細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『手紙は憶えている』の恐るべき想定外な驚愕のラスト・ショット。

2016年09月29日 | Weblog

9月20日(火)10-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-119『手紙は憶えている』" Remember " (2015) Serendipity Point Films / Telefilm Canada / Detalle Films / I M Global カナダ、ドイツ

監督・アトム・エゴヤン 出演・クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー <95分・ビスタサイズ> 配給・アスミック・エース

またもや第二次世界大戦時のナチス・ドイツの犯した戦争犯罪に関する作品だが、これは実話ではなくて、当時の虐殺事実が残した悪夢への清算を描いた秀作ミステリーだ。

描かれているのは現代のアメリカ北部、カナダとの国境に近い街グレイト・フォールズに住む、90歳になるボケ老人の朝、クリストファーが目覚めると、ベッドには妻がいない。

やっと思い出したが1週間前に妻が亡くなり、その葬儀を済ませたばかりなのだが、どうにか健康だが後期高齢で、かなりボケの進んでいる彼には、まだ現実がリアルではないのだ。

その葬儀のときに受け取った手紙には、もう70年以上も前の戦時に、あのアウシュヴィッツで受けた虐待の首謀者が、名前を変えてまだカナダに生きているというのだ。

彼は、もう残り少ない人生の最後を、そのナチスのアウシュヴィッツでの迫害と虐待によって、人生のほとんどに泥を塗られた復讐を果たすことこそが、最後の使命だと覚悟した。

小さなバッグに、少しの年金の残りとピストルを入れて、彼はひとりで、その手紙に書かれている偽名の宿敵と関係者を探して、カナダのサスカチワンへの飛行機に乗るのだ。

かなりボケが進行しているので、朝、モーテルで起きると、いま自分はどこにいて、なぜここに何をしにいるのかがわからないので、その手紙と住所で復讐の覚悟を自覚するという始末。

脚本家のベンジャミン・オーガストは、1979年生まれなので、当然、あの戦争もアウシュヴィッツのことも知らないで、これは創作によるミステリーだが、そこが実に不安定でいいのだ。

手紙をくれたマーティン・ランドーも、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」の頃には、不審なスパイ役を演じていたが、この作品のストーリーの車椅子に乗ったままの重要な人物。

その情報をもとにして、監督のアトム・エゴヤンは、「秘密のかけら」や「スウィート・ヒアアフター」で披露した乾いた映像による洗練の知的ミステリー作品に仕上げていて、・・・さすが。

とうとう、ラストでは手紙に書かれていたアウシュヴィッツでの憎むべき殺人看守長のブルーノ・ガンツを問いつめるが、・・これまたボケの進んだ老人同士なので、記憶が薄い。

結末では、まったく予期しなかったドラマとなるのだが、そこはネタバレになるので書けないが、これだけ予測を裏切る見事なラスト・シーンは、実に久しぶりに出会って感動した。

主演のクリストファー・プラマーは、あの「サウンド・オブ・ミュージック」でナチスにドイツを追われて、スイスに逃げた体験があるので、その復讐をここで遂げようとしたのだろうか。

 

■ゴロのヒットがセンターの後方に転々とする間に、ランニングホーマー!!! ★★★★☆☆☆

●10月28日より、TOHOシネマ・日比谷シャンテほかでロードショー 


●『怒り』は、怒れない人たちへの映画、とか・・・。

2016年09月27日 | Weblog

9月17日(土)11-25 二子玉川<109シネマズ・9番スクリーン>

M-118『怒り』(2016)東宝映画・「怒り」製作委員会・ドラゴンフライ

製作・市川 南、川村元気 監督・李 相日<リ・サンイル> 主演・渡辺 謙、綾野 剛 <142分・ビスタサイズ> 配給・東宝

数年前から評判の新聞連載から単行本、文庫本もベストセラーになった、吉田修一原作小説の映画化で、6年前に「悪人」で多くの映画賞を総なめにした製作メンバーによる映画化で評判の作品。

