細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●ビンラーディンがユーゴーを圧するか、オスカー前哨戦の12月試写ベスト。

2012年12月30日 | Weblog

●12月30日(日)
★12月に見た新作試写ベスト5

1/『ゼロ・ダーク・サーティ』(キャスリン・ビグロー)主演/ジェシカ・チャスティン ★★★★☆☆
   2011年5月1日。要塞のようなアジトに潜むビンラディン捕獲作戦を決断したCIA女性捜査官の、苦悩と闘いの日々を再現。

2/『レ・ミゼラブル』(トム・フーパー)主演/ヒュー・ジャックマン ★★★★☆
   ユーゴーの「ああ無情」を、壮大なミュージカルとして完成させたスタッフの力量と、音楽ならではの融和感覚で魅了させた傑作。

3/『フライト』(ロバート・ゼメキス)主演/デンゼル・ワシントン ★★★★
   落雷で操縦不能となった旅客機を軟着陸させて大惨事は免れたが、機長は薬物を服用していた裁判をめぐる迫真のヒューマン・ドラマ。

4/『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(ショーン・ダーキン)主演/エリザベス・オルセン ★★★☆☆☆
   カルト教団を脱出した女性は、姉の家で精神的な更正に努力するが、体に染みついた思想的なダメージは日々に心を崩壊させていく。

5/『世界にひとつのプレイブック』(デヴィッド・O・ラッセル)主演/ジェニファー・ローレンス ★★★☆☆
   離婚のショックでノイローゼになった男が知り合った女性も、夫に死別したばかりのヒステリックな女性。壮絶なトークバトルの行方。

●今月は傑作が多くて、『偽りなき者』『ムーンライズ・キングダム』『ロンドンゾンビ紀行』『故郷よ』『塀の中のジュリアス・シーザー』
などなど、普段の月ならベスト3に入るような傑作が多かった。
12月は毎年のように、アカデミー賞ノミネートの前哨戦が迫っているので、よくぞ傑作ぞろいだ。


●『ゼロ・ダーク・サーティ』迫真のビンラディーン捕獲スパイ大作戦。

2012年12月28日 | Weblog

●12月27日(木)13−00 汐留<FSホール試写>
M−154『ゼロ・ダーク・サーティ』Zero Dark Thirty (2012) columbia/ sony, jonathan olley
監督/キャスリン・ビグロー 主演/ジェシカ・チャスティン <158分> 配給/GAGA ★★★★☆☆
ことしも試写で154本の新作を見たが、これが最終の試写。しかも真打ちの秀作だった。
アカデミー賞ダービーの締め切りギリギリで登場して、全米でも大ヒットだとか。
タイトルは、「暗闇の0時30分」というが、昨年の5月1日の深夜のこと。
オサマ・ビンラディンのアジトを突き止めたCIAの女性テロ分析捜査官は、大統領を説得して、ネイビーシールズの突入を決めた。
9−11の悲劇から10年。毎年のように繰り返される自爆テロ。
 多くの予算と人命を失い、いまだに首謀オサマの所在を絞りきれないCIAは焦り狂っていた。
親友の捜査官を、目前のテロで失ったジェシカはキレた。
タリバンの死亡者リストを、総ざらいして、身元不明の容疑者を確認していた彼女は、その中に誤認があったことを発見。
ビンラディンとの連絡員の所在を追跡した彼女は、アボッターバードの住宅地に不審な豪邸を突き止める。
宇宙衛星のカメラでも中の様子が判らぬまま、あらゆる資料の調査の末に、彼女はアジトであると判断。
それまでの捜査と事件は、まさにハードボイルドな探偵映画を見ているような緊張の連続だ。
ラストの突入に関しては、ネタバレで書けないが、迫真の再現シーン連続で緊張した。
「これが映画の凄さだなあーー、」と考えながら、目が離せない濃縮の2時間40分。しかし実に素晴らしい。

監督も女性だが、主演女優のジェシカも男顔負けの根性で、オスカー射程距離の好演。
2008年の「ハート・ロッカー」でオスカー受賞のキャスリンは、あの感動をまたも増長したようだ。
いまのところ、この作品がオスカー本命。あとはスピルバーグの「リンカーン」の試写待ちだ。

■飛行距離充分のセンターバックスクリーン右への特大ホームラン
●2月15日より、TOHOシネマ有楽座などで全国ロードショー


●『世界にひとつのプレイブック』のナーバス・ブレイクダウンな恋の行方

2012年12月26日 | Weblog

●12月25日(火)13−00 六本木<シネマート3F試写室>
M−153『世界にひとつのプレイブック』Silver Linings Playbook (2012) the weinstein company
監督/デヴィッド・O・ラッセル 主演/ブラッドリー・クーパー <123分> 配給/GAGA ★★★☆☆
クリーブランドの中流家庭。妻に別居されて躁鬱になって入院していたブラッドリーが退院してきた。
父親のロバート・デ・ニーロは熱烈なアメフト、イーグルスのファンで、相変わらずの家族はパニクって騒がしい。
毎日のランニングで、ノイローゼの治療をしていたブラッドリーは、夫に死別したジェニファーと一緒に走るようになる。
とにかくキレやすい病状の彼は、薬でどうにか精神バランスをとっているが、世の中、相変わらずアホらしい。
急逝したシドニー・ポラックが映画化を希望していた原作小説を、「ザ・ファイター」で注目された監督が引き継いだ。
アメリカの中都市の、ごく平凡な家族の、ごく平凡な日常だが、みんななぜかイライラしている。
入院して薬で治療するレベルは、常軌を逸してしまう精神バランスが、非常にデリケートだからだろうが、この程度の人間はザラ。
その平常心の破裂寸前の感情を描いた、一種のヒステリック・コメディだが、とにかく会話が面白くて飽きさせない。
ウディ・アレンは、そのアンバランスな精神状態をソフィスティケイトに描くが、この作品は、かなりエグイのだ。
見るべきは、ジェニファー・ローレンスのキレまくりの名演だ。
「愛しのシバよ帰れ」のシャーリー・ブースや「走り来る人々」のシャーリー・マクレーンのような素晴らしさだ。
きっと、また彼女はアカデミー主演女優賞にもノミネートされるだろうが、彼女の存在で作品が絞まった。
ロバート・デ・ニーロも「ミート・ザ・ペアレンツ」よりはマシなコメディ・リリーフでナイス・フォローだ。
それにしては邦題が平凡。「シルバー・ライニング(前途洋々)」のままでいいのに。

■テキサス性の小フライを3人の野手が譲り合ってポトリのヒット。
●2013年2月2日より、TOHOシネマズ、シャンテなどでロードショー


●『偽りなき者』恐るべきは、子供の嘘とおとなの誤解。

2012年12月22日 | Weblog

●12月21日(金)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−152『偽りなき者』jagten (2012) the Hunt) zentropa entertainment 19 デンマーク
監督/トマス・ヴィンターベア 主演/マッツ・ミケルセン <115分>配給/キノフィルムズ ★★★☆☆☆
これもまた、人間の意思疎通の誤解が招いた悲劇だ。
コペンハーゲン郊外の住宅地で、幼稚園の臨時指導員をしていたマッツは、道に迷った少女を自宅に連れて行った。
ところが、少女は根も葉もないセックスの虐待を受けた、と両親に話した事から、彼は停職となり警察の取り調べを受ける。
少女の些細な思い込みの嘘から、おとな達がマに受けて恐ろしい差別の悲劇となる。
あのリリアン・ヘルマン原作「子供の時間」。オードリー・ヘプバーンの「噂の二人」の再現だ。
しかも今回のマッツは離婚係争中で、息子の信頼もない。
中年男たちの仲間はいるものの、ガラリと態度を硬化させるのだ。
一種の誤解から生じた、社会的な「いじめ」だが、ことは深刻になり、マッツの愛犬まで隣人に殺される。
この歯止めの利かない差別の連鎖は、たしかに起こりうる社会問題だ。
親身になって話し合えば済む事が、いったん世間の話題になると、誤解は簡単には収拾がつかなくなる悲劇の構造。
それをデンマークの端正でクールな風土で、まさにベルイマンの映画のようなインテリジェンスで貫く。
それは主演のマッツ・ミケルセンの名演が際立っているからで、カンヌ映画祭での受賞も頷ける。
晩秋からクリスマスにかけての、北欧の美しさが、より冷たく感じられる。
原題は「狩猟」の意味だが、これがまた、とてもコワい意味を含んでいるようだ。
すべての、子供を持つ親の在り方として、見るべきものは多くある。

■センター右にライナーで低く飛んだ打球が、野手のグラブを弾いて転々の痛打。
●2013年3月、渋谷Bunkamuraル・シネマなどでロードショー


●『きいろいゾウ』変拍子な家族たちの冷戦バトル。

2012年12月21日 | Weblog

●12月20日(木)13−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−151『きいろいゾウ』(2012)博報堂DYメディアパートナーズ、東海テレビ
監督/廣木隆一 主演/宮崎あおい <131分>配給/ショウゲート ★★★☆☆
三重県の山村に住む若い夫婦は、木々や動物とも会話を楽しむ心のやさしすぎるカップルだ。
ムコと呼ばれる夫は介護ホームで老人のケアをしながら小説を書いているが、ツマと呼ばれる宮崎は家事専業。
童話のイラストに出て来る黄色い月や、ゾウなどが、彼女のデリケートな心象をスケッチしていく。
このツマの宮崎の心象のアンバランスが、かなりフラジルで、危なっかしい。
どこかのどかで、どこかピントのズレている人々の愛情物語だが、テンポも同様に鈍いのだ。
このオフビートなリズムが作品のテーマであり、都会のテンポとはまったく違う。
おそらく作品の狙いは、このマイナーなリズムに合わせて現実を感じ取ってほしいのだろう。
それぞれの家族の感情の亀裂は、「東京家族」とも共通するが、このテンポは変拍子なのだ。
痴呆症や認知症やノイローゼなど、ひとそれぞれに感性の戸惑いは現実に沢山ある。
それを、黄色い月の光と、動物たちの共存で語るタッチは、若者には共感があるだろう。
まずは上質に仕上がったマイナーなメンタル・ホームドラマだ。

■サードの頭上をワンバウンドで抜けたヒット。
●2月2日、フーフの日、新宿ピカデリーなどでロードショー


●『マーサ、あるいはマーシー・メイ』冷めている心から堕ちて行く自分。

2012年12月19日 | Weblog

●12月18日(火)13−00 六本木<シネマート試写室B−1>
M−150『マーサ、あるいはマーシー・メイ』Martha Marcy May Marlene (2012) fox searchlight
監督/ショーン・ダーキン 主演/エリザベス・オルセン <102分> 配給/SPO ★★★☆☆☆
久しぶりに鋭利な映像感覚に溢れた新作に遭遇した。
フォックス・サーチライトは、メジャーに配給できない斬新な企画を発表するが、これは「ルビー・スパーク」以上の収穫。
噂のコネチカット州のコミューンは、一種のカルト集団だが、山奥の農園で20人くらいで自活していた。
若いマーサは俗世を嫌って、その集団生活を2年していたが、ある日に脱出。
湖畔に住む姉夫婦の家に逃避して、通常の生活に馴染もうとした。
心では、一般の生活に戻ろうとするものの、洗脳された頭脳のトラウマは、不自然にも元のカルト思想に戻そうとする。
この心と頭脳の葛藤が、非常に鋭利な映像感覚で迷走するのだ。
たった2週間の話だが、過去のトラウマを随所にカットインさせる、この若い29歳の監督の技量はベテランを凌ぐ。
とくに、耳鳴りのような不快な音が、現実の生活の中にも聞こえ出す後半は、コワい。
一切の衝動的なショックシーンもなく、淡々と沈没していくマーサの心の病魔。
とにかく、常軌では収拾のつかない、心の病いを、この映画はまるで北欧の映画のような知的サスペンスで見せる。
オードリーの「噂の二人」や、「失踪」、「激突」のような、得体の知れない恐怖。
エリザベスも、ジェニファー・ローレンスと並んで、実に心の内側を表現できる本格俳優として、楽しみだ。
どうか、日本の若い映像監督も、このレベルの技をマスターしてから、人間の心のシナリオを書いて欲しい。
ラストの、車の後部座席だけの恐怖には、久しぶりにヒッチコックを感じてしまった。

■前進守備のレフトの頭上を抜くクリーンヒットはフェンスを転々。
●2月23日より、シネマート新宿ほかでロードショー


●『ロンドンゾンビ紀行』の老人ホームはマシンガンで徹底抗戦だ!!!

2012年12月16日 | Weblog

●12月14日(金)13−00 渋谷<映画美学校B−1試写室>
M−149『ロンドンゾンビ紀行』Cockneys vs. Zombies (2012) the tea shop & film company. UK
監督/マティアス・ハーネー 主演/アラン・フォード <88分> 提供/彩プロ ★★★☆
ロンドン・オリンピック開催の都市開発で、立ち退き命令の出た養老院では、老人達が抵抗していた。
周辺ではビルの解体工事が進み、地下室の床下から、多くの人骨が発見されたが、突然の騒音に死骸が目覚めたのだ。
そしてゾンビ達は工事現場から市街地へと行動を開始して、その老人ホームにも迫って来たのだ。
そんなこととはつゆ知らずに、混乱に乗じた強盗団は銀行から多額の紙幣を強奪したものの、彼らもゾンビに襲われる。
そして逃げ込んだのが老人ホーム。
世代を超えた彼らは、重装備の武器を乱射して、迫り来るゾンビの大群に立ち向かう。
ま、とにかく徹底したゾンビ殺戮の武力アクションで、老人たちもマシンガンを打ちまくるという異常事態。
ロンドンでは大ヒットしたという、奇想天外なゾンビ猟りアクション映画。
タランティーノの「フロム・ダスク・ティル・ドーン」を威圧するような派手な銃撃戦は呆れてしまう壮絶さ。
圧倒的な人数のゾンビを、この老人たちと不良グループが「ワイルドバンチ」のようにやっつけるのだ。
ただそれだけのBムービーだが、テレも外聞もないような、徹底したバカ騒ぎが面白い。
やたらゾンビ映画の多い時代に、これだけ徹底的に銃撃退治に徹するのも、呆れた爽快感がある。
この硝煙だらけのロンドン大ピンチに、ジェームズ・ボンド氏はどこに行っているのだろう。

■フルカウントからの強打が、ピッチャーの足を直撃し球はファールグラウンドへ。
●2013年1月12日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー


●『ムーンライズ・キングダム』の懲りないオトナ達の<かくれんぼ>。

2012年12月15日 | Weblog

●12月14日(金)10−00 六本木<シネマート試写室2>
M−148『ムーンライト・キングダム』Moonlight Kingdom (2012) focus features / indian paintbrush
監督/ウェス・アンダースン 主演/ブルース・ウィリス <94分>配給/ファントム・フィルム ★★★☆☆
1965年、カナダに近いニューイングランド沖の島。
恐らく東京の1区くらいの小さな島の学校で、12歳の男女が恋におちて駆け落ちをした。
といっても、狭い島の中のこと。まさに子供の<かくれんぼ>。
たったひとりの警察官のブルースと、ボーイスカウト隊長のエドワード・ノートンが捜索にあたる。
もともとブルースとエドはコメディアンだから、この珍役を愉しそうに演じている。
どこかティム・バートンの「シザーハンズ」を思わせるノスタルジックな風景と、アンティークな感覚。
とくに、この島にはネイティブ・インディアンの懐かしい感覚が残っているので、おとなの童話漫画のような画調が懐かしい。
ま、「ハリー・ポッター」の60年代アメリカンだと思えば、気分は非常に和んで来る。
まだテレビも初期の、あの懐かしいアメリカン・グラフィティの世界への郷愁を、大物スターたちが「学芸会」のようにハシャグのだ。
ストーリーは、ただの「かくれんぼ」なのだが、それをマジに展開するのがウェスの毎度の世界。
趣味的にはウディ・アレンの「ラジオ・デイズ」の、ノーテンキなアイランド騒動。しかし立派なアートワーク。
これだけのビッグなスターが揃い、ハーヴェイ・カイテルなどは、カメオなのだ。何という贅沢。
それでも今年のゴールデングローブ賞にノミネートされた人気は、やはり本物の、お遊びだと見るしかない。

■バントの飛球が、前進守備のサードの頭上を越えて内野安打。
●2月8日より、TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー


●『レ・ミゼラブル』の予想外にウェルダンな完成度。

2012年12月13日 | Weblog

●12月12日(水)10−00 五反田<イマジカ第一試写室>
M−147『レ・ミゼラブル』Le Miserable (2012) universal International 100
監督/トム・フーバー 主演/ヒュー・ジャックマン <158分>東宝東和配給 ★★★★☆
正直な話、このミュージカルは、以前に帝国劇場で見た時に失望していた。
ジャン・ギャバンが演じた、ジャン・バルジャンのイメージが損なわれたせいもあったが、歌の印象が大仰だったのだ。
だから、試写も気が進まずに、ラストチャンス。「恐いもの見たさ」という心境だった。
ところがどうだ。
のっけから歌とコーラスとスペクタクルシーンで圧倒し、そのペースが緩まない。
見事な演出と、役者の歌唱力。とくにアン・ハサウェイの熱唱には驚いた。
唄の内容を、これだけの表情と呼吸の間合いで魅了するのは、実に意外だった。恐れ入った。
フランス革命直前のパリを舞台に、まさにご存知の世界が淀みなくCG処理で展開する「映画力」には完全に圧倒された。
こと細かな部分の欠点はあるにせよ、この演出とカメラの調和。そしてサウンドコントロール。
それに、それぞれの俳優のバランスと距離感が素晴らしい。
総体に、これだけのパワフルな作品に仕上がっているとは、愚かにも、まったく予想しなかった。
ヒューの存在感も、老齢になってから重みを増し、ラッセル・クロウのジャベールも憎々しい。
既存のミュージカルは、過去にも成功例が多く、これも次回のオスカー・ダービーのトップに位置するだろう。
とくにアカデミーのメンバーは、ミュージカルが大好きな傾向がある。
とはいえ、その多くの期待をクリアしたトム・フーバーの「英国王のスピーチ」を凌ぐ力量には脱帽だ。
これならヴィクトル・ユーゴーも「トレ・ボン」と喜ぶだろう。


■フルカウントから大きな右中間のライナーは、そのままスタンド上段直撃。
●12月21日より、全国お正月ロードショー


●『悪人に平穏なし』の超ハードボイルドな酔いどれ刑事の果て。

2012年12月11日 | Weblog

●12月10日(月)13−00 築地<松竹本社3F試写室>
M−146『悪人に平穏なし』No Rest for the Wicked (2011) lazona / terecinco / canal +スペイン
監督/エンリケ・ウルビス 主演/ホセ・コロナド <114分>配給/シンカ ★★★☆☆
2004年3月11日にスペインのマドリッドで起こった同時多発テロでは、191人もの死者を出した。
この作品は、そのテロ組織の存在を事前に追っていた酔いどれ刑事の悪くどい存在を描いている。
凄惨な事件は事実だが、この悪徳刑事の存在は創作のようだ。
冒頭からハードボイルドなタッチで、中年のやさぐれ刑事ホセは、深夜のバーで泥酔しながらもオーナーなどを銃殺。
見ているこちらは、とんでもないヤクザな奴と思っていたが、それが何とマドリッドの所轄ながら一匹刑事。
一応バッジは持っているが、やっていることは相当に悪どい。容赦なくワルを撃ち殺す野獣だ。
まさに「トレーニング・デイ」のやくざな麻薬常習刑事みたいなのだが、この一匹狼の悪人に対する臭覚は本能的に鋭い。
ただの暗黒街取り締まり刑事映画と思っていたが、次第に犯罪ルートはテロリスト・グループに繋がって行くシナリオがシャープだ。
徹底的にマドリッド市内に巣を作っているアラブ系麻薬組織と、警察幹部との暗部が、次第に焙りだされていく見事な構成。
酒と麻薬で転落しきったホセの日常は、野良犬のように夜の暗闇を徘徊するのだ。
スペイン映画界では、ことしの最高のゴヤ賞を6部門で独占。最高の評価を受けたサスペンスだ。
それは記憶に新しいテロ事件を、根っこの部分で捜査していた、この酔いどれ刑事に対しての拍手だろう。
たしかにラテン系の犯罪映画は、ハリウッドものと違って、悪臭が漂う凄まじさがある。
アニスとグラッパとカルバドスのストレートがぶ飲みの味。

■痛烈なライナーがショートのグラブを弾いて左中間に転々。
●2月9日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー