細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『レディ・チャタレー』に漲るピュアーな官能と感性。

2007年08月30日 | Weblog
●8月29日(水)12-30 渋谷<ショウゲート試写室>
M-107 『レディ・チャタレー』Lady Chatterley (2006) 仏
監督・パスカル・フェラン 主演・マリナ・ハンズ ★★★★☆
D.H.ロレンスの「チャタレー夫人の恋人」は禁断の書として数回映画化された。
今回の新作は、3バージョンある原作の、その2つめのもので、一般的に読まれたのは、3つめの作品。
ストーリーは基本的に同様で、戦争での負傷で下半身が不能になった夫と、山の宮殿で暮らす若い夫人の平板な生活に始まり、夫人が森番の中年男と、山小屋で情事を重ねる経緯は変わらない。
しかし今回の映画は、密会するふたりのピュアーな情愛を基盤に描いているので、つい見ている我々の抱く罪悪感というか、不倫というイメージはまったくない。
ただただ自然のなかで、無垢な感情のままに抱き合うふたりを描いている。
その堂々たる、人間の性欲への本能の昇華は美しい。
フランソワ・トリュフォの『隣の女』から、犯罪感覚を消し去ったような陽気さは、むしろ新鮮な驚きだ。
フランス映画の最高賞のセザール賞で、昨年主要5部門受賞には拍手を贈ろう。
もしトリュフォやルイ・マルが見たら悔しがるような、愛の名作だ。

★11月 渋谷シネマライズでロードショー

●『グッド・シェパード』は家族の因果応報の歴史もの。

2007年08月28日 | Weblog
●8月27日(月)15-30 半蔵門<東宝東和試写室>
M-106 『グッド・シェパード』The Good Shepherd (2007) universal 米
監督・ロバート・デ・ニーロ 主演・マット・デイモン ★★★★
第二次大戦期の40年代に青春を迎え、60年代の冷戦期に親子の確執を迎えた、ひとりの機密捜査官の人生を描く。
来日記者会見のときにも、これは政治的な映画ではなく、あくまでひとつのファミリーを見つめた作品だ。とデ・ニーロ監督が断言したように、マット・デイモンが演じた男の人生ドラマ。
デ・ニーロの演出は、実に入念にクールなスタンスを崩さない。
170分に近い長尺だが、非常にテンションが満ちていて飽きさせない。
父の自殺の遺書を密封したまま保存して、息子の危険な結婚を非情な手段で阻止した時に、初めて開封して燃やす。
その炎が美しい。
デ・ニーロは、このワン・シーンが撮りたくて監督したのだろう。
寡黙な「佳き羊飼い」を演じるデイモンは、若過ぎる。
むしろデビッド・ストラザーンとか、マット・デイモンでも演じていたら、もっと★が増えた。
さすが画家の父を持つデ・ニーロは、父と息子の運命的な確執を、非情に美的な映像で描き、師匠のスコセージとは違ったアメリカの病巣を見せた。
超エリート集団を養成して組織化する大国右翼の思想には、本当に恐怖する。
それでもテロは頻発するのだたら・・・。

●『タロットカード殺人事件』は真相不十分な決着だ。

2007年08月24日 | Weblog
●8月23日(木)13-00 六本木<アスミック エース試写室>
M-105 『タロットカード殺人事件』Scoop (2007)BBC films 英国
監督・ウディ・アレン 主演・スカーレット・ヨハンソン ★★★☆☆
ロンドンでのW・アレン2作目のミステリー。
タロットカードを現場においた連続女性殺害事件。
手品師のウディと女学生のスカーレットが、死者からのメッセージで事件の真犯人を知り、その真相の裏付け捜査として、大富豪の御曹司ヒュー・ジャックマンに接近する。
ダシール・ハメットの夫婦探偵がロンドンの切り裂きジャックの事件を探るような着想は、いかにもアレンだ。
しかしタイトルにあるように、『スクープ』がテーマ。
死人の声を聞いた奇術師というアイデアがひどくオカシイのに、事件を追うプロセスが曖昧で、タロットカードの謎もない。
しかも幼稚な決着で終わるので、前作『マッチポイント』の切れ味はなかった。
せっかくのロケーション撮影の美しさが、景色に呑まれた事件のようだ。

★10月27日より、日比谷シャンテ・シネなどで公開

●『アフター・ウェディング』の意外でミステリアスな人生模様。

2007年08月21日 | Weblog
●8月20日(月)13-00 渋谷<シネカノン試写室>
M-104 『アフター・ウェディング』After the Wedding (2006)デンマーク
監督・スサンネ・ビア 主演・マッツ・ミケルセン ★★★☆☆
北欧デンマークの新作で、上流家族の結婚後のトラブルを描いているが、そこは女流監督だけに、スェーデンのベルイマンよりは軽くてやさしい。
インドの難民を救済活動しているヤコブに、出資元の会社から、親族の結婚式に出るように要請があった。
久しぶりに帰国すると、その結婚する新婦の母は、彼の元ガールフレンド。
やばい、と感じたが、話はどんどんミステリアスに転落していく。
ストーリーは面白いのだが、ポイントが曖昧で、迷走しだすのだ。
結局は、遺産相続の話だったのか。どうも腑に落ちないままに終わる。

★10月、シネカノン有楽町一丁目でロードショウ


●『キングダム/見えざる敵』はテロ撲滅アクションの秀作だ。

2007年08月18日 | Weblog
●8月17日(金)13-00 東銀座<U.I.P.試写室>
M-103 『キングダム/見えざる敵』The Kingdom (2007) universal
監督・ピーター・バーク 主演・ジェイミー・フォックス ★★★★☆
現在も頻発する中東での自爆テロ。
サウジアラビアにある外国人居住エリアに暴走する武装車両が侵入して、無差別に住民を殺害。
その応戦に出た矢先に、大規模な爆発でビルや広場が破壊された。
犠牲者の中に,アメリカF.B.I.の局員がいたために、極秘に捜索チームがワシントンで編成され、5日間という捜査日程で現地に飛ぶ。
単なる<ランボー部隊>のリベンジ映画だと思っていたら、ゴメンなさい。
さすがマイケル・マンのプロデュースだけに、現地リサーチと歴史的な事実が明快で、しかもアルカイダの拠点の割り出しなども、ドキュメンタリー・タッチで息を呑む。
迫力充分のカー・クラッシュや、スタッフの救出作業など、アクションも迫真のカメラで目が離せない。
アメリカ対アラブの、宗教と石油に絡む紛争の根深さが、浮き彫りにされ、ただのエンターテイメントじゃない気概があった。
非常に明快な、現時点戦況映画の秀作で、ヒーロー映画じゃない。

★10月、有楽町スバル座他でロードショー

●『ヘアスプレー』のトラヴォルタはアカデミー主演女優賞だ!

2007年08月17日 | Weblog
●8月16日(木)13-00 六本木ミッドタウン<GAGA試写室>
M-102 『ヘアスプレー』Hairspray (2007)newline 米
監督・アダム・シャンクマン 主演・ジョン・トラヴォルタ ★★★★
60年代のボルチィモアを舞台にした、ミス・ヘアスプレー・コンテストを再現したミュージカル。
ニッキー・ブロンスキーの演じるブスでドジでデブという、三大コンプレックス少女のサクセス・ストーリーだ。
全編、60年代ロックン・ロールのサウンド満載。
ミッシェル・ファイファーがドリス・デイのヘア・スタイルでキレまくる。
しかし、超デブの女装したトラヴォルタのノリには、本当に感動してしまう。
ここまでヤルのが、『サタデーナイト・フィーバー』根性。
人種問題も裏にはあるが、とことんエネルギッシュな圧倒的60年代再現には、拍手である。

★10月中旬、丸の内プラゼール他でロードショー

●『ヴィーナス』ある老役者の孤高な最終公演。

2007年08月15日 | Weblog
●8月13日(月)15-30 京橋<メディアボックス試写室>
M-101 『ヴィーナス』Vinus(2006)folm four 英
監督・ロジャー・ミッシェル 主演・ピーター・オトゥール ★★★☆☆☆
老齢の俳優の最期の日々を描いた佳作。
親友の姪は美人でもないがモデル志望だ。
まだ若い女性をハベラすことに飽きないオトゥールは、いろいろ彼女の面倒をみる。
年甲斐もない醜態は百も承知で、やたら気を揉む彼の最中が哀しい。
『ベニスに死す』や『秘めたる情事』には及ばないが、そのやんちゃな男振りが胸にくる。
往年の人気はとうに消えても、役者根性は消えていない。
自分に死に往く海辺まで、女性を連れて行く老優の美学を、監督は皮肉と笑いで軽く見せた。
またひとつ、立派なシニア・ムービーである。

●10月27日より、シャンテシネでロードショー

●『めがね』をかけて見た若者たちの桃源郷。

2007年08月14日 | Weblog
●8月13日(月)13-00 京橋<映画美学校・第一試写室>
M-100 『めがね』(2007) 日活
監督・荻上直子 主演・小林聡美 ★★★☆☆
前作の『かもめ食堂』は北欧という環境が妙な違和感を漂わせて面白かった。
今回は沖縄辺りの離島が舞台。
例によって挙動不審な人々がビーチに集まって来て、かき氷を食べる。
ノホホンとした春の海。なぜかみんな眼鏡をかけている。
交錯しない会話。とりとめのない時間。何もしない日々。
たしかに癒しの世界である。
まるで老人たちの黄昏れる環境なのに、青春後期の若者達が集う異様さが、監督の狙う面白さなのだろう。
無為無想。禅寺のようなビーチ。
ひとつの舞台劇としてはユニークだが、どうも馴染める共感はない。

●『エディット・ピアフ/愛の讃歌』不屈の生涯を唄う。

2007年08月11日 | Weblog
●8月10日(金)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-099 『エディット・ピアフ/愛の讃歌』La Vie En Rose (2007) 仏
監督・オリヴィエ・ダアン 主演・マリオン・コティアール ★★★☆☆☆
女性シャンソン歌手として、グレコとは別のパリ庶民派として愛されたピアフの生涯を熱っぽく描く。
少女期と晩年の生き様を、彼女のヒット曲で見せる迫力は充満しているが、少々過熱気味の演出だ。
ピアフを知らない若い世代の女性には、ぜひ見せたい20世紀の実話。
ただ彼女の曲をよく聞いた我々の世代には、味が濃過ぎる。
マレーネ・デイトリッヒとのさりげない出逢いのシーンに感動したのも、そのせいだろう。
もっとコクトーとの絡みなど、不屈のピアフの静なる部分を見ていたかった。
マリオン・コティアールの好演で、映画が成功している。

★10月、有楽座などでロードショー予定。

●ロバート・デ・ニーロ来日記者会見

2007年08月09日 | Weblog
●8月8日(水)13-00 六本木ミッドタウン・A・ホール
『グッド・シェパード』ロバート・デ・ニーロ来日記者会見

9年前にお忍びで来日した時、銀座の画廊でプライベイトに会って以来、久しぶり。
白髪は増えたが、貫禄も倍増していた。
今回の新作監督については、準備に9年もかかったというだけに、かなり入念な仕上がり。
演出家として、ジョン・タトゥーロを最初にキャスティングしたあたりは、プロの役者根性がある。
政治的な質問には応えないで、もっぱら人間個人のストーリーだと主張。63才の自信だろう。
ダボダボのジーンズには、やはりトライベッカの不良オヤジの風格があった。