細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『サンフィアクル殺人事件』の老メグレ警部の心境に、感情移入してしまった。

2021年11月29日 | Weblog
●11月28日(日)20-40 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-284-107『サン・フィアクル殺人事件』Maigret/L'Affaire Saint-Fiacre(1959) Filmsonor Intermondia Film/Cinetel/Pretoria/ Titanus.
原作・ジョルジュ・シムノン 監督・ジャン・ドラノワ 主演・ジャン・ギャバン、ヴァランチーヌ・テシエ <スタンダード・102分・モノクローム>VHS
われわれの青春時代には、フランス映画が盛んで、とくに美男のジェラール・フィリップやシャルル・ボワイエの主演作品には魅了されたものだが・・。
まるで古いジャガイモのような顔をしたジャン・ギャバンも「望郷」の頃よりも、「現金に手を出すな」や「赤い灯をつけるな」などのノワールに出た頃からがいい。
しかも、善良な中年男の役よりも、犯罪が絡んだ悪人の役が良くて、ハンフリー・ボガートやジェームズ・キャグニーよりも、懐の深い人間味が最高だった。
個人的には、ベルモンドと共演した「冬の猿」が大好きだが、ジョルジュ・シムノン原作の、このメグレ警視のサン・フィアクルと「殺人鬼に罠をかけろ」が絶品。
おそらくメグレの少年時代の初恋の女性だった・・と予測されるが、北部の田舎にあるサン・フィアクルに住む伯爵夫人からの手紙を貰って、メグレは列車で帰郷。
古びた駅前のカフェで再会したふたりは、無言で再会を温め合う、・・・この最初のシーンの老人の視線が、お互いに別々の人生を歩き疲れた心情が滲んでいい。
後継ぎの放蕩息子はパリにいて、この田舎の屋敷は老朽していて後継ぎもなく、飾られていた美術品なども、古物商が引き取りに来ている閑散とした空気が寒い。
相談というのは、最近、殺人脅迫の手紙が届いていて、その相談にパリから旧友で、警視のメグレに捜査依頼をしたのだが、屋敷に着くなり老嬢は自室のベッドに・・。
急死した老嬢の死因は薬物なのか、絞殺なのか、・・当日に屋敷に出入りしていた数人の男たちを集めて、あのポワロ探偵のような、メグレの推理は鋭い。
ドラマの展開は、多くのクリスティ・ミステリのエルキュール・ポワロのようだが、しかしギャバンの<メグレ警視>の推理と摘発は鋭いのだ。
おそらく多くの<メグレ警視>ものは作られただろうが、手持ちのビデオは、これと「殺人鬼に罠をかけろ」のみで、とにかく貴重な<ギャバンもの>なのだ。
先週末に、横浜から故郷盛岡に引っ越した妹の家を見に行ったが、まさにこの老境は孤独と郷愁と、多くの後悔の追想で、まさに<メグレ気分>の旅だった。

■年はとっても、メグレの推理の勘は鋭いのだ。  ★★★★
●アートデイズ・メヂィア・ラボ

●『大運河』の奥の水たまりには、ネズミたちが<ベニスに死す>だ。

2021年11月23日 | Weblog
●11月22日(月)20-30 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OV-158 『大運河』"Sait-on Jamais" (1956) Rene Chateau Editions / Presenta Dans La Collection.
監督・ロジェ・ヴァディム 主演・フランソワーズ・アルヌール、ロベール・オッセン、クリスチャン・マルカン <95分・シネマスコープ>
たまたま、先日、廃棄処分のつもりで「鳩の翼」を見て、懐かしのヴェニスが舞台の、この作品が見たくなっての、クラシック・ノスタルジーだ。
好運なことに、わたしはCMの撮影で、その古都ヴェニスには数回行った事があり、とくに本島よりも<リド島>には魅了されて、プライベイトでも行ったほど。
もちろん、ヴィスコンティ監督1971年製作の「ベニスに死す」にも魅了されたが、これは観光地としてではなく、島の持っている<古い島臭>とでもいうのだろうか。
あの京都が、やはり日本的な古都の体臭を維持していて、観光の魅力があるように、ヴェニスもイタリアの古都というよりも、もっとカビ臭い風味の深い魅力があるからだろう。
数百年も変わることがない、あの本島の建造物などは外観には変化はないが、内装は時代とともにモダナイズざれているものの、運河の奥の澱みにはネズミの死骸が浮いている。
この作品は50年代後期の、あの<ヌーヴェルヴァーグ>の落とし児のような、鬼才のロジェ・ヴァディム監督が、ヴェニスでオールロケをした異色作だった。
なぜか当時の愛人のブリジット・バルドーではなく、アルヌールを起用したのは、あの当時「女狐」だったか、人気の出たファム・ファタールで、撮ってみたかったのだろう。
しかも、あの鬼才ジョン・ルイスの<モダン・ジャズ・カルテット>のクールなサウンドで、中世のままの古都ヴェニスで、サスペンスを撮りたかった意欲は理解できる。
たしかに<ノー・サン・イン・ヴェニス>というテーマ曲のように、この古都の運河の奥には、まったく陽のあたらないゴミの水溜まりがあり、美しいのは絵はがきのみだ。
その歴史の停止している古都での、大戦の余波を逃れているドイツの富豪を中心としたドラマは、カビ臭い古本屋のミステリー古書のように、ひとつの遺産だろう。

■セカンドへの凡フライを野手が落球。 ★★★☆
●< IVC/アイ・ヴィー・シー> DVD


●『鳩の翼』は、飛ぶには華麗だが、よく見るとボロボロに汚れている。

2021年11月19日 | Weblog
●11月18日(木)21-00 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OVS-157『鳩の翼』" The Wings of the Dove "(1997) Miramax UK.
監督・イアン・ソフトリー 主演・ヘレナ・ボナム・カーター、ライナス・ローチ、シャーロット・ランプリング<101分・ビスタサイズ>DVD
1900年初期、ロンドンの貴族や高級住宅に住んでいた人種たちにも、世界大戦の経済的なしわ寄せで、不況風が吹き始めていた。
ヘンリー・ジェイムズの原作を、あの「文なし横丁の人々」ほどではないにしても、戦雲と不景気には人種は、イタリアのヴェニスに移住し出していた。
そこに世界的な<アヘン疫病>の流行も加わって、ロンドン貴族たちの移住で、人々の生活は、まさに汚濁していく運河のように、暗く沈み込んでいた。
 あの「眺めのいい部屋」や「旅情」で描かれた世界は、午後の明るい日差しの下での<恵まれた人々>の生活であって、現実はこの作品のように陰湿だったのだろう。
たしかにヴェニスには<鳩>が多くて、あの大広場の周辺は、まるでヒッチコックの「鳥」のように鳩の群れが多くて、しかも観光客慣れをしていてエサをせびるのだ。
そのような観光地は、最初の見てくれはいいのだが、次第に強引な鳩たちの群れが周辺にタムろして、あの映画のような恐怖すら感じるのだ。
見た目は華麗で、まるで古典絵画のようでもあるが、ちょっと路地裏に入ると、その歴史と異常に多い鳩の異臭に、つい、たまりかねてカフェに入ってしまう。
わたしも映画の魅力に憧れて、数回、ヴェニスには訪れたものだが、路地裏まで追いかけて来る鳩たちの強情な強引さには、カネをセビる少年達のような固執を感じた。
この作品の三角関係も、まるで鳩たちの行動に似ていて、ただの恋の三角関係よりも異質な執拗さを感じるが、美しい運河の風景に惑わされてしまうのだ。
ヘレナ・ボナム・カーターも、この時代背景と、水の都の汚濁した運河のように、陰湿に漂っているが、映画にはその異臭がないから、まだいいのだが。

