細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ゴダール・ソシアリスム』80歳の毒舌戯画の奔放な美学。

2010年10月30日 | Weblog
●10月29日(金)13-30汐留<FSホール試写>
M-132『ゴダール・ソシアリスム』JLG Film Socialism (2010) Vega Films 仏
監督/ジャン=リュック・ゴダール 主演/マチアス・ドマイディ
80歳を迎える鬼才ゴダールの新作。
まるで映像スクラップのコラージュのような怒濤の3部構成。
もともとハリウッドのエンターテイメントは愚の骨頂とした視点の作品なので、☆の評価は無意味だろう。
アルジェを出航した観光客船でのスピーディなラフカットによるスケッチに、過剰な音響が轟く。
荒れる大海。水は誰にも平等なのだから、金も平等であるべきだろう。「自由は高くつく」。
様々な言葉の引用と多重カメラによるインサートカットで、見る側を威嚇するが、旅のスケッチが続く。
地中海の港や名所の歴史的悲劇と、現実の虚飾。そして旅の喧噪。
「こんな事ども」「どこへ行く、ヨーロッパ」「われら人類」とオムニバスになった構成だ。
それぞれに強いインパクトのある映像とサウンドで、やたらと翻弄されているうちに、「ノーコメント」という大文字で終わる。
「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」「軽蔑」などは明確なドラマ性があったが、近年のゴダール映画はそれを避けた。
絵画であれば、抽象画のようなタッチ。
従ってこれを映像アジテーションと取るのか、創作遊戯ととるのか、社会主義迎合ととるのか。
解釈は自由。ただ、このような映画表現もある、という視点では、若いファンには見て欲しい。
これが面白いか、どうかは、その人の感性の柔軟さによるだろう。
わたしも、これ以上は「ノーコメント」だ。

■振り逃げでキャッチャーの投げたボールが暴投となり、ツーベース。
●12月18日より、日比谷シャンテシネでロードショー

●『ゴースト/もういちど抱きしめたい』の2度目の降霊。

2010年10月28日 | Weblog
●10月27日(水)13-00 築地<松竹試写室>
M-131『ゴースト/もういちど抱きしめたい』Ghost (2010) paramount/松竹
監督/大谷太郎 主演/松嶋菜々子 ★★★☆☆
あの「死刑台のエレベーター」と同様に、アチラの名作をリメイクするのは、勇気と英知が必要だ。
しかし一方で、もう20年も昔の映画は、若い世代は見ていない、という見方もある。
この作品は、恋の悲劇の設定を逆転させて、女性がゴーストになることで、味を換えた。
しかも男性を韓国のソン・スンホンにしたことで、言葉のハンデがドラマをファンタジーに換えた。
韓流ドラマの甘さも、ここでは巧く味付けがきいいている。
いろいろと現実的な難点はあるものの、ファンタジーとして安定した監督の演出がリズムを支えている。
ヒロインが会社社長というのが、どうも嘘っぽくて、会社絡みのシーンは安っぽいが、まあこの程度はいいか。
相手役のソンも、言葉少なくしているのが、かえって魅力を損なっていないようだ。
オリジナルで霊媒師を演じたウーピーはアカデミー賞を受賞したが、ここでも樹木希林が味を出した。
音楽もオリジナルの魅力を巧く活用して、印象を受け継いでいる。
まずはリメイク及第点だろう。

■素直なピッチャー返しがゴロでセンター前に抜けた。
●11月13日より、松竹ピカデリーなどでロードショー

●『ジーン・ワルツ』は妊婦たちの出産ワルツ。

2010年10月27日 | Weblog
●10月26日(火)13-00 西銀座<東映本社試写室>
M-130『ジーン・ワルツ』Gene Waltz (2010) 東映
監督/大谷健太郎 主演/菅野美穂 ★★★
海堂 尊のヒット原作の映画化。
代理出産や堕胎問題、それに医師や産科医院の不足による入院拒否などの社会問題をドラマにしている。
まさに「おくりびと」ならぬ「むかえびと」たちの切迫したテーマだ。
自身が流産の経験のある産科女医の菅野は、総合病院の職を捨てて、閉院寸前のクリニックで医療にあたる。
子供は生まれてくる意味がある。だから命は迎えるべきだ。
いかにも女性ならではの健気な熱意はよく判る。これは女性のための映画だ。
しかし小説ではドラマチックであろう筈の出産シーンも多くの名作で見ているので新鮮味はない。
おまけに緊急出産がトリプルになるクライマックスも、ただドタバタするだけで、感動には遠い。
それは主人公のカップルの過去や背景などの私生活が曖昧なために、まったく感情移入できない。
おそらく出産経験のある女性なら、見方も好意的になるだろう。
ベテラン大杉蓮の狼狽ぶりが、おかしく情けなく見えるほど、男たちはなす術もないのだ。

■平凡なショートゴロでダブルプレイ。
●2011年2月5日ロードショー

●『キック・アス』のコミック初心者向けの痛快変身アクション。

2010年10月26日 | Weblog
●10月25日(月)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-129『キック・アス』Kick-Ass (2010) Marv Films + B Plan 米
監督/マシュー・ヴォーン 主演/アーロン・ジョンソン ★★★☆☆
アメリカン・コミックの人気アニメの映画化だが、かなり発想がフツーで可笑しい。
「スーパーマン」や「スパイダーマン」そして「バットマン」も、みなスーパーパワーを持っていた。
しかしこの映画の主人公は学校ではCマイナスで、全然モテないオタクタイプ。
日頃から欲求不満のはけ口に、コスプレを着て鏡の前で凄むのだが、実際はサイテー少年だ。
この何も特技のない青年の怒りがついにキレた。
ひと助けで不良グループにボコボコにされて入院してから、あまり体に痛みを感じない体質になってくる。
こうしたフツーの少年のマイナーな日常が長く描かれて行くので、後半の大変身が痛快になる。
ただの青春映画が、突如タランティーノ風のド派手なアクションに転調するのも快感なのは、やくざ映画のスタイルなのかも。
ニコラス・ケイジ扮する漫画家が、実は変身マニアで、その娘がまたキレまくるので笑ってしまう。
よくある復讐コミックの典型ではあるものの、この少女クロエ・グレース・モレッツの大暴れで、映画はホットになった。
あの「ミレニアム」のドラゴン・タトゥーの妹のようなメイクのアクションが頼もしい。
このテのアメ・コミは、理屈を言ってもしょうがない。これは楽しむべき作品であって問答無用、製作のブラッド・ピットの映画魂が炸裂だ。
あの若きジョン・レノンを好演したアーロンも無心で悪くない。

■センターライナーが途中から伸びて、フェンス直撃のツーベース。
●12月18日より、渋谷シネセゾンなどでロードショー

●『キス&キル』は意外や奇想天外なスパイ&ファミリー活劇。

2010年10月23日 | Weblog
●10月22日(金)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-128『キス&キル』Kiss & Kill (2010) lionsgate 米
監督/ロバート・ルケティック 主演/アシュトン・カッチャー ★★★☆☆☆
結婚した彼が実はスパイだった、という話はよくあるケース。
しかしこの映画の面白さは、その結婚した女性の家族が、じつは曲者だったという、二重底。
シナリオが、よく練られていて、ただの青春スパイ活劇が、家族騒動になるのが面白い。
この構造の面白さを、主演のアシュトンがプロデュースしていて、なかなか抜け目がないのだ。
始まりは007もの。それが「ナイト・アンド・デイ」の真似事になる。
ところが円満な新婚家族が「キル・ビル」のように、友人や隣人たちが突然のアサシンに変身。
せっかくエージェントはリタイアした筈なのに、残務整理が残っていた。
純情可憐な筈の新妻までが、ピストル片手に応戦する展開は、往年のハリウッド・コメディの再現のようで快感。
やっとアシュトンも照れながらもスパイと夫の二役を奮闘して味が出てきた。
あの警察署長ジェシー・ストーンが、かみさんの親父なのだから、このキャスティングは深い。
意外に愉快な拾い物だった。

■ライトライナーがスライスしてファールグラウンドを転々、ツーベースヒットだ。
●12月3日より、全国お正月ロードショー

●『リッキー』は天使なのか、ただの奇形児なのか。

2010年10月21日 | Weblog
●10月19日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-127『リッキー』Ricky (2009) eurowide 仏
監督/フランソワ・オゾン 主演/アレキサンドラ・ラミー ★★★☆☆
夫に逃げられ、ひとり娘を育てながら工場で働くラミーは、外国人の工員と交情して妊娠。
同居して赤子を育てるが、ある日その赤子の背中に羽根が生えてくる。
日に日に成長する赤ちゃんは、とうとう部屋の中で飛び出してしまう。
医師に相談すると、羽根は早めに切開しないと、子供の生命にも影響するという。
そして、とうとうスーパーマーケットで子供が飛行する事件を起こして、マスコミの餌食となる。
生活苦や夫婦関係にトラブルの多い現実に、天使が舞い降りるというファンタジーだ。
だからストーリーは「ET」のよう。あくまで家族の寓話である。
オゾン監督は、「まぼろし」のように、家族に起こった事件を静観している。
ワイヤーやCGを駆使した赤ちゃんの飛行は、まるでCFのようにとても可愛い。
だから、奇妙な作品だが、これは家族のための奇跡の逸話として暖かく見つめた方がいい。
ハリウッド映画「ジャイアント・ベイビー」とは違った、知的なメルヘンと見た。

■高いショートフライが太陽に入って野手の後方に落下。幸運なヒット。
●12月下旬、渋谷 Bunkamura ル・シネマでロードショー 

●『シチリア!シチリア!』はバスが渋滞の観光旅行みたい。

2010年10月20日 | Weblog
●10月18日(月)12-30 紀尾井町<角川映画試写室>
M-126『シチリア!シチリア!』Baaria (2009) medusa film 伊
監督/ジュゼッペ・トルナトーレ 主演/フランチェスコ・シャンナ ★★★☆
いまやイタリア最高の監督とも言えるトルナトーレ監督の新作は、彼の故郷シチリア島讃歌。
自身の少年時代に、小学校の教室で居眠りした間に、これまでの人生を回想する。
この逆回想という発想は面白いが、イタリア人独特の大仰な表現で、エピソードが長過ぎた。
個人のドラマというよりも、庶民の雷同性が古風に見える。
面白い回想録も、これだけ凡長な150分を超える長さは、しつこいだけ。
少年時代の使い走りから老齢となってまでも、シチリアを愛する気持ちはよく判りすぎた。
とくに戦争時代と貧困生活の周辺は、よくデ・シーカ監督や、フランチェスコ・ロージ作品で見ているので辛い。
あの「ニュー・シネマ・パラダイス」の舞台をバックにして、シチリアの乾燥した風景をオール・ロケーションで見せるので、
観光映画としては、これで行った気分にさせてくれる。
でも、凶運の黒蛇が何度も出てくるのは、蛇嫌いには困る。
老人の長くて大袈裟な、くどい思い出話につき合わされたような時間だ。

■大きなセンターフライだが勢いがなく、フェンス前でアウト。
●12月、シネスイッチ銀座などでロードショー

●カイル・イーストウッドのグリーンのフェンダー・ベースがカッコいい。

2010年10月19日 | Weblog
●10月17日(日)18-00 南青山<ブルーノート東京>
☆『カイル・イーストウッド・ジャズライブ』Kyle Eastwood Quintet
出演/カイル・イーストウッド・クインテット ★★★☆☆☆

12年前にジャズ・ベーシストとしてCDデビューして単身来日したカイルに、雑誌のインタビューしたことがある。
久しぶりに成長した彼の演奏を聞きたくて初日のファースト・ステージを見た。
近年は父親クリントの映画「グラン・トリノ」や「インビクタス」などの音楽も手がけ、演奏者としても「マジソン郡の橋」に出ていたが、ジャズ演奏を見るのは初めて。
最近はパリに住み音楽活動をし、レコーディングやバンドもパリの連中と組んでいる。
最初の曲「メトロポリタン」は固かったが、ピアノとのデュエットで自作の「硫黄島からの手紙」を演奏してからはペースも順調。
「サンバ・ド・パリ」から「マラケシュ」と、新しいアルバムの曲は、多彩なリズムで快調。満場拍手喝采だ。
親父譲りのタフな体躯ながら、長過ぎる指で披露するベースも、ウッドからエレキと毎曲換える。
ティファニー・グリーンのエレキのフェンダーは、いかにもおしゃれに光る。
アンコールを終わった彼に久しぶりに廊下のワインセラーで挨拶したら、ちゃんと顔を憶えていてくれて握手。
< how you doing ? >と、自信に満ちた笑顔は、あの時より遥かに充実した大人の表情。
これでは親父も鼻の高くなる自慢の息子だろう。
わたしが着ていた、カーメルで買ったイーストウッドのシャツを、目ざとく見て「アハー!」と肩を叩く。
< see you next year >と、力強い握手に、元気をもらった夜だった。

●20日まで、ブルーノート東京で演奏中。

●『クレアモントホテル』に描かれたロンドンの落日。

2010年10月15日 | Weblog
●10月13日(水)13-00 築地<松竹試写室>
M-125 『クレアモントホテル』Mrs. Palfrey at The Claremont (2005) cineville U.K.
監督/ダン・アイアランド 主演/ジョーン・ブロウライト ★★★☆☆☆
未亡人のジョーンは、ロンドンの老朽ホテル<クレアモント>に長期滞在する。
テレンス・ラティガンの戯曲「セパレート・テーブル」は、むかし映画「旅路」になったが、
この作品はそれにインスパイアーされて作られたと監督は言う。
ただしこちらは、あくまで老夫人のホテルでの出会いや、親子関係を見つめていて軽く甘いメロドラマ。
とくに彼女の好きだった映画「逢びき」や、名曲「フォー・オール・ウィー・ノウ」の思い出や感傷を、
感動的に使用して、映画ファンを喜ばせてくれる。これは監督の女性的な選択だろう。
ホテルに宿泊しているのは、みな老人なので、ややもすると老人ホームのような設定だが、
そこはクラシックなホテルのインテリアが、ささやかにエレガンスを漂わせる。
「旅路」のような残酷さや冷淡さはなく、「旅路の果て」のような感動はないが、さらりとした感覚は好感が持てた。
ジョーンは92年の「魅せられて四月」の続篇のような役を好演。
家族よりも友人たちとの愛の絆を、老境の感性で囁いたような、やさしく美しい人生の終焉。
甘い話で唐突な編集には困惑したが、シニア世代のご婦人方には歓迎されるように気配りされた作品だ。

■素直なレフト前へのゴロのヒット。
●12月4日より、岩波ホールでロードショー

●『ゲーマー』の多重次元の映像バトル・エンターテイメント。

2010年10月14日 | Weblog
●10月13日(水)10-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-124『ゲーマー』Gamer (2009) liongate 米
監督/ネヴェルダイン&テイラー 主演/ジェラルド・バトラー ★★★☆☆
死刑囚同士が兵隊となり、機関銃で死闘を繰り返し、生き残りは勝利者として刑が免除される。
設定は、あの「グラディエイター」と同じようなゲームだが、その迫力にハマった男たちが、ゲームの展開を操作しようとする。
つまり、現実とゲーム内の闘争が同時に進行してエスカレートしていくという、複雑な構造。
これを重厚でスピーディなCG映像処理と爆音ロックで見せて行く。
マッチョなジェラルドはラッセル・クロウのような表情だ。
ドラマの構造は「インセプション」に似ていて、現実とゲーム世界が交錯し、アタマの整理が必要だ。
しかしゲーム感覚に長けたプログラムを読み込めるひとには、非常に解りやすい展開だろう。
かなり修練された映像のアート感覚は、見所満載で飽きさせない。これもモダンアートのジョークだろうか。
あの「マトリックス」を、もっと分かりやすい家族再会のドラマと思えばいい。
サミー・デイビス・Jrの唄う「アイブ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」で踊りだすような演出も、意表をついたユーモアだし、いいアイデアだ。
こうした異次元のエンターテイメントは、今後のハリウッドのベースになりそうで、視覚的には面白い。
ただテーマの人間性を、どれだけ重要視するかが、これからの課題だろう。
意外な楽しい拾い物だった。

■痛烈なショートライナーがグラブを弾いてイレギュラーなゴロで、意外の左中間ツーベース。
●12月3日より、TOHOシネマズみゆき座などでロードショー