細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『愛の残像』で魅せるモノクローム美学の果て。

2012年03月31日 | Weblog

●3月30日(金)13−00 六本木<シネマートB1試写室>
M−040『愛の残像』La Frontiere de L' aube (2008) bitters end 仏
監督/フィリップ・ガレル 主演/ルイ・ガレル モノクローム作品<108分> ★★★☆☆
激しい恋の激情が、恋人たちの心を不安定にする。
その崩落の日々を、非常に精度の高いモノクローム画像で見つめた、恋の迷走と妄想。
60年代のフランソワ・トリュフォの作品を思わせる、フォトジェニックなラブ・ストーリーだ。
監督の息子が演じているルイは、パリに住む若手のカメラマン。
女優のローラ・スメットの生活ぶりを撮影していて二人は恋の落ちるが、彼女は狂恋の思いで精神異常となる。
長い闘病の果てに退院した頃には、ルイには新しい恋人が出来ていて、絶望したローラは自殺する。
しかし新しい恋人と結婚しようとしたルイの前には、ローラの姿が現れるようになる。
ひとつ間違えると、怪奇なヴァンパイア映画になりそうな展開だが、あくまで純愛映画のスタンスは崩さない。
そこが監督の、本格ロマンティスト作家としての真摯な作風だ。
モノクロームの画調を、まさに美しい静止映像のようにシンプルにモンタージュして語る作風は貴重だ。
じつに久しぶりに味わうような、フランス映画らしい気品の香りが漂う。

■素直にセンター前に打ち返したシングルヒット。
●6月、渋谷シアターイメージフォーラムでロードショー


●『極秘指令ドッグXドッグ』の密室でのスパイ相殺ゲーム。

2012年03月30日 | Weblog

●3月29日(木)13−00 築地<松竹本社試写室>
M−039『極秘指令/ドッグXドッグ』Operation;endgame (2009) infinity films holdings 米
監督/フォアド・ミカティ 主演/エレン・バーキン <82分> ★★☆☆
オバマ大統領の就任に伴って、前ブッシュ政権の時代に暗躍していた秘密工作組織が解体されることになった。
チーム編成されていたグループは、地下の施設でトレーニングされていたが、謎めいた殺人事件が続く。
これはトップからの秘密指令で、多くの国家機密の内容が外部に漏れないための極秘指令だった。
まさに「椅子取りゲーム」と「ロシアン・ルーレット」のように、ひとりずつ消されて行くサスペンス。
アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」のスパイ・エージェント版。
ほとんど地下の密室での殺し合いなので、ジェーソン・ボーンのような爽快感がない。
おまけに、誰が、どちらのグループなのか、暗号名で呼ばれるので具合が悪い。
B級の殺し合いゲームに終始した密室サスペンスも、82分で終わってほっとした。

■初球狙いのピッチャー強襲ライナーで、あっという間のアウト。
●5月19日より、銀座シネパトスなどでロードショー


●『幸せの教室』のように人生のリセットはオープン・カレッジで。

2012年03月28日 | Weblog

●3月27日(火)13−00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M−038『幸せの教室』Larry Crowne (2011) vandome pictures / playtone pro.
監督/製作/脚本/主演/トム・ハンクス 共演/ジュリア・ロバーツ <98分> ★★★
あのダン・ブラウンのサスペンス小説の教授から一転。
妻に逃げられ学歴不足でリストラされたトムは、海軍時代の経験を活かしてファスト・フードのコックのアルバイト。
カレッジの卒業証書を貰うべく、学校に通う。
教師のジュリアも、バカ夫を追い出して、アルコール漬けの日々。
とことんダメな二人が出会い、おかしな関係となる。
どこか60年代のドリス・デイの喜劇のような、非常に明るくアバウトなライトタッチ。
人畜無害、といえばそれっきりだが、このいい加減な人間関係が、意外に懐かしい。
ま、ロサンゼルス郊外の新興タウンだから、暴力沙汰もなく、安心して見ていられる。
96年の「すべてをあなたに」以来、久しぶりにハンクスの監督作だが、相変わらず陽気で軽い。
おそらく彼自身、自分の青春時代に見たジャック・レモンのコメディを再現したかったのだろう。
「プリティ・ウーマン」そのままでグータラ教師を演じるジュリアも相変わらずだ。
お閑な方は、オープン・カレッジで愉しく勉強をしましょう。
団地のシネコンで、人生のリセットを夢見てる奥様方には、冷めたカフェラテのようで、ちょうどいい作品。

■当たりそこねのショートゴロがイレギュラーバウンド。
●5月11日より、TOHOシネマ、日比谷スカラ座などでロードショー


●『わが母の記』の昭和という時代の美談。

2012年03月26日 | Weblog

●3月23日(金)13−00 築地<松竹本社試写室>
M−037『わが母の記』The Diary of My Mother (2012) 松竹映画
監督/原田眞人 主演/役所広司 <118分> ★★★☆☆
松竹映画伝来の典型的ホームドラマ。
ちょいと小津安二郎作品のような、優雅な昭和の点描が懐かしい。
作家井上靖の実生活小説をベースにして、年老いた母親の最期を淡々と見つめて行く。
とくにドラマティックな悲喜劇もなく、作家の人生も時代と共に平板だ。
いや、川奈のゴルフ場ホテルで家族旅行や、ハワイへの船旅など、あの時代にすれば、かなりに優雅な生活。
それでも一般的に普通の家族の日常なんて、それほどの事件は少ない。それを沈着に描く原田演出も、実に温厚だ。
樹木希林が演じている老婆も、時代の流れとともに記憶を失い、どこまでが認知症で、どこまでが芝居なのか。
「老母捨て山の場所くらい、お前が早く探してくれなくちゃ困るべ」と語るユーモア。
あの「東京タワー」の時のオカンの強さはないが、希林の好演が、ドラマを飽きさせない。
たまには、このような代表的な日本家族の姿を眺めて、自分の家族を思うのもいいだろう。
誰もが老後はやってくるのだし、であれば、上手に逝きたいもの。
それをジワッと思わせる静かな作品だ。

■当てるだけのバッテングで、典型的な三遊間ヒット。
●4月28日より、GW松竹系全国ロードショー


●クロスビーとアステアが早春を唄います。

2012年03月25日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)

今夜の放送/ Vol.089『早春』Early Spring
★やっと来た早春に捧げるジャズを特集します。       
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★3月25日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★今夜の曲目メニュー紹介

1/『ジャスト・チリング』演奏/マーク・アントワン
2/『スプリング、スプリング、スプリング』唄/ビング・クロスビー+フレッド・アステア
3/『ジョイ・スプリング』演奏/マーティン・テイラー
4/『イト・マイト・アズ・ウェル・ビ・スプリング』唄/シルビア・テレス
5/『スプレンダー・イン・ザ・グラス』演奏/ジェリー・マリガン
6/『ビーイング・グリーン』唄/フランク・シナトラ
7/『スプリング・キャン・リアリー・ハング・ユー・アップ・ザ・モスト』演奏/ジョージ・ケイブル

★今週の映画紹介/『マリリン・モンロー/7日間の恋』主演/ミッシェル・ウィリアムズ

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、4月1日(日)「エイプリル・フールズ」と題して、春をテーマにしたジャズを。
どうぞ、ご期待ください。



●ワイキキ沖での散灰と、激闘バトル。

2012年03月24日 | Weblog

●3月23日(金)10−00 半蔵門<東宝東和試写室>
M−036 『ユニバーサル映画100周年記念作品』(2012)<130分>

この新作は、まだ全米でも未公開なので、タイトルも明記できない。
見た事すら、書いてはいけないという書類にサインさせられた。
日本では4月13日より公開なので、詳細は4月になっての<エイプリル・フール>となる。

一昨日は、家庭の事情で、もういちど「ファミリー・ツリー」を見た。
ジョージ・クルーニーが祖先の土地を売らない理由の、その決定的な根拠の確認のつもりだった。
そして、それはハワイの環境のためではなく、根本的には、妻の浮気への報復であったのだ。
これで安心した。
はじめに見た時に、彼が家系の継続のためか、と、勘違いして見ていたようだった。
アレキサンダー・ペインがアカデミー賞を受賞したシナリオは、そんな大仰なことではない筈だ。
だから、浮気した男の妻が、代理で病院に見舞に気た理由も、これで納得できた。
素晴らしいシナリオだ。
それにしても、ワイキキ沖で散灰するシーンで、次の日に見た映画では壮絶な海戦バトル。
恐るべしハリウッド映画の二枚舌である。いや、関係ないな。

■ホームランのあとは、ショートライナー。
●「ファミリー・ツリー」は、5月18日に、日劇などで昇格ロードショー。


●『ムサン日記ー白い犬』荒廃した街を駈ける白い天使。

2012年03月22日 | Weblog

●3月21日(水)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−035『ムサン日記ー白い犬』The Journal of Musan (2010) secondwind film 韓国
監督/制作/脚本/主演/パク・ジョンボム <127分> ★★★☆☆☆ 
脱北したパク青年の、韓国ムサンでの極貧と暴力と偏見と孤独な青春を描いた作品。
荒廃と建設がスクランブルに拡散した国境の町で、彼は街頭のポスター張りをして安い日銭を稼いでいた。
同じ脱北仲間との荒んだ生活苦から、キリスト教の布教施設で簡素な食事をとり、そこで女性と知り合う。
しかし聖職の彼女も、夜はカラオケ店で働き、パクもそこでアルバイトをする。
泥沼のような生活の唯一の救いは、白い捨て犬との時間だった。
監督は、若くして亡くなったという脱北からの友人のエピソードを映画化したという。
おかっぱ頭のパクは、まるで「ノーカントリー」のハビエルのようだが、こちらは純真さを忘れない。
この青年の純朴なハートと、犬との交流が、荒んだ周囲の風景と奇妙な違和感があって美しい。
貧困と悪徳を見つめた彼の眼は、次第に濁っていくが、白い犬だけは美しい毛のままで画面を引き立てる。
世界の多くのアワードを受賞したのは、この絶対に挫けないつつましい人間と動物の愛。
それだけに、ショッキングなラストの非情に、やはり絶句した。
素朴だが、残酷なインパクトを秘めた青春映画が、また韓国からやってきた。

■センターライナーが伸びて、野手のグラブを弾いてフェンスまでのスリーベース。
●5月、渋谷イメージフォーラムでロードショー


●いまこそ、故郷を思う気持ちをジャズで。

2012年03月18日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)

今夜の放送/ Vol.088『カミング・ホーム・ジャズ/2』Coming Home Jazz 2
★故郷をしのび、春を待つジャズを特集します。       
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★3月18日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★今夜の曲目メニュー紹介

1/『ロング・ライド・ホーム』演奏/ピーター・ホワイト
2/『ベイビー・プリーズ・カム・ホーム』演奏/ジョン・コリアー二
3/『帰ってきて嬉しいね』演奏/ジョージ・シアリング+メル・トーメ
4/『丘の上に住む人々』演奏/ディック・ハイマン・グループ
5/『ギブミー・ザ・シンプルライフ』演奏/ジェリー・マリガン+アニー・ロス
6/『ウェルカム・ホーム』演奏/キシノ・ヨシコ
7/『ニューヨーク、ニューヨーク』(カミングホーム・ライブ)/唄フランク・シナトラ

★今週の映画紹介/『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』主演/メリル・ストリープ

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、3月25日(日)「レイト・スプリング」と題して、春を待つ心をテーマにしたジャズを。
どうぞ、ご期待ください。



●『私が、生きる肌』のシュールなアルモドバル変身美学。

2012年03月16日 | Weblog

●3月15日(木)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−034『私が、生きる肌』The Skin I Live In (2011) tve canal+ espana スペイン
監督/ペドロ・アルモドバル 主演/アントニオ・バンデラス ★★★☆
いつもはスケールの大きな人間の愛情のかたちを描いていたアルモドバル監督の新作は、ちょいと異常。
しかも、かなり倒錯している。
たしかに、人間の深層心理を描いているが、超異常な世界だ。
6年前にパーティでの強姦がもとで自殺した娘の復讐にかられ、父親のアントニオは整形手術のベテラン医師の職務を乱用。
加害者の男を拉致して、豪勢な自宅の手術室で男の性転換手術をして、顔面も変えてしまう。
そして6年後。
女性に変身させられ洗能もされた男は、執刀医に復讐をする。
むかし見たB級ホラー怪奇映画のようなテーマだが、監督はシャープな映像と流麗な音楽で今風にアレンジして見せる。
それにしても大仰なテーマなので、見ていてグロテスクな美学に翻弄される。
かなりシュール・リアリスティックな映画なので、美術大学生や怪奇小説ファンには面白いだろう。
グロテスクだが、美意識も充分に備えた問題作だ。

■ショートゴロがイレギュラーバウンドして内野安打。
●5月26日より、TOHOシネマズ/シャンテなどでロードショウ


●『センター・オブ・ジ・アース・2/神秘の島』は3Dのジェットコースター疑似体験アドヴェンチャー。

2012年03月14日 | Weblog

●3月13日(火)13−00内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M−033『センター・オブ・ジ・アース・2/神秘の島』Journey 2 / The Mysterious Island (2012) warner brothers / new line
監督/ブラッド・ペイトン 主演/ドウェイン・ジョンソン <94分> ★★☆☆
お子様向けのホリデー・ムービー3D。
4年ぶりの第2作は、地底探検ではなく絶海の孤島からの脱出アドヴェンチャー。
一応、ジュール・ヴェルヌ原作の「神秘の島」がベースになっているが、アミューズメント・パークのショウアップ映画のよう。
だから子連れで見ないと照れくさい。
義理の父ドウェインと気の合わない不良少年ジョシュは探検家で行方不明の祖父マイケル・ケインを探しに、地図にない島を探す。
結局、叔父も同行せざるを得ない冒険旅行。
セスナが遭難して、流された島は、「ジュラシック・パーク」のような巨大怪獣がいっぱい。
しかもこの火山島は沈んで行くのだ。
さて、インディ・ジョーンズ博士のような老祖父と再会したが、島からの脱出はタイムリミット。
アニメの「キャッツ&ドッグス」の監督だから、すべてがアニメのような展開となる。
あの「海底二万哩」のネモ船長が作ったスーパー潜水艦ノーチラスも登場するので、われわれ世代にはジェームズ・メイスンを思い出す。
ま、こうゆう映画は、無我夢中に小学生感覚で見なくては面白くない。
つまりは、格安の春休みアミューズメント疑似体験ムービーというわけだ。

■飛距離はあるが、平凡なセンター・オブ・ジ・スタジアム・フライ
●3月31日より、全国ロードショー