■執拗な左中間のゴロで、ファーストは判定でセーフ。 ★★★
●ミラマックス、アスミックエースDVD

●『アイス・ロード』は、まるで、あの「恐怖の報酬」の厳寒氷原版のようだ。

2021年11月13日 | Weblog
●11月12日(金)11-20 二子玉川・109シネマズ・<5スクリーン>
M-027『アイス・ロード』"The Ice Road" (2021) A Code Entertainment/ Shivhans Pictures/Envision Media.
監督・脚本・ジョナサン・ヘンズリー 主演・リーアム・ニースン、ローレンス・フィッシュバーン <シネマスコープ・109分>配給・GAGA・ギャガ
せっかく、ご丁寧に、試写状のご案内を頂いても、どうもこのご時世で、以前のように都心の試写室に出かけるのは気持ちが重くて、出不精になってしまった。
それで歩いて至近距離の<109ニコタマ・シネマズ>ならば、・・・というわがままで、さっそく公開初日の1回目に入場したら、やはり、好き者はいるものだ。
一見、ハリウッド映画のようだが、これはカナダで撮影された,カナダの映画で、主演役者たちはハリウッドからの出張出演、ということのようだ。
ストーリーは、あのアンリ・ジョルジュ・クルーゾ監督の名作「恐怖の報酬」のリメイクのような展開で、2台の大型トラックでの危険なドライブは、似たような展開。
ニトロを運ぶ、のではなくて、カナダ奥地の石炭地底鉱山で落盤事故が起きて、多くの労働者たちが生き埋めになってしまい、救出装置を大型トラックで運送しなくてはならない。
タイムリミットは30時間で、3台の大型機材を積んだトラックは、最短距離で氷結した湖面を、フルスピードで走破しなくてはいけない、という<決死行>となった。
あの名作のような、無精髭のおとこ達のサスペンスなのだが、それでは女性客が呼べない、という作為でか、ドライバーの中には、紅一点で若い混血女性がキャスティング。
氷結した湖面のドライブだけではサマにならないのか、道中では氷が割れて一台のトラックが沈み、ローレンスを救出するために、リーアムは零下の地獄に飛び込んだ。
という道中の湖中サスペンスは用意されてはいるが、やはり氷結した白い地獄でのドラマでは、あの名作のように人間ドラマに食い込むような展開にはならない。
しかもハリウッドの若い俳優たちは、この地獄のような設定に尻込みしたのか、このような年配キャスティングになってしまったのも、<苦肉の策>だったのだろうか。

■浅い左中間のフライをレフトがお手玉、しかしセカンドは無理。 ★★★☆
●全国でロードショー公開中

●『コーダ*あいのうた』の複雑な家庭環境のなかでの少女の青春

2021年11月10日 | Weblog
●11月9日(火)21-00 ニコタマ・サンセット傑作座<自宅>
M-026『コーダ・あいのうた』"CODA" (2020) Vendome pictures LLC. Pathe Films (2021)
監督・シアン・ヘダー 主演・エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツアー <ビスタサイズ・112分>試写用サンプルDVD鑑賞
<コーダ>という女性の名前かと思って見たら、これは<Children of Deaf Adults>の略称で、耳の聞こえない両親に育てられた子供のことだという。
本人の傷害ならば、大昔に「奇跡の人」という傑作があったが、これはヒロインの少女に傷害があるわけではなく、両親が耳と言語の発生に傷害があるので辛い。
ほとんどサイレント映画のように、会話のない家族、というのも辛いが、その両親とコンタクトしながら青春期を迎えた娘の生活というのも、かなり複雑だ。
どうもややこしいのは、娘が学校で受けている教授やボーイフレンドとは、ごく普通のドラマのような会話をしていても、家に帰ると両親とは手話の生活になる。
恐らく現実にも、このような不運なご家族は存在しているので、こうしたドラマの発想になったのだろうが、テーマは、その複雑な家族で育った少女の日々。
ホームドラマとしての日々は、ごくありがちな<普通の人々>の生活なのだが、サイレントな家族生活と、口論の交錯する学校と、教授との会話は鮮烈になる。
ここまで複雑な家庭の事情を描いた作品は、おそらく過去にもなかったと思うが、その苦難の日々でも少女は青春に希望を捨てないで、アグレシブに行きて行く。
という、かなり異常な設定のドラマなので、この二重構造には、さすがに見ているこちらもフォローしていくのが一苦労で、ご同慶の極みなので辛かった。
しかし現実には、当然、このような異常なプレッシャーの家族もあるからこそ、こうしたドラマの発想が生まれたのだろう、と、不思議な気持ちになるのだ。
サンダンス映画祭では好評で公開権が落札され、<最高賞>や、ほかにも4賞も受賞したという、昨今の異常現象の多いなか、アカデミー賞の評価もウワサされている。

