●11月26日(木)12-30 築地<松竹映画試写室>
M-146『母と暮らせば』松竹映画・2015・協賛ーソフトバンク、日本郵便
監督・山田洋次 主演・吉永小百合 <132分> 配給・松竹映画
これも「日本のいちばん長い日」と同様に、太平洋戦争終結70周年を底辺にした作品だが、その部分がどうもシコリになっているようだ。
当時、長崎で生活していた吉永と息子の二宮和也は、あの二度目の原爆に被災して、ひとり息子は学校で授業中に亡くなって、母親の吉永だけが残された。
それから3年後の1948年、8月9日の夕食時のこと、突然ひょっこりと食卓に亡くなったはずの二宮が、母親の前にフラリと現れる。
もともとは、「父と暮らせば」の原作を書いた井上ひさしさんが、この原案を思案していたというシノプシスを、山田洋次監督が脚本化して、こうして映画化されたという。
だから、2008年に山田洋次監督で主演した吉永小百合の「母べえ」とは、ペアになるような設定なのだが、どうしても井上ひさし原案という意識が底辺に流れる作品。
見ている我々は、あああ、これもゴースト・ストーリーかあ・・。と思う瞬間から、母と息子の愛情ものがたり、というよりは、反戦意識の強いファンタジーだ、という見え方に戸惑う。
たしかに昭和の悲劇を背負った母と息子の設定は悲劇的なのだが、先日見たばかりの「岸辺の旅」のような、故人とのおとなの感傷にはほど遠く、どうしても母と息子の情愛に萎縮するのだ。
だからか、「岸辺の旅」で好演していた浅野忠信は、二宮がかつて憧れていた黒木華との結婚相手として、ひたすらジミに無言の存在だったのが笑えた。
ま、「ゴースト」や「天国から来たチャンピオン」、・・・古くは「幽霊と未亡人」やら「天国への階段」などなど・・・多くの故人との心情を描いた傑作は多いので、感傷は浅い。
後半は、その亡き息子と母親のホームドラマとなり、このまま息子の励ましで、母親も余生を力強く生きて行くのかな、と期待していたが、ラストでドラマは一転するのだ。
まさかミカエル・ハネケ監督の名作「愛、アムール」を意識したのではないだろうが、息子は母親を天国への旅路に連れて行く、という感傷的な展開となる。
そして、クリスチャンであった母の葬儀が、長崎の立派なカソリック教会で行われるというラストシーンでは、こちらも密かに黙祷するしかない。
山田洋次監督が「男はつらいよ」で、よく見せた隔世のユーモアは密封された作品は、やはり井上やすしさんへの敬意が込められていて、エンディング・クレジットでも明記されていた。
という訳で、母とひとり息子との情愛のドラマというよりは、どうしても<昭和の戦後>が根強く後を引きずった印象で、気持ちは後退してしまった。
■左中間への巧打だったが、後退したショートが好捕。 ★★★
●12月12日より、全国松竹系でロードショー