かなり長い作品なので、高齢者としては途中トイレ退出の不安があるので、狭い試写室は遠慮して、大劇場での公開初日、しかも一回目の上映に駆けつけたら、やはり満席。

さすがの長編小説映画化なので、相変わらずスタンスが広くて、テンポも悠然とし、しかもストーリーはひとつの殺人事件の犯人を、3つの地域の別々のパートに分かれて追求するというスタイルだ。

冒頭で、いきなり立ち並ぶ新興住宅地のパノラマ俯瞰から、一軒の家の浴室周囲で殺された、ふたりの惨殺遺体現場を見せて、その壁面には、血糊で落書きされた「怒り」の文字が不気味に浮かぶ。 

原作を読んでいない当方としては、昨今のミステリー映画のような謎解き展開か「クリーピー」タイプかと思っていたら、そんな単純なストーリーではなくて、東京と千葉と沖縄の3つの場所での<事件性>を描いて行く。

つまりこれは、殺人事件の犯人探しではあるものの、発生から一年以上もして、依然として有力な真犯人の手がかりもなく焦る警察の描写から離れて、3つの不審な人物の背景を描いて行くのだ。

よく、交番の横に掲示してある、全国指名手配犯の写真に似た、それぞれの3人の周辺の不穏な空気感を描いて行く・・・という、犯罪を軸にした一種のオムニバス人間映画のスタイルで進行。

逃走犯は、当然のように整形手術をしているので、その指名手配写真とは異なる面相で生き抜いていると予想されるが、あの松本清張の名作「砂の器」のような、大河捜査サスペンスでもない。

<東京>ではサラリーマンの妻夫木聡と、同性愛関係になった綾野剛のからみから、その手配写真に似ているような綾野の存在が、ひどくシャイで無口な佇まいが怪しい。

<千葉>では漁協で働く渡辺謙の娘の宮崎あおいがつき合っている、同じ漁協の無口な青年、松山ケンイチが、どうも手配写真に似ていて、挙動もナゾめいていて渡辺は不審に思っている。

<沖縄>では、無人島に住みついている田中信吾が、何もない孤島に自活する行為に、なぜか高校生の広瀬すずが興味を持ち、孤島に行くので同級生の少年が彼らに疑問を抱く様になる。

という、まったく別々の地域に住む人達が、それぞれに迷宮入りしている殺人事件の真犯人の行方とダブらせて、その謎めいた男たちに疑惑を抱いて行く・・・という構図なのだ。

これはこれでユニークで面白い多角的な人間ドラマなのだが、ミステリーを勝手に予測していた当方としては、ラスト近くの沖縄のアメリカ兵の暴行事件の辺りで、なぜかプッツン。

後はネタバレになるので、これ以上は・・・遠慮しよう。とにかく根強い人間ドラマとして、今年の邦画の重鎮であることは認めるが・・・2時間を過ぎて、なぜか興味が失速したのは、好みの問題だろうか。

 

■サード頭上を抜く強打がレフトのフェンスを転々。 ★★★☆☆

●全国東宝系で公開中。 


●『ブルゴーニュで会いましょう』そして美味しいワインで乾杯を!!!

2016年09月25日 | Weblog

9月16日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-117『ブルゴーニュで会いましょう』"Premiers Crus (2015) Alter Films / T F 1 Films productions SND フランス

監督・脚本・ジェローム・ル・メール 主演・ジェラール・ランヴァン、ジャリル・レスペール <97分・シネマスコープ> 配給・クロックワークス

ワインを飲むのは大好きだが、もっぱら安いチリ・ワインとか国産とか、安売りの無国籍ワインばかり飲んでいるので、いかに<ブルゴーニュ>のワインが高級なのかを語る資格はない。

一時、十年ほど前だったか、カリフォルニア・ワインをテーマにする映画が数本公開されて、ワインというのは、葡萄の種類だけでなく、むしろ気候や風土や、その地形が影響することがわかった。

とはいえ、いかに上等なワインなのかは判らないし、やはり経済的な問題で、サラリーマン時代から、安くて食事の料理の味を引き立てるタイプのワインであれば申し分ない。

という意味では、この作品は伝統あるフランスのブルゴーニュ地方の伝統のあるブランドのワイナリーが、広い土地の高額な固定資産税に,後継者の息子がそれを継ぐ気がなく風前のともしび。

