インポッシブル」の地下活動都市。そこには各国の秘密情報機関があった。

シーモア・ホフマン自身も、そのスパイ達の動向を探る秘密調査機関のテロ対策情報エキスパートだが、港から密入国したチェチェン出身の活動家の動向を探り、個人的に接近していく。

スパイの臭覚である。ロシアで拷問を受けて脱出した謎の男は、潜伏しているイスラム系テロ組織とのコンタクトを地下で試みる気配を探っていたが、他の調査グループも情報を察知して動いていた。

まさに「スパイ大作戦」の知能戦で、俗なエンターテイメント映画のようなアクションはなく、「ボーン・アイデンティティ」に似たような各国スパイ組織の睨み合いがスリリングに展開していく。

案の上、アメリカのCIAもシーモア・ホフマンの裏情報機関に接近を試みてきて、その女性担当官のロビン・ライト・ペンが、これまでのスパイ映画にない非情な接近をしてくるのが圧巻だ。

監督はさすがに、自らがカメラマンなので、実にクールな映像で畳み掛け、シーモア・ホフマンも「カポーティ」以上の心の迷いと苦しみを表情に漲らせて悲壮感がある。

特に想定外の裏切りで、一気に決着を見せたラスト・シーンで見せた、あの怒りと絶望の表情は、彼の自殺も予感させて壮絶だった。実に謎の多い、しかもプライドの高い傑作だ。

 

■右中間のフェンスに飛びついたライトのグラブをかすめてスタンドイン。

●10月17日より、TOHOシネマズ、シャンテ他でロードショー 


●『サボタージュ』もいいけど、無理すんなよ、シュワちゃん。

2014年09月17日 | Weblog

9月11日(木)13-00 六本木<アスミック・エース3F試写室>

M-102『サボタージュ』" Sabotage" (2014) QED international / Crave Films / Open Road.

監督・デヴィッド・エアー 主演・アーノルド・シュワルツェネッガー <109分> 配給・ブロードメディア・スタジオ ★★★☆☆

昨年見た新作で、わたしが個人的に年間ベストワンにしたのが、エアー監督の「エンド・オブ・ウォッチ』だったものだから、これは監督の期待の1本。

タイトルは、ヒッチコックの旧作と同じだが、ストーリーは全く別もので、こちらは凄腕のDEA。つまり麻薬捜査の実動チームの話。しかもサボタージュを仕掛ける。

われわれが日常的にいう「サボる」というのは、仕事をスッポカしたり、時間をズラしたり、という程度のものだが、ここでは本格的な<破壊工作>のことだ。

元気なシュワちゃんは、その麻薬捜査グループの凄腕リーダーだが、今回は超強力な麻薬カルテルの摘発に、前から僣入捜査官を送り込み、大掛かりな摘発作戦を敢行。

壮絶な銃撃戦の末に、ほとんど裏組織を壊滅して、その埋蔵金も一部チームの<売上金>として確保。これでまた表面的にはアメリカ財務省から、その実績が認められた。

エアー監督の凄さは、その実戦シーンの映像処理の切れ味のよさで、相変わらずモタついているシュワちゃんのアクションも、この監督のテクニックで20年は若返る。凄い巧い。

で、そのチーム8人で一丁上がりで乾杯していると、後半はそのグループのメンバーが、かなり猟奇的な手段でひとりずつ殺されて行く。仲間の裏切りなのかロシアン・バフィアの下請けヒットマンの仕業か。

この謎めいた殺しのテクニックが想定外で、さすがのシュワちゃんもリーダーとして、じっとしていられなくなってくる。あの「レザボア・ドッグス」を思わせるサスペンスが迫ってくるという仕掛け。

ヴァイオレンス・シーンを、これだけリアルに見せるのは、道義的には如何なものかとも心配するが、それを気にしたら、このデヴィッド・エアー演出の魔術を楽しめなくなる。さすがに凄いのだ。

とうとう魔のテが次第にリーダーにまで迫って来て、ラストは壮絶なサバイバル・アクションの炸裂。この度肝を抜くようなエアー監督のアイデアは、多くの映像クリエイターの勉強になる筈だ。

さすがにシュワちゃんはお年なので、この過酷なアクションは見ていて辛いが、これも元カリフォルニア州知事の正義感の証明なのか、と、我慢して見るしかないが、とにかく老骨に鞭打っての奮戦。

この映像の新しい手腕に惚れ込んだブラッド・ピットは、エアー監督にオファーを出して、新作「フューリー」も完成して、近日試写が始まるから、お楽しみである。

 

■痛烈なライナーが左中間を真っ二つに破り、ツーベース。

●11月、日比谷みゆき座ほかでロードショー 


●『N.Y.心霊捜査官』異様なイラク戦争後遺症がニューヨークに転移発症。

2014年09月15日 | Weblog

9月9日(火)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-101『NY心霊捜査官』" Deliver Us From Evil " (2014) sony pictures / jerry bruckheimer P.G.A. production

監督・スコット・デリクソン 主演・エリック・バナ <118分> 配給・ソニー・ピクチャーズエンタテイメント ★★★☆

何しろ「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジェリー・ブラッカイマーが本気のプロデュースというから、ただの「オカルト」事件ものじゃない。

あのイラク戦争に従軍した3人の特殊部隊員が、タリバンの巣窟を銃撃捜査した際に、地下の墓地に転落。帰国後にニューヨークで神経症を発症して猟奇殺人事件をおこす。

「セブン」のような話だが、戦争帰還兵の異常殺人というのが、いかにも、第二次世界大戦後に生まれたニューロティックなフィルム・ノワールの発想と酷似している。

だから、ニューヨーク市警の心霊事件の特別殺人捜査官のエリックが、現場や謎めいた死体の検証をしても、この野獣的な猟奇殺人の犯人像は一向に浮かんでこない。これは大事件なのだ。

アパートで起きた妻への異様なドメスティック・バイオレンスや、動物園のライオンの檻に幼児を投げ入れた母親。アパートの地下で発見された腐乱死体。それらの事件には接点があった。

エリック捜査官は、その3つの事件には、共通したイスラム語の怪文が刻まれていることから、イスラム教にも通じる神父に事件の真相解明のアドバイスを相談するが、・・・またも事件。

要するに、よくある事件ものではなく、その背景にはイラク戦争での異常な精神的な傷痕と、アラブの異教徒の<INVOCAMUS>と書かれた呪いが染み込んでいて、とても近代捜査法での解明は困難なのだった。

わたしはエリック・バナのファンなので、ちょいと苦手な怪奇映画なのだが、見方を変えればフィルム・ノワールのジャンルでもあることから、かなり面白かった。

そこが、やはり大御所ブラッカイマーが触手を動かしたポイントなのだろう。大都会捜査ミステリーとしては異色だが、ある意味ではこれも反戦映画でもあろう。発端は異教徒との戦争なのだ。

ただし、事件がなぜか深夜の地下室ばかりで起こり、エリック捜査官が夜勤刑事なものだから、ほとんどが夜間の暗闇で進行するので、見ていて閉所恐怖症になるのも困ったものだ。

たしかに、異常な心理による怪奇殺人も、ハンニバル・レクターの異端児がニューヨークには異常浸食していたのだ、という恐怖。かなりヤバい。

 

■センターライナーが照明に入って野手が落球のヒット。

●9月20日より、 


●『ふしぎな岬の物語』は砂糖を入れすぎたコーヒーの味。

2014年09月13日 | Weblog

9月9日(火)10-00 西銀座<東映本社7F試写室>

M-100『ふしぎな岬の物語』(2014) 東映東京撮影所、木下グループ、TBS、電通 JR東日本企画、幻冬舎

監督・成島 出 <企画>・主演・吉永小百合 <119分> 配給・東映 ★★★☆

現代のおとぎ話である。森沢明夫の原作「虹の岬の喫茶店」に惚れ込んだ吉永小百合が、ご自身で制作して、主演で完成させた心のファンタジーだ。

若くして夫を亡くしたヒロインの吉永小百合は、千葉県の房総半島の突端にある木造の古びた喫茶店を営んでいる。たまにコーヒーを飲みにやってくるのは数人の常連。

夫の弟にあたる阿部 寛は、ちょっとアタマのトロい男で、その喫茶店の近くにボロな小屋を作って住んでいるが、無職で無謀だが心は善良。何かと吉永の手助けをしている奇人だ。

ドラマに出てくる人物は、それぞれにコンプレックスを抱え、薄幸な人生の岐路にあって、名もなく貧しくて老いて行く家族を抱えているという、まさに今の日本の縮図だろう。

三十年間も未亡人の吉永に憧れて、コーヒーを飲みに通う笑福亭鶴瓶の、あのもどかしすぎる描写などは、このドラマの個性を奥手にしてしまっていて、見ていて気おくれしてしまう古株。

山田洋次監督ならば、「遥かなる山の呼び声」のようなレベルの、もっともっと心の強いガッツな映画に出来たかもしれない。しかし、ここではドラマも停滞気味。

でも監督は様々なスケッチを見せながら手際良く、それぞれに別れの季節を迎える。出戻りの竹内結子の老父の笹野高史が病死してからは、不祥事が続き、その喫茶店も出火消失してしまう。

ふと、昔見た、ジョセフ・L・マンキウィッツ監督の「幽霊と未亡人」を思い出していた。あの映画のジーン・ティアニーも岸壁の家で、船長の亡霊と幸福だった。

亡き夫が描いたという、岬から海に見える虹の絵が、その喫茶店のシンボルだったが、なぜかそれが持ち去られた瞬間からドラマが急変していくのだ。

しかし映画は、そのあとに消失した喫茶店の復興に向けて、住民たちの心からの慈善が彼女を慰めて力づけていく。そこが感動のテーマであり、これがモントリオール国際映画祭で評価されたのだろう。

<災害からの復興>は今の日本にテーマだが、その美しすぎるお膳立てが、どうも見え見えなのが困った。それでも試写室では怖いオバサマもハンカチを取り出している。

ま、作品を悪くいう気はないが、どうも絵本のような、童話的な展開はコーヒーに砂糖を入れすぎたようで苦笑してしまった。

 

■敬遠のフォアボール。

●10月11日より、全国の東映系でロードショー 


●『グッバイ・アンド・ハロー★父からの贈りもの』この無縁な父と息子の紡ぐメロディ。

2014年09月12日 | Weblog

9月8日(月)13-30 六本木<シネマートB-2試写室>

M-099『グッバイ・アンド・ハロー/父からの贈りもの』"Greetings From Tim Buckley" (2012) Tribeca film / focus world / smuggler films 

監督・ダニエル・アルグラント 主演・ベン・バッジリー <104分> 配給・ミッドシップ・ミラクルヴォイス ★★★☆

1966年にデビューしたティム・バックリーというフォーク・シンガーのことは、あまり知らなかった。だって、ボブ・ディランやアーロ・ガスリーの時代である。

とくにティムに関しては、こちらではマイナーな印象であって、当時熱狂のウェスト・コースト系の当方としては、ジャクソン・ブラウンやネッド・ドヒニーの歌に心酔しかけていた。

先日見た、ニューヨークの放浪歌手ルーウィン・デイビスですら、あの映画で初めて知ったのだから、実にご免なさい。という程度の無知な認識で見たのだから、ほとんど白紙。

それでもドラマに引き込まれるのは、これも不遇な父と息子の話だからで、まるで「おくりびと」の父と息子のように、生前はロクに話したという記憶もない関係がドラマの底辺だ。

1997年に、そのティム・バックリーの追悼コンサートが企画されて、同じくフォーク・シンガーになっていた放浪の歌手ジェフ・バックリーがゲストとして招かれた。

映画はその不思議な親子のギターだけを媒介にした父子の関係が、唄われる歌によって、ジワーっと伝わってくるという構成。だって、生前には会った記憶のない父親と息子。

そこは無関係とはいっても、同じ血の繋がりなのだから、作曲した歌の歌詞やメロディ・ラインで、その関係は熱いものがあって当然だろう。それを映画はティムの歌で綴っていくのだ。

それにしても、息子が生まれたのに放浪の旅に出たきりに連絡もなく、30歳の若さで突然に亡くなった父というのも無情だが、その息子の混迷の感情がこの映画の呼吸のようになっている。

よく、テネシー・ウィリアムズや、アーサー・ミラー、そしてジョン・スタインベックの小説や戯曲で見るような親子の確執。それが会った事のない異世代のドラマとして語られて行く、ああ無情。

ジェフを演じているベン・バッジリーがとても繊細でいい。朦朧とした父の幻想に戸惑いながらも、その父の作った曲を初めて唄う、そのたどたどしい歌声。これがとても泣けてくるのだ。

我々は、人気のあるアメリカン・シンガーしか知らないが、プリミティブなフォーク・ソングの世界には、多くの埋もれた才能があったのだ、という音楽史を、またも知らされた。

 

■渋いセカンド・ベースを越えるセンター前のヒット。

●10月18日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー