細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●11月の試写ベスト・3とワースト

2006年11月30日 | Weblog
●11月に見た試写のベスト・3
1/「世界最速のインディアン」監督・ロジャー・ドナルドソン、主演・アンソニー・ホプキンス ★★★★☆☆
  高齢にもめげず、青春の夢を忘れないで挑戦したオートバイ・ジジイの明るさに乾杯。

2/「硫黄島からの手紙」監督・クリント・イーストウッド 主演・渡辺 謙 ★★★★☆
  負けるが勝ち、という美学で貫かれた戦争叙事詩。勇気ある多くの映画的な挑戦にも拍手をしたい。

3/「スキャナー・ダークリー」監督・リチャード・リンクレイター 主演・アニメのキアヌ・リーブス ★★★★
  原作の持つ精神倒錯性を、巧みなアニメーションで映像化に成功した高度なスキルは、非常に新しい。

次点「ディパーテッド」監督・マーティン・スコセージ 主演・レオナルド・ディカプリオ
  ハードボイルド・バイオレンスとしては面白いのだが・・・・。

☆ワーストのような怪作
 「パフューム」監督・トム・ティクヴァ どうにも?????????な作品で、評価に困った。

●「スキャナー・ダークリー」の疑心暗鬼なダークサイド

2006年11月30日 | Weblog
●11月29日(水)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-136 「スキャナー・ダークリー」A Scanner Darkly (2006) warner independent
監督・リチャード・リンクレイター 主演・アニメ化のキアヌ・リーブス ★★★☆☆☆
いつも試写のタイミングを逃していた作品だが、いよいよラスト試写。
批難の多い作品だが、ソダーバーグのプロダクションが作ったフィリップ・K・ディックの原作を見逃すのは辛い。
たしかに全編アニメーションになった近未来暗黒映画だが、モチーフは現代のロサンゼルスで、麻薬取り締まり捜査官の監視活動を描いているので、「ディパーテッド」や「インファナル・アフェアー」と変わらない。
ただ主人公のキアヌが監視していくプロセスで、勤務中に常習的に服用していたドラッグの副作用が出て来て、幻覚とも錯誤ともつかない自失状態となっていくヴィジュアルがユニークだ。
かなり実験的な映像だが、描かれる世界は現実的な、精神的迷走なので、興味をそそるサスペンスとなる。
おそらくは実際に撮影したキアヌ・リーブス、ウィノナ・ライダー、ロバート・ダウニー・ジュニアたちの実写よりも、こちらのCGアニメの方が、原作のシュールな感じは出せているだろう。
新感覚のフィルム・ノワールとしてお勧めだ。

●「007/カジノ・ロワイヤル」ベニスより愛をこめて。

2006年11月27日 | Weblog
●11月27日(月)13-00 明石町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-135 「007/カジノ・ロワイヤル」007/ Casino Royale (2006) MGM
監督・マーチィン・キャンベル 主演・ダニエル・クレイグ ★★★☆☆☆
要するに「ビギニング・オブ・ジェームズ・ボンド」である。
つまり正式なイギリスのシークレット・エージェントになるための、実地試験アクションだ。
だから荒削りなキャラクターが新鮮で、どちらかというとジェーソン・ボーンのようなアスリート感覚がフレッシュだ。
大掛かりな悪玉組織の要塞や、宇宙ステーションも出て来ない分、アクションの原点を連続して見せる、その展開が懐かしい。
新人スパイの悩みや、恋の行方などが、ダニエル・クレイグのラフな魅力で見せて、どこかスティーブ・マックィーンの30代の爽快感が、彼にはある。人気シリーズの原点回帰はいい狙いだろう。
かくして新登場リニューアルされたボンドは、とにかく元気だ。

●「パフューム」の摩訶不思議な臭気

2006年11月25日 | Weblog
●11月24日(金)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-134 「パフューム/ある人殺しの物語」Ferfume (2006) ドイツ
監督・トム・ティクヴァ 主演・ベン・ウィショー ★★???
ドイツ本国では1985年に、驚異のベストセラーとなった小説の映画化で、映画もヒットしたらしい。
人はずれた臭覚の持ち主が、悪臭時代の17世紀フランスで、香水の開発の研究をする。
そして処女の、しかも美女の肌から発散されるホルモンを混入することで、新しい香りを見い出した。
さて、歴史物のサスペンスかと、ストーリーに食い入ったが、そうでもない。
あの傑作「ヘブン」の監督なので、作品のカテゴリーは関係なく、コメディからファンタジーにもなってしまう。
原作はいいかもしれないが、この映画の混沌とした臭気は苦手である。
これではヒッチコックも苦笑するだろう。
わたしの好みの香りじゃない。

●「世界最速のインディアン」のスローライフ

2006年11月22日 | Weblog
●11月21日(火)13-00 明石町<ソニー試写室>
M-133 「世界最速のインディアン』World's Fastest Indian (2005)ニュージーランド
監督・ロジャー・ドナルドソン 主演・アンソニー・ホプキンス ★★★★
高齢ながら少年の夢を実現した男の実話だ。
ニュージーランドの田舎に住むバート・マンローは、根っからのオートバイ野郎だ。
自分でメカを調整して、不要な部品を総て捨てて、とにかくスピードの出るマシーンを改造した。
しかし貧しい独身の年金生活。
夢の、アメリカ、ユタ州ポンヌヴィルの、年に一度の単車によるスピード競技会に出場するために、貧乏旅行が始まる。
シニア・ロード・ムービーには傑作が多い。
これも「ハリーとトント」のように、ネイティブ・インヂィアンの老人との出逢いを通じて、勝利への勇気を貰う。
ダメ家族のロード・ムービーを見た翌日に、もっと陽気な作品に出逢った。
いろいろと人生の励みになるシーンも多いが、本質的な楽天主義が気持ちいい。
ニュージーランドでバート本人を知っていた監督の、温情と尊敬に溢れた、心豊かな傑作だ。

●「リトル・ミス・サンシャイン」幸福の黄色いバス。

2006年11月21日 | Weblog
●11月20日(月)13-00 六本木<FOX試写室>
M-132 「リトル・ミス・サンシャイン」Little Miss Sunshine (2006)fox
監督・ジョナサン・デイトン夫妻 主演・グレッグ・キニア ★★★☆☆☆
不運な負け組一家が、娘のリトル・ミス・コンテストに出場するために、多難なバス旅行にでる。
自殺志願、失業、精神障害、ドラッグ、いじめ、あらゆる現代の疾患を抱えた負け組家族のロード・ムービー。
みんなそれぞれにハンデを持っているのに、なぜか明るいアメリカンなファミリーの、エンコばかりしながら走る黄色いバスが、映画の陽気さをシンボライズしている。
今年の東京国際映画祭で、最優秀監督賞、主演女優賞、観客賞の三冠受賞が示すように、非常にポピュラーなテーマを、深刻にならないで陽気に振る舞う勇気に、励まされる楽しさがある。

●「硫黄島からの手紙」がやっと届きました。

2006年11月18日 | Weblog
●11月17日(金)12-30 日比谷<ワーナー試写室>
M-131 「硫黄島からの手紙』Letters From Iwojima (2006)warner brothers
監督・クリント・イーストウッド 主演・渡辺 謙 ★★★★☆
16日の記者会見の席上で、監督のイーストウッドが自信を持って作った「日本映画」です。と言った通り、これは日本人の俳優たちが日本語で演じたハリウッド製の日本映画である。
製作の心情は「オーネスティ」と即答したが、まさに人間としての「正直さ」で描かれた戦争映画だ。
「父親たちの星条旗」と、コインの表裏のように製作されたこの作品は、まさに硫黄島での日本軍の防戦のみにフォーカスした視線がハートに食込んでくる。
負傷した日本兵士が、海岸の救護コーナーに並べられた時、隣のベッドにライアン・フィリップスのような兵隊がいた。
その点を記者会見で指摘されたクリント・イーストウッドは、「スタッフからも指摘されたが、もちろん彼ではない。でも2本の作品の運命的な関係としては、いい指摘だと思う。これからフランスの煩い記者達の質問には、意図的に、二人の負傷した兵隊をラストシーンで並べたと答えよう」と笑った。
戦争には勝ちも負けもなく、お互いに傷つくだけだ、と言った監督のコンセプトには、的確な構図だった。
4月に来日した時よりも、監督の表情に明るさと自信が感じられたのは、作品の成功を自覚したからだろう。
この二作は、両方を見なくては意味を成さない。

●「あなたになら言える秘密のこと」の心の旅路

2006年11月15日 | Weblog
●11月14日(火)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-130 「あなたになら言える秘密のこと」The Secret Life of Words (2005) スペイン
監督・イサベル・コイシェ 主演。サラ・ポーリー ★★★☆☆
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが制作。
「死ぬまでにしたい10のこと」の監督と主演コンビが作った新作は、迷える心の旅路。
サラは神経を患っていて、あまり人間と関わりたくない。
海上にある石油採掘工場で火災が発生して、重傷の火傷患者が出た。
中年の技師ティム・ロビンスだ。
彼はショックと火傷で、一時的に目が見えない。看護婦の資格を持っていたサラは、彼の看護をすることになった。
目の見えない男と、心の見えない女の会話が、淡々と続く。
誠実な女性的繊細さで、ドラマはフラジルだが魅力的だ。
ラストのハッピーエンドが、どうも軽すぎたが、ラブ・ストーリーとしては上出来だろう。
さすがにティム・ロビンスの存在がいい。あのジュリー・クリスティーがカウンセラーで顔を見せる。
これもまた「心の旅路」の系列だろう。

●「フリーダムランド」は不自由な問題だらけ。

2006年11月11日 | Weblog
●11月10日(金)13-00 新富町<ソニー試写室>
M-129 「フリーダムランド』Freedomland (2006)sony
監督・ジョー・ロス 主演・サミュエル・L・ジャクソン ★★★☆
カージャックされて4歳の息子が拉致された、と深夜の警察にひとりの女性が血だらけで現れた。
サミュエル刑事は事情をジュリアン・ムーアから聞くが、どうも要領を得ない。
ニュージャージーの低所得住宅地域「フリーダムランド」は、その名前とは逆の危険な地区だ。
話は「ミスチィック・リバー」のように、家族や社会の亀裂を描くような語り口なのだが、次第に子供の虐待や貧困、そして街の暴動と、最近の社会問題がいっせいに列挙される。
結局は、子供を亡くした女性のメンタル・プロブレムがテーマらしいのだが、それにしても問題が多すぎた。
だから心理サスペンスのようであり、社会ドラマのようでもあり、よく狙いがワカラナイ。

●「ディパーテッド」のディカプリオは本気だ。

2006年11月09日 | Weblog
●11月8日(水)12-30 日比谷<ワーナー試写室>
M-128 「ディパーテッド」The Departed (2006) warner
監督・マーティン・スコシージ 主演・レオナルド・ディカプリオ ★★★★
「アビエイタ-」でオスカーを逃がしたチームが、ブラッド・ピットのプロデュースで、香港映画「インファナル・アフェアー」をリメイク。
と、聞いただけで、オイ、オイ、大丈夫かい。と心配したが、この新作は、上々だ。
あの「汚れた顔の天使」以来の、同級生対決ものだから、ディカプリオのやくざな潜入警官に対して、マット・デイモンのエリート刑事というのは互角だろう。
でもそれが最後までバランスは維持したものの、意外性が弱くなっていた。
あまりにもタイプが似た者同士に見えてしまうのだ。
とはいえ、めげないスコセージ監督は随所に猛烈に切れ味のいいショットを連発するので、152分の長尺は飽きない。
あまりにも不敵な男達ばかりなので、甘みがなく、おまけにジャック・ニコルスンが好き放題に暴れるので、この手の犯罪ノワールがお好きな向きにはいいが、そうでない人にはトゥー・マッチなヴァイオレンスかも。
ま、そこがスコセージさ。と楽しんで見れた力作だった。