細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ドリフト』に見る70年代サーファーのドリフトする初心。

2013年02月28日 | Weblog

●2月27日(水)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−024『ドリフト』Drift (2012) screen australia / worldwide mind films /豪
監督/モーガン・オニール+ベン・ノット 主演/マイルズ・ポラード <114分>配給/日活 ★★☆☆
1970年代にブレイクしたサーフィンというスポーツ・ビジネスを描いたオーストラリア映画。
これまでも多くのサーフィン映画はあったが、これは当時の時代色に拘った兄弟実話だ、とか。
たしかにダイナミックなサーフィン・シーンもフォトジェニックで美しいが、狙いはブラザーフッドの強さ。
ハワイやウェストコーストからもファンが訪れるという、西オーストラリアのグレースタウンは、波が豪壮だ。
だから実際にサーフボードを持っているファンにとっては、実に魅力的なウェイブ・シーンが多いだろう。
こちらはただの傍観者なので、どうしてもドラマ部分の個性的な人間設定の濃さに注目してしまう。
という意味では、あのジョン・ミリアスの78年の「ビッグ・ウェンズデー」をクリアしたとは見えない。
それはやはり70年代に拘ったからだろう。
「ドリフト」とは、サーフィン兄弟の手造りショップの名前だが、サーフ用語でもある。
男たちの開拓時代という意味では、これも西部劇みたいなものだが、悪役と対決する兄弟の図式が平坦すぎる。
ま、その分、パイプラインを実写で描破した映像のパワーはあるが、いまはCGで見慣れているのでショックは少ない。
ハリウッドの高度なテクニックに拘らずに、あくまでアコースティックな手造り感覚で仕上げた根性はいいが、未熟。
どうぞ、サーフィンに愛情のあるドリフターは見て応援してくださいな。

■ドリフト気味のシュートにつまったセカンド・ゴロ。
5月25日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー


●たかがオスカー、されど至宝アカデミー賞。三喜三憂の結果でした。

2013年02月26日 | Weblog

●第85回アカデミー賞/極私的オスカー受賞結果雑感

昨日決定したアカデミー賞は、またもサプライズ大会。
わたしの独断予想は6部門中で正解は3部門。5割の結果だが、・・・・情けない。

★作品賞/『アルゴ』(ベン・アフレック作品)予想は「リンカーン」でしたがハズレ。
昨年の公開時点では大して評価されなかった中級の作品。
面白いイラン脱出実話だが、中東でのロケでリアルな再現ドラマだった。
ゴールデングローブ受賞の時点から、評価が高まったが、まさか「リンカーン」を蹴落とすとは。
これが、ハリウッドのオスカー突風であろう。
アカデミーの会員は高齢者が多く、今回の投票ではインターネット投票が多くなった関係で、
若いメンバーの積極的な口コミが、大きく結果を動かしたようだ。とか。

★監督賞/アン・リー<ライフ・オブ・パイ>
予想的中。圧倒的な映像のパワーは、今年のノミネート作品の中では絶対的な美しさと新鮮さがある。
技術面の多くの課題を一手に取りまとめた力量は素晴らしい。とくにベンガル・タイガーの
リチャード・パーカーの演出力は、恐れ入った。これが監督の鑑。
・・・・・と予想した手前、やはりアン・リー監督の受賞はうれしい。拍手。

★主演男優賞/ダニエル・デイ=ルイス<リンカーン>
ま、予想通り。毎度のノミネートだが、「リンカーン」という映画は彼の存在感で成立していた。
つまり、彼がいなくては、作品は成り立たないという点で、他のノミネート者と差があるようだ。
アカデミーの常連という点でも意外性はないし多少不本意だが、演技に圧倒的に柔軟性があった。
・・・・これも予想通りだったが、ちょっと当たり前かな。

★主演女優賞/ジェニファー・ローレンス。予想はジェシカ・チャスティン<ゼロ・ダーク・サーティ>がハズレ。
彼女の演技の巧さはキネマ旬報の予想座談会でも絶賛した通りで、受賞に異存はない。おめでとう。
ジェシカは圧倒的に「ゼロ・ダーク・サーティ」を支えたが、作品自体がアカデミーに好かれていなかったようだ。
とくに、同じく中東実話の「アルゴ」の急浮上がブレーキとなったようだ。

★助演男優賞/クリストフ・ヴァルツ。予想はトミー・リー・ジョーンズ<リンカーン>でハズレ。
「ジャンゴ」のクリストフは完全に主演級で圧倒的に映画を面白くしていた。
だから、サポーティング・アクターというのは、主役を食っちまってはイカンのじゃないか。
と、愚痴も言いたい。それならレオナルド・ディカプリオも凄かったな。と、また愚痴。

★助演女優賞/アン・ハサウェイ<レ・ミゼラブル>
予想当確でしたね。唄も良かったが、散切りヘアでの涙の熱唱は、このミュージカルの大きな支えになった。
アカデミー賞授賞式の司会経験もあって、メンバーの人気も高い筈。多くのノミネートを代表して、
彼女には登場時間が少なかった分、印象が強烈だった有利なポイントがあるだろう。と、予想通り。

■結果の愚痴は、キネマ旬報で3月1日に、また座談会で言いたい放題。
20日発売の号には掲載されますので、お楽しみに。


●『ビトレイヤー』は善とアクを越えた男の美学。

2013年02月25日 | Weblog

●2月22日(金)13−00 六本木<シネマートB1試写室>
M−023『ビトレイヤー』Welcome to the Punch (2012) The british film institute uk
監督/エラン・クリーヴィー 主演/ジェームズ・マカヴォイ <99分>配給/ファインフィルムズ ★★★☆
ロンドンを舞台にした大掛かりな銀行強盗事件を追う捜査官の追跡アクションをリドリー・スコットが制作。
だから、やたらとハリウッドっぽい作品だが、そのドラマのベースになっている人間関係は、案外に英国気質だったのがいい。
邦題は「密告者」というが、内容は骨太の男映画だ。
マカヴォイは窃盗事件をひとりで追って、脚を撃たれて失敗。その苦渋を糧に三年も主犯格の男を追っていた。
サスペンス映画というのは、主演よりも、悪役のキャラクターが作品の資質を決める。
「ゼロ・ダーク・サーティ」でいい味を出していたマーク・ストロンングの存在感が完全に主役を食った分、この作品は面白い。
真面目なマカヴォイ刑事は、主犯のマークの息子が新しい事件で負傷したことを知り、大物のマークの出現を待つ。
しかし、過去の窃盗事件には、当局の内部の手引きがあったことに密かに発覚、事件は思わぬ方向に動き出す。
まるで高倉健さんの「昭和残侠伝」のような、思わぬ男同士の友情に発展していくのが、ちょいと渋い。
ま、事件ものというよりは、男の心意気を感じさせる展開は、意外に嬉しかった。
「思秋期」の名優ピーター・ミュランもいい味を出していて、これは拾い物の男性アクション。
だから、このテのB級作品は、見てみないとワカラナイ拾い物。
トラッシュ・ムービーと呼ぶには惜しい映画根性があったことは、大いに認めたい。

■痛烈なショートゴロだが、野手の股間をイレギュラーで抜けたヒット。
●5月GWに、新宿シネマカリテなどでロードショー


●『ザ・マスター』で激突する曲者同士の演技バトル。

2013年02月24日 | Weblog

●2月22日(金)10−30 六本木<シネマート2試写室>
M−022『ザ・マスター』The Master (2012) the weinstein company / annapurna pictures
監督/ポール・トーマス・アンダースン 主演/ホアキン・フェニックス <138分>配給/ファントム・フィルム ★★★☆☆
毎度、重厚でショッキングな切り口で問題作を提供するPTA監督の新作。
今回は太平洋戦争終結で取り沙汰されたアメリカらしい問題点を突いて見せる。相変わらずユニークで毒がある。
ホアキンは戦争で精神に多少異常をきたした変人。デパートのサービス・カメラマンだが、執拗でキレやすい。
なぜかカルト教団の変人フィリップ・シーモア・ホフマンと交流を持つが、信仰ではない。
似た者同士というか、あの50年代にはアメリカのどこにでもいたフリークスである。
よく、フィルム・ノワールの主人公に多い、メンタル・プロブレムのある人間たちのドラマだから、重いしトゲがあるのだ。
しかしPTAの作品では毎度のシチュエーション・スケッチなので、今回はまだ症状は軽い方だろう。
歪んだアメリカン・ドリームスを、まるで嘲笑し蔑視し、執拗に描く監督の意図は判るが、もうこちらも多少は慣れてしまった。
面白いのは、このふたりの曲者俳優の饒舌で挑発的な演技合戦だろう。それは、かなり面白く盛り上がる。
ことしのアカデミー賞にも、ご両人そろってノミネートされているので、あしたの結果次第で、この作品の評価も上がるだろう。
フィリップの唄う「スローボート・トゥ・チャイナ」に、こんな味があったのか、と改めて当時の空気が伺えた。
しかし、PTAの毒気も、毎度のアカデミー賞にも、今回はそっぽを向かれたようなスロウダウンを感じたのも確かだった。
船のスクリューで渦巻く潮流こそが、あの時代というものの現象だったのだろう。

■大きなフライだが、ライトのポール手前で失速。
●3月22日より、TOHOシネマズシャンテなどでロードショー
 


●『孤独な天使たち』は都会地下室版の「ニーチェの馬」みたい。

2013年02月23日 | Weblog

●2月21日(木)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−021『孤独な天使たち』Io e te (2012) fiction wildside 伊
監督/ベルナルド・ベルトルッチ 主演/ヤコボ・オルモ・アンティノーリ <97分>提供/ブロードメディア ★★★☆
ミラノの裕福なアパートに住む14歳の少年は、自閉症気味でクリニック通い。
学校の1週間のスキー・クラス遠征生活が嫌で、親には参加費をもらい無断欠席し、アパートの地下室でひとり暮らしをする。
地下倉庫といっても、かなり広くて、住人たちはまったく無関心だから、隠れ家としては最高だ。
コンビニでいろいろ軽食を買い、パソコン、iPodと、ペットの蟻がいれば、少年の生活は充実。
アホな大人たちとつき合わない1週間は、彼にとっては至福の「自立」なのだ。
しかし、異母兄弟で麻薬中毒の義理の姉がヤク切れでその地下室に潜入してきたので、夢は破れる。
ジャンキーな若い女性と、無口な少年だけの暗い生活。
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」のベルトルッチは、大病で10年ぶりの復帰作品は、奇妙な青春映画である。
悪ガキふたりの地下の隠遁生活だから、さぞや陰湿な作品になるかと懸念したが、それは無駄な心配。
どこか「ニーチェの馬」のような、シンプルで奇妙なふたりの生活が飽きさせない。
何かドラマが急転するかと思いきや、とくに問題児たちの一週間は無難に過ぎる。
じゃ、どうして「ラスト・エンペラー」の巨匠が、かなり不自由な体で、この映画を撮ったのか。
恐らくは、死線をこえて見えた「生きる歓び」を描きたかったのだろう。だから作品は謙虚でシンプルで気負いがない。
ま、ある若い新人監督の新作として見た方がいいだろう。

■よく選球してファールで粘ってフォアボール。
●4月中旬、シネスイッチ銀座でロードショー
 


●『桜、ふたたびの加奈子』は母の堕ちて行く意外な心象サスペンス。

2013年02月22日 | Weblog

●2月21日(木)10−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−020『桜、ふたたびの加奈子』(2012)ジェイ・ドリーム、博報堂
監督/栗村 実 主演/広末涼子 <106分> 配給/ショウゲート ★★★☆☆
タイトルと宣伝ヴィジュアルのイメージから、母と娘の追憶を描く甘いメロドラマと思っていたら、失礼。
これは、6歳の娘を事故で失った母親の、精神的な苦痛と、娘の生まれ代わりを探す心の崩壊を描く心傷ドラマ。
ところが作品は、実にフォトジェニックなカメラで、ことの重大さを傍観する演出は、クールで端正だ。
お葬式の霊柩車が、明るい逆光のなかに消えて行く美しいシーンが、作品のレベルの高さを示していた。
子供の入学式の朝、ふとした油断で、娘が事故で他界したあと、母の広末の心は宙を舞う。
ことの重大さと失意で、心が憔悴しきっていくが、ドラマは悲惨さを特に描かない。
むしろ、娘の心が、古いアメリカ映画の「リインカーネーション」のように、現世のどこかに居る筈だと思う心の虚ろい。

これは異常ではなく。こうした心境の母親ならば当然の心の在り方だろう。
その子供の魂の静かな転生を願うこころの崩壊を描いていて、あの「シックスセンス」のような感性をチラつかせる。
ハリウッドで映画を学んだという監督の感覚は、非常にクールで内向的で上質なサスペンスがあった。
母もの。お涙もの。というテーマの甘さを巧妙に、精神心理映画にした度胸はエラい。
とくに、ラストの電話。この決着か。ーーー。いろいろと深みのある作品だ。

■バントヒットが、前進守備のセカンドの頭上を越えたヒット。
●4月6日より、新宿ピカデリー他でロードショー


●『クラウド・アトラス』の雲中迷走。

2013年02月20日 | Weblog

●2月19日(火)10−00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>
M−019『クラウド・アトラス』Cloud Atlas (2012) warner brothers / X film creative  pool
監督/ラナ&アンディ・ウォシャウスキー+トム・ティクバ 主演/トム・ハンクス <172分> ★★☆
どうも気が進まない試写はやめた方がいい。
嫌な予感がしたのは「ジョン・カーター」の時もそうだったので、あのときは席を立って出た。
しかしこれはデヴィッド・ミッチェル原作の「雲の表情」。ダメもとで3時間を空費した。
6つの時代を、6人のスターが別人として演じ分ける。つまり36のエピソードが交錯するという仕掛け。

それを4人もの、オスカー受賞の名優たちが演じ分けるのは魅力だ。
ふと「インセプション」のような興奮を期待してしまったのがいけなかった。
遠い過去から未来までの時軸が頻繁に交錯する。これは小説の世界ではごく普通にありがちだ。
しかし、これを映画にするのは至難のワザである。オーソン・ウェルズなら巧いだろう。
よくあるタイムスリップもののように単純ならいい。しかしこのストーリーは非常に複雑で哲学的。
ところが、見る方の感性とは関係なく、この3人の監督は自分の見える世界を拡散するのだ。
貧困、奴隷、逃走、クローン、バイセクシュアル、遺産、恋、裏切り、異教徒、作曲・・・・。
「クラウド・アトラス六重奏曲」は現代音楽なのか、クラシックなのか、未来音楽なのか。
途中で、もうどうでもいいや。という気分になるほど、作品も粗野で乱脈に感じられた。
一番いやなのは、下手くそなメイクアップ。これではアカデミーも呆れる。
急速なネット視覚遊戯のゲーム感覚が得意な才人には、面白いかもしれない。

■ファールで粘るがデッドボール。
●3月15日より、新宿ピカデリーなどでロードショー


●『ホーリー・モーターズ』で描出するカラックス流の魑魅魍魎美学。

2013年02月16日 | Weblog

●2月14日(木)13−00 渋谷<映画美学校B−1試写室>
M−018『ホーリー・モーターズ』Holy  Motors (2012) theo films / arte france cinema 仏
監督/レオス・カラックス 主演/ドニ・ラヴァン <115分> 提供/ユーロスペース ★★★☆☆
先日見た「コズモポリス」のように、これもリムジンカーが編み出す不思議な視覚遊戯だ。
13年ぶりに新作を発表したカラックス。またも心の歪みを切り裂く異様な一日のストーリー。
銀行家のドニは、リムジンに乗ると、今日のアポをドライバーに聞くなり、車内で老女に変装をする。
パリの橋の舗道で乞食をしてから向かった 不思議なスタジオでは、タイツ姿に変身して豆電球の光るタイツで、奇妙なダンスを踊り出すのだ。
奇怪でエロティックな踊りのあとは、怪物のアニメーションだ。
何の目的で、この奇妙な行動を取るのか、妖しい映像と音楽でデヴィッド・リンチの映画のようなレベルに繰り出すのだ。
視覚的に怪奇な世界から、異様なミュージカル、と思いきや殺人事件。そして地下水道に住む怪獣。
リンチでもフェリーニでもギャスパー・ノエでもない。たしかにカラックスは映像魔術で見るものを翻弄していくのだ。
そして一日の予定をこなしたリムジンは、大きなレモだけの巨大なガレージに戻って行く。
多くのリムジンは、それぞれの出来事をライトの点滅で語り合う。
不思議な映画は、パリの映画評論家の雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の昨年度のベストとなった。
映画による知的遊戯であり、人間社会の中でのリムジンや通信手段などの利便性とその愚信性を茶化しているのか。
とにかく、ちょっとやっかいな作品だし、アタマの体操に余裕がないと対応に苦労する。
映像冒険に興味のある方は、このカラックス・ワールドにチャレンジしてみては?

■高く上がりすぎたフライがドーム球場の天井のどこかに消えてしまった。
●4月、渋谷ユーロスペースでロードショー


●『ジャッキー・コーガン』はブラピの冷血殺し屋がブチ切れ。

2013年02月14日 | Weblog

●2月13日(水)13−00 築地<松竹本社3F試写室>
M−017『ジャッキー・コーガン』Killing Them Softly (2012) Plan B / cogans film holdings / wynstein  
監督/アンドリュー・ドミニク 主演/ブラッド・ピット <99分> レオ・エンタープライズ  ★★★☆☆
「スナッチ」や「レザボア・ドッグス」を思わせる男子専科の悪党群像。
久しぶりにブラッド・ピットは持ち味の極悪非道なアウトレイジを愉しそうに演じている。
出所した若造のワルが生活に困って、旧友の悪党とニューオーリンズの賭場を襲った。
意外に収穫が多すぎてビビったが、案の上、それは手をだしてはいけない組織の資金だった。
前半はチンピラ・ジャンキーの麻薬窃盗ドラマで退屈したが、そこに殺し屋のブラピが登場してからは俄然サスペンスが充満。
彼も組織の依頼で、窃盗グループを無言で抹殺していくが、上部とのギャラ交渉の連絡も欠かせない。
そこで名優のジェームズ・ガンドルフィーニ、リチャード・ジェンキンス、サム・シェパードが登場。
途端にこのB級ギャング映画は、キリッと締まって来る。
2008年。オバマが大統領就任の演説で、国家と民主主義と国際協調を力説している。
そのテレビ中継をバーのカウンターでビール片手にブラッド・ピットのジャッキー・コーガンがホザく。
「んるせーなー。何が国家だ。アメリカはな、個人なんだよ。個人で出来てんだよ、ばーか」
この捨て台詞のように、世相の景気とは関係なく、やくざな殺し合いは続く。
「ジェシー・ジェームズの暗殺」で組んだ監督とピットは、独特のスローモーション美意識で殺戮を描く。
まるでサム・ペキンパに捧げたような悪漢映画は、唐突に終わる。それもまたカッコいい。
安いバーボンのストレートのように、苦くてガキには向かないハードボイルド小品。

■強烈なセカンドライナーがグラブを弾いてヒット。
●4月26日より、TOHOシネマズみゆき座などでロードショー


●『魔女と呼ばれた少女』は戦場のガーディアン・エンジェル。

2013年02月08日 | Weblog

●2月7日(木)13−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−015『魔女と呼ばれた少女』"Rebelle" item 7 / shen studio /カナダ
監督/キム・グエン 主演/ラシェル・ムワンザ <90分> 配給/彩プロ ★★★☆☆☆
アフリカのコンゴ。政府軍と紛争の絶えない僻地に住む12歳の少女ラシェルは、ゲリラに襲われて両親を殺された。
彼女には不思議な霊感があって、死者たちの徘徊する白い姿が見え、政府軍の存在も察知できる。
そこでゲリラの一員として自動小銃も与えられ、前線で銃砲火を浴びるが、なぜか彼女には当たらない。
13歳で部族の少年と戦闘中に恋をして、妊娠したが、彼もトラブルで処刑される。
どうしてこんな野蛮なことが日常的に展開するのだろう。
かなりリアルな臨場感溢れる演出の、鋭い描写を見ていて、不快だが、同時にアルジェリアの現実とダブってくる。
文化的な生産性のまったくない世界でも、こうして生き延びようとする人間がいる。という事実。
ことしのアカデミー外国語映画賞にノミネートされたのも、その異常な違和感がハートに響くからだろう。
それは、アメリカの作品賞候補にもなっている「ハッシュパピー」にも共通している。
救われるのは、このふたりの少女の共通した瞳の輝きと、生きる事への強烈なパワーが見れるからだろう。
そして残酷な現実とは裏腹に、死者たちの姿を見れる超能力は、視覚的に救いとなるのだ。
朴訥なコンゴのリンガラ語による独白のナレーションが、これもまるで音楽のように美しい。
日常的に、植物も動物たちも、そして人間も、親も恋人も、こうして確実に死ぬ。
魔女と呼ばれた少女は、実はガーディアン・エンジェル。「戦場の守護天使」だったのだ。

■前進守備のライトの頭上を越えるツーベース。
●3月9日より、シネマート新宿ほかでロードショー