不定形な文字が空を這う路地裏

いまの名前









殺人事件のあった部屋で
終始悲鳴をあげている誰か
飲み込まなくてよかった何か
気にとめないでよかった在りか
眼のかすみだと思い込んで
そこに居た影を忘れた



たちくらむ昼どきには
餌を欲しがる豚ども
鎧のように肘を張り
逃げないものを追いかける
肥えた臀部には哀しみすら見つけることは出来ない
タイム・テーブルの上の
飢えなど在りはしないのに



通学路の子供たちの
静けさという名の狂気
背中の火傷が痛むので
お行儀のよい子でいます
けれど
ママやパパは待っている
今夜も
ライターと性的玩具
尽きることなく
尽きることなく
本当のところ
それはお行儀とは関係がないのに
誰かが優しくしてくれるうちに
彼らの寝首を掻くんだよ弱虫
愛なんて概念をよりどころにしてしまったら
明日全国ネットで哀れまれるのはおまえたちかもしれないよ



家族とはぐれた母親がシステムキッチンで
自制に欠ける調子でアルコールを摂取している
よどんだ眼が見つめているものに名前をつけるなら
「どうしてわたしだけが」と刻まれた窓
ほかにはなにも
なにも
なにも



ホームレスは若者に怯え
公園のごみ箱から
底に少し残っているコーヒーの缶をあさる
豪華な札入れを持っていた時代を思い出しながら
「生きてるだけでしあわせ」と安物の日本酒を飲む
路上で彼らがなにかを学んだのかと言えば
働かずに金を集める方法くらい
安住者に学びはない
その人生にどんな理由があっても



月曜日の昼間、繁華街では
拡声器を持った労働者集団が行進を繰り広げていた
対立というスタンスを模倣するやつら
戦うという概念のもとに
骨を抜かれた獣ではないと信じ込みたいやつら
組合と会社組織のあいだには
一足で越せる流れしかない
やれるだけのことはやった、という
自己満足だけを祭のあとに残して
一晩眠れば
また代わり映えしない一日に身を投じる
理屈を積み上げながら
屈服しなよ子羊



明日の予報なんて気にしない
どんな天気だろうが
雨が降るときは降る
ずぶ濡れになったときには
暖める喜びに身を委ねるさ
幸せになりなさい
それぞれの勤めをはたして
幸せになりなさい
迷いなく笑えるよう
誰の足の下にも
誰かの死体がある
事件があろうとなかろうと
誰でも誰かが死んだことを知っている
幸せになりなさい
幸せになりなさい
立ち向かおうと背を向けようと
自分で決めたことなら間違いじゃない
殺そうが殺されようが
自分で決めたことなら間違いじゃない
獣のふりした羊も
羊のふりした獣も
誇りとは選択のあげくに訪れるものだということを
胸に刻んで







命は繰り返す
けれど



いまの名前は一度しかないのだ

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