■痛烈なピッチャー・ゴロを投手がはじいて、セーフ ★★★☆+
●2022年1月、TOHOシネマズ日比谷などでロードショー予定

『エイトメン・アウト』したら、やはり野球はできない、という実話。

2021年11月06日 | Weblog
●11月5日(木)21-00 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-155『エイトメン・アウト』"Eight Men Out" (1988) Sunford Pictures, PCBP-50326, Pony Canyon DVD
監督・脚本・ジョン・セイルズ 主演・ジョン・キューザック、クリストファー・ロイド <120分・ビスタサイズ> GAGA Comunications
そろそろ、プロ野球のシーズンも終わりとなり、ファンとしては心寂しい<オフ・シーズン>となる。
コロナ・パンデミックで、 大幅に開幕が遅れたが、わたしが生きていて、これだけ盛り上がりのなかったシーズン、というのは戦後の公式戦開始以来初めてのことだろうか。
それでも、とにかく日本シリーズは始まるというが、これまでも東京後楽園球場から、シアトル・セーフコフィールド、ヤンキー・スタジアムなどのゲームを楽しんだ者にとっては一安心。
映画ファンであるという以前から、わたしは中学生時代にはセカンド、高校時代にはライトの補欠を守っていたが、とにかく野球は大好きなのだ。
実戦能力はパッとしなかったが、あのジャイアンツの川上哲治選手を間近に見てから,イチローの東京ドーム引退試合まで、じつに多くの実戦は観戦してきた。
当然のように、野球の映画も大好きで、「打撃王」「甦る熱球」から「くたばれ、ヤンキース」「フィールド・オブ・ドリーム」まで、みんな好きで、まだ見ている。
そこで思い出したこの作品は、実際に1919年のワールド・シリーズで、シンシナティ・レッズに破れたシカゴ・ホワイトソックスが、八百長疑惑で裁判となった実話。
そのホワイトソックスの内情を描いたこの作品で、ジョン・キューザック、チャーリー・シーンなどが映画デヴュして、実戦シーンも自身がプレーしている。
結局は、その裁判の判決で、実戦のレギュラー選手も球界から永久追放された、という大事件で、以来<野球賭博>の取り締まりも厳しくなった、というのだが・・。
他の球技と違って、ベイスボールというのは、ピッチャーとバッターの配球の駆け引きから、当たったボールがどこへどのように飛んで行くか・・が、とにかく目が離せない。
よく、少年時代に愛犬と近くの川原で、夕方の日が沈むまでボール遊びをしたが、野球のボールの大きさが、人間の手のひらに最も愛着が深くて懐かしいのだろうか。
いまでも、わたしの座右には、あのピート・ローズと、イチローのサインボールが転がっている・・・。