よくあるテーマだし、これはワイナリーのテーマというよりも、どこにでもある地方農園や耕作地、果樹園から田んぼなどの広大な生産農家の抱えている永遠のテーマ。

その広大な野山を占めるブルゴーニュのワイン畑を所有しているジャリルも高齢で、体力の限界をさとり、高額な税金に悩まされて、この先祖歴代の広大な土地を没収される危機を迎えていた。

よくある生産地の後継ぎ問題のテーマだが、そのバカなひとり息子はパリでワインのテイスターとしては、それなりの有名人だから、このテーマはそれほど深刻な後継者問題の映画じゃない。

ただ、父と息子の問題は、あのジョン・スタインベックの「エデンの東」を引き合いに出すまでもなく、どこの家族にもある普遍のストーリーだから、それほど劇的にドラマティックでもない。

見るべきは、そのパリからスイス地方に抜ける丘陵地帯の<ブルゴーニュ>の風を感じさせるような広大で美しいワイン畑の風景と、オーナーが歴代所有していた城やメゾンの佇まいの魅力だろう。

よくジャン・ギャバンの犯罪映画などで、この辺の風景は見たことがあるが、こうして本格的にそのワイナリーで撮影された景色は変化に富んでいて、さすがに気分のいいものだ。

その古風な頑固オヤジの老父と、ワイン評論家のドラ息子との間には、歴史ある家庭内確執が邪魔しているが、そこは天候不順やワインの作付けやらボジョレヌーヴォの時期には話し合うしかない。

という訳で、当然のように息子は生家のワイナリーを継ぐ事になり、老人はひとり孤独を愉しむ生活を得て行くというハッピーエンドだから、ま、ワインの味のように喉越しは上等だろう。

できれば、試写のあとに、そのブルゴーニュワインの一杯でも飲みたいところだったが、それはロードショーでご覧になった方は、1階のカフェでどうぞ。

 

●地をはうゴロがセカンドベースにバウンドしてヒット。 ★★★☆

■11月19日より、渋谷Bunkamuraル・シネマ他でロードショー 


●『グレース・ケリー展』は、あの映画女優よりもファッション・ブランド展。

2016年09月24日 | Weblog

9月16日(金)12-20 銀座<銀座松屋8F・イベントスクエア>

★日本・モナコ友好10周年記念「グレース・ケリー展」<モナコ公妃殿下が魅せる永遠のエレガンス>

●9月8日より、26日(月)まで開催中

 

つい先頃、渋谷のBunkamuraギャラリーで、公開中の映画「イングリッド・バーグマン*愛に生きた女優」公開記念の写真展が開かれたのは、このブログでも騒いだ。

10日程度だった展覧会は、入場無料だったこともあって、会期中は賑わい、上階の<ル・シネマ>で上映中の映画もヒットして、5週間上映のロングランとなった。

映画公開当時のパンフや広告などの資料を提供した当方としては、同じヒッチコック映画で活躍したグレース・ケリーの記念展覧会には、行かなくては・・・という義理がある、と勝手に判断。

バーグマンと、グレイス・ケリーの女優価値を比較するのはヤボだが、アカデミー賞3本受賞のバーグマンに比べれば、グレイス・ケリーは短すぎるハリウッドだったので、妹格である。

しかし彼女らの人生面では、広さは世田谷区程度とはいえ、南仏の名勝地に隣接するカジノ王国、モナコ公国の公妃として公務を支えたグレイスの社会的な存在は偉大だった。

わたしはCMのロケーションで、まだグレイスの公務中に、いちどモンテカルロのビーチホテルに泊まったことがあるが、なるほどご立派なビーチとハーバーに囲まれた景勝地だった。

ヒッチコック監督が「泥棒成金」のロケーションでモナコを訪れた際に、公邸でのディナーに招かれたのがきっかけで、グレイスはレーニエ王子に見初められて、運命の餌食になった。

もともと、イングリッド・バーグマンが、イタリアのロベルト・ロッセリーニ監督のところに駆け落ち同然で行かなければ、ヒッチコック監督はグレイスをキャスティングしなかったかも・・・知れない。

その辺のイキサツは2013年の映画「グレース・オブ・モナコ」で、ニコール・キッドマンが演じていたので、印象深い。

で、その松屋の8Fの展示会場に行ったのだが、こちらは入場料1000円の豪華展示会で、まずは99%がおばさま方であって、わたしなどは、完全に場違いの違和感に不安になる。

というのも、映画的な出演作品の展示は、ほとんどなく、少しは映像もあるものの、会場の90%は彼女が契約していたファッション・ブランドの商品展示が場を占めている。

それもそのはず、特別協力が、バレンシアーガ、シャネル、クリスチャン・ディオール、ジヴァンシー、グッチ、エルメス、イヴ・サンローラン・・・・だもン、そりゃ、異次元の豪華さ。

会場にいる<ブランド・ドランカー>なオバサマたちは、グレイス・ケリーが関わったファッション・グッズに見惚れて、さぞ溜め息の時間を過ごされたであろうが、わたしなどはシー・スルー。

映画女優の展覧会というよりは、ファッション・モデルの豪華衣装展示会なのだが、とにかく会期は26日(月)までなので、ご興味のアル方はお早めに・・・。 


●『GANTZ:0*ガンツ;オー』道頓堀の壮絶ゴーストバスター・アニメ戦争

2016年09月23日 | Weblog

9月16日(金)10-15<日比谷>東宝映画本社11F試写室

M-116『GANTZ: O / ガンツ:オー』(2016)奥浩哉・東宝映画<TOHO animation・集英社・ガンツ・オー製作委員会

原作・奥 浩哉 総監督・さとうけいいち 監督・川村 泰 主演・小野大輔、M・A・O <90分・ビスタサイズ> 配給・東宝映像事業部

コミック劇映画も、ここにきて驚異的な映像音響進化を更新しているが、これも「ミュータント・ニンジャ・タートルズ」のように、実写人物を偽造化して驚かせる。

劇映画としての大阪の道頓堀や、渋谷のスクランブル交差点などは、かなりリアルに描かれていて、そのにいる人間達は、すべて動画のキャラのようにカリカチュアライズされているのだ。

高校生の小野は小学生の弟と二人暮らしだが、今日は弟の誕生日祝にバースデーケーキを買って、帰る途中の地下鉄で、暴漢にあったひとを助けて、自分が被害に会って病院に搬送された。

気がつくと、彼は知らないマンションの一室にいて、そのガラーンとした部屋の中には<ガンツ>と呼ばれる、大きなボーリングのボールのような球体があり、その表面にメモがある。

部屋には黒いスーツの男がいて、他にも不審な人物はいるが「あんたは死んだ。しかし、<ゲーム>で今夜中に100点を取れば、生き返らせてもらえる・・」と告げられる。

そしていくつかのルールが球体に表示されると、彼はなぜか、大阪の道頓堀の橋の上にいて、突然、巨大なアタマだけの妖怪が出て来て彼に戦闘を仕掛けて来るのだ。

つまりは、ビデオゲームの<サバイバル・ゲーム>であって、ゲーム・センターで妖怪退治を経験したことにない前世紀の年長なわれわれ高齢者には、ただただ壮絶な市街戦を傍観するしかない。

妖怪たちは、浪速のグロテスクなバケモノやら、その目玉や頭部だけが、次々に襲いかかって来て、それを撃破するとポイントが加算されていくという映像バトルゲーム。

それが、かなり高度なビジュアルCGテクニックで見せるので、これは海外のジャパン・アニメの信仰者たちには、最高のアクション・アドヴェンチャーとなっていて、恐れ入るだけ。

要するに「ゴースト・バスターズ」<浪速・道頓堀の乱>であって、ゲーム好きで、あの妖怪たちの討伐感覚の達者な人達には、これは嬉しいアニメ動画のリアル再現版なのだ。

その3D・CGアニメとしての商品価値は、恐らく世界を相手にしても、もちろん、ハリウッドのアニメ・スタジオも驚嘆するだろう精度を見せている。

 

