細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●2021年、日本映画ペンクラブへの自己申告

2021年02月28日 | Weblog
●2020年度・日本映画ペンクラブ投稿・個人的な映画ベスト

★邦画ベスト・3
『影裏』監督・大友啓司
『ドクター・デスの遺産』監督・深川栄洋
『スパイの妻』監督・黒澤 清

★洋画ベスト・3
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』監督・ウディ・アレン
『ジュディ・虹の彼方に』監督・ルパート・グールド
『1917・命をかけた伝令』監督・サム・メンデス

●好きな映画スター
①高倉 健、②笠 智衆 ③綾野 剛
①八千草 薫 ②田中裕子 ③寺島しのぶ
★コロナ渦で、試写は少なく全部予約制で、体調チェックで遠慮。
マスク着用でも劇場で見た新作が、たったの36作品で、わたしの映画史上最低でした。
●2020年度・日本映画ペンクラブ投稿・個人的な映画ベスト

★邦画ベスト・3
『影裏』監督・大友啓司
『ドクター・デスの遺産』監督・深川栄洋
『スパイの妻』監督・黒澤 清

★洋画ベスト・3
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』監督・ウディ・アレン
『ジュディ・虹の彼方に』監督・ルパート・グールド
『1917・命をかけた伝令』監督・サム・メンデス

●好きな映画スター
①高倉 健、②笠 智衆 ③綾野 剛
①八千草 薫 ②田中裕子 ③寺島しのぶ
★コロナ渦で、試写は少なく全部予約制で、体調チェックで遠慮。
マスク着用でも劇場で見た新作が、たったの36作品で、わたしの映画史上最低でした。

●『過去を逃れて』は、「カリブの熱い夜」とは同姓ながら異兄弟。

2021年02月26日 | Weblog
●2月25日(木)21-45『過去を逃れて』"Out of the Past" (1947) RKO Radio Pictures,
監督・ジャック・ターナー 主演・ロバート・ミッチャム、カーク・ダグラス、ロンダ・フレミング、ジェーン・グリア
★モノクローム・スタンダード・97分・<コスミック出版・DVD/ムック。暗黒の世界>
過日明記した『堕ちた天使』が<フィルム・ノワール>の代名詞とも言えるだろうが、こちらの作品も匹敵する異色作で、リメイクまでされた悪道傑作だ。
基本的に、ノワールは、ギャングなどの職業的な<悪行専門職>ではなくて、ごく普通の善人が、不運にも運命に見捨てられてしまい、悪の世界を右往左往する。
という解釈もあるが、この作品は善良な生活をしていた男が、昔の悪行のつきあいから、また<悪の片棒>へのカムバックを強いられて行く・・・という不運。
ミッチャムも<ギャング時代>の脚を洗って、いまはネヴァダ辺りのローカル・タウンで、街道のドライバーのためのガソリン・スタンドを細々と営んでいた。
ところが、ある日のこと、昔の悪友が偶然やってきて、彼もつき合った事のある行方不明のガールフレンドを、高額ギャラで探してくれないか・・というのだ。
元カノの趣味やセンスは、勝手知ってるミッチャムは、しぶしぶ悪友カーク・ダグラスの依頼をうけて、メキシコのメリダ辺りの田舎町に行き、彼女をバーで見つけた。
昔のよしみで話し合い、とにかく高額の収入も約束するので、彼女をウェスト・ハリウッド辺りの、ギャングの経営するナイト・クラブに連れ帰ったのだが・・・。
そこは当然のように、麻薬と香水の匂うヤクザな世界なので、三流ドラマのように<悪臭の三角関係>となり、ミッチャムはもとのガソリン・スタンドには戻れない落とし穴。
この<ノワール・マニア>には定評のある設定は、1984年には、ジェフ・ブリッジス主演で、テイラー・ハックフォードが「カリブの熱い夜」というタイトルでリメイク。
公開当時は、たまたまロサンゼルスに行っていて、一緒に電通に勤務していた同期の映画友達の<石上三登志>くんと、ウェスト・ハリウッドのカフェで語り合ったものだ。
結局は、ノワールというのは、犯罪の悪行よりも、ファム・ファタール<悪女>の絡みの旨みによるのだ、という同意見で、こちらのクラシックが優先したのだ。
悪事には直接に加担しなくても、そのアヤしい魅力で、男達をアクの世界に落しこむ、という性癖の妖しさが、この作品では安香水のように匂いを残してしまった。

■イレギュラーなゴロがセンターの股間を抜けてスリーベース。 ★★★★☆☆
●コスミック出版DVDムック「暗黒の世界」より

●『堕ちた天使』は<フィルム・ノワール>のベストだという風評はあるが・・。

2021年02月24日 | Weblog
●2月23日(火)21-30 ニコタマ・サンセット傑作座
★OV-049『堕ちた天使』"The Fallin' Angel" (1945) 20th Century Fox Studios 
監督・オットー・プレミンジャー 主演・ダナ・アンドリュース、リンダ・ダーネル <モノクローム・スタンダード・105分>
世間的に<フィルム・ノワール>というのは、あのハンフリー・ボガートの「マルタの鷹」のような、犯罪を推理する探偵の出るようなジャンルと言われている。
しかし、フィリップ・マーロウ探偵が活躍する殺人事件ものよりも、わたしはむしろこの作品のように、刑事や探偵などのプロの出るテーマよりも、この庶民受難タイプを好む。
つまり、ごく普通の人が、思わぬ犯罪に巻き込まれて、普段の生活がガラリと事件に呑み込まれて、常軌では収拾のつかないトラブルに巻き込まれて行くテーマ、だと思っている。
あのロマンスの名作「陽のあたる場所」のような、善良な青年が、思わぬボートの転覆事故でガールフレンドを死なせて、裁判で死刑の宣告をされたようなケース。
なぜか40年代の世界大戦の末期には、テレビも未開発で、ハリウッドも映画制作費が削られて、金のかからない役者での、犯罪事件ものを量産していた時代だった。
失業して、ひとりロスからサンフランシスコに向かって行く深夜バスで、流れ者のダナは、おそらくサンタバーバラ周辺の郊外で無賃乗車で下ろされてしまう。
当時は廃棄されたバスを改造して、カウンターだけの終夜営業のダイナーが多くあったらしく、よく50年代のチープな映画には出て来たもので、これはその代表作。
日本では当時は、リアカーでの焼き鳥屋が多くあって、わたしなども独身の安サラリーマンの空腹な深夜などには重宝したものだが、あれに近い設定のドラマだ。
結婚に破れて、そのダイナーの女給をしているリンダは美人なので、元刑事だったチャールズ・ビッグフォードは毎晩のように、カウンターで粘っている。
ほとんどは、深夜のダイナーのカウンターでのドラマなのだが、流れ者のダナは宿無しなので、閉店後にリンダのアパートに誘われたが、別の安ホテルに泊まった、が。
その夜にリンダが殺されて、当然のように放浪者のダナが容疑者として逮捕される・・・という、まさに<ノワール・パターン>で、これはそのベストの1作だろう。