■ゲームのシーンが出て来ると、つい乗り出してしまう野球バカ。 ★★★☆☆
●ポニーキャニオン・PCBP-50326 DVD

●『暴力都市*ラスヴェガス・ストーリー』の、夜の歓楽街を守るには、オレだ。

2021年11月03日 | Weblog
●1月27日(月)21-30 ニコタマ・サンセット傑作座<自宅VHS鑑賞>
OV-24-22『ラスベガス・ストーリー<犯罪都市>』"The Las Vegas Story"(1951)RKO Radio Pictures (VHS)
監督・ロバート・スティーブンソン 主演・ジェーン・ラッセル、ビクター・マチュア <スタンダード・モノクロ・88分>FMS
これぞ、50年代ハリウッド・B級プログラム・ピクチャー・・・という、ある種、当時の<低俗文化的な遺産>、のような典型的な娯楽作品。
当時は<プログラム・ピクチャー>といって、まったくアカデミー賞などは関係ない、二本立て興行用の、まさに他愛のない時間つぶしの低俗映画なのだが。
わたしは、まだ中学生頃だったが、近所の洋画専門館の宣伝の先輩との日常的なおつきあいで、事務所の裏口からフリーで入れてもらった時期に見た作品。
たしかこれも、<刺身のつま>のような前座作品で、メインの作品は「ゼンダ城の虜」や「キング・ソロモン」のようなカラー大作だったが。
しかし、わたしなどは、本当にハリウッド映画が好きになってしまったのは、このような何の足しにも記憶にもならない<トラッシュ・ムービー>だったのだ。
まだ「オーシャンズ11」などが生まれる前の、戦後間もない頃に見た、はじめてのラスヴェガスという風景は、高層ビルのニューヨークとは違った<アメリカ>だった。
座敷で花札を振るヤクザ映画とは違って、こうして初めて見る砂漠の都市ラスヴェガスの輝きは、われわれ少年の目には、まさに<賭博の蜃気楼>のような魅力に見えた。
「サムソンとデリラ」で人気ものだったビクター・マチュアは、いつものように眠そうな目で、この遊び人の放蕩都市を警備している、要するに<深夜のシェリフ>。
多くの賭博場にはギャンブラーたちが日夜、大金を賭けては人生の勝負に出て、多くはイカサマ賭博の餌食になって、砂漠の蜃気楼となって消えて行く。
ジェーンは元歌手だが、夢に破れてヴェガスに戻って来て、以前の恋人だった古参のシェルフ、ビクターと再会して、また犯罪事件に巻き込まれて行くのは、定番だが。
なぜか名曲「スターダスト」の作曲で有名なホーギー・カーマイケルが、クラブシンガーとして演技も達者な姿を見せているが、これぞ<50年代>の至宝なのだった。

■ボテボテのピッチャーゴロだが、センターへ抜けて行く妙打。 ★★★☆
●PFMサプライ・VHS

●愛と哀情の悲しみのミュージカル。

2021年11月01日 | Weblog
●11月1日(月)15-00 ニコタマ・サンセット傑作座<試写用サンプルDVD>
M-025『ダンサーズ・イン・ザ・ダーク』"Dancer in the Dark" (2000) Zentropa Entertainments, Trust Films 
監督・ラース・フォン・トリアー 主演・ビヨーク、カトリーヌ・ドヌーブ、<140分・カラー・スコープサイズ>配給・松竹
製作当時は、カンヌ国際映画祭で最高作品賞パルムドールを受賞して、アカデミー賞でも、歌曲賞にノミネートされて評判になっていたが未公開で、やっと公開される。
作品的には時代の差はないのだが、やはりカトリーヌ・ドヌーブの若さを見ると、やっと20年ぶりに公開されるか・・と、一種のセンチメントも感じられる。
「ダンシング・イン・ザ・ダーク」というスタンダードの名曲は、あの50年代に、フレッド・アステアがMGMの名作ミュージカル「バンドワゴン」で踊った。
しかし、タイトルは似ていても、これはフランク・シナトラの名唱でも知られてヒットした、あの時代のものとは、まったく別のテーマでドラマティックな感動作。
実は、ビヨークの名声は、この作品が公開された当時から評判で、CDも売れていたが、その名声も時代に流されてしまっていたので、実はこれで初のご対面なのだが・・・。
私生児を生んだビヨークは、まだ少女の面影を宿していたが、視力がしだいに薄れて行くという進行型難病を抱えていたが、ある殺人容疑で逮捕裁判の末に、死刑が執行される。
紡績工場で働く彼女は、目の手術で視力を戻そうとしていたが、その朦朧とした視界で、金銭トラブルから取り締まりの警官を、誤って射ってしまう。
あのドリス・デイの「パジャマ・ゲーム」というミュージカルと、似たような設定だが、こちらはチェコ生まれの難民という過去からか、運命の歯車は一気に悲劇へと急落する。
裁判での死刑が確定していくドラマティックなシーンは、唄と踊りのミュージカルとなり、ここでやっと歌手のビヨークの本領が発揮されるが、ドヌーブの若さも懐かしい。
そこで唄われるのが、ビル・エバンスの名曲で、シナトラなども唄った「マイ・フェイヴァリット・シング」で、死刑執行のシーンが突然、ミュージカルになるという展開。
かなりの異色ミュージカルともいえるが、2000年製作のお宝映画が、こうして、やっと公開される、というのも昨今の傑作映画不足の時代だからーーかも。

■セカンド頭上のライナーが左中間を破るツーベース。 ★★★☆☆☆
●12月10日より、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー