細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『デッドプール』は噂を払拭する史上サイテーの無責任ヒーロー?

2016年03月31日 | Weblog

3月28日(月)13-00 六本木<FOX映画試写室>

M-039『デッドプール』" DEADPOOL " (2016) Twentieth Century Fox / Marvel Entertainment / The Donners Company

監督・ティム・ミラー 製作+主演・ライアン・レイノルズ <108分> 配給・20世紀フォックス映画

アカデミー賞ノミネート・レースのニュースの後ろで、この作品が何と、フォックス映画史上最大で、歴史的にも全米ナンバーワン大ヒット記録で評判だった作品で、それは謎めいていた。

「デッドプール」なんてタイトル、あのロス・マクドナルドの「魔のプール」みたいで、もしかしたら空前のミステリー新作か、と思うほどの予測だったが、詳細は不明。

試写状が届いても、「呼んだ?」というキャッチに、まるでスパイダーマンのような赤いウェットスーツのような奴がショルダーバッグに2本の刀を背負っているだけ。

いよいよ気になるので、社内試写の初日に跳んで行ったが、試写室には特に熱気はなく、いつもと変わらない雰囲気なのだが、パンフを見て、初めてこれも「マーヴェル」なのを知った。

というほど、わたしも<ボケ>なのだが、いま巷ではスーパーマンとバットマンが戦っているので、これもアメリカン・コミックの映画化だった、と知るのに出遅れたのだった。

たしかに空も飛べないし、スーパーパワーも持っていないし、ただのひねくれた偏屈コスプレ男なのだが、タクシーの運ちゃんと普通に日常会話をして、低俗な冗談ばかり飛ばしている奴。

これがどうやら<デッドプール>なのだが、さて、タクシーが何やら悪徳グループに追われているらしいことが判って来た瞬間、ドカーン、と派手なクラッシュが連発した。

監督のティムは「ドラゴン・タトゥーの女」のタイトルや「マイティ・ソー」などでも、特殊なアクション・シーンを演出していたというテクニシャンで、これが初監督。

ま、突然フリーウェイをメチャクチャにしてのバイオレンス・シーンの炸裂は「トランスフォーマー」でも見ているので驚かないのだが、それにしてもこのヒーローは減らず口を叩いている。

ライアンは、つい最近も「黄金のアギーレ・名画の帰還」で好演していたが、実はあの「ウルヴァリン・XーMEN ZERO」でもこのデッドプールの役を演じていたのだという。

今回は自腹を切って、プロデュースまでしての完全主演なのだが、たしかにスパイダーマンのような庶民キャリアながら、もっとエッチで下品で元気でダーティな変人キャラクター。

2本の刀を背負っている姿は、あきらかに忍者のコピーなのだが、「キルビル」ほど陰湿でなく、性格は相当にノーテンキで、傷だらけで絆創膏だらけなのに、陽気で低俗なのがいい。

このハチャメチャな個性が、マーヴェル・コミックのファンには大受けして「アバター」の興行記録を更新しているというのだから、ま、相当な奴なのだ。

とにかくXメン顔負けのアクションはするが、空は飛べないので、もっぱら地上戦を制して、エンディング・クレジットのあとでは、次作の宣伝もしている、という変なヒーロー。

たしかに、この庶民的なキャラクターは、これまでのマーヴェル・コミックのスター達とは違って下品だが、めっぽう明るい性格は、人気のほども納得できた。

 

■ピッチャーの股間を抜くゴロのヒットが、センターも後逸のツーベース。 ★★★☆☆

●6月3日より、全国ロードショー 


●『クリーピー』の異様な隣人対応は、まさに現代の難題かも。

2016年03月28日 | Weblog

3月25日(金)12-30 六本木<アスミック・エース試写室>

M-038『クリーピー・偽りの隣人』" CREEPY" (2016) 松竹映画、木下グループ、光文社、KDDI アスミック・エース

監督・黒澤 清 主演・西島秀俊、竹内結子 <130分> 配給・松竹、アスミック・エース

最近の犯罪は、テレビのニュースを見ていても複雑怪奇な難事件が多くて、単純な抗争とか衝動殺人事件よりも、その真相が不可解な難事件が多い。

一種の猟奇事件ものの映画のテーマも、最近は複雑な真相が多く、「羊たちの沈黙」のように、かなり高度な犯罪精神医学の知識があって、しかも知的な犯罪ものが多くなった。

この作品も、タイトルのクリーピー<気味の悪い>事件をドラマ化していて、昨年の「ソロモンの偽証」のような謎と、その事件背景に潜む人間の魔性をちらつかせて面白い。

刑事だった西島は難事件での失態責任で警察を退職して、妻の竹内と愛犬と共に大学で犯罪心理学の講師をする関係で、郊外の一軒家に移り住んだ。

袋小路の奥まった佇まいは、閑静で新生活には好適だという判断での転居で、さっそく奥の隣人のお宅に引っ越しの挨拶に行ったのだが、どうも対応が無愛想なのだ。

というケースは都心でのマンションでも、よくあるケースなので、あまり氣にしなかったのだが、どうも、そこに住むオヤジの香川照之の言動がクリーピー。

どこの地区やご近所にも、生活感覚の違った人種がいて、これなどは<ゴミ屋敷>の偏屈オヤジほどではないにしても、とにかく犯罪心理学のセンセーとしては不快なのだ。

ま、いかにも普通の引っ越し話が、次第に変質な、どうもタイミングの合わない隣人とのトラブルとなるのは、ごく日常的な実生活にあり、非常に共感の持てる描写にはさすが演出が巧い。

去年も「岸辺の旅」というハイ・レベルな作品を発表したばかりの黒澤監督の新作なので、実に丁寧な人物描写には微妙な旨味とテンポがあって、この長尺ミステリーには引き込まれる。

もと警察でも知人だった刑事が、未解決だった<日野市一家行方不明事件>の捜査との接点を求めて、西島の新居に来て、その宅地の位置関係がよく似ていることに気がついてから、急転。

好調の西島くんは「女が眠る時」同様に好調で、カミサン役の竹内も、ラストシーンでは、さすがの絶叫が凄まじく、クリーピーな香川の異様な表情と、愛犬の感情豊かな好演も光っていた。

ドラマは一気に、クリーピーな事件の核心に迫って行くが、この後半の展開に関しては、映画会社からの<ネタバレ禁止>の通達があって、これをバラすわけにはいかない。

映画の面白さは申し分ないミステリーなのだが、<偽りの隣人>の地下室が、どうもハイテクなデザインだったことだけは、あの状況では有り得ない状況なのが、イカガナモノか。??

いっそ、悪臭の漂うようなゴミ屋敷だった方が、余計にクリーピーだったと思うのが、個人的には惜しまれた部分だが、それでも面白さは、さすがは<黒澤映画>なのだった。

 

■強打がかなりスライスがかかってライト後方のフェンスまで、会心のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●6月18日より、全国松竹系で公開 


●『シークレット・アイズ』の13年ぶりの再捜査も、またも難航する。

2016年03月25日 | Weblog

3月24日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-037『シークレット・アイズ』" Secret in Their Eyes " (2015) IM Global, STX Entertainment / Site Production

監督・ビリー・レイ 主演・キウェテル・イジョフォー、ジュリア・ロバーツ、ニコール・キッドマン <111分> 配給・キノフィルムズ

このミステリーが、アルゼンチン映画でアカデミー外国語受賞「瞳の奥の秘密」のリメイクであることは、かなり以前から報じられていたので、試写に早々に駆けつけた。

わたしの、このブログで調べたら、そのオリジナル作品は、2010年6月7日に東宝試写室で見て、かなり感動していたが、あああ・・・あれからもう6年。

当時の監督だったファン・ホセ・カンパネラが、この作品ではハリウッドで総合プロデューサーをしているのだから、ご本家承認済みの完全リメイクという作品だ。

という次第で、多くの部分で改良加筆されて、またしても人の心に痛く食い込む犯罪ミステリーに改良され、当然のように舞台はロサンゼルス周辺での事件となっている。

2002年に起こった婦女暴行殺人による死体遺棄事件は、当時FBI捜査官だった、キウェテルが担当したが、何と被害者は同じ捜査官ジュリア・ロバーツの娘だった。

当時は<9ー11>のテロ事件の直後だったために、タリバンなどのテロ対策の捜査が優先されていて、この殺人事件の現場がイスラム教のモスクに隣接されていた関係で、捜査に障害が多かった。

多くの殺人容疑者が絞られたが、なかなか事件の本質には当局の怠慢や内部の妨害もあって、とうとう事件は迷宮入りとなり、彼は職を退いてニューヨークで私立探偵をしていた矢先のこと。

13年ぶりにロスの当局に呼び出された彼は、容疑者リストを旧友のジュリアと、新任上司のニコール・キッドマンとともに、あの事件の時代からリストで絞り込んで行く、という難事件再現ドラマ。

過去にも「インソムニア」や「ドラゴン・タトゥーの女」のように、ハリウッド・リメイク・ミステリーには、それなりに予算も増額されて、人気スターの顔ぶれも華やかにはなるが、本質は替えられない。

この作品でも過去の事件との時間を縮めて、やはり<9-11>による障害を大きく脚色しているが、「それでも夜は明ける」のキウェテルの主役起用で、あのポワチエの「夜の大捜査線」の匂いを狙っている。

ただし、あまりキウェテルの風貌に13年という時差が感じられないために、被害者のシングル・マザーを演じたジュリア・ロバーツの老化だけが目立って、かなり悲惨な実状が痛々しい。

そかもニコール上司も、ジュリアの気迫に押され気味で、あの「パディントン」での壮絶な悪役捜査官の気迫は薄れてしまっていたのも、過去の難事件の捜査力を弱めてしまっていた。

たしかにオリジナルよりは、ドジャースタジアムでのメジャーリーグの実戦をドローン撮影したりと新味はあるものの、事件そのものの悪魔性の深い恐ろしさは、オリジナルの領域には、ザンネン。

 

■いい当たりが、かすかにファールになって、結局はフォアボールで出塁。 ★★★☆☆

●6月、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー 


●『ズートピア』の暗黒街で奮闘する女性ラビット刑事の活躍。

2016年03月23日 | Weblog

3月22日(火)13-00 虎ノ門<ディズニー・オスワルド試写室>

M-036『ズートピア』" Zootopia " (2015) Walt Disney Studio 

監督・バイロン・ハワード+リッチ・ムーア <V>ジェニファー・グッドウィン <109分>配給・W・ディズニー・スタジオ・ジャパン

さてさて、あの大ヒット「アナと雪の女王」から「ベイマックス」と好調のディズニー・スタジオの新作アニメは、まさに「動物園」とユートピアをミックスした造語。

またしても心温まる動物ファンタジー・アニメかと思いつつ眺めたら、オイオイ、これは何と、ハードボイルドな事件ものの刑事サスペンスではないか。

という意味では、たしかに動物たちだけのファンタジー世界だが、あの「ロジャー・ラビット」とも似たダークなノワールの味つけもあって、あまり健全なお子様ムービーとは言えまい。

しかしテーマの犯罪性はともかく、見た目のヴィジュアル世界は「ベイ・マックス」のような近代都市でのアニマル軍団コミックなのだが、そこにも犯罪の世界はあるのだ、という設定。

主人公の女子ラビットは、生まれた田舎でのニンジン作りの農作業にウンザリしていて、夢の大都会ズートピアで女性警官になる夢を持って超特急のモノレール・バスで上京した。

見た目には超ハイテクの未来都市ズートピアには、人間という悪質なインテリ動物は棲息していなくて、すべての都市政治と安全管理は動物たちで運営されて治安が守られていた。

しかしどこの都市にもアクドイ地下組織による犯罪は多発していて、都市警察は獰猛なサイや厳ついライオン、巨大ゾウたちのようなタフな大型野獣が刑事になっていて、貧弱な女子のウサギは冷遇される。

それでもタフな心臓のジョディは、まさに先輩のロジャー・ラビットのように軽快なフットワークで連続誘拐による行方不明者?の捜索にあたるのだ。

とにかく警察所長の水牛は、タフな野獣警官たちを任務に当てていて、とても貧弱なメス・ラビットには道路の駐車違反のチケット係しか起用しないので、彼女は独自の捜査をする。

たまたま路上で知り合った詐欺師のキツネが、なかなかに暗黒組織に精通していて、ついついこのグータラで不良なキツネと一緒になって、行方不明の動物たちを捜査していく、という具合。

そんな状況なので、サスペンス映画のプロットだが、あくまで<ディズニー・ワールド>の世界で、さすがにジュラシック・ワールドのような恐竜だけは出て来ないのがキュート。

とくに、超ノロマなナマケモノのオバさんが、資料部の受付をしていて、超ノロマなのが可笑しかったが、事件には実に人間社会並みに複雑な背景があった、という展開。

あまり、お子様連れでの鑑賞は、事件の真相を説明するのがヤッカイなので、休日のお子様連れには、どうも、おすすめではない、というディズニーのアウトロー作品かな?

 

■痛烈なショート・ライナーを野手がポロリ、のエラー。 ★★★☆

●4月23日より、全国ロードショー


●ことしの第88回アカデミー賞をグチる。

2016年03月20日 | Weblog

3月2日(水)18-30 赤坂<キネマ旬報・9F会議室>

『第88回アカデミー賞』をグチる結果反省座談会

出席・渡辺祥子、襟川クロ、細越麟太郎

日本時間2月29日に発表されたハリウッド・アカデミー賞の結果を受けて、1ヶ月前に予想をした常連3人での反省座談会が、3月2日に開催されました。

詳しくは、店頭で発売になった「キネマ旬報」の4月上旬号に、その時の詳細が収録されていますので、ぜひ、誌上をご覧ください。

 

★作品賞『スポットライト・世紀のスクープ』

・・・予想したのは『レヴェナント・蘇えりし者』だったが、社会問題の団体劇として、よく出来ているが、いまだにナットクはいかない。

禁断の宗教教会内での不祥事は、前にジャン・ジャック・アノー監督のミステリー「薔薇の名前」があって、あの方が面白かった。

 

★監督賞・・アレハンドロ・G・イニアリトウ・『レヴェナント・蘇えりし者』

・・・予想したのは「マッドマックス・地獄のデスロード」のジョージ・ミラーだったが、これは個人的な趣味で、確かにアレハンドロも凄かった。

 

★主演男優賞・・レオナルド・ディカプリオ<蘇えりし者>(拍手)当確。

 

★主演女優賞・・ブリー・ラーソン<ルーム>

・・・予想は「キャロル」のケイト・ブランシェットさすがの風格。ブリーは必死に息子の感情表現の変化に対応するのが痛々しかった。

 

★助演男優賞・・マーク・ライランス<ブリッジ・オブ・スパイ>

・・・予想は「クリード」のシルベスター・スタローン。これは個人的な応援で、マークの地味な演技に不満はないが・・・。

 

★助演女優賞・・アリシア・ヴィカンダー<アリスのすべて>

・・・予想は「キャロル」のルーニー・マーラ。よくぞケイトの演技を受け止めた。アリシアは確かに必死の助演だったが。

 

●という訳で、正解はたったひとつの惨敗だが、今年の結果には、どうも未だに納得はいかないのは、映画的な趣味性の基本的な誤差なのだろうか。

ハリウッドの内情に詳しい友人も、かなり予想が外れていたので、恐らくアカデミー協会内部にも若返りのズレが出て来ているのだろうか。 


●『レジェンド*狂気の美学』では、ふたりのトム・ハーディに翻弄される。

2016年03月18日 | Weblog

3月17日(木)12-45 京橋<テアトル試写室>

M-035『レジェンド・狂気の美学』" Legend " (2015) Studiocanal / Working Title / Anton Capital Entertainment UK

監督・ブライアン・ヘルゲランド 主演・トム・ハーディ+トム・ハーディ <131分> 配給・アルバトロス・フィルム

何しろ、あの「マッドマックス*怒りのデス・ロード」の主演で、一気に人気スターになり、「レヴェナント・蘇えりし者」ではオスカー・ノミネート。

今や,トム・ハーディの名声は、同じトムでも、トム・クルーズよりも、トム・ハンクスよりも注目されていて、出演作品へのオファーも凄いことになっている、という人気。

たしかに、あの「熱いトタン屋根の猫」のポール・ニューマンや、「乱暴者」のマーロン・ブランドよりも勢いがあって、芸域もかなり広く、マスクももちろん、声がいいのだ。

その男が、この作品では一卵性双生児の兄弟ギャングを演じていて、ダニー・ケイの「天国と地獄」のそっくりな兄弟よりも似ているが、性格はかなり違う、という悪役ギャングの二役。

これまでの合成によるダブル・シーンではなくて、まったく違和感もなく、同じスクリーン・フレームの中で共演しているので、不思議な次元の実話シーンを見ているような錯覚に酔う。

双子でも、まったく性格が別な双子の設定は、よく映画で見たが、この兄弟は二人揃っての凶悪なギャングで、しかも1960年代のロンドン、つまりビートルズ時代の実話なのだ。

アメリカン・マフィアや、実在のギャング・スター達に憧れてワルの稼業を広げたふたりは、当時のロンドンの暗黒街では、かなりの勢力を誇示したが、警察当局もシッポを掴めないでいた。

どちらかというと、眼鏡をかけた兄貴分の方が凶暴で喧嘩早く、素顔のトムの方がガールフレンドもいて、やさしさもあって、この兄弟チームのバランスを取っていたが、当然、敵の刺客も現れる。

その実録のギャング抗争を、あの「LAコンフィデンシャル」や「ペイバック」のブライアンが、わざわざハリウッドから出向して演出しているが、何しろ実話なので少々テンポはもたつく。

どうせロンドンの抗争ものなのだから「ロック、ストック、アンド・スモーキング・バレル」などのガイ・リッチーとか、ポール・ベタニーが同じロンドン・ギャングを演じた「ギャングスター・ナンバー1」の、

ポール・マクギガン監督辺りが演出した方が、もっとロンドン・ノワール感覚の、スモーキーな映像展開がスピーディになったのだろうが・・・。ま、それは余計なおせっかいか。

これは、たしかに二人のトム・ハーディを、ワン・ショットの中で共演させるという、かなり難しい画期的な演出のタイミングもあってか、その映像処理の方に、こちらも心配してしまう。

ラストで、優しい方のトムがキレて、同僚の男をメチャ刺しにして殺してしまう凄惨なシーンは、<ゴッド・ファーザー>も縮み上がるだろうが、ヒゲのトムが止めに入るシーンが凄い。

「・・・まさか、お前を殺すわけにはいかねーーだろうが。」という、ふたりのトム・ハーディの友情が絡むシーンには、思わず同じ人間が演じているのを忘れてゾッとしてしまった。

 

■いきなりのドラックバントで慌てたサードが二塁に悪送球で、ダブル・スチール成功。 ★★★☆☆

●6月18日より、新宿シネマカリテなどでロードショー 


●『山河ノスタルジア』走り去る過去、現代、そして未来の人生。

2016年03月16日 | Weblog

3月15日(火)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-034『山河ノスタルジア』" Mountains may Depart " (2015) X Stream Pictures / M K Productions / ARTE  CNC /上海電影集団

監督・ジャ・ジャンクー 主演・チャオ・タオ、チャン・イー <125分> 配給・ビターズ・エンド

今の中国映画界で、もっとも質の高いレベルの作品を連発しているジャ・ジャンクー監督の『長江哀歌』や『罪の手ざわり』に次ぐ新作なので見逃せない。

しかも、この新作の製作には、わが北野武さんの<オフィス北野>もバックアップしているから、何やらワケありの必見レベルの新作。

ひとつの大河ドラマのような、母の青春から結婚と出産、そして夫の離婚、青春の元カレとの再会と死別cや、愛息の海外生活・・・と、いろいろ人生の旅路を追って行く。

さすがにジャ監督は、その時代の変化を、「マミー」のようにスクリーンのサイズで区分けして、青春の1999年はスタンダード、2014年はビスタサイズ、2025年はワイド。

この長いようでいて、実は26年ほどの時の流れを、主人公のタオという女性の生活をメインにして、10年ほど将来の近未来の生活まで見せてくれるのが、斬新な洞察ぶりだ。

中国の山西省というのは、監督の生まれた土地だというが、貧しい炭坑の街で閉山が続く寒村ながら陽気に生きるタオの青春と、彼女に接近するふたりの男が絡んで来る。

冒頭のディスコでの「ゴー・ウェスト」のダンス・シーンや、河原での打ち上げ花火、飛行機の墜落などで、突然のサウンド・アクセントは、相変わらずジャ監督のスパイス。

彼女は活発な性格で、ふたりの男には平等に交際していたが、どちらかというと強引なリッチ青年との結婚を選択し、しかし性格的な対立は続いていく。

そしてパート2の現代になるが、リッチな彼と生活は破綻し、ふたりは離婚し、元カレは鉱山の作業で肺ガンを発病して急逝してしまい、子供はオーストラリアに移住した元夫に預ける。

そこまでが現代の生活で、タオの生活は孤独で困窮し、パート3は2025年という、ほぼ10年後の彼らの生活を描く、という、かなり思い切った構成はさすがに斬新だ。

特に移住した子供は中国語を話せなくなり、もはや我が子とは思えぬ彼女は、ひとり故郷の河原で、あの青春の歌で踊っている。

こうした大河ドラマというのは、得てして重くのしかかるのだが、相変わらずジャ・ジャンクー監督らしいタッチは、ことの重大さも、季節の変化のように淡々と、しかし飽きさせない。

時代は流れて、人の感情も生活環境も変わり、故郷の風景も風化していくが、あの青春時代に聞いた歌のように、心の片隅には生き残って行く・・・というラストは味わい深い。

 

■左中間の当たりが意外に伸びて、野手が返球したが悠々のツーベース。 ★★★☆☆

●4月23日より、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー 


●『追憶の森』あの自殺の名所で出会った男ふたりの生と死の対話。

2016年03月14日 | Weblog

3月10日(木)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>

M-033『追憶の森』" The Sea of Trees " (2015) Bloom / Way point entertainment / Grand Experiment LLC.

監督・ガス・ヴァン・サント 主演・マシュー・マコノヒー、渡辺 謙 <111分> 配給・東宝東和

娯楽性よりも、常に時代の問題意識と人間の精神バランスとの関係を、ギリギリの精神状態で映像化するガス監督の、久しぶりの新作は<樹海>がテーマ。

驚いた事に、あちらでもネットの<自殺名所>のサイトでトップにランクされている富士山麓の<樹海>が、そのまま原題タイトルになっているという作品。

東京にやって来たマシューは街を放浪した末に、その自殺の名所の富士山麓に行き、広大な樹林の景観を眺めてから、その禁止地区に入って行く。

つまり、これは主人公のマシューが、自殺をしようと、わざわざアメリカのマサチューセッツの美しい田園都市からやってきたのだが、映画はその理由を解明していく。

どうしてアカデミー主演男優賞受賞の名優が、敢えてこの作品の自殺志望者の役を選んだのかはともかく、この中年の男には死ぬ理由があったのだ。

妻の自動車事故死が大きな自殺の引き金になっているが、教員でもあるインテリには、それ以上に、自分の命は、自分で選んだ死地で逝きたい、という美学があったのだろう。

で、彼は静まり返った森林の中に、自分の死ぬスペースを探すのだが、ご存知のように自殺の名所の<樹海>には、多くの<先客>もいて、なかなか自分のスポットは見つからない。

そこで同じ様に森の中を徘徊している日本人の渡辺謙と遭遇するのだが、ここは日本なのに、なぜかその謎めいた日本人は英語が達者で、彼は自殺ではなくて、遭難したのだという。

それからは、この森の中で食料も水もないのに、<おかしな二人>が、死と生という、まったく別の目的のために語り合い、助け合い、この迷路の樹海地獄からの脱出を試みる。

という話なので、マシューの自殺願望は回想スタイルで描かれて行くが、ひたすら遭難したという日本人は、自分は生きる為に苦労しているので、ついマシューも同調していく。

クリス・スパーリングの書いたというストーリーは、つまり<自殺>の意味と、それを阻止する人間の意思との葛藤が、このように全く別の人間との対話で動いて行くというもの。

だから、死亡したマシューの愛妻のナオミ・ワッツは、このドラマには絡まずに、もっぱら、生きようとする男と、死にたい男の対話がファンタジー・ドラマの軸になっていく。

ま、結局のところ、渡辺謙という謎の遭難者の存在というのは、あくまでイリュージョンであって、どのようにしてマシューは死を思い止まるかが、テーマだが、ここでは深みは見られない。

 

■球は転々とレフト後方なのに、好返球でファーストに戻る。 ★★★☆

●4月29日より、東宝系でロードショー 


●『へイル、シーザー!』はハリウッド50年代スタジオの赤狩り混乱を嘲笑。

2016年03月12日 | Weblog

3月8日(火)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>

M-032『へイル、シーザー!』" Hail, Caesar ! " (2015) Universal Studio Pictures, / Working Title 

監督・脚本・製作・ジョエル&イーサン・コーエン 主演・ジョシュ・ブローリン <106分> 配給・東宝・東和

おそらく発端は、3年ほど前にフランスの映画作家たちが、ハリウッドのサイレント映画製作時代を再現した「アーチスト」で、アカデミー賞を独占した。 

それに<カチン>ときた、地元ハリウッドの連中が、ビバリーヒルズ・ホテルのバーか、どこかで呑んだ勢いで、これではメンツが潰れるという思いで企画したのだろう。

と、つい余計な邪推をしたくなるような、これは本場ユニバーサル・スタジオで、根っからのハリウッド映画屋連中が、酔った勢いで作ったようなリベンジ・コメディ。

ハリウッド全盛の1940年代から50年代には、ほとんどのスターや監督たちは、ユニバーサルやパラマウント、MGM、フォックスなど大手スタジオの専属契約をしていた。

つまりプロデューサー・システムが徹底していて、いまのメジャー・リーグのように、スターも人気選手のようにトレイドされて、交換条件で他社に交換駆り出されたりしていたのだ。

あのマリリン・モンローだって、フォックスの専属で目がでなくて、結局はジョン・ヒューストン監督がMGMのために監督した「アスファルト・ジャングル」で注目された、という時代。

この映画の主演のジョシュ・ブローリンは、<キャピトル・ピクチャーズ>というスタジオのプロデューサーだが、実際にはトラブル引受人の雑用主任のような、便利屋重役なのだ。

エスター・ウィリアムズの水泳映画や、ジーン・ケリーの水兵ミュージカル、そしてジーン・オートリー主演のようなB級西部劇などの製作進行を一手に手がけている。

あの50年代が青春だった当方などは、この当時のスタジオのスケッチだけで嬉しくなってしまって、ついオリジナルの傑作のイメージにニヤニヤと魅入ってしまった。

しかし、当時は共産主義者の摘発で、<赤狩り>もスタジオで横行しだして、多くのスタッフは戦々恐々としていた矢先に、人気スターのジョージ・クルーニーが誘拐される。

たまたま<へイル・シーザー!>という史劇の撮影中で、彼は古代ローマ戦士のコスチュームのまま、マリブ海岸の実行犯グループの隠れ家に拉致監禁されていまう。

あとは例によってのドタバタで、スピルバーグの「1941」のような、かなり混乱したハリウッド・スタジオ騒動になるので、当時のファンには懐かしいが、かなりデタラメな展開で失笑だ。

コーエン兄弟には「バートン・フィンク」という、ハリウッド・スタジオの内幕を描いた秀作があったのに、今回はスタジオ騒動に収拾がつかない展開となったのが惜しまれる。

 

■大きなセンターフライだが、失速した凡フライ。 ★★★

●5月13日より、東宝洋画系でロードショー 


●『孤独のススメ』は奇妙な驚きと感動のバディ・ムービー。

2016年03月10日 | Weblog

3月4日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-031『孤独のススメ』" Matterhorn " ( 2013) Cineart / Column Films / V P R O Telefilms オランダ

監督・脚本・ディーデリク・エビンゲ 主演・トン・カス <86分> 配給・アルバトロス・フィルム

邦題も何かアヤしいが、原題が「マッターホルン」というので、これまた「エべレスト」のような、登山家の映画かと敬遠していたが、気になる試写状だ。

というので、これもまた恐る恐ると最終の試写で見て、イヤー恐れ入った。参りました。

タイトルには、どちらも大して意味がなくて、これは更年期障害の解消映画というのか、自己啓発とコンプレックス解消のための、非常に梗塞された心理を突いた名作。

あの「アバウト・シュミット」のように、大した趣味もなく妻を失った更年期の男は、郊外の一軒家に住み、まるで自己の巣窟に棲息している老化した堅物だ。

趣味もなく友人もいない堅物のトンは、決まった時間にはお手軽な食事をして、安いワインをチビリと、すべてが<ルーティン>のように決め込んだ生活で、これは彼の誇り高い個性なのだ。

ところが、ある日、その清潔で面白みのまったくない田舎町に、ひとりの中年の浮浪者と見られる不審者が現れて、トンに金をせびったので、小銭を与えて、彼に庭の掃除を命じた。

どうやら身寄りのない浮浪者は、痴呆症なのか夢遊病なのか認知症で、言葉は話さないが、トンの命じた作業はちゃんとやるので、彼は空いているベッドを提供した。

まったくモノに動じないその不審者は、まるで捨て犬のように忠実で、主人のトンには反抗しないので、孤独なふたりの男は、不器用な共同生活をするようになった。

その「おかしな二人」の奇妙な共同生活を、まるでパントマイムの演出のように、監督のディーデリクは静観していくので、見ているこちらも呆気にとられて魅入ってしまうのだ。

町のスーパーマーケットなどで、近所の連中に悪口を言われるが、子供達に動物の真似をする浮浪者は、なぜか人気が出て来て、瀟洒な金持ちの子供の誕生会に喚ばれて動物の真似をする。

この陳腐な物まねで、とうとう彼らは次第に評判になるのだが、実はふたりの家族には重大な心情的なトラブルがあって、その浮浪者の家族が身元を引き取りに現れてから、一気にドラマが動く。

妻を亡くして孤独な堅物のトンには、実は疎遠の放蕩息子がいて、彼は親と縁を切って都会で自立しているゲイのポップシンガーで、一気にドラマは家族の核心に入って行く、という計算。

なるほど、そこで<マッターホルン>なのか、というラストの感動は、あまりにも前半の状況とちがうので、見事に裏切られて、涙の感動となるのが、素晴らしい。

ま、詳細はネタバレになるので書かないが、これは今年見た映画のベストであることには間違いない、いい意味での衝撃のラストだった。

 

■フルカウントまでファールだらけのカウントから、バックスクリーン直撃。 ★★★★☆☆☆

●4月9日より、新宿シネマカリテでロードショー