■完璧に左中間のフェンス激突の堂々のスリーベース。 ★★★★☆☆☆
●<ブロードウェイ>の<オットー・プレミンジャー傑作選・DVD

●『オスカー』には遠い、<サンセット裏通り>のゴミの山。

2021年02月20日 | Weblog
●2月19日(金)21-20 <ニコタマ・サンセット傑作座> 
★OV-45-30(VHS)『オスカー』"The Oscar"(1966)Embacy Entertainment,,WarnerBrothers Studio <121min. Vista Size> 
監督・ラッセル・ラウズ 主演・スティーブン・ボイド、トニー・ベネット、
特別出演・ブロードリック・クロフォード、エルケ・ソマー、エリナー・パーカー、ジョセフ・コットン、ピーター・ローフォード、マール・オベロン、
アーネスト・ボーグナイン、ボッブ・ホープ、ジル・セント・ジョン、ナンシー・シナトラ、ウォルター・ブレナン・・フランク・シナトラ・・・・。
あのジュディ・ガーランド主演の名作「スター誕生」の、逆バージョンのような、これも映画産業都市ハリウッドの逆説的なアン・サクセス・ストーリー。
ハリウッド映画スタジオと、スターダムに伸し上がろう・・とする、一種のサクセス・ストーリーなのだが、ラストには落とし穴が待っている。
名作「ベン・ハー」で、若手騎手として、あのチャールトン・ヘストンと勝負をしたスチィーブン・ボイドは,その後はパッとしなかった。
という意味では、この作品で、ハリウッドのスタジオでスターダムに登るチャンスを狙っているという若造の役は、彼のリアルライフにも似ているようだ。
ルックスも体格もよく、シナリオの暗記もできるという若い役者は、スタジオの片隅でのセット移動などの裏方をしているが、チャンスは実に少ないのだ。
前に、ブロードウェイのステージへの道を描いた名作「女優志願」や、シャーリー・マクレーンの「果てしなき夢」という、スター階段の厳しさを描いた作品があった。
これも、ハリウッドのスタジオで、とにかくカメラの前に立てる若いスターのタマゴの私生活を描いて行くのだが、全体にはラフスケッチな逸話に終わっている。
つまりはその微々たる幸運を掴むだけの知性とルックスと、バックボーンが大切なワケで、この主人公のスティーブンも、そのチャンスを掴みかけていく。
歌手のトニー・ベネットが、その相棒役というか、アドヴァイサーをやっているが、さすがに多くのステージ・シンガーのキャリアに似て、うまいものだが・・。
結局は、オスカーナイトの授賞式で、司会者の「さて、主演男優賞は・・フランク・・」と言ったところで立ち上がったスティーブンは、シナトラの受賞に愕然。

■セカンド正面のゴロを、トンネル。 ★★★☆☆
●VHS収録ビデオでの鑑賞

●『マイクス・マーダー』は、80年代ウェスト・ハリウッドの残り香が妖しく匂う。

2021年02月18日 | Weblog
●2月17日(水)21−40 <ニコタマ・サンセット傑作座>
0V-43『マイクス・マーダー』"Mike' Murder "(1984) Warner Brothers, a Ladd Company. Hollywood.
監督・脚本・ジェームズ・ブリッジス 主演・デブラ・ウィンガー、ポール・ウィンフィールド <110分> DVD
あの「白いドレスの女』は、83年頃の大ヒットミステリーで、シガニー・ウィヴァーを大スターにして、ワーナー社は二匹目のドジョーを狙った。
これがこの作品で、「愛と青春の旅立ち」と「愛と追憶の日々」の先発大ヒットで、一気にスターになったデブラは、ハリウッドの80年代のサクセス美談。
いかにも「白ドレ」のテイストを残したミステリーで、監督も当時は「チャイナ・シンドローム」や「アーバン・カウボーイ」で好調ジミー・ブリッジス。
当時は、わたしもCMのロケで、よくハリウッド周辺に出かけていたので、この作品も評判が高くて、チャイニーズ・グローマン劇場もかなり混雑していたものだ。
ユタかどこかの田舎娘のデブラは、ハリウッドでスタジオの仕事をしたくて、映画館のモギリをしていたが、映画関係の仕事をしていた青年マイクと知り合った。
ところがボーイフレンドは、自宅アパートで殺されて、デブラもウィンフィールド刑事の尋問を受けるようになり、少しずつハリウッドの地獄にハマって行く。
時代や背景は、まさにディカプリオと、ブラピが共演した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」と同様で、ま、「刑事コロンボ」と似たケース。
あのシャローン・テイトが、愛人監督ロマン・ポランスキーの屋敷で惨殺された事件も、まさにこの時代周辺だったが、ウェスト・ハリウッドには事件が多かった。
ボーイフレンドのマイクは、ドラッグの宅配密売でウェスト・ハリウッド周辺で稼いでいたが、メキシカン・マフィアのトラブルで消されてしまい、デブラにも危機が迫る。
傑作続きの監督は、手堅い演出で、あの時代のウェスト・ハリウッドの陽焼けした空気を見せて行くが、どうもデブラの演技は空回りのままで、日本では未公開となった。
あの当時の事件絡みのウェスト・ハリウッドの雰囲気は出ているので、ミステリーというよりは、あの時代のキナ臭い街の空気は感じられる・・・という異色作。

■左中間のゴロだが、野手が暴投でヒット。 ★★★☆☆
●輸入版ワーナー・ビデオでの鑑賞

●『すばらしき世界』が、ひらがなのまま・・という微妙なイト。

2021年02月14日 | Weblog
●2月13日(土)9-15a、m、★109シネマズ<二子玉川>シアター9・スクリーン
M-003『すばらしき世界』<subarasiki sekai>-movie JP. Warner Brothers Japan Presents.
監督・西川美和 主演・役所広司、仲野太賀、<140分・ビスタサイズ>
窃盗と殺人などの罪で、13年の服役を終えて出所した中年男は、刑期の間の獄中暮らしで、その個性やモラルは、社会性には都合のいい性格に変造されていた。
ある意味では、戦時中の国粋主義のような、ミリタリズムに鍛え直されていて、社会には消極的だが、一応は協調性を身につけた<静かなる男>になっていた。
当然のように、もとの<組>への復帰の誘いもあったが、そこは地区の指導員の監視もあり、一見は一般的な小市民としての独身アパート暮らしを再会する。
ささやかな生活費の補助を受けて、恐らくは、東京都江東区の周辺だろうが、隅田川の東岸の辺りの、ごく普通の木造二階の狭い部屋は与えられていた。
ドラマは、その男の社会復帰への道を取材していくルポ・ライターの青年の監視もあり、とにかく町工場での手作業と申告、その収入による自活はスタートしたのだ。
あの高倉 健さん主演の「網走番外地」のような背景なのだが、そこは<組織>へのカムバックや、組への復帰等や<礼金>のない,実に謙虚で無職な独身生活の再会。
13年といっても、人生の、いちばん<華>ともいえる、結婚とか、出産とか、会社での昇格、出世とかの、上昇機運の生活のなかった男の日常は、そう明るくはならない。
区役所でのチェックとか、観察指導員の視線やアドヴァイスもあって、その復帰生活は、ある意味では、入獄時のルーティーン日常とは比較にならないほど、現実は厳しいのだ。 
とはいえ、役所広司のつつましい好演もあって、ある種のユーモアも湛えていて、よく見ていた健さんの<やくざ映画>の後日談とはニュアンスの違うタッチ。
というのも、ここには西川監督の女性的な繊細な視線と、理解の深い<間>で、あの、よく見た東映映画の<男社会>への帰路とは違って、ユーモラスでもある。
設定とすれば、あの「男はつらいよ」の車寅次郎のスタンスにも共通するが、そこは俳優の役所広司サンの個性で、じつに涙ぐましくも控えめだが、現実は悲惨なのだ。
ああ・・・、それにしても、あの健さんの、出所後日談は、「夜叉」にしろ、「冬の華」にしろ「・・番外地」にしろ、カッコよかったなーーー。

■ショート頭上の痛打が、レフトの横を抜けてツーベース。 ★★★★
●全国で公開中。

●『ワイルドマン・ブルース』で見せる、ジャズマン・ウディの素顔。

2021年02月13日 | Weblog
●2月12日(金)21-30 二子玉川サンセット傑作座
0V-38-29『ワイルドマン・ブルース』"Wildman Blues" (1998) A Barbra Couple Production (VHS)
監督・バーブラ・コープル 主演・ウディ・アレン、&<ワイルドマン・ブルース・バンド>
昨年には、新作「レイニー・デイ・イン・ニューヨーク」を公開して、83歳でも健在ぶりを披露した、これはウディのプライベイト・ツアー・フィルム。
趣味のクラリネットでの<ディキシーランド・ジャズ>を、以前からマンハッタンのグリニッチ・ヴィレッジのパブで毎週末に生演奏していることは有名だった。
その彼の7人ほどの高齢者メンバーによる、バンドの演奏ツアーがヨーロッパで開催されたのは90年代後半、いろいろなニュースで知っていたが、これはそのライブなのだった。
そのお宝映像VHSテープで保存していたのが、つい最近に大掃除していたら、発見。
1997年頃に、その7人ほどの編成による、南仏をライブ・ツアーしたときの、これは大いに貴重なフィルムなのだった。
ディキシーランド・ジャズ、といっても、このウディのバンドの演奏は、おそらく、キング・オリヴァーやルイ・アームストロングのスタイルよりも、ネイティブらしい。
いろいろと曲を演奏していくが、ルイのように、歌手がいて曲目を紹介するでもなく、そこは<ジャズの原点>ともいうべき、黒人の血とアセの結晶のような枯れた味。
メンバーも、ウディよりも高齢な黒人ばかりなので、そこは<ジャズの原点>というよりは、前世紀に移民してきた黒人労働者たちの、まさに<ワークソング>なのだ。
わたしも青春時代には、キャノン・ボール・アダレー、アート・ブレイキーや、ナット・キング・コールなどの来日黒人たちのジャズを聞いたものだが、これはその原点のようなサウンド。
マドリード、マラガ、マルベーヤ、トリノ、などなどの南の町でのライブ・ツアーの演奏は、どれも曲名は区別のつかないような、あの粗雑で古風なディキシーランド。
それでも住民たちの熱烈な歓迎を受けて、ウディと、そのバンドは2時間ほどのステージをコナして行く姿は、またミュージシャンとしてのウディを見せつける。
いつもポピュラーなジャズの名曲を聞いている小生には、いかにもカビ臭い連続でエンドレスなサウンドなのだが、ここにも、また天才ウディの実像があったのだ。

