細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『マーク・ライデル監督/アクターズスタジオ特別講演』

2008年09月29日 | Weblog
●9月27日(土)16-00 青山学院大講堂
『アクターズ・スタジオ公開授業』(アップス・アカデミー10周年記念特別講演)
講師/マーク・ライデル監督/奈良橋陽子 ★★★☆☆
ニューヨークのアクターズ・スタジオは多くの有名俳優を送り出していて、亡くなったポール・ニューマンやジェームズ・ディーン、マーロン・ブランドからデ・ニーロやケビン・スペイシーなど、数多くのスター達の原点である演技スタジオとして、俳優たちの憧れの場である。
特別講師として来日したライデル監督の『ローズ』、『ディーン』、出演した『ロング・グッドバイ』、そして名作『黄昏』などの各10分ほどのシーンを上映したあとに、その時のスター達のエピソードなどと、演出や演技の要点が解説され、休憩のあとは、アップスの俳優たちによる、短い寸劇芝居のあと、監督の説明と質疑応答となった。
「すべては自分の中にある。それを引き出す訓練は厳しいが、やりがいのあることだ。自分の中にある別の自分の感情を引き出すことが、演技者の使命であり、必ず人々に感動を与える強さが生まれる」
熱心な質疑応答の時間は、アクターズ・スタジオの魅力と熱気を孕み、ライデル監督の誠実な熱意は説得力があった。
貴重な体験学習だった。

●『わたしが会った25人のスター』羨望と嫉妬の思い出。

2008年09月28日 | Weblog
★キネマ旬報★書評

星の裏側を見て来た男への嫉妬。

 『私のハリウッド交友録』
 (映画スター25人の肖像)ピーター・ボグダノヴィッチ著     細越麟太郎

 我々は映画でスターを見ているが、スターももちろん一人の人間なのだから、持ち前の自我や個性もある。演じているスクリーンの人物は偶像であり化身であり、虚像でもあるのは当然だ。
 いろいろなスターの自伝、回想録、評伝などは、えてして自画自賛の誇張された実録が多く、その真相に驚きは少ない。この本がユニークなのは、俳優が演じていた役の偶像と、それを演じた俳優本人に、著者が絡み、その三人の関係によって作業が三位一体に回想されていくという構成だろう。
 著者のピーター・ボグダノヴィッチは監督ではあるが、もともとはコラムニストであり、過去にも名監督たちとのインタビュー集を上梓。映画制作以前に音楽畑の仕事や、人気雑誌のインタビュアーとしての経験も豊富にあって、ここにまとめられた本の内容は、まさにハリウッド40年代以降の黄金期の代表的な25人の有名ターとの、個人的な友情に溢れた交友録だ。
 5年を費やしてまとめた821ページにもよる内容では、マリリン・モンローのように一瞬の出会いもあれば、ジェームズ・スチュワートやケイリー・グラントのように、25年以上にも及ぶ交流もあって、それぞれに関係はまったく違う。
 しかしそれぞれのスター達に対する洞察力と研究は、まるで名探偵のように緻密なデータと記憶によって構成されていて、それだけでも消えて逝ったスター達への壮大なる鎮魂歌であり、研究書にも匹敵する。    
 いちばん嬉しいのは、彼が無類のハリウッド映画ファンであり、その伝統や夢に大いなる友情と尊敬の念を貫いているということである。この文脈と人脈は、ただのリポーターのできる作業ではないからだ。
「俺が映画の撮影でリテイクしないのは、客の前で歌を唄うのをやり直さないことと同じさ」とフランク・シナトラは語り、ジャック・レモンは「ぼくをコメディアンだと勘違いしないでくれ」と苦言。「俺がブロードウェイでミュージカルに出たくないのは、毎晩同じ曲を唄いたくないからさ」とディーン・マーティンは笑う。
そしてマーロン・ブランドは「演技とは、台詞に素直に反応することだ」と語っている。
 名優達は、実に気軽に名言を吐くものだ。
 羨望の大作だが、わたしはこの本に嫉妬した。
★★★★☆☆

●主な登場スターは、他にオードリー・ヘプバーン、チャーリー・チャップリン、ハンフリー・ボガート、ジョン・ウェイン、ディーン・マーティン、など25人。

★エスクァイアマガジン・ジャパン社/刊行、4,300円。全国の有名書店で発売中。

●『シャイン・ア・ライト』ギターを持ったワイルドバンチの心意気。

2008年09月27日 | Weblog
●9月26日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-110 『シャイン・ア・ライト』Shine A Light (2008) paramount/fox
監督/マーティン・スコセージ 主演/ザ・ローリング・ストーンズ ★★★☆☆☆
不滅のロック・バンド「ザ・ローリング・ストーンズ」の、映画のための迫真のライブ・パフォーマンスだ。
おそらく彼らとしても、60代の体力の限界を最大限に映像として記録するための最後の挑戦だろう。
だからスコセージ監督のイメージ通りのカメラワークが、撮影可能なスペースとライトを計算。
音楽演奏記録として、見事な実録パフォーマンスになっている。
これだけの映像とサラウンドの音響を活用したライブの音楽記録はかつてない。
プロモーション・ビデオのためのテイクではなく、あくまで聴衆と一体になった演奏は、ド迫力だ。
これは彼らの音楽の好き嫌いではなく、人間の「若さ」についても訴えている。
それはもちろん、ルックスだけでなく、「勇気」と「友情」だろう。
だから若者だけではなく、むしろシニアの方々に見て欲しい映像活性剤だ。

●12月5日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズなどでロードショウ

●『レッド・クリフ』は大スクリーン用の「三国志」

2008年09月25日 | Weblog
●9月24日(水)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-109 『レッド・クリフ』The Red Cliff (2008) three country 中国
監督/ジョン・ウー 主演/トニー・レオン ★★★☆☆
西暦208年の中国、赤崖での壮大な戦闘を描いた長編「三国志」の、これは前篇。
それでも2時間半の大作だ。
いつも華麗な美学を見せるウー監督の映像は、この戦争絵巻を、最新のCG技術でダイナミックに見せる。
そのスケールの大きさは目を見張るが、戦略家の金城 武や、将軍のトニー・レオンなどの人間味も、広大な戦場の埃にまみれてしまって、せっかくのキャスティングの味わいも薄れてしまった。
男達の表情がみな固いので、個性も同じに見えてしまうのが困りものだが、監督のトレイドマークの白い鳩は、この作品でも優雅に印象的に戦場を飛んでいる。ところが、結局どこかに消えてしまった。
多分、次作の後編にまた登場して作品を締めてくれるだろう。

●11月1日より、日劇1などでロードショウ

●『BOY A』の社会復帰を拒むのは社会そのものだ。

2008年09月23日 | Weblog
●9月22日(月)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-108 『BOY A』(2007) weinstein 英国
監督/ジョン・クローリー 主演/アンドリュー・ガーフィールド ★★★☆☆☆
少年期に殺人事件の従犯として逮捕され、施設での長い更生刑期を終えて、成人となり<BOY A> という新しい名前で社会復帰した青年が 、思いもよらない世の中の重圧に苦しむという、異色の青春映画だ。
映画は一貫して、クールな素晴らしい映像で、青年の過失を忘れさせるような善意に溢れたタッチで展開する。
見る限りは健全で明るい社会復帰なのだが、世間は彼の前科を忘れない。
そこにこの映画の重要な作為が秘められている。
ソーシャルワーカーの献身的なサポートが、<BOY A>の心の支えとなっているが、実は彼の息子が引きこもりで多くの家庭的な問題を抱えていて、そのドラマの伏線が作品の深みになっている。
犯罪の背景は、青年の更生とともにフラッシュバックされる構成になっていて、そのことが、この映画の悲劇的構造をしっかり支えている。まるでトリュフォーの「大人は判ってくれない」の再来だ。
素晴らしい感性と洞察力、そして愛情を備えた青春映画として心から絶賛の拍手をしたい。

●11月、渋谷シネアミューズなどでロードショウ

●『ブラインドネス』で、こちらも失明、失望だ。

2008年09月20日 | Weblog
●9月18日(木)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-107 『ブラインドネス』Blindness (2008) focus カナダ
監督/フェルナンド・メイレレス 主演/ジュリアン・ムーア ★★☆
ノーベル賞作家の「白の闇」は、心の闇を心理的に書き込まれたものだろう。
なぜこれを娯楽的に映画化する必要があったのか、最後まで判らない迷作だ。
原因不明で失神する人が急増したために、感染者たちを隔離した都市。
なぜか医師の妻ジュリアンだけは目がみえているので、視覚的には一応ドラマは異様なサスペンスとなる。
集団パニック映画「ミスト」や「宇宙戦争」には、その展開には健全なエンターテイメントが成立していたが、この映画にはそれがない。目が見えないと、美しさや情愛も失われてしまうらしい。つまり魅力も失われる。
醜悪な地獄の状況を見せられても、こちらは目が離せず、原因不明の不快感のまま、唐突に映画は終わる。

●11月22日より全国ロードショー

●『人情噺、文七元結』の圧倒的な劇場感覚。

2008年09月19日 | Weblog
●9月18日(木)10-30 目黒<ソニーPCL試写室>
M-106 『人情噺、文七元結』(2008) 松竹映画・ソニーPCL
監督/山田洋次 主演/中村勘三郎 ★★★★
人情歌舞伎の舞台を山田監督が演出するというのは、多くの松竹での名作を語るまでもなく作品のレベルを期待できるが、この企画の勝利は、舞台での臨場感をスクリーンに拡大しつつ、クリアな映像で再現した、この最新のHDカメラ映像技術の素晴らしさに尽きる。
★の大半はその驚きの技術だが、劇場での観客の反応までがサウンドで活かされて、それが温度として伝わって来るということは、まったく想定外の感動だった。
40を過ぎても博打遊びをしている左官の勘三郎の家は火の車。年も越せない悲惨さに、娘は家出をしてしまった。そして吉原の女郎屋に身売りをしたものだから、放蕩オヤジも放っとけない。
そんな市井の人情噺が、監督は手慣れた下町の感性で涙と笑いを盛り上げる。
これは映画の革命でもある。ここまで音響と映像がリアルに再現される歓びは、それだけで必見に価する。

●10月18日より全国松竹系公開。

●『恋愛上手になるために』はよく睡眠をとることです。?

2008年09月18日 | Weblog
●9月17日(水)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-105 『恋愛上手になるために』The Good Night (2007) inferno films 米
監督/ジェイク・パルトロウ 主演/マーティン・フリーマン ★★★☆☆☆
あまりにも低俗な感じの邦題を敬遠して、ついに試写も最後のチャンスとなった。
それでもパルトロウ監督の父親が生前に作った『デュエット』が良かったことが気がかりなので、やはり見てみようと思った決断は正解だった。
作品の内容は、原名の「ザ・グッドナイト」というイメージの方が正しい傑作だ。
どうも関係が噛み合ない倦怠カップルの心のうちは、ウディ・アレンの得意の世界だが、この作品の発想もシナリオも負けていない。
堕ち目のCM音楽作曲家マーティンは、彼女とベッドを共にしながら、理想の美女の夢ばかり見る。
それは街で見かけるCMの美女なのだが、現実のペネロペ・クルスと、夢に出て来る彼女が次第に交錯してくるというアイデアは、古典的なモチーフの分裂症だが、ここでは面白く分解して、よく活かされている。そして作品の質をコントロールされていのが、デビュー監督のDNA資質の確かさで好感が持てる。
姉のグウィネスの演技も久しぶりにいいサポートだ。
男性なら誰でも夢想しているダブル・ヴィジョンを、敢えて映像化した傑作コメディ。
彼は駄目男ではなく、「虹を掴む男」なのである。

●11月、渋谷シアターTSUTAYAでロードショー

●『真木栗ノ穴』は愛と創作の迷走。

2008年09月13日 | Weblog
●9月12日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-104 『真木栗ノ穴』A Hole on the Wall (2007) benten 日
監督/深川榮洋 主演/西島秀俊 ★★★☆
時代に取り残されたような鎌倉の古い木造アパートで、通俗な官能小説を書いている作家は、部屋にあった小さな穴から見える隣人の生活にストーリーのヒントを探っていた。
その穴の向こうに見える若い女性の生活は、現実なのか創作なのかが、次第に判らなくなる。
スティーブン・キングの「シャイニング」や、ジョニー・デップの映画でも同じように、作家の創作の妄想が現実との境目を失うようなストーリーがあったが、これもまた創作地獄の似たような展開となる。
しかしこれは甘く幻想的で、恐怖のない怪談とでもいうべきだろうか。
ミステリーとしての面白さはあるが、イメージの意外性や飛躍は特にない。孤独な作家の落ち込みを見つめた幻覚映画として、面白く好感は持てるが、映画的な感動はない。

●10月下旬より、渋谷ユーロスペースでロードショウ

●『ブロークン』で割れたガラスはそのままだった。

2008年09月12日 | Weblog
●9月11日(木)13-00  京橋<東京テアトル試写室>
M-103 『ブロークン』The Broken (2008) Gaumont 英/仏
監督/ショーン・エリス 主演/レナ・ヘディ ★★★☆
怪奇小説作家エドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」を下敷きにしたミステリー。
世界には自分にそっくりな人間がいて、性格的には善と悪のような正反対の個性があり、宿命的に出会うとお互いを相殺する。
ロンドンのダークな町並み。脳外科医師のレナは同じ色で同じ車種を運転している女性が自分にそっくりな顔をしていたのを見て、その妄想で事故を起こす。
手術で異常はなかったが、それから自分と同じ姿の女性が生活に入り込み、彼女の幸福を破壊していく。
精神医学的には、いわゆる分裂症なのだろうが、映画ではひたすらレプリカント・スリラーのように、恐怖だけを強調していく。無表情な演出が次第にドラマを単調に見せて行くのが惜しまれた。
スタイリッシュな映像はシャープだが、演出の方は映像に固執しすぎたようだ。

●11月、テアトル・タイムススクエアなどでロードショウ