■地をはう鋭いゴロがセカンドの股間を抜けてヒット。 ★★★+

●10月14日より、東宝系全国ロードショー 


●『ヒッチコック/トリュフォ』には、映画というバケモノの正体が潜んでいる。

2016年09月21日 | Weblog

9月14日(水)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-115『ヒッチコック/トリュフォ-』" Hitchcock/Truffaut " (2015) Cohen Media Group / Artline Films / Arte France

監督・脚本協力・ケント・ジョーンズ 脚本・セルジュ・トゥビアナ 訳・山田宏一<ビスタサイズ・80分> 配給・ロングライド

まさかヒッチコックやトリュフォのことを知らないで、このブログを読むひとはいないだろうから、あの名著「ヒッチコック:トリュフォ」のことはご存知だろう。

この歴史的なインタヴューがスタートしたのは、1962年の8月13日の、ヒッチコック監督63歳の誕生日だったという。

その前の年の4月に、ヒッチコック監督は新作「サイコ」の宣伝プロモーションで来日して、日比谷の帝国ホテル2Fの宴会場で、歓迎パーティが開催された。

わたしはその夜、パラマウント映画にアルバイトをしていたので、会場では巨匠夫妻の身辺の世話をするような、・・それとなく雑用係のようなことをしていたのだ。

一緒に写真を撮り、サインをもらったりして、パーティもお開きになっていた時分に、その前日に見た「めまい」のことで、納得できないでいた、ひとつ愚問を呈したのだった。

映画はご存知のように、視覚倒錯になったジェームズ・スチュワートの心身の病が中心だが、「どうして、キムが偽装していたことを、映画の中盤でバラしてしまったのですか?」と尋ねた。

そのことで、ミステリーとしての興味が半減したのが、わたしにとっては不満だったのだが、ヒッチ監督はスコッチの水割りを一口呑んで、わたしの耳に小声で囁いたのだ。

「・・・You Will See--・・」

そのひとことは、どうも理解しづらくて、わたしはヒッチコックに失礼なことを尋ねたのか・・と思ったが、カレはニヤニヤと笑って、会場を出て行ったのだった。

以来、あれからもう60年ほどの時間が流れて、わたしは毎年の様に「めまい」を見続けているのだが、カレの言った意味が「あんたはガキだよ・・」と言ったとしか理解できないでいる。

「ヒッチコック・トリュフォ」は山田宏一さんの訳で出版され、もちろん初版で読んだのだが、それはいまでも座右の銘として、手の届く所にあり、ヒッチの作品も買いそろえた。

つまり、イーストウッドやウディ・アレンを語るまえに、いつもヒッチコックは<映画の先生>であり、すべての作品は、もう何度も見たし、まだ「めまい」のナゾは理解できていない。

という具合で、またもスコセッシや、ボグダノヴィッチやデヴィッド・フィンチャーたちがコメントを添えて、天才の映画を絶賛しているが、・・とにかく彼の作品を見なくては意味がない。

多くの映像的なナゾを遺しつつ、それでもこのインタヴューで、ヒッチコックは自身の映画への深い造詣と愛情を語っていて、その80分は、映画好きには至福の時間である筈だ。

ごちゃごちゃ申しても始まらないが、なぜ、あなたは今も映画を見続けているのか・・・という愚問の意味は、この映画で判るような気がする。

 

■左中間のフェンスに届くゴロが転々する間に、ホームイン。 ★★★★+

●12月10日より、新宿シネマカリテ他でロードショー 


●『ブリジット・ジョーンズの日記*ダメな私の最後のモテ期』でも、相変わらずの下ネタ騒動!?

2016年09月19日 | Weblog

9月14日(水)10-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-114『ブリジット・ジョーンズの日記*ダメな私の最後のモテ期』" Bridget Jones 's Baby " (2016) Universal International / Miramax / Studiocanal / Working Title

監督・シャロン・マグワイア 主演・レニー・ゼルウィガー、コリン・ファース <123分・シネマスコープ> 配給・東宝東和

数年前の新聞で、あまりにも落ちぶれて変わり果てたレニーの写真が載っているのを見たときに、あああ、もうオスカー女優も哀れな最後になったなーー、と思っていた。

むかし「コールド・マウンテン」の来日記者会見で会ったときも、とても陽気で面白いキャラの女優だと思っていたので、その後の活躍を期待していたので、大いに失望していた。

ところがどうだ。またしても、<ブリジット・ジョーンズ>、・・3度目の復活で、見てみるとレニーも、さすがに<アラフォー>の小じわは目立つものの、あのバカ陽気は健在。

2001年に最初の「ブリジット・ジョーンズの日記」がヒットして、2005年にも好評のパート2が公開されたが、それでプッツンして、何とデビューから15年ぶりの復活となる。

同じユニヴァーサルでは「ジェイソン・ボーン」のシリーズが同様に今回リターンを果たしたが、ジェイソンは途中で代打要員の作品もあって、周知期待のカムバックだが、こちらは意外だった。

相変わらずにロンドンの出版社に勤務するブリジットは、まだシングルのままに失恋を重ねて、ここでは43歳独身の<アラフォー最後のモテ期>なのである。

たしかに43歳の独身で、まだ若いふりをしているという設定は悲壮だが、彼女なりにラスト・チャンスの年齢であることは充分に自覚しているが、それでも相変わらずのドジ。

なぜか、昔からいろいろと絡むコリン・ファースもまた離婚問題係争中の煮え切らない中年ダメ男で登場し、最初のカレだったヒュー・グラントは旅客機事故で行方不明。

そこに若いIT企業のハンサム社長のパトリック・デンプシーが新たにブリジットのラスト・チャンスに割り込んでくるという、相変わらずドジな恋模様が展開する仕掛けだ。

見ていて、どうやらユニヴァーサル社としては、1960年代の、あのドリス・デイのニューヨーク・コメディのヒット・シリーズを再現しようとしている気配は感じられる。

レニーも、あの時代のドリス・デイの表情を真似たようなオーバーなコメディ・パフォーマンスを見せるのだが、どうも空回りするのは、相手役もロック・ハドソンのようにおかしくない。

おまけに二人のボーイフレンドとスワッピングしたために、柄もなく初めてのプレグナントとなり、さて、どちらの男の精子が体内に乱入したのかが、後半のドタバタな展開となる。

ま、いいトシをして、誰の子供が生まれてくるのかがワカラナイ設定は、これがブリジット・ジョーンズの晩年の悪あがきのようだが、それにしても決断の悪い長編ドジ喜劇。

 

■右中間に抜けるヒットだが、3ベースヒットを狙いタッチアウト。 ★★☆☆

●10月29日より、東宝洋画系ロードショー 


●『ハドソン川の奇跡』の映画的現場検証と見事なクリント機長の着水。

2016年09月17日 | Weblog

9月12日(月)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-113『ハドソン川の奇跡』" SULLY " (2016) warner brothers / Village Road Pictures / Flashlight Films / MALPASO

製作+監督・クリント・イーストウッド 主演・トム・ハンクス、アーロン・エッカート <IMAX・シネマスコープ・96分>

ことし一番の待望作品の試写なので、ホール試写も満席で、ワーナー試写室も開場15分前から長蛇の列、当然のように試写室も補助椅子が増設される人気。

もちろん、「アメリカン・スナイパー」のクリント・イーストウッドの最新作だから当然だろうが、つい最近に起こったジェット旅客機事故の再現ドラマなのでワクワク。

いきなり離陸直後に鳥の群れに遭遇して、ふたつのジェット・エンジンが破損した155人乗りの旅客機は、飛行不能となり、たったの3分ちょいで墜落という事態になった。

2009年1月15日の事件なので、われわれも記憶に新しいが、当時は詳しい事件の映像やニュースの詳細は少なくて、とにかくあの氷点下のハドソン河に不時着水したという報道だけだった。

わたしも、よくハドソン河はフェリーで横断したし、ニュージャージーの河岸の高層ホテルに泊まって、ゴージャスなマンハッタンの夜景を眺めてビールしたこともあるので、興味津々。

よくぞ貨物船や遊覧船やフェリー・ボートにぶつからなかったなーーーと、当時は信じられない事件だと思っていたが、この映画では冒頭ですぐに離陸直後の旅客機は鳥の群れに遭遇する。

機長のトム・ハンクスも、やっとジェットを離陸作業から平行飛行に移そうとした矢先のことで、まだ850メートルしか上昇していないタイミングでの突発事故で、見ていても衝撃。

さて、二つのジェット・エンジンがおしゃかになったので、機は惰性で着地するしかなく、近くのラ・ガーディア空港か、ニュージャージーの貨物専用滑走路しか着陸の選択肢はないのだ。

映画の原題は「ハドソン川の奇跡」ではなく、トム・ハンクスが好演している機長のチェスリー・S・サレンバーガーの、そのミドルネームの<サリー>だけを使用している。

つまり、クリント・イーストウッドが描きたかったのは、ハドソン河に不時着水したジェット旅客機のことではなく、このサリー機長の判断と勇気ある行動と、人道の精神を描きたかったのだ。

それは冒頭で起こった突発着水事故のあとに、航空治安当局からの安全判断と実行動の処置が、正しかったかどうかの調査審議会が、この映画のテーマの深刻さを突いて行くというシリアスな構造。

で、デジタル映像によって、ふたつの至近空港までのフライト試行映像が紹介されて、たった3分の落下飛行の瞬間に、ハドソン河を選んだことの問題点が検証されていく、というドラマ。

そこはベテラン・クリントの映画なので、実際の着水と、マンハッタン高層ビル街への墜落シーンなどをフラッシュして見せるので、とにかく目を離せない状況がラストまで続くのだ。

従って、これはパイロットのヒーロー映画でも、もちろん事故の再現ドラマでもなく、こうして突発して起こった瞬間に、人間はどう行動する判断を下すのか、その勇気と英知を問うているようだ。

 

■初球を叩いてレフトのポールをかすめた打球をめぐってのビデオ判定。 ★★★★+

●9月24日より、全国ロードショー

 


●『ブルーに生まれついて』で生き返るチェット・ベイカーの青春の輝き。

2016年09月15日 | Weblog

9月9日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-112『ブルーに生まれついて』" Born to be BLUE " ( 2015 ) BTB Blue Productions / BTBB Pro. and SPV Limited.カナダ

監督・脚本・ロバート・バドロー 主演・イーサン・ホーク、カルメン・イジョコ <97分・ビスタサイズ> 配給・ポニー・キャニオン

ジャズファンにとって、とくに1950年代の、モダンジャズ台頭の黄金時代を知るものにとって,トランぺッターのチェット・ベイカーの存在は大きかった。

40年代の黒人プレイヤーの全盛時期が、あのクリント・イーストウッドが入魂の演出をした傑作「バード」のチャーリー・パーカーの麻薬死によって変化を迎えたのだ。

ニューヨークを追われたマイルス・デイビスや、アート・ブレイキーらとともに、パーカーもパリを拠点にした時代に、次第にアメリカ西海岸の若い白人ジャズメンたちが台頭した。

チェットも、ジェリー・マリガンや、デイブ・ブルーベック、アート・ペッパーらと共に、<ウェストコースト・ジャズ>といって、当時流行のクールなサウンドで大きな人気を博していた。

しかし同時に、朝鮮やベトナム戦争の弊害としてヘロインなどの麻薬も、こうした若い世代のミュージシャン達の精神的なネックとなっていたのも<時代>の裏面であった。 

この映画は、いきなり、トランペットの中から猛毒サソリの、マラブンタが出て来るような、一種の麻薬禁断症状に悩むチェットの表情から、この作品のテーマの背景を強烈に印象づける。

多くの若いジャズミュージシャンたちが、この麻薬の誘惑で消えて行ったが、奇跡的にカムバックしたアート・ペッパーと、このチェットは、黒人の愛人の支えが非常に大きかった。

1989年に、写真家のブルース・ウェバーが、この二人の晩年の交情とジャズシーンを、見事なジャズの記録映画『レッツ・ゲット・ロスト』として遺したことは記憶に鮮明だ。

ま、驚くべきは、何でも屋のイーサン・ホークが、ここであのチェットを演じていて、しかもラストでは「マイ・ファニー・バレンタイン」をフルで唄っているという役作りの熱中さ。

たしかに面持ちやヘアスタイルは似ていたが、朴訥な喋り方や、当時評判になったジェームズ・ディーンのような身のこなしからファッションまで、とにかく凄い<そっくりさん>を発揮。

やはり圧巻は、先輩のマイルス・デイビスや、ディジー・ガレスピーを前にして演奏した<ボーン・トゥ・ビ・ブルー>のジャズ・フィーリングであって、当時のファンにとっては陶酔の数分だった。

この手の実在のミュージシャンの作品の決めては、やはりラスト・シーンの旨味だが、ここでは「グレン・ミラー物語」のような、実に音感の豊かなエンディングを見せ、実に、お見事。

当然のことだが、ジャズファンには、必見の傑作だ。

 

■左中間を破るクリーン・ヒットで、俊足のスリーベース。 ★★★+★

●11月26日より、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー 


●『メカニック・ワールドミッション』でメカに強いジェイソン再び奮闘。

2016年09月13日 | Weblog

9月7日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-111『メカニック*ワールド・ミッション』" Mechanic-Resurrection " ( 2016) M E 2 Productions Inc.

監督・デニス・ガンゼル 主演・ジェイソン・ステイサム、トミー・リー・ジョーンズ <99分・シネマスコープ>配給・ショウゲート

懲りもせずに超人的なアクションヒーローが、要するに「トランスポーター」プラス「ワイルド・スピード」のような、金メダル以上のカンフーやガンプレイを駆使するアクションものの定番だ。

たしかにブルース・ウィリスが高齢化で動きが鈍く「エクスペンダブル」している昨今、<ジェイソン・ボーン>に負けない鉄人は「ミュータント・タートル」か、このジェイソン。

2011年に公開された同じタイトルの映画がヒットして、これはそのパート2になるらしく、またも完璧な職人のキラー業務で、特に極秘の暗殺業務を高額で引き受けている住所不定、国籍不明の渡世人。

業務内容としては、依頼されたターゲットの殺人の痕跡を残さずに事故死を装い、秘密を厳守するために誰とも組んではいけない・・・という条件つきの特殊業務だ。

むかし「サムライ」という、アラン・ドロンが寡黙に演じた殺し屋がいたが、時代も変わり、殺しのテクニックも向上してスピーディで、美女に惚れる時間もないという過酷なおシゴト。

とくにどこで覚えたのか、どんな新機種のIT機器でもスマホでも瞬時に対応して、その情報を取得して、どんな新しい高度な銃器でも、すぐに使いこなすという、超メカニックなのだ。

わたしなどは、このメカニックには弱くて、いつもパソコンが故障すると、渋谷のアップルに緊急持参するが、このジェイソンは、絶対にひとりで即対応してしまう知性派。

この銃器対応忍者のようなアリエネー・ヒーローを、懲りもせずにジェイソンがクールに演じて、ラスト近くなって、やっと悪役のトミー・リー<宇宙人>・ジョーンズが登場。

そこがユーモラスで、先日見た「ジェイソン・ボーン」ほどのワルではなく、どこか高齢者ボケしているような、<宇宙人>らしさが、あのCMのようにおかしな悪役なのだ。

前作で死んだ筈の甦ったジェイソンは、いきなりオリンピック開催で賑わったリオ・デ・ジャネイロのビーチに隠居アしていたところ、またも緊急の特命依頼でタイの奥地へと飛ぶ。

その設定は「ジェイソン・ボーン」と酷似していて、ついトミー<宇宙人>の両作での絡みで笑ってしまうが、・・・これは両方の映画を見たひとへのサービスだろう。

あのジャッキー・チェンなどとの絡みもあった香港の美女闘士ミシェル・ヨーが、すっかり<オバさん>になって味のアル役で出てサービスしている。

 

■セカンド・ゴロがイレギュラーして、一応はヒット。 ★★★

●9月24日より、新宿ピカデリーなどでロードショー