■ボテボテながらもサードベースに当たってのツーベース、 ★★★★
●探せばきっと見つかるウディ・アレンの生演奏。

●『冬の猿』で列車の到着を待つ、孤高の名優ギャバンのラスト・シーン。

2021年02月11日 | Weblog
●2月11日(木)17-30 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-37-28『冬の猿』"Un Singe en Hiver " (1962) French Film. Produced Under The Copyright Eathan Co.Ltd.
監督・アンリ・ヴェルヌイユ 主演・ジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド <102分・モノクローム・ビスタサイズ>配給・IVC
このところ、なぜかジャン・ギャバンの作品にハマっているが、晩年はアラン・ドロンとの共演が続いたが、これはベルモンド共演で、多分、彼の最期のフィルムだろうか。
ギャバンほど名作の多かった俳優はフランスにはいないだろうが、あのトラック・ドライヴァーを演じた「ヘッドライト」の、ベルヌイユ監督とのコラヴォである。
第二次大戦の末期、フランスのノルマンディ海岸には、まだナチスの兵隊が駐屯していて、連合軍の総攻撃が迫っていた時期だが、ギャバンは萎びたプチホテルのオーナー。
戦雲が迫っている小さな海岸のホテルには客もないが、離婚したベルモンドが女子学校の寄宿舎にいる10歳くらいの娘を引き取りに、この町に来た。
他にホテルの客もいない夜、音楽も、爆音もなく静かなホテルで、ひとりで食事している彼を、オーナーのギャバンは奥の食卓に呼び、いっしょにワインを交わす。
つい、老父と中年の息子のように気分の合ったふたりは杯を重ねるうちに意気投合して、ワインを飲み過ぎて、冬の海岸に出て、祭りの残りの花火を打ち上げたのだ。
ついに連合軍の上陸作戦かと、ドイツ軍や住民たちは緊張したのだが、海岸で大騒ぎして花火を打ち上げているのは、酔っぱらった二人の男。
若い時に、中国を旅したギャバンは、そのときに聞いた<冬のサル>の話しが好きで、ベルモンドに語って聞かせているうちに、ふたりは意気投合したのだ。
次の朝、ベルモンドはひとり娘と南仏に去り、ひとり老いたギャバンは、父の墓参りのために、駅のベンチで列車の到着を待っている後ろ姿をカメラはパン。
このシーンは、恐らくは名優ジャン・ギャバンの最期の姿だろうが、だれも居ないプラットフォームで佇む彼の姿は、あまりにも孤高で印象に残るのだ。

■ライトフライを野手が後逸して転々・・のスリーベース。(1996年日本公開) ★★★★☆
●アイ・ヴィー・シー、レーザーディスク。

●『ヤクザと家族The Family』に見る、時代とアウトローの軋轢。

2021年02月10日 | Weblog
●2月9日(火)9-50 渋谷<TOHO CINEMAS 7F, スクリーン・2>E-23
M-002『ヤクザと家族・The Family』(2020)KADOKAWA, スターサンズ、Lat-Lon. VAP
監督・脚本・藤井道人 主演・館ひろし、綾野 剛、尾野真千子、寺島しのぶ、<136分・ビスタサイズ>
昨年の10月から、試写状は頂いていて、どうしても見たかった作品だったのに、ついついコロナ事情などで見損なっていた新作だが。
わたしのサラリーマン時代は、もろ、東映やくざ映画の全盛期で、高倉 健さんや、鶴田浩二サンの新作は毎週のように見て、その後のDVDも集めたものだ。
世間が高度成長時代で、昭和後期の景気は尻上がりで、善良な映画もあったが、会社や上司に不満のあった世代には、毎晩の酒とヤクザ映画は不満解消特効薬。
同じストーリーで、ラストには激情が爆発して、広い座敷は血のしぶきが飛び散り、悪徳親分が血を吹いたあとは巷のバーや屋台で、終電まで飲んだ・・時代だった。
昭和の後期には,そんな<やくざ映画時代>も去って、善良無害な青春映画が出始めたころから、そんな不良映画の時代も去ってしまって、テレビだ、ビデオだ・・。
<やくざ映画>というのは、あの不満の鬱憤が多かった昭和の高速成長期の反動で生まれたような欲求で、とにかくアキもせずに毎週のように、東映通いだったのだ。
しかし、もうあの時代は<昭和>、<平成>、<令和>・・と変色してしまい、この作品では、その時代の脱色してしまった、やくざなファミリーを描いて行く。
ま、一方で当時も、平穏な家族を描いた小津安二郎や、成瀬巳喜男などの上質な作品もあったが、わたしはやはりアウトローな<健さん映画>のファンのままだった。
だから、この作品は、もう昭和ではなく、いまや<令和>となって、すっかりボルテージの失われた<ヤクザと、そのマジな家族>を描いて行く、不思議な作品なのだった。
おそらく、館ひろしの演じる初老のやくざは、若造の綾野剛には、兄弟のような思慕は持ちつつも、かつての羽振りの失われたアウトローの末路を苦笑しつつ見直している。
<沼津>を舞台にしているが、これは平均的な中都市の裏社会を背景にして、好調、綾野くんが、そのショーバイのやり難さを苦笑して、遺されたヤーサンの最期に沈む。

■往年のヒットメイカーも、当たりそこねのポテン・ヒット。 ★★★+★
●全国でロードショー中

●『暗黒街のふたり』の枯れたギャバンの悲哀な表情が・・。

2021年02月08日 | Weblog
●2月7日(日)21-30
OV・34-27『暗黒街のふたり』"Deux Hommes Dans La Ville" (1973) Pathe Tele, French.
監督・脚本・ジョゼ・ジョヴァンニ 主演・ジャン・ギャバン、アラン・ドロン <Vista/size 95min. > アミューズ・レーザーディスク
先月のメグレ警部以来、どうも<ジャガイモ>ギャバンにハマってしまって、『冬の猿』を見ようとコレクションを漁っていたら、こちらが眼についた。
これはご自身も悪事を働いて、ムショ経験のあるジョゼ・ジョヴァンニの脚本による監督作品で、しかもジャン・ギャバンの、たしか、ラスト・フィルムだった。
だからクレマンやデュヴィヴィエほど演出はうまくないが、<ムショ帰り>のアウトローの実感は、じつに哀しくもリアルな感覚のフレンチ・クライム。
枯淡なジャン・ギャバンは、さすがに高齢で歩くのもツラそうで、あのドスの効いたフレンチの捨て台詞はちょっと枯れすぎているものの、それでも風格はある。
当時人気絶頂だったアラン・ドロンは、ライバルのベルモンドが「冬の猿」でギャバンと共演したのをネタんだのか、ここで宿願の共演を果たしている。
ギャバンは老練の、更生代理人のような弁護士で、窃盗常習犯のドロンの更生を願って、何かと私生活の相談などにも乗っているのだが、ドロンは相変わらずのワル。
デヴュしたての、あの名作「隣の女」や「シラノ」などのジェラール・ドパルデュは、駆け出しの<ワル>で、ギャバンの周辺をウロウロしている、あの時代。
まさにフレンチのヒーロー世代交代の時代のフィルム・ノワールなのだが、あのギャバンの独特の落ち着いた<間>と、ドロンはイマイチ噛み合ない。
というのも、ジョヴァンニは演出家としてのキャリアはなく、そこは長老の名演を眺めるだけで、若造のドロンに演技指導する余裕なのはなかったろう。
結局、生来のワルのドロンは、またしても殺人罪を犯して、ギロチン死刑となり、それを見守る長老のギャバンの悲痛な表情は、いかにも痛ましい。

■出来の悪い新人選手のエラーをカバーするベテランの苦味。 ★★★☆
●アミューズ・ビデオのレーザーディスク。